伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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助けを呼べば現れる

 テーブルの上に敷き詰められた料理の山。エナジーストーンによって大幅に強くなった上に激闘を行った体は栄養を求めている。つまりは大食いの時間って訳だ。ギルドに行ってないから職員が残業して計算してくれた未換金分もアクアスフィアのエネルギーの分のミョルも貰えてないから自炊なのが残念だけどな。

 

「にしてもざく切り野菜のサラダに炒め物とかの簡単なのばっかり。……ニーナ姉さん(ちゃんとした方の姉さん)に頼り切っていたものね。流石に結婚した後まで私達の家事を任せられないし……」

 

「料理教室とかは……通う暇はないか」

 

 俺達三人共料理って出来ない事も無いけれど別段上手な訳じゃない。まあ、ザッと作ってバッと盛るお手軽料理だな。美味しいとは思うんだがレパートリーが少ないってのは致命的だよな。食事の楽しみは大事だよ、マジで。

 

「まあ、ウチは肉に酒さえあれば別に構わへんよ? てな訳でミントちゃん、酒豪の徳利を持って来てや。今日は何と熟成した高級ワインやし、ソースに使うだけってのも勿体無いやろ?」

 

「……はぁ? 昨日酔い潰れて床を酒で満たしてたのは何処の誰だったかしら? 未だお酒臭いんだけれど、その酒臭さで禁酒期間の事を忘れたのかしら?」

 

「いえ、忘れとらんで!? 冗談やて、冗談!」

 

「言っとくけど禁酒期間は冗談にはならないから」

 

 分厚い肉にフォークを刺し、もう片方の手でお猪口で酒を飲む仕草をするルノア姉ちゃんにミントの冷たい視線が突き刺さる。一切の抑揚の無い声は怒ってるのを嫌でも感じさせるし、俺は巻き込まれないように黙っておこう。ルノア姉ちゃんは完全にビビった顔で飯を食い始めたし、本当にどっちが保護者か分からないよな。

 

 俺は巻き込まれなかった事にホッとしながらも食事を始めたんだが、ある程度食って落ち着いた頃、ルノア姉ちゃんの表情が切り替わる。自堕落で情けない駄目人間から俺が憧れていた頃の表情、元Aランク探索団の若手ナンバーワンへと一瞬で変貌した。俺とミントも直ぐに空気を切り替える。それを確かめた後、ルノア姉ちゃんの口がゆっくりと開いた。

 

「……さて、飯を食いながら仕事について話すのもあれやけれど、探索者ってのは危険な場所で飯食いながら計画について話すもんや。未発見エリアの事、詳しく話して貰おうか?」

 

「そうね。じゃあ、私が話すわ。先ずは進入の許可が出たエリアで起きた事だけれど……」

 

 何時の間にかルノア姉ちゃんの手にはペンが握られ、ミントの話す内容を書き留めて行く。そうか、聞き取り自体は俺達にもされるだろうけれど、何だかんだ言ってもギルドとの細かい申請報告や交渉は団長の仕事なんだ。……小さい頃、俺はルノア姉ちゃんを心が折れたと認識して失望していた。でも、今こうやって俺達を支えてくれているのはそのルノア姉ちゃんだ。……本当は出来たら一緒に探索したいんだけどな。鍛えて貰った成果を実戦で披露したいぜ。

 

 

「未発見エリアの発見に新種のモンスターとの戦い……ギルドへの報告書の作成が面倒やなぁ。なあ、ミント。姉ちゃん仕事頑張るから禁酒期間減らしてくれへん?」

 

 その数秒後、ルノア姉ちゃんは何時もの駄目人間に戻った。ハティと出会った事を話す前にこれだよ。相変わらず数分しか真面目に話せないんだから。……今の無しな。両手を合わして神に祈るポーズで実の妹を拝み倒す姿からはAランク探索団の若手ナンバーワンだった頃の面影は欠片も無い。俺、外に食いに行く金が無いから家で食うのがこれだけ嬉しかったのは初めてだ

 

「駄目。実際に遭遇した私達から聞き取りをして報告書に纏めるのは団長の役目でしょ! それと禁酒期間の短縮は聞き入れられないわ。って言うか昨日やらかしたから一週間禁酒にしたんじゃないの」

 

「いーやーやー! 飲ーみーたーいー! 酒はウチにとって命の源なんやで!?」

 

 もう三十近いってのに涙目になって手足をバタバタさせるルノア姉ちゃん。何時ものパターンでこの後は床を転げ回るまでがワンセット。あっ、始まった。エナジーストーンによってエネルギーを大量に吸収した影響か見た目よりずっと若いけれど見苦しいにも程が有るぜ。

 

「……神、か」

 

 確かアポロンを含めて何体か神を自称する連中だって居るし、最近じゃ変な教団が台頭してるんだっけか? 各地で活動してはパンダーラが熱心に潰してるって噂だけどよ。こうやって他の事を考えてたら余計な事を気にしなくて楽になるし、教団は興味が無い連中だけれど今は感謝をしている自分に気が付いた。

