伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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魔剣の名

 偶然発見した隠し通路。そこで遭遇した未知のモンスター……取りあえずアクアスフィアと呼ぶ事にした、との戦いは一進一退の攻防になっていた。

 

「ミント、一旦下がれ!」

 

 アクアスフィアの周囲には四つの水球が浮かび、その二つが槍へと形を変えて真上から向かって来る。バックステップで避ければ床を突き刺しながらミントを追い掛けるが、その隙に俺が剣を構えて肉薄した。

 

「だぁっ!」

 

 残った二つが盾に変わって立ち塞がるが、俺の一撃は盾すらも切り裂いて本体に傷を付ける。手に伝わったのは堅い物を切り裂く感触。でも、切れない程じゃない。もう一撃オマケに喰らわせようとしたが、ミントを追っていた槍が矛先を俺に向けて戻って来ていた。

 

「ちっ! 後少しだったのによ!」

 

 剣で槍を弾き飛ばすが、その隙に盾が水球に戻ってアクアスフィアも遠ざかる。槍も水球に戻り、四つの水球が一つになった。来る! 

 

「アイスウォール!」

 

 俺は咄嗟に剣を盾みたいに構え、ミントも氷の壁を作り出せば水球から無数の水の礫が飛んで来た。まるで本当の石礫を浴びているみたいな衝撃が全身に走り、防げなかった場所に容赦なく打ち付けた。ミントが張った氷の壁の表面もボロボロだが今がチャンスだ。

 

 部屋中に散った水球は徐々にアクアスフィアの所に戻って行く。それだけなら良いんだが、その一部が傷を埋めるように入り込んで俺が与えたダメージを修復していた。

 

「一気に攻めるぞ、ミント!」

 

「分かってるわ! ファイヤーボール!」

 

 このままじゃジリ貧だ。此処で一気に決めるべく俺達は駆け出した。俺が剣を構え、ミントがそれに続く。アクアスフィアが放った水の槍を剣で破壊し、散らばった水と水の盾をミントの魔法が消し飛ばした。今、アクアスフィアは丸腰。これで終わりだとばかりに修復途中の箇所に向かって剣を突き出せば根元まで入り込む。だが……。

 

「くっ! 断ち切れない!」

 

 それ以上は動かせない。切り下ろそうとするも刃が動かず、引き抜こうと力を込めても同様だ。焦る俺の襟首ミントが引っ張り、咄嗟に剣を指輪に戻して下がればアクアスフィアから再び四つの水球が飛び出す。直ぐにその一部が傷に入り込み、アクアスフィアを癒やして行った。

 

「振り出しに戻る……って奴か?」

 

「本当に面倒な敵だけど……追加の生成が完了よ!」

 

 此処に来ての朗報。スピリッツランプの中には光の結晶が現れ、投げ渡されたそれを握り締めれば全身に軽い痺れる痛みと共に力が湧いて来る。ちょっと疲れてきたが勝負は此処からだ!

 

 

 

 

 

 時間は少し巻き戻り、俺達が立ち塞がるモンスターを倒しながら水中の道を進む道中。ミントがこんな事を言い出した。

 

「……ねぇ、アッシュ。命有っての物種よね? お金は正直言って惜しいけど、こんな事態じゃ文句は言っていられないわ」

 

 一応断って置くべきだと思ったんだろうな。俺の返事を聞くよりも早くミントはスピリッツランプから此処まで集めたエネルギーを解放した。うおっ!? 何やってんだよ、勿体ない! モンスターコアだって破壊したし、ギルドで物質化して貰えば結構な金額に……ん?

 

「……エナジーストーン?」

 

「そうよ。ギルド職員専用のスピリッツランプで作ったのに比べれば純度は落ちるし、二回に分けて作る必要が有るけれど、このピンチを乗り切るには必要よ」

 

 スピリッツランプの中には普段はギルドでしか見ないエネルギーの結晶体が入っていた。普段は回収したエネルギーを物質化して提出する時に生成される物だが、言われてみれば少し濁った色だな。

 

 だが、間違い無い。これは回収したエネルギーを人体に吸収可能な状態にした物体であるエナジーストーンだ。

 

「分かってると思うけれど、最近漸く(バベル)に入るのを許可された私達は弱いわ。吸収したエネルギーだって少ない。本当ならギルドで生成して貰ったらこれの三割り増しの力が得られたんだけれど……」

