MCU『ブラック★ロックシューター』   作:おれちゃん

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Chapter:8 夜明けを抱く空

「ここを壊して、元の世界に帰る時はまた引力が発生しないように全部のストーンを捨てるか、全部を持って帰ればいい。それがデッドマスター、あなたの世界だって構わない」

 

 ステラがチラリと自分の胸の方を見る。ストーンの力の抽出装置に、ステラの中にある無限の一端、つまりスペース・ストーンの力が入っていっていない。

 

「デッドマスターの世界が良くなったなら、ストーンから離れて、好きな事をしたらいいと思う。ハンバーガーたくさん食べるとか。それがデッドマスターの世界のブラックロックシューターの願い事だと思うから。たぶん」

 

 当てる場所間違えたかなとパーカーをめくってお腹に当ててみたり、首筋に当ててみたりおでこに当ててみたり試行錯誤するが一向に抽出されない。

 

「今出すからちょっと待ってね、ごめんね本当に待ってね」

 

 最初こそステラの行動に目を見開いて驚いていたデッドマスターも徐々に半目になり、段々馬鹿らしくなって大笑いを始めてしまった。

 地面に降りても色々な場所に抽出装置を当ててみているステラに、リアリティ・無くなった・スタークがピーターとクリントに肩を抱えられながら近寄ってくる。

 

「あら、貴方はもういいの?」

「私の方は希望があるんでね。君の方に譲ってやろうってわけだ」

「あらどうも。私も負けたわ。戦意喪失よ素直な馬鹿はそう言う所タチ悪いわね。でも貴方が増やした装置壊れてるわよ?」

「トニー……当てても出ない……」

「強く握りすぎて壊したんじゃないか? すまないが場合によってはもう一度リアリティ・ストーンを使わせてもらう部品がないからな……」

 

 スタークがステラから装置を受け取って、少し弄る。戦闘中故に力を込めても握ったせいでどこか破損したのだろう、と呑気に装置を点検したスタークの表情が険しくなる。

 

「…………装置は正常だ。故障していない。私のリアリティ・ストーンも問題なく抽出しているから装置の仕組みにも問題はない」

「そんな」

「はぁ、結局私じゃストーン全部を使えないじゃない」

 

 抽出装置を手に取ってデッドマスターは呆れたように立ち上がると粉々だった髑髏を復活させる。クリントが弓矢を構えようとして、ピーターが制止した。デッドマスターからはムズムズとなる脅威を感じなかったからだ。

 

「ブラックロックシューター……いいえステラ。この虚の次元を壊したら私の宇宙に来て」

「わか「そんな! それじゃステラが帰れなくなる!」

 

 デッドマスターの提案に頷こうとしたステラに被せるようにピーターが抗議した。

 

「私もそれは嫌よ。後味悪いわ。でも違う宇宙でもなんとか出来そうな魔術師がそこで寝てるじゃない」

 

 デッドマスターがウォンを緑色の光で包んでから、自分の首筋に抽出装置を当てる。すると力が抽出され、タイム・ストーンが姿を現した。

 

「ハイ、タイム・ストーン。あとはこの魔術師がいい策持ってるのを祈るしかないわよ」

「はっ!? みんな無事か!? むこれはとても質がいいベッド……」

「羽毛100%だ」

 

 起きたウォンに状況を説明し、ウォンがすごい難しい顔をしている。

 

「可能性はある。だが、マルチバースを超える事は禁忌である以上に非常に困難だ。戻る道標にはなるかもしれないが……ステラが戻って来れる保証は出来ない」

「大丈夫、私が保証だよ。信じて?」

「……わかった」

 

 ウォンが魔術を行使すると、祭壇があった場所の爆心地から溶けた金属が寄り集まり、小さな指輪になった。

 

「バビロンの腕輪の残骸を利用して作った。我々の宇宙とステラを繋げる道標になるはずだ」

 

 指輪をステラがはめる。

 

「ステラ!」

「大丈夫ピーター。MITには説明お願い! せっかく合格したのに退学になったらお父さんが泣いちゃう」

「いや多分泣くより先に僕がボコボコに殴られる気がするんだけれど……スパイダーセンスがそう言ってる。スティーブンとウォンも僕含めて顔面で見分けつかなくなるレベルでロスコルさんにボコボコにされる」

