伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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恋心

「……やっべぇ。最悪の予想が的中したかも知れねえぞ」

 

 ギルドでの換金を終え、それなりの高値で売却出来そうな秘宝を手に入れたのはラッキーだと思ったんだが、禍福は……確か縄がどうとかこうとかって言葉が有るし、それを考えれば運が向き過ぎていたのか?

 

「姉さん、まさか……」

 

 俺達の所属するナインテイルフォックスの拠点はちょっと古びた建物だ。元々はAランク探査団だった頃、新人の育成の場所として仮の拠点を幾つか用意していた。その為に早瀬の塔とギルドの中間辺りに存在している。鍵が掛かっていない扉を開けた時、漂って来たのは強烈な臭い。気分が悪くなる刺激臭に耐えながら奥に進むがミントの顔色は悪い。何が起きているのか既に察し、外れていて欲しいと願う顔だ。

 

「頼むぜ、ルノア姉ちゃん……」

 

 異臭が漂う奥の部屋へと続く扉を開く。入って直ぐに目に入るソファーの上で仰向けになって力無く手足をダランとさせているルノア姉ちゃんの姿があった。

 

「姉さん……何をやっているのよ」

 

 ミントは膝から崩れ落ちて床に両手を着く。漂っていたのは酒の臭い。何時も飯を食うのに使っているテーブルの上には安いツマミが盛られた皿と巨大な徳利、毎日ランダムで中身が変わるが酒が大量に出て来る秘宝"酒豪の徳利”が置かれている。床がビッチョビチョだからって事は酔っ払って倒したんだな。……酒臭いな。こりゃ火の気があったら大火事になりそうだ。

 

「あっ、二人共お疲れ様。ご飯でも作っておこうと思ったんだけれど酒臭かったからもしやと思って部屋に入ったら床が酒の海でさ。僕は今日は暇だったから掃除するけど二人は探索から戻ったばかりでしょ? 休んでて」

 

 そんな部屋の中に探索団の団員じゃない二人の姿。一人は芝居で裏方を担当する黒子の衣装を着て掃除をしていたんだが、俺達に気が付くなりルノア姉ちゃんが脱ぎ捨てた服をソファーから退かして座るスペースを確保する。でも、そうですかって素直に休むのは無理だろ。言ってやらなくちゃいけない事が有るんだからさ。

 

 

 

 

「ちょっとリゼリク。姉さんにやらせるから掃除なんかしなくて良いわよ。どうせ書類仕事は朝の内におわらせて、その後は何時もみたいに大酒かっくらってこの有様なんだから」

 

 そう。この見るからに不審人物な奴は俺達の友達で現在はSS級探索団所属のリゼリク・アースガルズだ。今の格好はどうも秘宝の類だとか特別な製法の装備だとか聞かされている。……マジで怪しいよな。

 

 ミントはルノア姉ちゃんに責める視線を送りながら告げるが、当のリゼリクは戸惑っている。餓鬼の時分から整理整頓が好きで掃除を張り切っていたし、汚部屋に我慢出来なかったか、流石にな。……まあ、掃除を頑張った理由は他に有りそうだがな。

 

 俺とミントは一瞬だけリゼリクと一緒に部屋に居たもう一人に視線を向け、直ぐに互いに視線を合わせて極力触れない。口には出したが可能なら無かった事にしたいぜ。

 

「え? でも僕は七歳から此処で育ったし……」

 

「そりゃ実家みたいなもんだし、客人扱いはしないけどよ。掃除ってのは現在住んでる連中の仕事だって」

 

「……でも、ちょっと気になってさ」

 

「気持ちは分かるわ。じゃあ、明日姉さんが起きたら小遣い減額と一緒に掃除を言い渡すからご飯でも食べに行きましょうか。……そ、そっちの子も一緒に」

 

「ご飯!」

 

 この時になって俺達は二人目から目を逸らすのを止める。ロザリーやキュアさんとは似ているようで違う無表情。二人が感情が出なかったり動かないなら、この子は何を考えているか分からないって感じの無表情だ。

 

 銀の髪を腰まで伸ばし、一部が跳ねているんだが犬や猫の耳にも見える。真っ直ぐ向けていても何を見ているのか定かじゃない目の色は太陽の光を思わせる金色。年齢は十歳程度だな。此処までは別に良いんだ。懐かれたので一緒に来たってだけで、この部屋の惨状はルノア姉ちゃんの責任だから子供をこんな所にとかは言わないんだが……。

 

「えっと、お嬢ちゃん。その格好は……?」

 

「リゼリクが持ってた本に乗ってた。我、世話になってるから真似してる」

 

「そっか。そうかぁ……」

 

「リゼリク、我とは神が定めた運命の関係だった。今は同じ……探索団? の仲間」

 

 よく言ってくれたミント。……でも、出来れば触れないままで終わりたかった。ずっと黙ってたのにご飯って言葉だけ反応するのも、リゼリクと違って育った家でもないのに拠点に居るのも別に良いんだ。喋ってるが声から感情を読みとれないのも別に良いさ。でもな……。

 

「リゼリク、お前。ブカブカのワイシャツ着た幼女とかマニアック過ぎるだろ……」

 

 大きめのサイズなのか肘の辺りに指があるらしく袖が垂れ下がっている。下は履いてないが裾が膝まで有るし下着は見えないけど、完全に生足だ。辛うじて子供用のサンダルを履いてるが、正直なんでこんな格好なんだ?

 

 新聞では肩車だけで任意同行させられたって話だが、そりゃ詳しく書きたくないよなって理解する。正直言って俺とミントはドン引きしていた。

 

「だ、大丈夫! ちゃんと下に水着を着てるのを見せて貰っているから!」

 

「せめてスカートかズボンを着せてから大丈夫とか言え! って言うか見せて貰ってるのかよ!?」

 

 此処までの会話を聞いていた女の子は袖をブランブランさせて見せ付けながら小首を傾げる。リゼリク、お前、顔を赤らめてないか? 気のせいだよな?

