伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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誘惑と癒やし

 (バベル)には常に未知が潜んでいる。連中は常に息を潜めて牙を研ぎ、既知の場所だと気を緩めた獲物の首筋に噛み付いて来る。それは俺達探索者が常に心に留めるべき言葉だ。だが、だがな……。

 

「ほら、どうした? まさか男色な訳でもあるまい? 心音が高なるのを感じているからな。年頃の男なのだし、滾る欲望をぶつければ良い。私が全て受け入れてやろう」

 

 未知のエリアを進んだ先で倒した未知のモンスターを倒したら裸の美少女が現れて誘惑して来るだなんて予想外にも程があるだろ!? ハティと名乗った女は俺の首に手を回し、少し顔を動かせば唇が触れ合う距離で不敵に笑う。鼻孔を甘い匂いが擽り、服の上から押し付けられる胸の感触は強い弾力があった。

 

 ハティの言葉は全くの的外れ……てな訳じゃない。俺だって年頃だし、娼館とかに興味が無いって言ったら嘘になるな。ラッキースケベの呪いのせいで顔が知られているから行けないんだが。

 

 ルノア姉ちゃんやミントに一切色気を感じないから耐えられているが、それでも溜まる物が有る。そして今は戦闘の高揚感が収まってない状態だ。視線を下に向ければ胸の谷間が至近距離に。思わず唾を飲み込み慌てて視線を逸らす。

 

「耐えろ。耐えるんだ、アッシュ!」

 

「……アッシュ? 一体これは……」

 

「……うん?」

 

 何だか様子が変だな。ハティはまるで俺が別の名前だと思っていたみたいだ。口元に手を当てて何やら考えている。うん、流石に離れるか。ずっとこの状態ってのも落ち着かないとハティから離れようとしたんだが足元がふらついて前のめりに倒れ込む。どうやら思った以上に俺は限界らしく、何時もの呪いが発動したって事だ。

 

「うぷっ!」

 

「おやおや、乗り気ではないか。私の気が逸れた途端にこれとはな。さては一方的に攻める方が好みだったか?」

 

 俺は顔面からハティの胸に突っ込んでそのまま押し倒す。不意を打たれて倒れ込んだのかビックリした様子だったが直ぐに俺の頭を抱き締めて更に強く胸に押し付けた。正直言って息がしにくい。その上スベスベの肌が顔面に押し付けられてどうにかなっちまいそうだった。

 

「さてと。私はどうすれば良い? 嫌がったり恥ずかしがったりする演技を所望するなら構わんぞ? 大袈裟に反応してやっても……あっ、悪い。窒息する所だったか」

 

「ぷはっ! こ、殺す気か!」

 

 ハティの腕の力が緩んだ事で俺は顔を上げて息を吸い込めた。寸前まで顔を埋めていた双丘を極力見ないようにしながら文句を言うがハティは誘惑するような笑みを浮かべたまま俺の頬に手を当てる。

 

「悩殺する気ではあるな。貴様に死なれたら困るから殺しはしないが」

 

 駄目だ、話が通じない。大体、此奴は俺に自分を好きにならせるって言ったが一体何が目的だ? それに秘宝の入っている筈の箱から出て来たし。せんが

 

「だからお前は一体何者なんだよ!? 秘宝の代わりに出て来たし、塔喰らい(バベルイーター)とか聞いた事の無いし……」

 

「……どうやら一から説明が必要な様子だな。まあ、良いだろう。今夜、ベッドの中で絡み合いながら教えてやろう。……これは手付けだ」

 

 疑問を投げ掛ける俺に少し呆れた様子のハティはそのまま両手で俺の頬を挟み、引き寄せて唇を重ねた。生まれて初めての口付けに俺の頭の中が真っ白になり、口の中で何かが動くも何か分からない。唇を重ねる事数秒。漸く離したハティは唾液の糸を指で絡め取って口に運び、俺が瞬きをすると同時に消える。……幻? いや、確かに顔にも唇にも感触が残って……。

 

「って、ミント!」

 

「呼んだ? ったく、派手にやられたわね。こりゃ明日は全身打ち身で動けないかも。その場合は炊事当番代わりなさいよ? ぶん投げた事はそれでチャラにしてあげる」

 

 ハティに気を取られていて気が付かなかったが、アクアスフィアから放出された光の粒子は部屋全体漂い、一カ所に向かって集まって行っている。どうやら喋る余裕は有るのか少し痛そうにしながらもエネルギーの回収をしつつ悪態を付いていた。こりゃ大丈夫だな。

 

「……えっと、もしかして全部見てたのか?」

 