 

「だったら後ろの奴と立ち塞がる連中のエネルギーを提出すれば良いだけじゃね? 未知のモンスターだ。何か期待出来そうじゃん」

 

「……はあ。アンタの脳天気さが偶に羨ましくなるわね。まあ、良いわ。今は少しでも力を付けて、あのモンスターを倒して帰るわよ! 此処まで来たら時間経過で中途半端な終わりだなんて耐えられない。……残りの生成には少し時間が掛かるわ。サポートを最低限にして集中するから頼んだわよ?」

 

「了解了解! 俺が全部ぶっ倒してやるよ!」

 

 こうして即席の方法で力を得た俺達は昨日までなら負けていたであろうモンスターを薙ぎ倒して進み、アクアスフィアとも苦戦しながらも戦えていた。本当にミントには感謝だな。思い付きで動く俺とは違う。短時間でしっかり考えてくれるんだもんよ。

 

 

「これで更に俺達は強くなった。一気に終わらせてやるぜ、アクアスフィア! お前を英雄になる為の踏み台にしてやるぜ!」

 

「調子に乗らない! 相手も何か様子が変わったわよ!」

 

 一気に力が上昇した高揚感と戦いのテンションが合わさって一気に燃え上がり、横からミントに釘を刺される。ったく、うっせぇな。分かってるけど別に良いじゃん。……何かミントにラッキースケベが発動しない理由が分かった気がする。ガミガミ叱ってくる母親みたいなんだよ。ルノア姉ちゃんとミントのどっちが保護者か分からないって時が多いしさ。

 

「ミント、実は三十路?」

 

「集中せずに余計な事を言い続けるなら、アンタの引きちぎってすり潰して犬に食わせるわよ?」

 

「集中して行こうぜ! 向こうも本気で来たしな!」

 

 見ればアクアスフィアの周囲を舞う水球が四つから六つへと変わっている。それぞれ二つずつ盾と槍に変わり、残りの二つは筒状の何かに変わる。……まさか。

 

「大……砲……?」

 

「っ! アイスウォール!」

 

 俺の呟きに対し、正解だと言わんばかりに水の砲撃が放たれる。ミントが咄嗟に張った氷の壁は一撃目でひび割れ、二撃目で半壊。最後に槍が崩れ始めた氷壁を貫いて向かって来た。咄嗟に剣で防ぐも数歩ばかりの距離を後退させられ、再び砲口が俺達の方を向く。

 

「避けろ!」

 

 今度は二つの砲門から同時に砲撃。咄嗟に左右に分かれたんだが、槍は既に俺達に向かって来ていた。

 

「ちっ!」

 

 これは分断させられたんだと理解しながら槍を弾き飛ばそうとし、剣は空を切る。剣が迫った瞬間に水の槍は普通の水に戻ったんだ。力を込めて繰り出した一撃が空振りになってバランスを崩した俺が目にしたのは俺の方を向く砲門。避ける動作を取る間もなく水の砲撃が俺に襲い掛かった。

 

 その一撃で防具は破壊され、俺は壁に叩きつけられる。剣を手放さなかっただけ自分を誉めてやりたい気分だ。だが、今は余裕ぶってる場合じゃねぇよな。何せ床に散らばった水が槍に戻って俺に迫ってるんだからよ。既に至近距離まで迫った槍を剣で弾く余裕は無い。咄嗟に身を捩らせて直撃を避けたが脇腹を切り裂かれた。焼け付くみたいな激痛が走り、悲鳴を上げるのを咄嗟に堪える。だが、今度は二つの砲門が俺に向けられ、槍と同時に放たれた。

 

 

 

 

 

「ファイヤーボール!!」

 

 思わず目を瞑るよりも前に視界に飛び込んだのは間に割って入ったミントの背中。砲撃と槍が手を伸ばせば触れる距離まで迫った段階で放たれた火球は着弾と同時に弾けて熱と衝撃を撒き散らす。それによって水の砲弾と槍は消え失せ、ミントは俺の隣まで吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。

 

「ヒー……リング……。後は、任せ……」

 

 ミントが気を失う寸前、俺に使った回復魔法によって痛みが消え失せる。そのまま意識を失い倒れ込むミント。アクアスフィアは今度は全ての水球を大砲に変え、今にも放とうとしていた。

 

「……任せとけ」

 