 

「リゼリク、この格好変?」

 

「凄く似合ってるよ。スコルは何を着ても似合うから」

 

 

「あっ、その子はスコルって名前なのね」

 

「そう。我、スコル。太陽の塔………(バベル)

 

「わーわー!? それよりもご飯に行くならスコルも一緒で良いよね!? じゃあ、僕は掃除を続けてるから二人は続けてなよ!」

 

「リゼリク、何か焦ってない?」

 

「焦ってないですよ!?」

 

 スコルが何か言おうとした途端に慌てた様子で遮るし、どうも何かを隠してるのは間違い無いな。でも、此奴が俺達に黙っておこうなんて余程の事だ。なら、これ以上は止めておくか。

 

「あっそ。じゃあ私着替えて来るから。姉さんはどうせ起こしても無駄だし放置で良いわよ、放置で」

 

「こうなったら明日の朝まで起きないよな。その上二日酔いが酷いしさ。んじゃ、俺も着替えたら掃除手伝うから」

 

 どうやらミントも俺と同じ意見らしい。これ以上はリゼリクの性癖に言及するのは嫌だし、流す事にした。

 

「……私の昔の服を出すわね。一緒にご飯食べに行くのならちょっとね」

 

「近所の目がな。……既に俺のラッキースケベの呪いが伝わってるってのに」

 

 幸いな事に俺の呪いは誰にでも発動する訳じゃない。俺がちょっと良いと思った相手に対し、俺がドジした時に色々奇跡が起きてエロい事になっちまう。

 

「あんな幼女に対して発動してたら洒落にならないよな」

 

「まあ、社会的に完全に死ぬわよね。今でも評判が下がるから気を抜くなって言っているのに発動してるけど。……発動しなくて良かったけれど、私に発動しない事で私の女のプライドは死んだわ」

 

「ド、ドンマイ?」

 

 因みにルノア姉ちゃんにも発動しないし、既婚者も対象外だ。いや、本当に良かったよ。……人妻か。

 

「あら? ニーナ姉さんが結婚したの未だ気にしてるの?」

 

「うっさい……」

 

 ……そう。俺の初恋は見事に破れた。ニーナ姉ちゃん位に美人で性格が良けりゃ恋人だって居ても不思議じゃないし、そりゃ結婚だってするよ。この前なんか赤ちゃんを抱かせて貰ったよな。

 

 そんな俺だから分かっちまった。分かりたくもないんだが、リゼリクはスコルに恋をしているって事をな。

 

「まあ、ロザリーにとっては嬉しいんじゃない? ……私も正直言って姉の年の差カップルの相手が自分の幼なじみとか嫌だもの。まあ、ちゃんと考えてあげなさいよ? 他のに取られてからじゃ遅いんだから」

 

「へいへい。無碍には扱わないって。……分かってるよ」

 

「別に賭けとか関係無く恋人にでもなっちゃえば?」

 

 九年前の賭けから早九年。ロザリーは相変わらず俺に勝って結婚する気だし、俺だって負ける気なんて無いが、だからと言ってロザリーが嫌な訳じゃないんだ。美人に育ったし気心も知れている。ラッキースケベも何度か経験したさ。風呂に入ってたのに気が付かないで浴室のドアを開けちまったり、つまみ食いしに行った夜中のキッチンで出会したんだが、ミントに見つかりそうになって隠れた戸棚で密着したりとかな、

 

 ……でも、どうもな。そういった関係になるのには何か数歩足りない気がする。ミントの言葉に迷いつつも俺は鎧の留め金を外し、汗で湿った上着を脱ぎながら自分の部屋に入った。棚に鎧を仕舞い、上着をベッドに脱ぎ捨てて上半身裸になる。後は着替えをタンスから出そうとして、ベッドの掛け布団が膨らんでいるのに気が付いた。

 

「……おい、起きろ」

 

 誰が入っているか俺には直ぐに予想出来た。ロザリーだ。どうせ驚かせようとか思って俺の部屋に入ったのは良いが、眠くなったので寝ちまったんだろ。何時もの事だな。

 

「ったく、不用心な奴。襲われるとか思ってないんだな。襲う気は無いけどよ」

 

 毎度毎度の無防備さに呆れながらも俺は掛け布団を一気に払いのける。後は起こして部屋から追い出すだけ……だったんだがな。

 

 

「何で裸エプロンなんだよ……」

 

 ベッドの中で丸くなって眠っていた幼なじみの美少女剣士は真っ白なエプロンを素肌に纏っている。背中も尻も丸見えで目のやり場に困るな。

 

「おい、人のベッドで毎回寝るなって言ってるだろうが、ロザリー!」

 

「……ん。お帰りなさい、アッシュ」

 

 背中を向け声を少し大きくして話し掛ければベッドの上で上体を起こす音が聞こえる。その姿をついつい想像したんだが、此処で振り向いたら負けな気がするな。

 

「ご飯にする? お風呂にする? ……私にする?」

 

「いや、せめて棒読みは止めろ」

 

 どんな格好でも、どんなシチュエーションでも、淡々とした話し方じゃムードもへったくれも無い。ロザリーの奴、変な事ばっかり覚えて来るんだが、探索団に変な先輩でも居るのか? ……団長も副団長も比較的真面目な人達だったけどな。

 

「まあ、兎に角だ。俺は一旦出るから、その間に服を……」

 

 出て行こうとして俺は固まる。半開きの扉の隙間からスコルが俺達の姿をジッと見詰めていた……。

 

 

 




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