MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
スパイダーマン
メキシコ、イステンコ。普通であれば賑やかに人々の笑顔が紡がれる街は、災害に遭い多くの建物が倒壊していた。既に災害から数日が経過し、人的被害はそこまで多くはない事は判明したが、壊れた街の復興にはそれなりの時間がかかりそうだった。
「今度は天気と戦うつもり?」
「いいや、街を襲ったサイクロンには顔があったって話だ」
そんな街にやってきた二人の人物。マリア・ヒルとニック・フューリーの二人だ。彼らの持っていた伝手は五年の間に消滅、自分たちの目で現場に来ることを余儀なくされていた。
「そんなのパニックによる錯覚では?」
「スタークの衛星からの観測で、未知のエネルギー波が検出されていたらしい」
「はあ……また世界の終わりが来るって言うんですか?」
マリアがため息を吐いていると突如空から謎の物体が飛来する。緑色の煙を纏い、頭に金魚鉢を乗せたような人型物体にフューリーとマリアが銃を構える。
「何者だ」
その服の意匠は現代のそれではない。金魚鉢のようなものが消え内側から端正な男の顔が現れた。
警戒していると背後から岩が迫り出し巨人の姿を成す。二人が振り向いて銃を向けるなか、その男がビームを放つ。
「君たちは引っ込んでいろ!」
フューリーとマリアの目の前で戦いの火蓋が切られた。
ミッドタウン高校のモニターでは、とある映像が流れる。
"哀悼と感謝を"
『Don't want to close my eyes〜I don't want to fall asleep Cause I'd miss』
少し安いフォントでそう表示される中流れるのは某隕石を破壊する映画のエアロスミスの曲である。学校での無償制作物だから許されるアレだ。
映し出されるのは八ヶ月前の戦いで命を落としたホークアイの画像だ。それはもう様々な角度、画質が荒かろうと構わず流しまくる。そして彼の背中をバックにこちらを見て佇むアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルク、ブラックロックシューター 、ブラックウィドウ、マイティ・ソーの六人の絵が表示される。薄くsampleと画面中央に出ているが大丈夫かこれ。
"そして未来へ"と表示されて蝋燭の映像でビデオは終わる。それを脇にスワイプさせニュースを流すパーソナリティ二人が現れる。
「私たちは、彼らの志を胸に前に進みます」
ベティが真面目な顔でそう締める。
「ケネス・リムとビハンナ・ママーシュ、感動的で素敵なビデオありがとう!」
上に二人の写真を表示しつつジェイソンが感謝を述べた。二人のフルネームが下に表示される。これ学校内のニュース番組なのである
「今年という一年は……」
「ほんとク●だ。最低だった」
初手でジェイソンがFワードをかまして編集で修正されている。ベティがジェイソンを睨む。
「ジェイソン、言葉には気をつけて?」
「悪い、まあ明日から休みだから大丈夫だって」
「……激動でした」
そうして始まるのは五年前の出来事と、八ヶ月前の出来事。デジメーションと呼ばれていた出来事は今やブリップと呼ばれるようになった。これはテープ式ビデオが一瞬飛んだ事の言い方で、いなくなった彼らが戻ってきた事に由来する。
スーやブラッドクラスメイトの画像を使って五年間で消えた人々の時間は一切経過していないことを示す。
「今や弟の方が年上だぜ?」
「あっそう」
中間試験まで終わっていたのを最初からやり直しになっただの少し愚痴気味な解説をして、次へ進もうという言葉を〆にニュースは終わった。
夏休みを前にピーターは若干浮かれ気味だった。
ネッドに自身の夏休みの旅行プランを話していくが、要はMJといい雰囲気になりたいプランである。
「プランはまだまだあるんだけど」
「ああ、もう一つある。全部やらないってプラン」
「なんで!?」
「ピーター、忘れたか? アメリカの男はヨーロッパじゃモテてる。フリーの身で行かないと」
「いやなんで! 僕の熱い思い聞いてた? 彼女の黒いジョーク最高だし時々くる目線にくらっとくるレベルって言ってるじゃないか。あっ来た何も言うなよ」
そこへMJがやってくる。二人を見渡して首をかしげた。
「何話してるの?」