「私もか!?」

「それはごめんなさい。あっ録音しよう。ピーターお願い」

 

 ピーターが録音モードで携帯電話を差し出すと、ステラがそこに声を入れた。

 

「マト、君のパワー・ストーンは」

「私も抽出が出来ない。けれど私の場合は原因がはっきりしてる。だから私は先にあなた達にお別れを」

 

 マトが指パッチン装置に触れると、全身が紫の炎に変質していく。位置関係的にピーターからしか見えなかったが、フードの奥で微笑む顔は、ステラと瓜二つだった。

 

「心の力そのもの……存在がパワー・ストーンと一体化していたという事か」

 

 続いてリアリティ・ストーンを、タイム・ストーンを、ソウル・ストーンをマインド・ストーンを、それぞれトニー、デッドマスター、クリント、ストレングスが嵌め込んでいく。

 

「直接使用もできるようだ。あとはステラが……ん?」

『我々はクレイドル・ユニット、みなさんの安全と平和を守ります』

『我々はクレイドル・ユニット、みなさんの財産と命を守ります』

『我々はクレイドル・ユニット、みなさんの権利と自由を守ります』

「わっ何……!? スタークさん!?」

「違う私は何もしていない。どこから現れた? 停止しろ」

『我々はクレイドル・ユニット、みなさんの安全と平和を守ります』

 

 リアリティ無し・スタークの命令を受け付ける様子がなく、更にそこにチタウリと、謎の生命体のようなもの、更にモノリスのような柱達が現れた。

 

「これは私の宇宙で循環できていない生命ね」

「チタウリは……僕たちの宇宙かな?」

「チタウリの量が多いな、多分俺の宇宙のチタウリも紛れてるぞ」

「あのディザスター達は私の世界のものだ」

「不味いぞ、宇宙同士の接近が限界に近い」

 

 出現した敵達は、一斉にステラ達に向かってくるわけではなく、互いが互いに入り乱れて殺し合いを始めた。

 

「互いが互いの宇宙にとっての異物だ。排除しようとしているんだ。これは宇宙の……悲鳴だ。ステラ、頼んだぞ!」

「スタークさんはこれ使って!」

 

 ウォンが魔法陣を腕に纏わせ、戦闘体制に入る。

 ピーターはナノテクアーマーを渡してリアリティ無し・スタークがアイアンマンの姿になる。床に置いていた鎌とブラックブレードをストレングスがそれぞれ投げ渡した。

 

「助かった。さぁステラ私たちが時間を稼ぐ。君はさっさと指パッチンをするなりして、宇宙を正常に戻すんだ」

「そうそう、あと終わったら私のところに来るのよ忘れないでね?」

「ナターシャを……託す。頼んだぞ」

「任せて!」

 

 生身になったピーター、デッドマスター、アイアンマン、ホークアイ、ウォン、ストレングスが周りに出現した敵達と戦闘を開始する。

 ステラは昔、指パッチンでみんなを戻した時のことを思い出しながら、これから来る苦痛を想像して歯を食いしばって、指パッチン装置に手を突っ込んだ。

 

「……どうして?」

 

 何も起きない。石が全て揃ったガントレットを装着した時のような力の奔流が無い。直接動かせる以上作動装置のタイマーは関係がない。

 スペース・ストーンの部分にできた空白が全部の原因だとステラにはすぐわかった。

 空いた空白にブラックブレードで斬撃を飛ばす時のような力を込めてみても反応がない。マトがやっていたようにさらに指パッチン装置に手を当ててもスペース・ストーンの力が流れ込んでいく様子はない。マトとステラでは生態そのものが完全に異なる。ステラは体をそのままエネルギーに変える事はできないのだ。

 後ろでみんなが戦っている。装置を作ってくれたトニー達もきっと戦っている。

 ステラは発想を逆転させた。

 ステラの力を指パッチン装置にはめ込もうとするのではなく、ステラ自身が指パッチン装置になればいいのだと。

 ストーンを全て引き抜いて左手に一纏めに握り込んだ。

 ストーンの力がステラに流れ込んでくるが、これはガントレットに揃った時のモノとは違う、単純にストーンに触れた事による力の流入だった。

 着ていたパーカーが焼けこげ、左手の肌も力の流入線に沿って黒く焼け焦げる。

 

