MCU『ブラック★ロックシューター』 作:おれちゃん
Quicksilver to the Protection of Universe
2022年公開
主な登場人物
クイックシルバー/ ピエトロ・マキシモフ
ドクター・ストレンジ/スティーブン・ストレンジ
スカーレットウィッチ/ワンダ・マキシモフ
ウォン
スティーブ・ロジャース
カメオ出演
ブラックロックシューター/ステラ・シェパード
クイックシルバー/ポストクレジットシーン
「全然ダメだが?」
「だが筋は良い。すぐにゲートも開けるようになるだろう」
「私は?」
「お前もまた筋がいい」
カマー・タージの一角で、ピエトロとチャベスが魔術の訓練を受けていた。
今回、妹であるワンダが別宇宙のワンダに乗っ取られる事態はドクター・ストレンジの協力でなんとか解決できたが、知識が無ければ妹を守れないとピエトロは至高の魔術師であるウォンに魔術を教えてもらおうとストレンジの紹介でやってきたのだ。
別宇宙、ダークホールドに魅了された別のワンダやその他の脅威を考えればその肉親であるピエトロの協力は願ってもない事だったので、ウォンが直々に教える破格の待遇だった。
「もっと効率よく開けるようになる訓練とかないのか?」
「ストレンジがやっていたものならあるが……」
「ストレンジが? 変な事やってそうね」
「でもあるならさっさとそれで」
「身一つで雪山に放り出す。戻る為のゲートが開かなければ凍死するが」
「無しで」
「食べ物見つけられなさそうね」
「しかし全然うまくいかないな。これならどうだ?」
ピエトロが目で追えないほどの速度でゲートを開けるように腕を回し始め、それを真似てチャベスまで素早く回しだしたのでウォンは呆れたようにため息を吐いた。
「早く回しても早く出来るようになるわけじゃないぞ。今日はここまでだお茶にし……」
スリング・リングでゲートを開こうとする際に発生する火花。チャベスの起こした火花の色が通常と違う色に変化している。
チャベスもそれに気付いて手を止める。魔術は別次元の力を引き出す技術であり、チャベスのマルチバースを繋げる力に非常に親和性が高い。だからこそ現状制御不能な能力を使いこなす第一歩として魔術を学んでいるのだ。
「妙じゃねえか? 手を止めてるのに消えないぞ?」
さりげなくピエトロが火花とチャベスの間に入って後ずさりして距離を空ける。ウォンも武器を構え、カマー・タージの魔術師達が広場に飛び出してきて同じく武器や魔術を用意した。
「もう次が来たか」
火花が弾け、落雷のような轟音と衝撃波が広場を襲った。その規模はダークホールドの魔術で異次元の怪物達が召喚された際の規模に負けず劣らずだ。
「魔術師達よ! 再びの戦いだ! 闇の魔術から世界を守るんだ!」
「やってやるさ何度だってな!」
そこにあったのは、手だった。
「は?」「ん?」「え?」
華奢な指先から肘くらいまでの腕が火花から出っ張っていた。こちらの状況は分かってないようで手を振ったり何か掴もうとしているのか手がジタバタし始めた。
「左手だけ……ってうわぁ!?」
拍子抜けして脱力しそうになったところでジタバタが凄まじく激しくなった。
手だけを見れば隙間に落ちた小銭でも拾おうとしてるようで可愛らしくすら見える。ただ動きに合わせて起きる鳴動が洒落にならないレベルで怖い。小さいが迫力は陸に打ち上げられた大鯨が暴れ狂っているかのようだ。
「どうしよアレ!? 押し返す? 押し戻す!?」
「そりゃなんか出てくる前に戻した方が楽かもしれないがよ。おいどうなんだそのあたり!」
「相手も必死だ。下手に押し戻すより疲弊しながら現れた所を叩いた方が後顧の憂いもないだろう」
その言葉に覚悟を決めてピエトロは二度三度跳ねて体を回して準備運動をした。一際大きな鳴動とともに肩のあたりまで一気にこちら側に入り込んできて、チャベスがびくりと驚くのと対照的に、ピエトロとウォンが首を傾げた。
潜り抜けた事で着ている服が見え出したのだ。どうやら黒い長袖を腕まくりしていたようである。その服には白い星の意匠が施されている。
「まさか? 腕を押さえてくれ!」