「ああ、旅行のプランについて」
「プランあるの?」
「いやまだ何も?」
「じゃ私についてくる?」
「ほんと!?」
驚いて立ち上がろうとして脛をテーブルの足にぶつけてピーターが悶絶する。おおマジか、とネッドが驚いた顔でピーターとMJの顔を交互に見た。
「ええ、あまり少ないと嫌でしょ、この子がどっかいきそうになっても止められそうだし」
「この子?」
「テリアよ」
ピーターが首を傾げMJから目の焦点をズラすと、その脇に黒髪をポニーテールに三つ編みで束ねた日系の美少女が立っていた。転入生の不思議ちゃんで、苗字のシェパードとあまりにも似つかない素振りで誰かが「シェパードというよりヨークシャーテリア」と言って以来テリアというあだ名が浸透していた。
「とりあえず、一緒に来るならVPNのアプリ入れとくといいよ。政府に居場所探られないで済むから」
「え……あっうん」
「じゃあまたね」
MJがシェパードと去って行った後ピーターがテーブルに頭を突っ伏してその肩をネッドが優しく二度叩いた。
その日の夜、指パッチンにより消えていた人々の支援をするパーティーにスパイダーマンとして出席したピーターはメイおばさんのスピーチの裏で手を腰に当てて立っていた。この支援パーティーの主催はスタークインダストリーの為アベンジャーズの後継者感が強い。
「私は五年前、息子のように大切に育ててきた甥っ子を失いました。大切な家族を失いまるで灰色がかったような生活を、アベンジャーズが砕き色彩ある暮らしを、取り戻してくれました。彼らには本当に感謝しています。だから私にもできる事を探して、指パッチンの被害を受けた人々への支援を始めました。支援へご協力くださり、みなさん誠にありがとうございます。そして今日はここにスパイダーマンも来てくれました!」
アイアン・スパイダースーツを見にまとったピーターがマイクの前に立てば拍手と共に歓声が上がる。
「あー、パーカーさん。本日はお招きいただきありがとう皆さんも……迎えてくださってありがとう!」
そう言ってサムズアップするピーターは緊張で声がうわずっていた。とても短くてスピーチが終わったと認識していなかった観客達が拍手を送る。
「スパイダーマンありがとう! この後皆さんと写真とビデオを撮ってくれますよ!」
それに観客は大喜びだ。それを目的に今回の支援への協力を申し出た人だっている。下心があっても支援は支援なのでありがたいものだった。拍手に送られながら二人は裏へはけていった。
「最高ダッタ!」
「ヨガっダー!」
二人が上擦った声のままハイタッチをして成功を喜ぶ。
「緊張したけどなんとかうまく行ってよかった」
「私も緊張しちゃったうまくできなかったかも」
「いやいやおばさんはうまく言ってたよむしろ僕だ」
「たしかに、硬かったわよ」
「だよね」
スーパーヒーローでこういう露出が多かったのはアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ブラックロックシューター 、ウォーマシンの四人だ。キャプテン・アメリカとブラックロックシューターは安全啓発のビデオや企業のポスターなどが多く。ウォーマシンはマルチにメディア出演していた。超人血清を投与されたキャプテンを薬物乱用防止のビデオに出演させたり公道で時速三百キロオーバーの速度超過と無免許運転をしたブラックロックシューターをバイクの交通安全ビデオに出したりとよく考えるとなんかアレなのも多いが。
とりわけアイアンマンは中身のトニー・スタークが元々社長ということだけあり、講演会でのスピーチなどのメディア出演が多かった。
アベンジャーズの後継者、特にアイアンマンの後継者扱いされるスパイダーマンには同じタイプのメディア露出が求められていたのだ。
これが主に気疲れの原因である。
「でも大丈夫よ。それよりパスポート取った?」
「ああ」
「旅行用歯ブラシは?」
「買った」
そこへ裏の通用口が開けられる音がしてピーターが咄嗟にマスクを纏う。こういう時ナノテクで作られたアイアン・スパイダーは便利だ。
だがそこに現れた人物を見てマスクを解除する。
「ハッピー!」
「やあ遅くなってすまん!」
スタークインダストリーの社員にしてピーターのお目付役、ハッピーが現れたのだ。手にでっかい寄付のボードを持っている。それをメイおばさんに渡してデレデレしてからメイおばさんがステージの方に戻ると突如真剣な顔をした。
