MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
量子トンネルが再び開き、皆が現代へと帰還する。
「やあ! みんなお帰……り?」
バナーが笑顔で出迎えようとして違和感に気付く。一人足りない。
ナノテクスーツが解除され続々と姿を戻していく皆も作戦成功の笑顔から一点して怪訝な表情を見せた。ただ一人何かを堪えるように立ち尽くすナターシャを除いて。
「クリント?」
誰かがポツリと呟いた。量子トンネルの板状にやってきたバナーがナターシャを見つめ、すべてを察した。
「ああ……クリントは僕との約束を守ってくれたんだね」
ナターシャをバナーが優しく抱きしめると、堰を切った様にナターシャが涙を流した。抱きしめるバナーの頬を一筋の涙が伝う。
「あぁクリント……僕はどうすればいい? 大切な人が帰ってきた事を喜べばいいのか? 大切な人を喪った事を嘆けばいいのか? クリント……」
アベンジャーズ初期からのメンバーが、コンパウンド内の湖の畔にある休憩所に集まった。他のメンバーは気を遣って屋内で待機してくれている。
「おいなぜ嘆く。なぜ悲しむ……!」
「どうした落ち着けよ」
皆が落ち込んでいる中、ソーがかぶりを振って問いかけてくる。トニーがおさえれば肩を掴まれる。
「ストーンが全部手に入ったんだ、願えば全部戻る! クリントも生き返る! だからみんな悲しむのはやめろ!」
「いいえ……戻らないわ」
ベンチに座ったままのナターシャが俯いたままそう言う。それをソーは笑って誤魔化した。
「まあまぁ、宇宙の理は人間には理解し得ないものだ、否定したくなるのもわかるが」
「無理よ……ストーンはクリントと引き換え、そのストーンがある限りクリントは戻らない。でもそのストーンが無ければクリントを戻せない」
この矛盾した状態を崩すには別の場所からソウル・ストーンを持ってくるしか無い。だがそうすればまた誰かが生贄になってしまう。
ソーも押し黙ってしまった。クリントには家族がいた。ウルトロンに叩きのめされたアベンジャーズを温かく迎えてくれた人達だ。ここの皆が覚えている。
「……彼の願いを叶える為にもストーンでまずは元に戻す事を成し遂げないといけない。だがクリント……残されるのは……辛いぞ」
泣くステラを介抱しながら、多くの人たちと別れ残されてきたスティーブが奥歯を噛みしめながら呟く。
バナーが拳を叩きつけたベンチがへし折れる。
「ああ……やろう。それが僕たちの責務だ」
皆がバナーの顔を見て、力強く頷く。そこに迷いはない。あるのは役目を果たさんとする意思だ。
コンパウンドに戻った面々はナノテクを用いて作ったガントレットにインフィニティ・ストーンを慎重に配置していく。サノスの用いたガントレットと違いそれぞれの石を運用する機能は持たない、げん担ぎにデシメーションを起こした物と対をなすよう右手用の物として。
完成時にロケットがいたずらをしてトニーとバナーがキレかけた以外は問題なく完成するととなった。
研究室の中央に完成したガントレットが安置され皆がそれを見つめている。
「さて、完成したわけだが、誰が指を鳴らす?」
ロケットの問いにソーがズカズカと近づき手に取ろうとするのをスティーブとトニーが制止する。
「おいおいどうした」
「いつまでも見ていたって誰ももとには戻らないぞ。俺はアベンジャーズ最強の男だ俺がやる」
「そう言う問題じゃ」
「いーやそう言う問題だ退け」
「だからちょっと落ち着けって」
「せめて話し合いを」
「黙れ! ……頼む、正しい事をさせてくれ」
「いいか? ガントレットには莫大なエネルギーが宿る。今の君の状態じゃ無理だ」
ソーはここに来て少し痩せたが、全盛期にはあまりにも遠い。
「……今俺の体を駆け巡る血潮はなんだと思う?」
「ケチャップ?」
「違う、稲妻だ」
「稲妻じゃダメだ。僕がやる。ストーンのエネルギーはガンマ線だ、僕の体の一部みたいなものだ」
バナーが体を大きくしガントレットに近くのをステラが手で制する。
「ううん、それなら私がやる。シング・ラブが言ってた、私は無限の一端を身に宿してるって。あの頃は意味がわからなかったけど、今はわかるストーンの力を私はそのまま備えてる、それならそれに最も耐性があるのも私」
「ステラ」
「大丈夫トニー、私はスーパーガールでしょ? 信じて」
微笑むステラを止めようとして、トニーが止まった。それを口にしたトニーが本人にそう言われては敵わない。
