MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
「ああよかった無事だったのねテリア!」
「二人も無事でよかった」
消防隊やら警察やらが後始末をする中ベティとネッド、テリアが再会する。建物の中にいたネッド達は汚れていないが、テリアは煤と泥だらけだ。どうやら逃げ遅れた人を助けていたらしい。
「後は警察の人に任せて私たちは戻りましょう」
「やあ……」
「ブラッドにMJ!? どうしたの!?」
「二人が抜け出したから何かあったのかと思ってついてきてたんだよ」
「それを見て俺もMJについて行ってたわけ」
「テリア、抜け出しちゃダメよ」
「うう……ごめんなさい」
「いいじゃないか、道に迷うのは仕方ないことだよ」
テリアは仕方ないとはいえ自分が抜け出したからみんなが巻き込まれてしまったと反省していた。比較的近隣で出現した為オペラの方も中断となりホテルに戻った頃には旅行の中止が宣告されてしまった。
その頃煤まみれ泥だらけのテリアはベティに連れられホテル備え付けの大浴場に貸切状態で入っていた。
「インセクトはいい奴だヨーロッパの守護神! 俺たちを助けてくれた! あの背中から生える腕もマッシブで素晴らしい」
「あんなのスパイダーマンのパクリだろ」
「なんだと!?」
「やんのか!」
向こうではブラッドがインセクトの素晴らしさを語りフラッシュがそれを聞いてスパイダーマンのパクリとキレ、ブラッドがそれに対して更にキレていた。
「やあみんな、旅行は災難続きで悪いが中止する事になった、明日、ロンドンの空港からアメリカに戻るよ。フランスの空港は危険だから離着陸はできないそうだ」
「中止ですか!?」
「ああそうだピーター、皆と残念かもしれないが、堪えてくれ」
先生が各部屋を周り事情を説明していく。
パリ近辺の空港はまだエレメンタルズの危険があるかもとのことで封鎖になってしまい一度ロンドンの空港まで海路を通る必要があるとのことだ。
「MJゴメン……旅行中止になっちゃった」
「いいよ、こっちこそオペラから出てきちゃった」
『ピーター、聞こえるか?』
「あっはい!」
「誰?」
「僕の知り合い」
「そう、なら私は外れたほうがいいね、じゃあまたね。おやすみ」
「うんおやすみ! ベックさんどうしたの?」
『通信で話すのはなんだ、外で会わないか?』
「いいよ待ってて!」
外に飛び出して屋根の上に上がれば、ベックがやってきて隣に降り立つ。
「終わったね……」
「ああ、終わった」
とあるバーにやってきたピーターは先に座っていたベックの隣に座る。
「ありがとう、全部終わった。君のおかげだ」
「そんな、ミステリオが居ないとどうしようもなかった」
「買い被りだ」
「それで、話って?」
ピーターが出された飲み物を飲む。
「ああ、君は僕をアベンジャーズに、と言っていただろう?」
「ええ、今もそのつもりです」
「明日の予定は?」
「ロンドンから飛行機でアメリカに戻る予定」
「なら明日でないといけないな……すまないがベルリンに来てほしい。その上で僕をアベンジャーズに入れるかどうか、君の判断で決めてくれ」
「……わかった」
ピーターは何か違和感を感じつつもベックの言う通り明日皆と別れてベルリンへ向かう事にした。エレメンタルズは全て倒され安全が確保された以上仲間達に危険はない。ベックの事情がベルリンにあるならば行くしかないだろう。
「じゃあ明日ベルリンで!」
「ああおやすみ」
『スパイダーマン、アイアンスパイダーのバッテリーが枯渇寸前です。今日だけでいいので充電を忘れないでくださいね』
「えっわかった。……充電器持ってきてない」
『変形しますのでコンセントに挿しておいてください』
ピーターはそんな事を話しながら店を後にする。ピーターが完全にさった後、ベックは目を瞑り首を小さく振った。
「……行き先は聞き出せた。明日はロンドン、スパイダーマンも引き離せた」
「それはよろしい」
壁の一部が解けるように消える。そこにあったのはドローンの投影器だ。しかしそれは地球外の意匠を備えていた。それが店の外部に移動して店の内部を無人のように偽装する。