 密度が濃いのか結構な勢いで吸い込んでいるのに少しずつ薄くなるだけだし、多分目が覚めたのは少し前だ。つまり俺が全裸のハティに抱き付かれた上に呪いが発動して胸に顔を埋めながら押し倒した姿も見られてるって事で、下手すりゃゴミを見る目を向けられるぞ……。

 

「どうせあの女を押し倒した事で軽蔑されると思ってるんでしょ? 安心なさい。アンタがアクアスフィアを両断した辺りから朦朧としてたけれど意識は戻ってたし、普段は気を抜いて呪いが発動する事に怒るけれど、今回は大目に見て良い案件でしょ。あんな事態が起きたんじゃね。……それで感触の方はどうなの?」

 

「……悪くは無かった。息苦しかったけど顔に押し付けられて感じた匂いは良かったし、感触だって気持ち……って、何を言わせるんだよ!?」

 

 さっきは事態について行けなかったが、落ち着いて考えると誤ってご褒美的な事だとも言えるよな。態度は大きかったし変人だったけれど美人だったし、男として悪い気はしなかった。だから聞かれるがままに感想を述べたんだが……何かやらかしたっぽいな、おい。ミントの目が明らかに変わったぞ。

 

「いや、魔剣の力を解放してたから、今後も使えそうかって感じの意味で聞いたんだけれど? ……女の私に猥談仕掛けるとか引くわ」

 

「……だよな。うん、さっきは勢いで使えたけれど、次は練習次第って所だな」

 

 この時、俺に向けられたのはゴミを見るような軽蔑の眼差しだった……。偶にミントが女だって忘れるんだよな、俺。

 

 

 

「矢っ張りぶん投げた事をチャラにするの無しね」

 

 心を読まれた!? 俺が唖然とする中、ミントは光の粒子を回収し終える。随分と時間が掛かったし、無駄にした分は取り戻せたか? 少し上機嫌になったし、俺がひとまず安心すると丁度のタイミングでリターンチャイムから鐘の音が鳴る。

 

「終わった後で良かったな……」

 

 これで回収途中だったら逆に不機嫌になる所だったぜ。それにしても今日は疲れた。出来ればギルドに向かうのは明日にしたいな。安心したせいか疲れが押し寄せる。今直ぐにでもベッドに入りたい気分だ。

 

「なあ、ギルドに行くのは明日にしようぜ……」

 

「賛成ね。隠しエリアだの未発見だったモンスターだの……あの女だの、報告に時間が掛かるのは間違い無いわ。姉さんだったらハティに関する事に心当たりが有るだろうし教えて貰いましょう」

 

 ミントも俺と同様に疲れ切った顔で賛同するし、今日は飯食ったら直ぐにベッドにダイブするんだ。これ以上疲れるイベントは勘弁して欲しいからな……。

 

「まあ、流石にこれ以上面倒な事は……うぇ!」

 

 忘れたいけれど思い出す。ハティの奴、今夜現れるみたいな事を言っていたよな。しかも行為に及ぶ気満々な感じで。未だかつてない貞操の危機に精神的な疲れが押し寄せる。只、卒業する事への興味が無い訳じゃないんだ。唇に指先で触れればファーストキスの感触を思い出すし、あの口の中に入って来たのって……。

 

 

 

「……ロザリーに知られたらどうなるでしょうね。嫉妬から襲われちゃうんじゃないの? だから前から言ってたのよ。さっさと押し倒しちゃいなさいって」

 

「うん? 俺、言われた事無いぞ?」

 

「アンタじゃなくてロザリーに言ったのよ。でも、アンタから求められたいんだって」

 

 思わず地面に手を付いて膝を折る中、俺達は街中へと転移する。丁度買い物客でごった返す時間帯で通行人が多い中、待ち伏せでもしていたように目の前にスコルが立っていた。……今日はメイド服か。

 

「ハティに会えたのは嬉しい。頑張って」

 

「お、おい! 彼奴の事を詳しく教えて……」

 

 言いたい事だけ言って去るスコルを止めようと手を伸ばした俺だが、その手はスコルじゃなくて間を通ろうとしたキュアさんの胸を鷲掴みにしていた。小振りながら形が良く、持ち主は相変わらずの無表情で俺を見る。

 

 

「非番だったのに担当の方と会うとは思いませんでした。所で街中で気を抜かない方が宜しいですよ?」

 

「……今はその反応が癒されるな」

 

 今夜の面倒事を考えると本当にこの薄い反応が俺の心の癒やしになっていた。ミントに指摘されるまでキュアさんの胸を掴んだままなのを忘れていた程にな……。

 

 

 




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