「私の力を……使えるようにしてよ!」

 

 成立する理屈も何もあったモノじゃない我儘のようにステラはストーン達をさらに強く握り締め、自分の中の無限の一端にくっつけられないかとそれを胸元に押し当てる。

 

 そんなステラの事情など関係ないと言わんばかりにリアリティ・ストーンは身体に寄生しようとし、マインド・ストーンは精神を侵蝕しようとする。

 苦痛のあまり膝をついたステラの左手に、誰かの手が添えられた。

 左右を見る。

 紫色の炎のマトと、黄金色をしたクリントの世界のナターシャが、ステラを見つめていた。

 二人の目線にもう一度覚悟を決めてステラは立ち上がる。

 

言う事聞いて!!

 

 ステラのブースターユニットが形を変えた。一対の翼は無秩序に枝分かれし増殖、青色の輝く結晶が多数組み合わさったそれは遠目に見れば鳥の片翼の様にも見える。

 ストーンを握った左腕を突き出すとそこから虹色に輝く結晶が突出。それを包み込む様に金属が創造され寄り集まり、三本の金属鉤爪が虹色のクリスタルの棒を拘束する様にくっついた。元のロックキャノンの砲身がクリスタルの塊の棒になったような見た目だ。

 翼もロックキャノンも、戦う為にトニーが作ったものに比べると不恰好で合理性に欠けていたが、ステラの要求を叶える上では人の科学では理解できない領域で最も合理的な形をしていた。

 ステラは自分の内側にあった力が抜け落ちたのを感じた。昔、指パッチンをした時にパワー・ストーンの力が抜け落ちたのと近い感覚だった。

 それと共にロックキャノンとブースターだったものに無尽蔵の力が宿っていることも確信した。

 

「みんな! お待たせ!」

 

 戦うみんなの前に着地。ロックキャノンを横に振るうと、戦っていたクレイドルアーマー達が、生物達が、チタウリ達が、ディザスター達が景色に溶けていく様に消えた。元の世界に帰ったのだ。

 静まり返った空間でステラが戦っていた全員の方を振り返る。

 

「どれくらい時間があるかわからないから、みんなも元の世界に返すよ」

「お別れか。ウィリアムズにも君くらい頑張ってもらわないとなピーター」

「さよならスタークさん、お元気で」

 

 生物の様にロックキャノンの鉤爪が開いて輝くとスタークが姿を消す。

 

「ありがとう。俺のせいでナターシャのストーンが宇宙を壊すところだった」

「私も、私に戻れて嬉しい。ありがとう」

 

 クリントとストレングスが消える。

 

「ピーター! ウォン!」

 

 ステラがブラックブレードを握ったままの右手につけた指輪を見せる。

 

「みんなによろしく言っておいてね!」

「すまないステラ」

「そんな悲しそうに言わないで、ほらステラ! 帰ってきたら大好きなハンバーガーでパーティしよう! いつでもベーコンとかトマト切って待ってるからね!!」

「楽しみにしてる。それじゃまたね!」

 

 ピーターが努めて明るくしようとウォンの背中を叩いて肩を組んだ。ステラもそれを見ながら笑顔で右手を振り、二人を見送った。

 

「私は?」

「私があなたの宇宙に行くからこのまま一緒だよ」

 

 翼にブラックブレードがくっついて、そのままデッドマスターの手を取ると、ロックキャノンを地面に突き刺した。

 するとみるみるうちにロックキャノンが大きくなり、クリスタルも巨大化。鉤爪の部分が開いて三足歩行しているかの様にそり立つ。ジャンプして上の持ち手の所に立ったステラとデッドマスターが虚の次元(ホロウ・ディメンション)を見渡す。

 

「はぁ、短いけど濃い時「それじゃ行くよ!」え?」

 

 少し感傷に浸ろうとしたデッドマスターの予期せぬタイミングでステラがロックキャノンを思いっきり踏みつける。いつぶつかるかわからないのだからすぐ実行するのは間違いではないのだが。

 

「どこのアンタも空気読まないのね! やっはりそういう所よブラックロックシュ────」

 

 ロックキャノン真ん中のクリスタルの塊が発光すると、デッドマスターの文句を吹き飛ばす様に薄暗かった虚の次元全体を照らし、優しく全てを光に染め上げたのだった。

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