ステラがガントレットを手に取る。この時、ネビュラが居ない事を平常時のナターシャであれば不審に思っただろう。だがその余裕は今のナターシャには無かった。
「いいかスーパーガール、五年前サノスが指を鳴らして居なくなった人達だけをもとに戻すんだ。この五年間のことは変えないでくれ」
「うん、わかってる」
バナーがハルクモードのままナターシャを庇うように立ち、ソーがロケットを庇う。スコットがヘルメットを被りローディはウォーマシンを纏う。トニーもナノマシンからアーマーを身に纏い、ステラの周りを囲った。
「よし、F.R.I.D.A.Y.バーンドアプロトコルを実行」
『了解、ボス』
アベンジャーズ・コンパウンドのあらゆる窓や隔壁が降りていく。莫大なエネルギーに対しては気休めかもしれないが、無いよりはマシだ。
「大丈夫、もうすぐみんな帰ってくる」
ステラがガントレットをはめようとすると、ステラの手に合わせガントレットが縮小、長く伸びステラの手にフィットするように変形していく。そしてステラの右腕にすっぽりとおさまった瞬間、激しい光と共に六つのストーンから電流の如く力があふれていく。
「ゔ……ぐ……ぎ……!」
想像を絶する苦痛がステラを襲っていることは呻き声を上げるステラの姿からも明らかだ。熱に耐えられずステラのパーカーの右袖が焼け焦げていく。
「これは大丈夫なのか? 変だ! 外せ!」
「待て! ステラ大丈夫なのか?」
「ねえステラ! 返事して!」
ソー、スティーブ、ナターシャが叫ぶ。
「あ゛……ん゛ぎ……大丈夫……!」
「頑張れ……頑張れステラ!」
答えたステラの中指と親指が着き、バチン、と指が鳴らされた。一瞬の激しい、瞼をも貫くような真っ白の閃光。
ステラは一人立っていた。
右腕はもとに戻っていて、真っ暗闇の中にただ一人。
辺りを見回すと、光が見える。それに触れた瞬間景色が一変した。
どこまでも続く、無限の青い空。鏡のように青空を反射する湖面。その中央にステラはいつの間にかいた。そして気づけば人々がこちらに向けて歩いてくる。後ろを振り返れば、まるで切り取られたかのような先を見通せない白い光で満たされている。
湖面を僅かに乱しながら、多くの人々がこちらに向け歩いてくる。ロスコルが、ピエトロが、フォボスが、ワンダが、ステラをすり抜けて光の方へ歩んでいく。みんなが帰ってくる。
そんな中ただ一人だけ、ステラに背を向け立つ人がいた。その背はよく知っている。
走った、そしてその手を掴もうとして、すり抜けてしまった。勢い余って湖面で転倒する。振り向けばクリントが驚いたような顔をしてから、微笑んだ。
「バートン、一緒に帰ろう? ローラが、ナターシャが、バナーが、みんなが、みんなが待ってる」
バートンが微笑みながら起き上がろうとするステラの頭を撫でた。
「いいんだ」
「良くない!」
引っ張ろうと掴もうとしてもどうしてもその手はすり抜けてしまう。ステラが泣きながらそれを繰り返していると、クリントは苦笑するように口を開いた。
「ステラ」
「ダメ、どうにかすれば、ここに居るなら帰れるよ」
「ステラ」
「だって、だってそんなのって」
「ステラ。ありがとう」
クリントが子供をあやすように優しくステラにお礼を言った。
「俺は君のおかげで、昔に戻れた。この五年間の血塗れじゃない家族たちとの思い出をステラは救い上げてくれた。だから……俺はもう何もいらない」
クリントが指をさす。それは皆が進むあの光の中だ。
「ステラ。ナターシャを、みんなを、家族を頼む」
「待ーーー」
再び視界が光に満たされ、ステラは研究室の床に倒れていた。焼けた右腕をトニーが冷やすと、徐々にではあるが大火傷から紫炎が溢れ再生していく。
「バートン……」
その目から涙が一粒頬を伝った。皆が心配そうに倒れたステラを見つめている。
「成功か?」
「……みんな、帰ってきた」
隔壁が開き、スコットが中庭を眺める。鳥たちが優しく歌を歌っている。誰かのスマートフォンが鳴る。それはクリントが置き忘れた彼の形見。ナターシャがその画面を見て口元を覆う。そこにはローラと表示されていた。
「……もしもし」
『えっナターシャ!? 大変なの良くわからないことがあってそれで今クリントがいないの! 彼は? ナターシャ?』
声を聞いてナターシャはまた泣き始めてしまった。
「成功したみたいだ」
その時ステラを影が覆った。天窓から空を見たステラの視線の先上空には謎の飛行体、そしてそれが放った何かが着弾する寸前だった。
その瞬間、研究室は爆発に包まれた。