MCU『ブラック★ロックシューター』   作:おれちゃん

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Chapter:3 虚

「……トニー」

「やあお嬢さん。ちょっとそのまま動かないでいてくれ。それとそこの弓使いくん、ナイスだ名前伺ってもいいかな?」

「そりゃどうも、俺はホークアイだ。おい、あと一人! 鷹の目相手に隠れても無駄だ出てこい!」

 

 クリントの呼びかけに応えるように少し離れた岩陰から飛び出してくる。抵抗の意志はないと言ったばかりに両手を上げながら付近に着地、パーカー付きの黒いロングコートを着た人物は深くフードを被りその顔を伺うことはできない。

 

「ご協力どうも。お前たちどんな集まりだ?  特にスターク、お前死んだはずだがゾンビか?」

「私が死んだって? 冗談はよしてほしいなそうしたら今頃地球は滅んでる。そもそも君ら誰だ? 私が有名なのは仕方ないが……そうマイナーな人達の事は知らないんだ」

 

 アイアンマンスーツが赤いモヤとなって解け、そこにはカジュアルスーツを着た……白髪のトニースタークが立っていた。

 

「……ゾンビというよりヴァンパイアだな」

「失礼だな君」

「スタークさんだけど……スタークさんじゃない」

「今日は失礼が多いな? ウィリアムズ」

 

 ピーターの方を指してスタークがそう言うが当のピーターは首を傾げた。

 

「あの……僕ピーター・パーカーです」

「何? 頭でも打ったか? 大学は?」

「大学? それは……マサチューセッツ工科大学ですけど」

「僕の後継者だろ?」

「あ、それもよく言われてます」

「ならウィリアムズじゃないか」

「いえピーターです」

「待ってほしい。皆が混乱するのも仕方ない、これは多元宇宙(マルチバース)の問題だ」

 

 ウォンが歩み出て全員を見回す。ピーターとウォンを除けば六人、至高の魔術師(ソーサラースプリーム)としての知識からウォンの中で最悪の予想が弾き出される。

 

「あんたは? 多元宇宙とはどういうことだ?」

「私は至高の魔術師、ウォンだ。私とこの少年はステラと同じ世界から落ちてきたが、他は全員それぞれ別の宇宙から落ちてきた」

「ねえ、話の前にこれ解いてくれない? いつまでこの姿勢で居ればいいのよ。あっでもそこのは話通じなさそうだし解かないでね」

 

 ホークアイが影を縫い付けていた矢がオレンジの光になって霧散する。褐色の少女は縫い付けられたまま唸り声を上げるだけだ。

 

「各々自己紹介をしてほしい」

 

 ウォンがステラに目配せをする。ステラは拳銃をしまいブレードを逆手に持ち直すと周りを見渡しながら口を開いた。

 

「私はステラ・シェパード。みんなからはブラックロックシューターと呼ばれてる。私の世界はその……ヒーローがいっぱいいて、仲間がたくさんいて……悪い事を考える人もいるけどみんなが平和のため頑張ってる」

 

 次と言わんばかりにウォンが目線を向けてきたのでトニーが首を掻いた。

 

「……私はトニー・スターク。アイアンマンだ。ヒーローは……私だけだ。私が地球を守ってる。いや、正確には私のアーマーが、かな。世界の危機はあったけれどおかげでなんとか乗り切れた。そこのウィリアムズは私の後継者になる少年だったんだが……どうやら私のところの少年とは別人らしい」

「私はデッドマスター、私の世界もヒーローは私一人よ。そこのブラックロックシューターが反乱分子で抵抗してたけど別人なのね?」

「ホークアイ、クリントン・フランシス・〝クリント″・バートンだ。俺の世界もデカイ戦いがあった。その時スタークも……俺のところのスタークが死んだ。本当に辛い戦いだった。なんとか勝てたが世界はたくさんの悲しみが溢れた。……俺も最愛の人を失った」

「…………私はマト。私の世界は心の世界、意志が力を持つ。私はそこで心を守っていた」

 

「一つ聞こう。アメリカの首都は?」

「ワシントンDC」「ニューヨーク」「アメリカ?」「コロンビアDW」「わからない」

 

 ウォンの常識問題的なものも噛み合わない。褐色の少女は唸り声をあげているだけである。

 それぞれが顔を見合わせる。全員が全員異なる世界である事は分かりやすかった。マトと名乗った人物の世界は物質世界ですら無いらしい。

 

「少なくとも全員が別の宇宙から来た事はわかってくれただろうか? そしてここは虚の次元(ホロウ・ディメンション)。我々全員の宇宙が危機に晒されている」

「事情に詳しそうだな」

「これを知っているのは至高の魔術師だけだ。君たちの宇宙には存在しているかはわからないが、この場で一番事情を把握しているのは私だろう、我々の宇宙ならその仲間がいる。この事態を打開するための手伝いをしてほしい」

「手伝わなければどうなるの?」

「そうだな……少なくとも我々は宇宙と宇宙に板挟みにされて圧死のようなことになるだろう。そしてそれぞれの宇宙は全てインカレーション、宇宙同士の衝突で滅びる事になる」

 