 ミントを背中に庇うようにして俺は走り出す。既に脱落した相手よりも動いている相手を優先するのか砲口が向いているのは俺だ。剣より伝わる熱は既に気のせいじゃないと分かる段階まで上昇し、一つの言葉が俺の頭に流れ込む。

 

 その言葉を叫べと剣から語り掛けて来た気がした。

 

 

 

「レヴァティン!!」

 

 剣から噴き出るのは紅蓮の炎。幼い頃の記憶に残る父さんが使っていた時の魔剣の姿が俺の手の中にあった。部屋の中を炎が熱し、急激に室温が上昇する。俺の頬から一筋の汗が流れ落ちた時、アクアスフィアは一斉に砲撃を放ち俺はレヴァティンを振るう。決着は一瞬だ。魔剣から噴き出す炎は炎の刃へと変わり、砲撃もアクアスフィアも纏めて切り裂いて焼き尽くした。

 

「勝っ……た……? ん? あれはまさか……」が」

 

 途轍もない疲労感と共に倒れそうになるのをレーヴァティンで何とか防ぐ。刃の炎は消え失せ、アクアスフィアが光の粒子になった時、秘宝らしき箱が目の前に現れたんだ。

 

「あれがボスドロップって奴か?」

 

 ルノア姉ちゃんから聞いたんだが、(バベル)内部で特定の場所を守るように存在するモンスターを倒した時、低確率で普通より上等な秘宝が手に入るらしい。欲張った馬鹿が狙って死なないように探索団のランクが一定以上じゃないと開示されないようにギルドが規制してる情報で、本当は俺達に話したら駄目らしいんだけどな。

 

 まあ、ボロボロだしリターンチャイムを見れば数分で強制帰還が発動する頃合いだ。ミントが気絶しているからエネルギーの回収は無理だし、頑張ったご褒美に秘宝だけでも持って帰ろうとした時だった。本来ならギルド職員のみ伝授される魔法によってしか開けられない箱が自動で開いたのは。

 

 

 

「……ふむ。まさか此処まで未熟者だとはな。それに何か違う気もするが……別に良かろう。喜べ、主よ。お前の望みを叶えてやろうではないか」

 

 そしてなかからあらわれたのは……威風堂々と立つ全裸の美少女だった。

 

「……は?」

 

「聞こえなかったのか? お前の望みを叶えてやると言ったのだ。ああ、それとも……見た目通りに貴様の頭は空か」

 

 既に立っているのも辛く、倒れまいと剣を杖にして床に膝を付く俺の前には傲岸不遜な態度の少女が立っている。太陽と月を思わせる金の髪と銀の瞳は吸い込まれるように美しく、恥じる様子すら見せずに晒された一糸纏わぬ裸体は芸術品とさえ感じた程だ。

 

「お、俺の望み……」

 

「ああ、そうだ。先程の戦いは……いや、お遊びの一部始終はずっと見ていたぞ。いやぁ、あれが喜劇という奴か。笑わせて貰ったぞ。あの程度で英雄になるとほざくのだからなぁ」

 

 少女は俺の顎に人差し指を当てて軽く持ち上げる。そのまま息が掛かる程の近距離で見詰める瞳は吸い込まれそうで、侮辱への怒りが湧いて来ない。何時もの俺なら仲間との口喧嘩で直ぐに熱くなるのにだ。

 

「もう一度だけ言ってやる。私に手を貸せ。そうすれば貴様は世界を救う英雄にしてやると約束しようじゃないか」

 

「お、お前は一体……」

 

 そうだ。本当に此奴は何者だよ!? 秘宝の箱から出て来たし、訳の分からない事ばっかり言ってきて、頭が変になりそうだ。

 

 

「……ああ、人は自己紹介をするのであったな。私の名はハティ。月の塔喰らい(バベルイーター)だ」

 

 ハティが名乗った物の意味、そして脳裏を過ぎったスコルの言葉の意味。それを知るのはもう少し後の話。言えるのは二つ。俺の運命はこの時から大きく動き出したって事だ。

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。遊び疲れている所悪いのだが、私を好きになる為に今すぐ抱け」

 

「何でだよ!?」

 

「いや、男とは一度手を出した相手に夢中になる物だろう?」

 

 もう一つ言える事。それは此奴が世間知らずの痴女だって事だ……。

 




メインヒロイン? 登場です!

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