MCU『ブラック★ロックシューター』   作:おれちゃん

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変わる者と変わらぬ者

 アベンジャーズの内戦の後ラフト刑務所に収監されたクリントは、後に刑務所が破られた際も脱獄はせずソコヴィア協定を承諾することと引き換えに刑務所から解放された。

 言い渡された沙汰は自宅での軟禁だ。自宅近辺まで護送車に拘束されて、家の前でようやく拘束を解かれ、少しやつれた体で家に帰ったバートンを妻のローラは何も言わずにただ抱きしめた。子供達は父親の帰りをただ喜んだ。

 

「でも、何も言わずに行かないで」

「それは……すまなかったローラ」

 

 後でこっそりローラにはこっぴどく怒られたクリントだったが、それは彼自身が危険にさらされた事に対する心配が大元で、彼の行動を咎めるものではなかった。

 それからしばらく穏やかな日々が続いた。私も弓をやってみたいというライラに喜んで自分の技術を教えたり、クーパーとキャッチボールをしたりナサニエルを肩車したり、家族と過ごす掛け替えの無い時間を幸せに過ごしていた。

 その日もまた、いつも通り続く日常の一コマのはずだった。

 

「クリント、そろそろお昼にしましょう!」

 

 いつものようにライラに弓を教えていたクリントは昼飯時となってローラに呼ばれ笑顔でそちらに手を振った。

 

「よしライラ、片付けてお昼としよ……ライラ?」

 

 目を離したのは一瞬、しかしその一瞬の間に、弓を残してライラが消えた。

 

「ライラ? おいローラ! ライラが……ローラ?」

 

 弓を拾い、ローラに声をかけるが、そちらにも誰もいない。明らかな異常事態。クーパーとナサニエルがキャッチボールに使っていた野球ボールも原っぱに落っこちている。

 

「ローラ! ライラ! クーパー! ナサニエル! みんなどこだ! おいみんな!!」

 

 しばらく駆け回って、家に戻りフル装備を整えたクリントが協定違反上等で軟禁から脱するも監視者さえいない。そうして街まで出てようやく状況を把握した時、彼は絶望にうちひしがれた。

 ヒーロー達を責めるつもりは毛頭無い。彼らでダメだったなら誰がやったとしても同じだった筈だ。

 それから一年、家族のいた痕跡を消すまいと抜け殻のように家を維持し続ける日々を送っていたクリントは、偶然非合法組織の活動による事件のニュースを耳にした。

 その時のクリントの心に浮かんだのは義憤ではない。ドス黒い……激烈な嫉妬心だ。

 

「何故悪人が生きていて……俺は家族を失った?」

 

 クリントは小さく呟く。殺気立った目は爛々と輝きまさに鷹のようであった。

 翌日、非合法組織は皆殺しとなり壊滅する事となる。それから彼は殺し続けた。ただの狂気の八つ当たりだという事など分かっていた。だが止まれなかった。それから今まで彼はひたすら悪人を八つ当たりに殺し続た。銃火器爆弾刀、一つを除きあらゆる手段を用いて信条もプライドも捨て殺し続けた。

 しかし弓だけは絶対に、どんな事があろうとも使わなかった。弓はクリントに残された娘ライラとの最後の繋がりだった故に。

 刀を使う彼はいつしかローニンと呼ばれ、裏社会における災害のような存在として恐れられるようになっていった。

 そして今、日本の東京に彼はいた。土砂降りの雨の中彼は次々ジャパニーズ・マフィア(暴力団)殺していく。流れた血は雨と混ざって血の川をアスファルトの上に生み出していた。

 凄腕の男が数名いたが、ローニンには敵わず刺殺される。敵が全滅し雨の音以外何も聞こえなくなった現場で、ローニンが立ち尽くす。

 

「こんばんは、ローニンさん……いえ、クリント」

「……どうしてここに?」

「逆に聞くけど、どうしてここに?」

「俺は仕事だ」

 

 ナターシャが傘をさしクリントの背後に立つ。ローディが調べた情報から、次の襲撃場所がここと判明してクインジェットで飛んできたのだ。間に合わず凶行は止められなかったが。

 

「これが仕事? こんな事をしても家族は戻らない」

「……わかってるとも」

「でも……いい方法を見つけたの。みんなを元に戻せる」

 

 クリントが顔を顰める。雨でわからないが、彼は泣いていた。

 

「よせ」

「どうして」

「今更希望なんて……いらない」

 

 そのまま俯いてしまったクリントの様子に、ナターシャは悔いるように首を小さく振った。

 

「もっと……もっと早く、知らせに来れるようになりたかった」

 

 ナターシャの目から一筋、涙がこぼれ落ちた。

 

「それでも……行きましょう。取り戻す為に」

 

