伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
「おい、彼奴って……」
「ラッキースケベのアッシュがあんな小さい子と一緒に……まさかっ!」
……おい、まさか、何だ? 俺の姿を見るなりコソコソ話が聞こえ、しかも不愉快な内容だ。好きで胸を揉んだり胸に顔面から突っ込んだりしてるんじゃないってのによ。呪いのせいだってのは周知だし、それは不本意な二つ名からして分かっている。だが、それでも向けられる視線は厳しい。野郎連中は嫉妬混じりで、女からは完全に嫌われている視線だった。
「ったく、何奴も此奴も朝っぱらから仕事熱心な事だぜ」
朝っぱらだというのにギルドには大勢の探索者の姿がある。入った時間が遅くて夜遅くまで潜っていたからギルドが閉まっていたり、換金の為の集計に時間が掛かって朝受け取りに来たとかで日常的にこんなもんだ。ギルドもそれを見越して朝食が食べられるカフェを建物内でやってるし逞しい事だよ。
「ではシォンマオさんは彼方の部屋にお入り下さい。アッシュさんとパンダーラ所属の……お名前をお聞きしていませんでしたね」
「我、スコル。我の事、知ってた?」
そんな質問が出たのは探索者が担当職員に内密な相談をする際に使う相談室の前。ギルドの室内は制服と同じ白なんだが、此処だけ一部の壁が真っ黒だ。よく見れば拳の痕みたいなのが有るんだがデザインにしては変わってるよな?
「……パンダーラは嫌でも注目を集める探索団ですので。ええ、嫌でも。だから全ての支部に情報が周知されるのですよ」
「我等、注目されてる。えっへん」
小首を傾げて訊ねるスコルだが、確かにパンダーラの一員だって教えてないよな? っと思ったらキュアさんの説明で納得だ。そりゃ例外中の例外でSSランクに認定されてるんだし、細かい情報が伝わるよな。にしても嫌でもってのを強調したのが気になるな。
「なあ、パンダーラってそんなに注目浴びてるだよな。実際、噂って本当なのか?」
「業務外の事ですのでお答え致しかねます。それではお入り下さい」
俺の問いはバッサリと切り捨てられて、キュアさんは何時もの感情が一切動いていない顔で俺達を室内に誘う。今まで聞かれちゃ不味い相談事なんて無かったし、予約で一杯だから入った事は無かったが、一昨日入った応接室より少しランクは落ちるけれど結構豪華な内装だ。あっ、飾ってるのは盗聴防止の秘宝だな。
「んじゃあ、早速話すな。先ずは昨日の事からで良いよな? 新しいエリアに入れるようになったし、早速入ったんだが隠しエリアへの転移トラップに引っ掛かってさ」
「……失敬。ちょっと退室しますのでお待ち下さい。直ぐに戻ります。……決して扉を開けないで下さい」
無表情のまま立ち上がったキュアさんは部屋から出て行くんだが、すれ違った時に申請やら調査報告だの静かな声で呟いたし、最後に深夜残業って呟いた時には握り拳が震えていた。
「これは絶対に開けない方が良いよな。何で開けちゃ駄目なのかきになるけど」
「我は気になるから開ける」
「わっ!? ば、馬鹿、止めろ!」
一切の躊躇無く動いたスコルによって開けられる扉。俺は猛烈に嫌な予感がして止めようとしたんだが、僅かに開いた扉の隙間から聞こえたのは殴打音。感じたのは連続で起きる単発の揺れ。隙間から廊下を見ればキュアさんが無表情のまま拳を壁にめり込ませていた。さっきワルキューレの構成員に放ったのよりも速く重そうな一撃だ。
だが、気が付いている筈の他の職員が様子を見に来る気配は無いし、そもそも壁の拳痕の大きさはまちまちだ。……あの壁、それ専用なんだな。
「……俺は何も見なかった」
気が付かれない様にそっと扉を閉じて呟く。壁の痕の数からしてこれが最初じゃないだろうし、だったら俺より前にも目撃者は居たんだろうが、壁の痕の理由について誰も伝えていない。だから俺も先人達に倣って口を閉ざそう。うん、全部忘れちまおうっと。
「ギルド職員って激務だよな……」
探索団の取り締まりやら何かと五月蠅いギルドだけど、俺の知り合いの探索者にギルド自体を悪く言う奴は居ない。個人的に嫌いなギルド職員を悪く言う奴はそれなりに居る。まあ、権限が強いって事は責任も重いって事だ。俺だって感謝してるよ。……キュアさんはラッキースケベが起こっても怒らないしな。
「働くって大変。我、使命が終われば養われの身でグータラしたい」
「お前なぁ。そんなチビの内からそんなんでどうするんだよ。……てか、使命とか有るのか。SSランク探索団だと普通なのか?」
探索団ってのは色々だ。何処かの国じゃ騎士団に探索を行う部隊があるって聞くし、商人がバックに付いてるのも存在する。俺達みたいに
……まあ、スコルが何者かはそんなに重要じゃ無い。只、リゼリクが随分と惚れ込んでるみたいだから心配なんだよな。あのヘタレ、変な事に巻き込まれないよな?
