MCU『ブラック★ロックシューター』   作:おれちゃん

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2014/ヴォーミア

 モラグとヴォーミアのストーンを手に入れる為2014年にタイムトラベルした面々は、緊急時用に脱出艇をベネター号から下ろしローディとネビュラのパワー・ストーンチーム、クリントとナターシャのソウル・ストーンチームに分かれた。

 

「気をつけて」

「ああ、そっちこそ」

 

 ネビュラにベネター号の航行を設定してもらい、別れのハグをする。少しばかりの冒険気分にクリントとナターシャは笑みを浮かべていた。クリントは宇宙を初体験である。

 

「ブタペストからここまで来るとは思ってなかったな!」

「ええ、でもこれからもっと先へ行けるわよ」

 

 星々の光が後ろに流れるスターボウ効果の輝きをワープで抜ければ、二人が目を瞠る。

 

「こんな用事じゃなければ……感動的な光景なんだがな」

 

 宇宙の中心、ヴォーミアとはすさまじい姿をしていた。恒星が逆にヴォーミアを周回し皆既日食時のダイヤモンドリングのような不自然な輝きを見せ、星の半ばにはガンマ線バーストのような光線が突き刺さりまるで木星のようなガス状星が霧散するように崩れていた。

 見るものを圧倒する宇宙の理の一旦を理解しきれない矮小な人間の体に無理やり理解させようとしてくるようである。

 いつまでも眺めているわけにはいかない。ここへはソウル・ストーンを探しに来たのだ。

 

「見ろナターシャ」

「これは……」

「ああ、自然に発生するにはあり得ない。これ以外に同じものが見当たらない以上、ストーンの手がかりはここだろう」

 

 衛星軌道から行われた光学観察でクリントが人工物を発見するとベネター号を慎重に降下させていく大気圏へ軟突入し、人工物付近の平地へ着陸させる。気候も命の安全が保障される程度には安定しており、大気組成や気圧も人間が行動するには問題が一切無いことを確認する。

 しかしこの星には命の気配が一切無い。吹く風は肌寒く、風はただ荒れ果てた岩肌を笛がわりにして音を鳴らすだけだ。

 人工物が頂上に立つ山に向け歩み始めるが、安全と周囲に注意を払う以外に何もなく、ある種手持ち無沙汰になっていた。

 

「なぁナターシャ、どうせ暇なんだ。俺が引退していた後の事、聞かせてくれないか?」

「いいの? こんなわけのわからない場所で警戒しなくて」

「警戒はしてるさ、その上で隙を潰すだけだ」

 

 記録として知っていることでも、当事者の言葉をクリントは聞いてみたかったのだ。

 クリントの微笑みにナターシャが苦笑して、辺りへの警戒は怠らず話し始めた。

 

「そうね、まずはブルースと暮らし始めた時の話でもしましょうか」

「おっといきなりの惚気か? いいぞドンとこい」

 

 ナターシャはバナーとの生活を、時折やって来るステラをまるで娘のように思い擬似家族のような関係に安らぎを感じていた事を話した。そしてある日シング・ラブという怪物にバナーが襲われ死にかけた事も、ステラも襲われた事を知りバナーと共に助けに行き、今でこそ再会し結婚まで至ったものの戦いの最後には失い悲しみに暮れた事も。

 最後の心の拠り所であったアベンジャーズが内戦で分裂した事に心を痛めた事。悲しそうなステラを置いて自身の因縁を片付ける為ロシアに赴いた事。

 その後にスティーブ達と合流し世界中を飛び回った事。

 サノスとの戦いの事。この五年間の事。

 

「いい話が聞けた」

「そう、それは良かった」

 

 神妙な顔で頷くクリントにナターシャは笑いかけながら山を登っていく。道としての体をなんとかなしている程度で歩きにくい事この上ない。

 

「さて愛の戦士ホークアイ、愛しのナターシャをしっかりブルースの所に送り届けないとな。雪も降ってるしさっさとストーンが見つかればいいんだが」

『よく来たな』

 

 突如声をかけられた。クリントとナターシャの警戒をすり抜け気配もなく現れた存在に二人が武器を構える。

 

『ナターシャ、アイバンの娘。クリント、イディスの息子』

 

 そこにいるのはボロボロにすり切れた漆黒のローブを纏う謎の存在。

 