 

 この世の中って見たくない物が沢山有るんだよなぁ、例えば尊敬していた相手が駄々を捏ねる姿とかさ……。

 

「駄目よ。水でも飲んでなさい」

 

「……ルノア姉ちゃん、歳を考えてくれよ」

 

 だからミントは冷たい視線を実の姉に向けたし、鏡に映った俺の目は何処か遠くを見る目だった。

 

 

 

「ワーイーンー! 一杯! 一杯だけやからお願い!」

 

「それにしてもハティが名乗っていた塔喰らい(バベルイーター)って一体何だったのかしら?」

 

「ああ、そういやハティの奴が自分を月の塔喰らい(バベルイーター)って名乗ってたよな。……今思い返せばスコルの奴も同じのを名乗ろうとしてたんだよな。リゼリクが止めたから最後まで聞けなかったから合ってるかどうか分からないけどよ」

 

 床をゴロゴロと転がる姿に俺達は直視するのを止め、俺達だけで会話を続ける。だが、ルノア姉ちゃんの放つ空気は又しても昔に戻ったんだ。……いや、違う。何処か怯えが見える。ミントにビビってる時の情けない怯え方じゃなく、何か苦い思い出が蘇ったような。

 

「……おい、その話詳しく聞かせろや」

 

「あ、ああ……。アクアスフィアを倒した後で秘宝の箱が出て来たんだけど、其処から全裸の女が現れてよ……」

 

「アッシュ、願望を語るのは今度にしろや。今は真面目に話す時や」

 

 俺、本当の事を話してるのにルノア姉ちゃんは軽い怒りさえ滲ませている声だ。……だよな。俺もリゼリクが全裸の幼女が秘宝の代わりに現れたとか言い出したら妄想だって思うもんな。だが、俺にはミントが居る。一緒に探索する仲間なら俺がエロ妄想垂れ流すスケベ野郎じゃないって保証してくれる筈だ。

 

「ミント、話が進まないから証言してくれ」

 

「ええ、見たわ。詳しい話は本人がしてくれるんじゃない? アンタがハティの胸に顔を埋めながら押し倒した後、夜這いに行った時に話すって言ってたもの」

 

「……うわぁ。アッシュは相変わらずやなぁ。幾ら呪いでもその内捕まるんちゃう? まあ、邪魔はせんから頑張れや」

 

「ニンニクとか精の付く物でも買って来ようか? 肝心の時に役に立たなかったら怒って教えてくれないんじゃない?」

 

「有りそうやな。実際、ウチ達の両親が恋人だった頃に盛り上がって事に及ぼうとしたんやけど、親父の緊張のせいでてんで役に立たなかったせいで一時期破局寸前だったとか。……死んだ皆の遺族に出来るだけ渡したかったからギルドに売った精力増強の秘宝が無けりゃウチは仕込めんかったやろうな。死んだ皆の遺族へ沢山補償金払いたかったからギルドに売ったのは失敗やったわ」

 

「まあ、アッシュは単純だから緊張とか無いんじゃないの? ラッキースケベの連発はあっても経験はゼロだから下手くそで怒らせる事は有るかもね」

 

 男よりも女の方が下ネタがえげつないって聞いたけどマジだったのか……。てか、ミント達の両親ってできちゃった結婚だったんだな。

 

 

 

 

「……そして夜が来た訳だが来ないな」

 

 あの後、俺は寝室に押し込まれてハティを待たされていた。ルノア姉ちゃんは何処で塔喰らい(バベルイーター)って言葉を聞いたのか教えてくれなかったし、モヤモヤしながら天井を見上げる。一向に現れる気配の無いハティに思わず呟いた。いや、待ちわびてる訳じゃないんだぜ? ちょっと期待してるけど。

 

 でも、こんな形で経験するのもな。俺にはニーナ姉ちゃんという初恋の相手が……そのニーナ姉ちゃんは結婚して子供も居るから初恋は完全に破れたけどよ。

 

「いや、情報収集の為だし、大義名分は有る!」

 

「ほほう。童貞だから怯えて逃げ出すかもやと思っていたが随分とやる気が有って結構だ……因みに私は処女だが知識が有るから安心しろ」

 

 決意を込めて拳を握った時、不意に耳に息が吹きかけられる。横を見ればベッドの端に座って月明かりを浴びるハティの姿があった。完全に獲物を見る目を俺に向け、舌なめずりをしている。

 

 

「……何処から来た?」

 

「私は常に貴様と共に居る。それだけだ。……さて、会話は事が終わった後にして存分に楽しもうではないか」

 

 こ、怖いっ! 漂う色香に酔ってしまいそうだが同時に恐怖も感じる。誰か……誰か助けてくれ!

 

 

 

 

 

「……その人、誰?」

 

 どうやら願いは叶ったらしい。新しいトラブルを引き連れて。……俺の濡れ場にロザリー参上。

 

 

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