 あまりにも大規模な事態に聞いた全員が息を呑んだ。

 

「宇宙が滅びるとは……想像もつかないな」

「そしてこれには一つの要因がある、皆隠しているか……自覚がないようだが」

「何か法則が?」

「これはインフィニティ・ストーン同士の引力で発生する事象だ」

 

 ステラとピーターを除いて全員が目を細めた。

 

「待ってよウォンさん。僕たちの世界にインフィニティ・ストーンはひとつも残ってないよ? サノスが全部壊した」

「ああ、だから私も思い至らなかった。だがスペース・ストーンやマインド・ストーンに由来しスーパーパワーを獲得したキャプテン・マーベルやワンダと違ってステラは……スペース・ストーンの力そのものを保持している。私やエンシェント・ワン、過去の至高の魔術師達も想定していなかった」

 ピーターはロンドンでの戦いを思い返す。エボニー・マウが保存していたステラが放出したエネルギーはそのままスペース・ストーンと同じ空間を繋げる力を発揮していた。

 

「わかった白状するよ。私もストーンの力を持ってる。立ち話もなんだ、座って話そう」

 

 赤いモヤから上質なゴシック調の椅子が現れた。いや現れたと言うよりは生み出されたと言ったほうがいいかも知れなかった。それに深く座り込んでトニーは大きく息を吐いた。

 

「私はリアリティ・ストーンに寄生されてる。今や僕の手足だけどね」

「……トニーは信用してくれるの?」

「私は子供には甘いんだ。それにシェパード君にウィリアムズ……じゃなかったそちらのパーカー君二人から親愛の眼差しを感じるのに騙してくる悪人だったら私は人間不信になってしまうよ」

「スタークさん……!」

「おっとハグはやめてくれ? この体だからな」

 

 後から椅子に腰掛けたクリントもどこからか石を取り出した。

 

「これはソウル・ストーン。サノスと言ってたな、教えてくれステラ。そっちではソウル・ストーンはどうやって手に入れた?」

「……私は……ナターシャにクリントが自分の命と引き換えに手に入れてくれたって聞いてる」

 

 ナターシャ、と聞いてクリントは目を見開き、細めて優しげに微笑んだ。

 

「そうか……そっちの俺は守れたんだな……だが」

 

 そこから先の言葉をクリントは飲み込んだ。置いていかれる悲しみは痛いほどわかるが同調してはいけない。その悲しみは彼女たちのものだ。ステラもクリントの言い回しからそのソウル・ストーンが誰の命と引き換えになったかを察する。

 

「話を戻そう。ツノ生えた……たしかデッドマスター? あんたは?」

 

 話を振られたデッドマスターは椅子を蹴り飛ばして破壊。しかしそれが時間を巻き戻されて元の状態に戻った。それを見ていた面々を一瞥してから座って足を組み口を開く。

 

「見ての通りタイム・ストーンよ。そっちの会話不能の奴はなんなのかしらね? あなたは? マトさん」

 

 会話不能で未だ暴れようとしている褐色少女はそのままにしておくしかないので、皆の視線がいつのまにか座っていたマトに集まる。マトは微動だにせず、返事のようにフードの暗闇の内から紫色の炎が噴き出る。

 

「はぁ、喋ればいいのに」

「マト君はパワー・ストーン、つまりあそこの剛腕娘がマインド・ストーンって事だな。確認を終えたところでどうするつもりだ? 至高の魔術師」

「まず、我々の宇宙の魔術師と交信の手段を確立を手伝ってもらいたい」

「そうは言われても私は機械のプロフェッショナルの自負はあるが、多元宇宙なんてズブの素人だ。手伝えることなんてないぞ」

「俺もだ。科学者じゃなくてエージェントだからな」

 

 マトも小さく横に首を振り、デッドマスターも肩をすくめた。

 

「まずは問題ない。ただスタークには私の描いた図面通りに祭壇を作ってほしい」

「わかった」

「ステラ、ストレンジが渡した腕輪があっただろう」

「あ、はいこれ」

 

 ウォンが魔術を行使、火花が空中に図面を引く。それに赤いモヤがまとわりつき、寸分の狂いもなく石でできた祭壇が生み出された。満足げに頷いたウォンはそのままステラから例のバビロンの輪を受け取るとそれを祭壇の真ん中に設置。そこから大規模な魔法陣を描き、辺り一帯が明るく照らされる。

 

「ステラ、向こうに届ける為エネルギーがいる。そこの石に手を置いて力をこめてくれ」

「他にやる事は?」

「現状はないな」

「ならあとは待つのみだ。宇宙が滅ぶかどうかの瀬戸際をね」

「そう言われると緊張します」

「何、慣れるさ。私なんて常に両肩に地球の命運がかかってた」

 

 ピーターとトニーがしゃべりつつこちらを見ておりステラと視線があった。頷く二人にステラが頷き返し、力を込めると注がれたエネルギーによって魔法陣が色を変え青く燃える。中央に設置されたバビロンの輪が浮き上がり、さらに魔法陣を展開。そこから力強く放たれた光が虚空に消える。

 

「どうか天球儀の所に誰かいてくれ……」

 

 ウォンは祈るように呟くのだった。

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