「あなた、誰?」

『案内人と思うがいい。ソウル・ストーンを求める者達を導く」

「だったらさっさと場所を教えて。自力で行くから」

「ああ、残念だが……そう簡単にはいかない」

 

 深く被られたローブの影から赤いドクロのような顔が現れる。スティーブが見たなら驚いたであろう。

 案内人に付き従い、衛星軌道から見た人工物の元へ辿り着く。断崖絶壁が精緻な幾何学模様に彫り込まれ、なんらかの儀式を行う場にさえ見えた。そこへ案内人は立つ。

 

『お前達が探しているものはそこにある。恐れているものもな』

「ストーンは……この下に?」

『手にできるのはどちらか一人……ストーンを手にするには愛するものを手放さなければならない。ソウル・ストーンを得るには……魂と引き換えだ」

 

 二人が苦い表情をした。

 

「あんなのは口からの出まかせだ」

「いいえ、そうは思えないわ」

「親父さんの名前知ってたから?」

 

 ナターシャが首を振る。

 

「違うの、サノスは娘とここに来て、一人で帰った。この状況と一致してる」

 

 ネビュラの話からクリントもそれは知っている。暫くの間二人とも座り込んで互いに背を向けていたが、クリントが何かを懐に仕舞うとポツリと呟いた。

 

「……何を犠牲にしても」

 

 つられてナターシャも呟く。

 

「……何を犠牲にしても」

 

 意を決したようにクリントが立ち上がる。

 

「石を手に入れなければ、俺の家族も何も、何十億人も死んだままだ」

「ええわかってる」

「なら、どっちが残るべきか……だ」

 

 クリントとナターシャが手を繋ぎ額を合わせ想いを通じ合わせる。これが今生の別れとなるのだ。

 

「これは決まってるな」

「ええ、決まってるわ」

 

 ウィドウズバイトを発射しようとしたナターシャの手を引き、リストバンドを勝手に操作しウィドウズバイトをナターシャ自身へと打ち込ませるとクリントはナターシャを引き倒し駆け出す。己の命を犠牲にするつもりなのだ。

 しかしナターシャのスーツはそもそもウィドウズバイトを行う為の安全スーツ、ダメージは軽減され走り去るクリントの背へティザー・ディスクを叩き込み感電させることでクリントはその場で転倒する。

 その隙にナターシャが全力疾走。断崖絶壁から走り飛び出した。背中についたティザーディスクを岩肌に叩きつけて破壊し弓を取り出しワイヤーの楔を地面に突き刺すとクリントは飛び降りるナターシャの背へ矢を放った。百発百中たるホークアイの放つ矢がナターシャの背中のバトンを固定している部分へ直撃。矢から繋がるワイヤーと地面の楔がナターシャの落下を阻止し振り子運動でナターシャを岸壁に叩きつけた。

 

『これは俺とブルースの漢の約束だ。家族のこと、頼んだぞ』

 

 ワイヤーをナイフで切ろうと、しかし頑強なワイヤーにナイフの刃が立たずともがくナターシャの目の前で、無線と共にクリントが仰向けに落下していく。

 

「クリント!!」

 

 手を伸ばし絶叫するナターシャにクリントは微笑みかけながら、サムズアップをした。ヴォーミアの重力に引かれみるみる加速したクリントが地面に叩きつけられ即死する。しかしその表情はどこまでも穏やかで、まるで眠っているかのようだ。

 叫ぶナターシャを嘲笑うかのように空が輝き、ナターシャの意識が暗転した。

 ナターシャは気付けば水たまりのような場所に倒れていた。空は暗く、オーロラに星雲が怪しく輝く。跳ね起きたナターシャがあたりを見回してもそこにクリントの姿は無い。

 握られた右手にほのかに感じる温かさに、右手を開けばそこにはソウル・ストーンが握られていた。クリント・バートンが死んだという事を突きつけてくるような輝きに石を再び握って水面に叩きつけ、水しぶきを上げる。

 そして背中に違和感を感じ触れば、残された矢の先に手紙が残されていた。ビニールのカバーで覆われて幸いにも水で滲んだりすることはなかったそれの表紙には"愛しの家族へ"と書かれていた。

 あの時クリントが懐にしまったのはこれだったのだ。

 ナターシャは手紙とソウル・ストーンを手に少しの間その場で泣いた。そこには誰もいない。彼女一人、失った大切な者に涙した。

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