「来るぞ、電話が」
「え? 誰から?」
「フューリー」
「えっなんで!?」
「そりゃー決まってる。君はスーパーヒーローだろ。ヒーローとしての仕事だ」
「大事な任務なら他の人に任せればいい、僕じゃなくてさ」
そう言っているとリュックの中の電話機がブルブルと震え始めた。
「そらきた。非通知だがフューリーだ。出ろ」
「フューリーとは話したくないよ」
「いやいや頼む出てくれでないと俺が話すことになるそれは嫌だ」
「なんで!?」
「フューリー怖いんだもん!」
ピーターが電話を留守電送りにした。
「おいまじかフューリーにそれは不味いって」
「後で出るよほら観客が呼んでるから!」
「スルーはやばいって!!」
そうして今度は自分の携帯電話にかかってきたフューリーからの電話にハッピーは顔を青くしながら出る羽目になった。
その後も質問攻めにあい精神的に疲弊しながらも切り上げてウェブスイングで建物の一角に降り立つ。
「はぁ……重いな……」
「重いなら、抱え込む必要はないぞパーカーくん」
ばっと顔を上げると、そこにいたのはトニー・スタークだった。
「スタークさんなんでここに!?」
「いや本当はペッパーの代わりに激励に行くつもりだったんだが……後継者が頑張っているのにロートルがでしゃばるわけには行かなくてね、僕は引退した身だ」
ピーターの脇にトニーが腰掛ける。少しトニーは老けた。五年の歳月もあるが、肩の荷が降りたという面も大きいだろう。それがピーターがいなかった五年の歳月を想像させる。メイおばさんはなんかこう、五年経って全く変わらないどころかちょっと若返ってるのは意味不明である。
「スタークさん、僕……本当にアベンジャーズの後を継げるかな」
「いいや知らん」
「……そんな!」
縋るようなピーターの声をトニーはバッサリ切った。
「別に君に継いでもらう必要はない。立ち向かう心、戦う意思があるなら誰だってアベンジャーズになれるってのは……クリントの言葉だったな」
トニーが笑いながらピーターの頭を抱き寄せる。
「僕はアベンジャーズなんて要らなくなるのが一番だと思ってる。ピーター、君はティーンエイジャーだ。まだまだ遊びたい盛りだ、僕だって君の頃は遊びまくってたさ。それがヒーローとして自由を束縛されるなんて間違ってる。だから僕は無理強いはしない。どこかのフューリーと違って」
ピーターの携帯電話に表示された非通知をトニーが留守電送りにする。
「でもそうだな……僕の後を継ぐものが現れるっていうなら……それが君だと嬉しいなピーター」
少し気恥ずかしそうにトニーが笑う。
「無理に気負う必要はないぞ、後ろにはまあ引退したとはいえ僕達がまだ控えてる。だから好きにやるといい。旅行楽しんでこい」
「スタークさん……それを言う為に」
「偶然さ偶然。あったかくして寝ろよ風邪ひくぞボーイ」
去っていこうとするトニーが思い出したように振り向いた。
「そうだ言い忘れてた。旅行に行く時ステラに手出しするのはやめておけ、まあそんな心配はないとは思うが。アレは親がもーうそれはもう子煩悩でな下手なことすると機関銃で風穴開けられるぞ」
「テリアのお父さんが……へえ……はい」
「テリアってなんだ?」
「ヨークシャーテリアみたいだからって学校でいつの間にかあだ名になってるんだ」
それを聞いてトニーがなぜか爆笑しているのを尻目にそういえばステラの父はスタークインダストリーに勤めている事をピーターは思い出した。トニーが知っていて忠告するレベルの子煩悩ってやばいなとピーターは唾を飲み込んだ。
ちなみにトニーはピーターがステラのことを知っている前提で話している。まさかのすれ違いであった。
トニーの激励を胸にピーターは夏休みの旅行に向け動き出す。フューリーからの非通知は全部無視する方向で行くことにした。
同日の夜。のんびりと夜道を歩くテリアことステラが鳴った電話に出た。
「誰? あ、久しぶり。うん元気。そっちは? マリアに呆れられてない? ごめんなさい。え? うんピーター達と行くよ。でもなんで? ……わかった。なるべく約束守るけど、破っても怒らないでね」
電話を切って背伸びをする。旅行までもう間も無くなのを楽しみにしながら空に浮かぶ月をぼんやりと眺めた。