伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

19 / 56
仮面フードとチャイナドレス

 早朝から玄関の前で聞こえて来た喧騒。何だと思って外に出てみれば大勢のフードを被った仮面の女達が変わった格好の女と乱闘していた。白い艶々の仮面で顔の上を隠した奇妙な連中は手に武器を構えて糸目でシニョンの二十位の女を襲い、どう見ても尋常な状況じゃ無い。

 

「ホアッチャー! セイ! ハイ! ハーイ!」

 

 だが、襲われてる方は素人じゃねぇな。掛け声と共に鋭い打撃技が襲撃者達を宙に舞わせ、反対に振るわれる刃は掠りもしない。ありゃ何らかの武術だ。喧嘩だってんなら止める気だったし、襲われてるんなら助太刀する気だった俺だが、女が繰り出す華麗な動きに魅入っていた。

 

 繰り出される拳や蹴りを淡い光が包み込み、多分あれが威力を高めてる。おっ! 打撃技以外も使えるのか。突き出された槍を飛んで避けた女は軽快な動きで槍の柄を踏み台に飛び掛かり、相手の顔を太股で挟んで締め上げる。そのままバク宙、勢いを付けて地面に叩き付けた。

 

「にしてもエロい服だな。胸は普通だが下半身が……」

 

 打撃音が響く中、俺の視線は女の服装に注がれていた。確か母さんが父さんに頼まれて着ていた東方の国の服でチャイナドレス。真っ赤な生地には所々にパンダのワンポイント。体に張り付くようなデザインだから腰回りの曲線が丸分かりだ。しかも丈が長いけど深いスリットが入ってるから蹴りが繰り出し易いし、生足が丸見えな上に……。

 

「今、ピンクの布がチラッと見えたよな……。ん? アレは……マジかっ!?」

 

 このままフード連中が全滅して終わりかと思った時、ずっと後ろに控えて出て来なかった奴が動き出した。手にしたのは先端に蛇の頭の飾りが付いた長い鎖。俺はその鎖を知っている。

 

「秘宝・猛蛇の鎖(もうじゃのくさり)。おいおい、秘宝の扱いはギルドによって制限されてる筈だろ! って、そんな事を言ってる場合じゃ無い」

 

「……行け」

 

 フードの女の手から滑り落ちた鎖は音も無く地面を這い、戦いに熱中している女に忍び寄った。

 

「それじゃあ行くアル! 熊猫拳奥義! タイヤ遊びの……」

 

「避けろ!」

 

 背後から首に巻き付こうとする猛蛇の鎖に気付かない女の腕を掴んで引き寄せれば、鎖は正面に居た別のフード女の体に巻き付いた。

 

「ぬぅ! 誰か知らないけれど助かったネ! あっ、私はシォンマオだヨ」

 

「礼には及ばないけどよ……この連中何者だ? 俺はアッシュだ」

 

 シォンマオと俺達は背中合わせにフード女連中と向かい合う。結構な数が倒れているが、それでも結構な数が殺気丸出しで俺達を囲んでいた。ったく、街中で武器を構えて秘宝まで持ち出して、一体何が目的なんだ? まあ、襲われていたシォンマオが知ってるか。

 

「知らないアルよ。この連中、急に悪しき獣を崇拝するとか言って襲って来たネ! 私はパンダが好きなだけなのに意味不明アル!」

 

 ……悪しき獣? パンダが? 確かに此奴はパンダのワンポイントをチャイナドレスに着けてるけど、そんな理由で襲って来たのか? いやいや、流石に……。

 

 

「真なる神の降臨を阻害する悪しき獣を賛美する愚者め。我々が浄化してやる! 邪魔者の貴様もだ!」

 

「マジかっ!? んな理由で秘宝まで使って……」

 

「……退くぞ。厄介な奴が出て来た」

 

 どうやら俺まで狙われる事になったらしい。ったく、朝っぱらからアンラッキーだな。だが、売られた喧嘩なら存分に買ってやるよ。……あっ、指輪外したままだ。これは少し不味いか? 俺、素手での戦いはそれ程得意って訳じゃないんだよな。

 

 だが、秘宝を使ったリーダー格らしい女の指示が飛んだ途端、他の連中も倒れた仲間を担ぐと一斉に背中を向けて退散を始めた。路地裏に逃げ込むのや屋根から屋根に飛び移る奴。って、このまま逃がすのも問題だな。ちょいと話を聞き出さないと……。

 

「逃がすかっ!」

 

 ふん捕まえて情報を吐かせようと走り出す俺だが、不意に投げつけられた空の酒瓶をキャッチした事で動きが止まった。

 

「追わんで良いわ。あの偉そうな奴、今のお前より格上やからな」

 

「ルノア姉ちゃん、起きてたのか?」

 

「そりゃ大騒ぎやったし、起きるわ。酒も入ってなかったしな。にしても只の喧嘩なら止めずに放置するんやけど……連中は流石に放置って訳には行かんか」

 