「予定は決まった。だがその前に……四度、私の手を煩わせておきながら失敗した罰を与えねばなるまい」
そこから車椅子に座り、深くフードを被った者が現れる。電動車椅子でもないのに車椅子は勝手に動く。店の中にいた人間達は皆それに向けて跪いた。フードが捲られた先には顔面に火傷を負った宇宙人の顔があった。ピーターが見たなら驚いたろう。彼の時間感覚では八ヶ月ちょっと前に戦って倒した敵の顔だ。
当時対峙したヒーロー達からはイカ頭、ハゲとひどい言われようであったが一般人からすれば恐ろしさしか感じないであろう冷淡な顔。
エボニー・マウの姿がそこにはあった。
八ヶ月前のアベンジャーズとの決戦で唯一生き残ったブラック・オーダー最後の一人。サノス軍を支える科学者であり謀略家であり、常軌を逸した念動力を操る優秀な戦士である。
指を小さく動かすと、ドローンの操作を担当する。ヴィクトリアが首根っこを掴まれるように空中に浮き上がる。首を絞められ苦悶の表情を浮かべる様子に周囲の人々は冷や汗を流しながら無言で顔を伏せていた。
「いいや失敗じゃないさ」
「何?」
苦痛にあえぐ声しかない沈黙が打ち破られた。
ドサリと落ちたヴィクトリアが咳をしながら粗く息を吸う。そして皆の視線はベックの方へ向けられた。
「僕たちの元々の計画はヒーローを生み出す事だ。今回でそれが成功した。これであんたはもっと動きやすくなる。そしてロンドンで襲われたならミステリオも、スパイダーマンも居ない以上、彼女は動くしかない。確実に、今回まではその布石だ」
努めて余裕を持たせた笑みを見せながらベックは両手を広げた。
「それにアンタの目的は結局次元の緩い場所じゃないといけない、それはロンドンなんだろう? エネルギーの伝達も楽で一石二鳥じゃないか」
「いいだろう……明日の働きには期待しているぞ猿、全てはサノスの意思を継ぎ、この世界を死を与え救わんが為」
車椅子が去っていく。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい、ありがとう」
ベックがヴィクトリアを助け起こす。ドローン投影機による外装の偽装が解けたベックは、チタウリの意匠に近いパワードスーツを身にまとっていた。
彼らは元々はトニー・スタークに恨みを持つ集団としてスタートした。恨みを起点としながらも彼らは強かでトニー・スタークに直接挑むでもなく技術を磨く事に注力し、いつしか家族と呼べる程に親しくなっていた。だが五年前、彼らの半数は消えた。失意をトニーへの憎悪に変換し五年を雌伏の時を過ごしていた彼らの家族はアベンジャーズによって蘇った。
その時彼らは悪事から手を引く事を決定した。しかし五年を消えていた仲間はまだ五年前のフレッシュなトニーへの憎悪を失っていない、そこでズレが起きた。とある男を新たな仲間として引き込んでしまったのだ。
それがエボニー・マウ。強力な念動力を操る宇宙人。暴力を以ってベックを引き摺り下ろしエボニーはすぐさま集団の頂点についた。そこからはただの恐怖政治だ。誰もが死を恐れ逆らうことはできない。そして兼ねてから計画、中止されて行われなかったはずの計画が始動することとなったのだ。エボニーの念動力と投影ドローンの力が合わさればあらゆることが再現できた。
ベックの恋人は逆らった際にエボニーに殺された。そこから彼は演じた。エボニーに従う狂人のような人格を。地球人にさして興味がないエボニーを騙すには十二分すぎる演技力だった。
「明日は……気をつけて」
「ああ、気をつけよう、みんなも気をつけて」
ベックは思ってもない事を言った。このパワードスーツは高性能ながらエボニーの支配下にある。下手な事を言えば自爆させられてしまうような代物だ。
皆がそれをわかっているから危険な発言はしない。
「……あなたもアベンジャーズ、か」
明日、ベルリンにスパイダーマンを誘き出し倒す。自分をアベンジャーズに誘ってくれた少年の顔を思い出してベックは思わず苦い顔をした。