伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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新たな探索地

 馬鹿だの何だのと言われる俺でも知っている事だが、(バベル)の探索においては事前の準備が欠かせない。ギルド職員や先人達が苦労しながら作成した内部の地図や出現するモンスターの特徴を頭に叩き込み、命綱となる装備の点検もちゃんとする。例え自分の探索団のランクより低いランク認定がされた所でも、探索しても簡単には死なないってだけで、楽勝って事じゃないんだ。

 

「ねぇ、本当にあんなのを信じてる訳? 悪戯か現実と空想がごちゃ混ぜになっているだけよ。一体どれだけの人達が調べてると思ってるの? 隠し通路が有るならとっくに公表されてるに決まってるじゃない」

 

「ロマンがないよな、ミントって。ついでに胸も……はい、ごめんなさい」

 

 そんな訳で慣れた場所であっても探索中の不用意な行動は勿論、探索中じゃなくても不用意な発言は命取りになっちまう。無表情のミントにスピリットランプを向けられている今の俺みたいにな。……人のコンプレックスを刺激しちゃ駄目だよなぁ。

 

「まあ、油断はしないって。今日はこの場所に慣れるのを目標にして、余裕が出来たら試してみるって事で良いだろ? 何せパンダーラの団員からの情報だぜ? ちょっと試してみたいじゃん」

 

 俺が少し期待しているのはスコルから教えられた隠し通路の存在で、ミントが懸念しているのは新エリアで浮かれているんじゃないかって事。(バベル)での探索の制限はランクによって入れる場所が変わるだけじゃなく、担当職員の判断で進める範囲が変わるって事だ。違反した場合、ギルドからの罰則は基本的に無い。只、迂闊な行動のツケを身を持って払わされるケースが大半ってだけだ。

 

「まあ、でも少し浮かれるのは分かるわ。結構綺麗な光景だもの。……でも、五月蠅いし不意打ちとかが心配ね」

 

「じゃあ俺が前方と右側を警戒するからミントは後ろと左側を頼む」

 

「……えっと、右って分かってる?」

 

「分かってるに決まってるだろ!」

 

 俺達が新しく進む事を許されたエリアは左右を瀑布に挟まれた長い長い一本橋。水煙を上げて流れ込む滝の水は滝壺から腰程の深さの早瀬になって入り口に向かって流れている。この滝の水が何処から流れ続けてるのかは不明だが、(バベル)自体が変な存在なんだから気にすると疲れるだけだ。

 

 このエリア、通称『双滝の道(そうろうのみち)』の特徴は視界を邪魔する水煙と轟々と鳴り響く滝の音。大体此処で多いのがモンスターによる不意打ちだ。向こうも気が付かずに不意打ち出来る事も多いらしいがな。

 

「早速お出ましだぜ。マリモスに撲殺ラッコ!」

 

 水の底に沈んで漂っていた緑の球体が一斉に目を見開いて橋の上に向かって飛び出し、滝の上から石を抱えたラッコが飛び出して来る。剣の腹で振り下ろされた石を受け止め、そのまま数匹巻き込んで橋の上に叩き付ければ前方からマリモスが群れを成して転がって来た。

 

 拳大の大きさの上に速い。真上から剣を振り下ろしても簡単には当たらない。苛立って足で踏みつけるんだが伝わったのは堅い感触だ。

 

「ちっ! まるで石だな」

 

「アッシュ!」

 

 声に反応し視線を向ければ俺に向かって滑り込んで来るミントの姿。何も支持を受けていないが俺は飛び上がり、ミントはスピリットランプを突き出す。

 

「エアスラッシュ!」

 

 カンテラから次々に放たれる三日月状の風の刃は地面スレスレを進んでマリモスと撲殺ラッコを切り裂く。少し距離があった撲殺ラッコに届く前に風の刃は消え失せるが、ミントに飛び掛かった瞬間に俺が投げた剣に貫かれた。

 

 撲殺ラッコの体を貫いた刃の先は橋に刺さる事無く弾かれ、着地と共に掴めば足に伝わったのは普通の木の橋の感触。軽く叩いても木の橋なのに壊そうとしても傷付かない。

 

「本当にどうなってるんだろうな、この橋」

 

「今更でしょ? ほら、相手は待ってくれないわ」

 

 次々に水中から飛び出すマリモス。撲殺ラッコも滝に流されて来ている上にクローフィッシュやらも現れる。休ませる気は無いって感じだな……。

 

「……ちょっと多いわね。分かってると思うけれど引き際は間違えちゃ駄目よ? 私が判断して合図するから従いなさいよね」

 

「了解了解! 可能な限り強いのをぶっ倒しまくって、強くなったら更にぶっ倒しまくる! それで問題無いよな!」

 

「馬鹿丸出しの返答どうも!」

 

 ミントの奴は相変わらず口五月蠅いけど、俺があれこれ考えなくても良いんだから正直助かっている。でもよ、モンスターを倒した時に得られるエネルギーってのは強さによって変わるんだぜ? つまりは雑魚ばっか倒しても強くなれないって事だ。

 

「強い奴は全部出て来い! 纏めて糧にしてやるからな!」

 