 瓶が来た方を見上げれば二階の窓から寝ぼけ眼のルノア姉ちゃんがこっちを見ている。あの女もルノア姉ちゃんなら少し不味いと思って退散したのか。つまりは俺なら大丈夫だって判断されたんだな。ん? 今の口振りからして連中について何か知ってるみたいだな。

 

「なあ、ルノア姉ちゃん。連中は一体……」

 

「ん? ああ、説明は後や。ちぃっと遅れたけど、相変わらず仕事が早いわ。ほら、追わんで良いって言ったやろ」

 

 ルノア姉ちゃんが顔を向けた方を俺も見ればギルド職員がこっちに向かって来ている。遠くから争う音が聞こえるし、屋根の上で暴れてるフード女連中の姿も遠目で確認出来た。おいおい、俺が騒ぎに気が付いて数分だってのにギルド職員はもう察知して人員を送って来たのかよ。あっ、キュアさんも居る。

 

「リーダー格には逃げられましたか。追跡部隊の派遣は……済んでますね」

 

「ぐっ! 神に仇をなす愚者の元締め共が! 我々の手で……ぐぇっ!?」

 

 縛られて尚、フードの女は喚き散らしていたんだがキュアさんの拳を腹に喰らって黙り込む。いや、気絶したんだな。

 

「流石ギルドで働いているだけの事はあるネ。是非パンダ老師から伝授された私の熊猫拳と比べあってみたいアル!」

 

 シォンマオはワクワクした様子だが、俺はガクガク震えたい。いや、確かに強いのは分かっていた。何せギルド職員の仕事は仕事だったからな。でも、今の拳、殆ど見えなかったぞ。

 

「呪いのせいだからと許して貰ってるが、俺もアレを喰らってたかもって事か……」

 

「……はあ。今日は残業確定ですね。半休の筈だったのですが。……失敬。ワルキューレ達との戦いについて詳しいお話をお聞かせ願えますか? 朝食が未だでしたらギルドでお出ししますのでご同行下さい」

 

 俺がキュアさんの前では常に気を張ってラッキースケベの発生に備える事を心に誓う中、キュアさんの顔に僅かだけれど憂鬱の色が浮かぶ。普段は無表情で感情を動かさないキュアさんだが、こうして残業が関わるとあからさまに顔に出るんだ。それでも直ぐに何時もの仕事モードに入る辺りが流石なんだが……隠しエリアについて話さなくちゃ駄目なんだよな、今日は。

 

「……ワルキューレ? それが連中の名前か。……あれ? 何処かで聞いた覚えが……あっ!」

 

 そういえば昨日の晩に少し思い出した連中がそんな風に名乗って活動してたんだったな。確か……何だっけ?

 

真神降臨教団(まじんこうりんきょうだん)ワルキューレ。Sランク……一部を除いてやけど、(バベル)で存在が確認されている神を自称するボスモンスターを崇めるイかれた連中や。パンダーラが支部を偶に潰してるから相当弱体化しとるらしいがな」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で教えてくれるルノア姉ちゃん。俺はその例外を知っている。何せナインテイルフォックスを壊滅に追いやったアポロンもその神を名乗るボスモンスター、通称擬神(ぎしん)の一体だったんだから……。

 

「あっ、そうだ。キュアさん、昨日報告しなかったけど……」

 

「明日では駄目でしょうか? ……いえ、報告事項が他の探索者の安全に関わる可能性が有る以上は早期の聴取が望ましい。残業代と代休を頂く事で妥協しましょう」

 

「お、おう。大変だな」

 

「いえ、仕事ですから。……ですが、本日ばかりは呪いの発動にご注意を。少々気が高ぶっていますので」

 

 俺は無言で激しく頷く。……下手すりゃ重傷だと俺の勘が激しく伝えていたんだ。

 

 

 

 

 

 

「……それでお前まで付いて来たのは何故だよ、スコル?」

 

 取りあえずパジャマを着替えてギルドに俺は向かう。……何故かスコルをオマケにしてだ。

 

「アッシュはうっかりだから話すなら担当にも……ってリゼリクが言ってた。ハティと我について話す。我とハティの姉妹と(バベル)の真実についてアッシュは知っておくべき。神に決められ、ねじ曲げられた運命は動き出した。……でも、一つ心配が有る」

 

 急に立ち止まって告げるスコルだが、最後は心配そうに俯いて、余程深刻な事だってのを暗に告げた。

 

「ちょ、ちょっと待て! 未だ分かってない事ばかりだってのに、これ以上何が有るって言うんだっ!?」

 

 謎の存在であるハティとスコルや、二人が名乗った塔喰らい(バベルイーター)って名前。その上、真実だの運命だの俺の理解は追い付かない。おいおい、こう言うのはミントの役目なんだよ。頭脳労働と肉体労働は分けてくれないと困るんだよ。

 

 俺の問いかけに対し、スコルは僅かに困り顔らしい表情をしながら前を指さす。キュアさん? あの人に関係有るのか? いや、もしかしたらギルド全体に関わる重要な内容かも……。

 

 

 

 

 

「話すのちょっと面倒な内容。多分あの女の残業時間が凄く延びる。ちょっと哀れ」

 

「そっちかよ!?」

 

 

 

 

 




感想募集中
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。