「違う。割と自由で何も背負ってないのが多い。より辛い担々麺の研究に勤しんでるのとか、そんなのばっかり。我の使命は我等姉妹が祖父に頼まれた。全ての
「……完全破壊? 全世界の
どうやら無駄な心配だったみたいだな。リゼリクが心を許しているのも目標が同じだからだろ。モンスターコアを破壊すればモンスターが生成されないのと同じで、破壊すれば
そうして破壊された
要するに探索で得られる利益だとか、それを取り巻く連中とかの色々な利害を抜きにしても無理な話だと一笑される目標を掲げる同士って事だ。わざわざ格好良い異名まで考えて可愛いな、おい。
「まあ、お互い頑張ろうぜ。どっちが
相手は子供だが、同じ目標を持ってるんなら軽くは見られねえよな。俺はスコルに軽く拳を突き出すが、向こうはキョトンとした様子だ。……あれ? もしかして通じなかったのか? ミントには通じたけど、男限定の奴とか? それともジェネレーションギャップって奴? 俺、未だ十六なのに老けた気分だ。
そんな風に俺が考え込む中、同じく何やら悩んでいた様子のスコルは元の無表情に戻り、相変わらずの何考えているか分からない声で告げた。……俺が知らなかった世界の残酷な真実をな。
「あっ、分かった。アッシュは未だ知らなかった。
「……は? うおっ!?」
スコルの言葉が理解出来ずに間抜けな声が出た時、地面が一瞬だけ揺れる。……地震か。定期的に一瞬だけ世界中の地面が揺れる謎の現象である地震。原因は不明だけど一瞬じゃ大した被害は出ないからって今じゃ誰も気にしない。まあ、複雑な薬の調合やらトランプタワーを作ってる奴とかは困るだろうがな。
「……」
この時、俺は気が付かなかった。揺れた地面を見つめるスコルの顔に一瞬だけ悲しみの色が現れた事を。
……一方その頃、アッシュが居るダウロゴより遥か南西の街グナロク。其処に現在パンダーラの拠点が存在していた。現在、つまりは前までは存在しなかった。新築したのではない。……歩いて来たのだ、二本の脚で。
「フー! ホッホッホッホッホッ! ハーイ!」
フラダンスからコサックダンス、はたまたブレイクダンスまで。巨大なパンダの姿をした建物が広い敷地内で掛け声を上げつつ激しく踊る。周辺住民は既に慣れたのか特に気にした様子は見られない。只、幼い少年が少し不思議そうにその踊りを見詰めながら呟いた。
「何時も地震が起きる度に踊るよね。……どうしてだろう?」
だが、その疑問も直ぐに忘れて少年は友達と待ち合わせした場所に急いで駆けて行く。この世界にとって地震は一瞬だけ地面が揺れる程度のたわいもない現象。特に気にする事でもない故に関連する事も直ぐに忘れ去る。
変な建物が存在するが平和その物の昼下がり。平穏を壊す魔の手は直ぐ其処に……。
「……彼処だ。神々の降臨を邪魔する悪しき存在の居城。忌々しい姿だ」
丘の上からグナロクを見下ろす女達。ワルキューレの証である仮面を身に付け、忌々しそうに踊るパンダを睨み付ける。
「街はどうしますか、隊長? 確か出身地でしょう?」
「構わん。願いの為だ。……纏めて焼き払え」
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