「ったく、本当は分かってないでしょう、アンタ。まあ、良いわ。倒して倒して倒しまくってやるんだから!」

 

 飛び跳ねて向かって来たマリモスを剣で弾き飛ばしてクローフィッシュを撃ち落とし、撲殺ラッコを数匹一気に串刺しにする。直ぐに光の粒子になって消えるおかげで血やら死骸を気にせず戦えるのは嬉しいんだが、エリアが一つ違うだけで出現頻度が段違いだな。

 

 怒濤の勢いで押し寄せるモンスターの群れ。橋の中央で戦えば向かって来るまでに時間があるから対応出来てるんだが、流石に息が上がって来た。ミントも偶にエネルギーを回収する暇も無い程だし、そろそろ撤退指示が出そうだな。

 

「っと!」

 

 流石にこれだけ連戦が続けば無傷じゃ済まない。一撃で倒し損ねた撲殺ラッコの投げた石が胸に当たって防具の上から衝撃が響く。そのまま爪を立てようとしたのを蹴り上げたが、マリモスの体当たりを喰らった腕が痺れた。

 

「おいおい、流石に多過ぎるだろ。そう言えばモンスターコアが活発になる頃合いだっけか?」

 

「アッシュ、彼処!」

 

 ミントと背中合わせにして思わず愚痴をこぼした時、ミントが橋の前方を指差した。水煙に紛れて見えにくいが、橋の手摺りに赤い球体が埋め込まれている。あれはモンスターコア。(バベル)のエネルギーをモンスターに変換し、近付く奴が居れば周囲からモンスターを呼び寄せる。

 

 それがエリア毎に幾つも散らばって、破壊されても時間経過で何処かに現れるんだが、こんな入り口近くで発見するだなんてな。

 

「そろそろ一つ修復される頃だけれど、まさかこんなエリアの入り口近くで見つかるだなんて。初めて足を踏み入れたのに不運ね」

 

 撲殺ラッコの懐に潜り込んで至近距離でファイヤーボールを放ったミントは火達磨になった相手を蹴り飛ばして他のモンスターにぶつけると困った風な声色で呟く。まあ、その不運で現在ピンチな訳だが……。

 

「いや、幸運だ。あれを壊せば周辺でモンスターが生成されないし、得られるエネルギーだって桁違いじゃねぇか。早い者勝ちだぜ、早い者勝ち!」

 

「アンタって本当に単純ね。狙えばモンスターの妨害だって有るし、現在包囲されてるんだけれど?」

 

 俺達探索者の主な仕事は採取やモンスターを倒す事で(バベル)のエネルギーを消耗させて成長を防ぐ事。そして二種類有るコアの破壊もだ。モンスターコアの破壊こそが今の状況を何とかする手段。逃亡? おいおい、お宝を前にしてるんだぜ。

 

「頼んだぜ、ミント!」

 

「はぁ!? アッシュ、アンタまさか!?」

 

 俺はミントを担ぎ、慌てるのを無視して振りかぶる。そして全力でモンスターコアに向かって投げ飛ばした。

 

「アーッシュ!! 後で覚えて起きなさいよぉおおおっ!」

 

「……こりゃ本当に後が怖いが……今は敵をぶっ倒すだけだ!」

 

 モンスターの頭上を飛び越えてミントはモンスターコアへと接近する。文句を言いつつも空中で体勢を整え魔力を練る。当然させぬとモンスターが押し寄せるが、ミントに殺到するって事は俺を無視するって事だ。

 

「背中からだが卑怯だの何だの言うなよ? まあ、喋れないけどな」

 

 隙を晒したモンスターを背後からバッサバッサと切り捨てるが、モンスターコアに反応する方が強いのか反撃もして来ない。まあ、モンスターコアを発見した時の囮作戦ってのは定石だな。

 

「さっさと壊して帰るわよ! インパクトボム!」

 

 スピリットランプから出て来たのはフワフワと低速で飛ぶシャボン玉みたいな球体。次の瞬間、俺もミントも躊躇無く橋から飛び降りて伏せる。何せミントの魔法はあくまで射程が短いだけで着弾後に広範囲に広がる系統の魔法の広がる範囲は変わらない。そしてインパクトボムはミントが使える魔法の中でも最も広範囲に効果の有る衝撃波の魔法。次の瞬間、俺が取りこぼしたモンスターもモンスターコアも全部纏めて衝撃波が吹き飛ばした。

 

 

 

「派手にやったな、おい……」

 

 俺が浸かっていた水も衝撃で吹き飛んで、今は豪雨みたいに降り注ぐ。思わず呟いた俺の目の前には視界を覆い尽くす程の光の粒子が漂い、それをミントが回収していた。

 

「これなら取り分だけで昨日の焼き肉代は取り戻せるな。……ん? 何だ?」

 

 橋に上がろうと一歩踏み出した時、踏んだ石が沈む。カチッて鳴ったよな、今……。

 

「何か嫌な予感が……」

 

 嫌な予感がすると、最後まで言葉を言い終わる前に俺とミントの姿はその場から消え失せた……。

 

 

 

 

 

 




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