「おいどういう事だ!?」
ウォンがひと足先に駆け出していたがピエトロは文句を垂れながらも最速で移動。ジタバタする腕を難なく掴み、掴まれた腕は急に止まれなかったのか掴んだピエトロがそのまま振り回されて吹っ飛びかける。
だがウォンにはそのわずかな時間で十分だった。小指には金色の指輪。ウォン自身がバビロンの腕輪から作った代物だ。見間違えるはずがない。
「みんな! ステラだ! 引っ張れ!」
その言葉に魔術師達とピエトロに動揺が走ったが、すぐさま立て直す。
ウォンが魔術で作った縄をステラの手に巻き付け、空中に投げ出すと、その端に他の魔術師達の魔術の縄が結合していく。
ピエトロも事情はわからないなりに掴んだ手をそのまま引っ張り出した。
カマー・タージの魔術師達とピエトロによる童話のような壮絶な引っ張りだが、何かつっかえているのか全く引っこ抜けない。
こちらで引っ張っているのを察したのかてはもうジタバタしなくなった。
チャベスは完全に事情もステラが誰かもわからないまま、しかし大事な事なのだと察してスリング・リングををかざしてゲートを開く動作を始める。通り口が少しでも大きくなればと思ったのだ。
散っていた火花が大きくなって、ズポン! といい音がしそうな勢いで引っこ抜けて、抜けた頭が顎に直撃しそうになったピエトロは高速移動で回避しながら転倒した。
突然負荷がなくなって同じように転んだ魔術師達も続々と立ち上がり、通り抜けてきた人物を見た。
「やった通れた! みんなが引っ張ってくれたんでしょう? ありがとう!」
跳ねて喜んで、みんなにお辞儀をして回っているステラを見る。チャベスは暴れっぷりに対して可愛らしい子犬のような印象のステラに拍子抜けというか変な感覚を覚えていた。そんなチャベスとステラの目があって、近寄ってくる。
「あなたが道を開けてくれたの?」
「えー? あぁー多分そう!」
「ありがとう。私はステラ。ステラ・シェパード。あなたは?」
「私はアメリカ・チャベスよ」
二人は握手を交わした。チャベスがよくよく見ると、腰の所に小さな翼のようなものが付いている。
「なんでステラが穴の先から出てくるんだ? どういう状況?」
「ピエトロこそどうして……ウォンのところに?」
「修行さ俺は」
周りを見回してもカマー・タージという名前が出てこなかったのでウォンのところと言わざるを得なかった。
「よく戻ってきたステラ!」
「ただいまウォン! アレからどれくらい経ってるの?」
「一年程度だ! なんだったかの大学にもしっかり休学届が出してある! すぐにゲートを開けよう! 早くロスコルに会いに行ってやれ!」
「俺たちは修行だ。よく分からんが帰ってゆっくりしろよ!」
「またねステラ!」
手を振るピエトロとチャベスに手を振替しながらウォンがニューヨークに向けてゲートを開ける様子を眺めていて、ふと思った事を口に出した。
「あっ……ボイスレコーダー渡したけどその……あの後ピーターとストレンジとウォンは大丈夫だった?」
ウォンが小さく首を傾げた後微笑んだ。
「ふふ、なんとか一発で勘弁してもらえたよ。ストレンジは当たりどころが悪かったのか膝に来ていたな」
「本当にごめんなさい。ストレンジとピーターにも謝りたいけど、二人は?」
「ストレンジは今は休暇中だ。屋上にも……コホン。最近忙しかったからな。暇な時にサンクタムに来るといい」
「わかった」
ゲートがしっかり開き、ニューヨークの街並み……ではなくてニューヨークのサンクタムの室内へと繋がった。
ちなみに言いかけた屋上というのは、埋葬されている別宇宙のストレンジのことである。この宇宙のストレンジはしっかりプライベートで休暇中だ。
「ピーターは? やっぱりMITでMJとネッド達と大学生活満喫中かな」
「どうだろうか。その辺りはわからないな」
ピーターの性格ならウォンと交流を続けていそうと思っていたのでステラは意外そうな顔をした。
「ともかく、そのピーターやMJとネッドは友達か? それこそ早く帰って安心させてやるといい」
「……?」
ステラは違和感に頭を悩ませながら、ウォンに促されるままゲートを潜るのだった。