 差し出された手を、クリントは震える手で握り、コンパウンドへ向かう。

 その頃、ステラがでかい機材をトニーの指示の元運んでいると、空からロケットのベネター号が着陸してきた。がこん、とサスペンションが着陸の衝撃を吸収し、しかしハッチが開いても誰も降りてこない。

 

「……?」

 

 ステラが首を傾げながら疑問に思いつつも機材運びの方が優先なので建物の中に入って行った後、二人に押される形でソーが出てきた。

 

「変わらないなぁステラは」

「なんで隠れたんだよどうせ会うんだから今挨拶しちまえばいいだろ」

「いや、あまりにも変わらなすぎで……自分が情けない気分になってきた」

 

 ベネター号から降りる時も自分の腹で足元が見えない様な状態なのに、ステラは五年前から一切変わっていない。それがソーの心を刺激した様である。

 

「今すぐダイエットしろ。ストームブレイカー五万回くらい振り回してれば痩せるだろ」

「いや、それよりこれの方が早い」

 

 船の中に置いてあった酒をがぶ飲みし出したソーにロケットが肩を竦める。

 

「よし元気百倍! 行くか!」

「酒に頼るなよ……」

 

 ドスドスと歩きながらサングラスをつけて建物に入っていくソーにバナーとロケットは顔を見合わせた。

 

「トニー、これどこに置いておけばいい?」

「あーそのフレームはあそこの赤の十番の印のあたりに置いておいてくれ、あとステラ、場所に合わせて端に色が塗ってあるからそれと同じ色の所に置いておいてくれれば大丈夫だぞ」

「あ、そうなんだ。ごめんね」

「構わないさ。ローディ、安定ボードの配置はどうだ?」

 

 ローディがウォーマシンスーツを着て天井部分の設備を設置している。

 

「設置完了だ」

「オーケー動作確認だ。みんな一旦離れてくれ。F.R.I.D.A.Y.」

『駆動確認します』

 

 天井の構造物が問題なく動作するのをF.R.I.D.A.Y.が確認してトニーがうんうん頷く。

 

 量子トンネルの設置に入ろうかと考えていると後ろから声がかけられる。

 

「やあ! 久しぶりだなお前達!」

 

 その場にいるみんながソーに目を向けている。見た目が激変した上に声も酒で焼けてしまっていてソーっぽい太った人としか認識できなかった。コスプレ野郎が紛れ込んでいるの方がちょっと説得力があるレベルだ。トニーがその近くにいたロケットへ視線をずらした。

 

「ああソケット! 良い所に来てくれた、これから設置作業をするんだが、宇宙の天才さんに手伝ってもらっても良いだろうか? バナーは時間航行用スーツの方をスコット達とよろしく頼みたい」

「ロケットだよ」

「おいちょっとどうした? 久しぶりの再会の感動で言葉も出ないか?」

 

 ソーがサングラスを取ってようやく誰かわかり皆が「Oh……」みたいな反応をした。こう、突っ込むべきか突っ込まないべきか悩む。ローディは職業軍人なだけあり似たような事案を多数見てきた経験からソーの精神状態が良く無いのを察する。平時であればケアに努める所だが今その余裕はない事が心苦しかった。

 

「見違えたよ。サンタクロースみたいだ」

「ふふ、褒めるな褒めるな」

「まあ良い、各自安全に作業してくれ頼むぞ」

「ソー、大丈夫?」

「大丈夫だとも、ステラも酒飲むか?」

 

 各自役割に戻っていく中資材を取りに行く為ソーの近くを通るステラが心配そうに声をかけた。それにソーは持っていた酒瓶をステラに差し出す。

 

「ごめんね。ブラックトライクに乗るからお酒は飲めないの」

「それもそうだ。すまなかったな、飲みたくなったらいつでも言ってくれ」

「ありがとう、ソー」

 

 ステラが差し出された瓶を持つ手を優しく握り、微笑んだ。

 

「大丈夫、できる事を少しずつやっていこう?」

 

 その様子にソーが目を見開き目を潤ませた。

 

「母上……?」

「いや流石に何言ってんだよ絵面がやべえぞ」

 

 近くにいたロケットがツッコミを入れた。

 

「ほらステラもさっさと行った行った。なんだこれ?」

「お土産」

 

 ロケットとトニーが共に作業する事でタイム泥棒作戦の要である量子トンネルは急ピッチで製造が進められていく。ステラも力仕事でそれを手伝っていた所へ、クリントとナターシャが姿を現した。

 

「あ、バートン。お久しぶり」

 

 実に七年ぶりの再会に、ステラは嬉しそうにクリントの元へ近づいた。その七年間、ステラは時が止まっているかのように姿を変えていない。変わったのは瞳と色と服装くらいだ。クリントは昔の事を想起し、もう一つの家族であるアベンジャーズの記憶がローラ達家族達との思い出を刺激する。

 

「ああ、久しぶり……久しぶりだなステラ。元気そうでよかった」

 

 優しくステラの頭を撫でながらクリントは再び涙を流した。

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