伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
「ふむ。これはこれで良いな。肌を合わせながら共に湯に浸かる。悪い気はせん」
そんなに広くない浴槽の中、俺はハティと背中合わせになって入浴していた。背中に感じるサラサラの髪やスベスベの肌の感触は嫌でもハティの存在を俺に意識させる。何でこんな事をしているのかと言うと、妥協の結果だ。
「では選べ。正面からか、後ろからか。ああ、貴様が嫌がる女を手込めにする願望を持っているなら演技で叶えさせてやるぞ? い、嫌っ! お願いだから乱暴しないで! ……とかな」
「俺にそんな願望は無い!」
俺はのんびりと風呂に入りたいだけなのに露出高めのドレス姿で乱入して来たハティに抱くように迫られ、しかも自分を好きにさせる為だという。そんな意味不明の展開に俺は思わず立ち上がって汚名に抗議する。って、俺全裸だ!?
「……ぬっ。成る程な。これは大きい……のか? 大丈夫なのだろうか……」
「ジロジロ見るな! あーもー! 俺はもう出る!」
顎に手を当て興味深そうに見て来るパティから隠すように、咄嗟に手に取ったタオルを腰に巻いた俺は足早に風呂場から出て行こうとする。ったく、迫られる理由は分かったけど、だからって応じられるかよ。
正直言って手を出す大義名分にならない事もないのに心が動かされない訳じゃない。娼館に興味を持つ程度には年頃だしな。だが、俺にだってプライドがある。強くなる為に好きになれ? 好きになる為に抱け? 何か利用されるみたいで嫌だ。
「……後で入るか」
折角の一番風呂を早々に切り上げるのは惜しいけど、こんなんじゃ落ち着いて入れないから本末転倒だ。二人にハティの見張りを頼んで二度目の入浴を頼むしかないか……。
だが、出て行こうと伸ばした手はドアノブに触れられなかった。何か見えない薄い壁が現れていたんだ。これじゃあ出られない。てか、どう考えてもハティの仕業だな。
「くっくっく。そう性急にならんでも良かろう? 貴様の考えは分かった。なら、今日は共に入って話をするだけに留めよう。父の名と私の誇りに懸けて今日は風呂で迫らんと約束するぞ」
「背中合わせな。変に触って来るなよ?」
「構わん。今宵はそれで堪えよう」
父の名に懸けて、そんな風に言われたらな。俺は妥協し、浴槽の端に寄ってギリギリ一人分のスペースを開ける。このまま押し問答してても埒があかないしな。するとドレスを脱ぎ捨てる音の後で風呂に入る水音が聞こえ、俺の背中にハティの背中が触れる。
「良い湯だ。心が落ち着くな……」
「……」
そうか。それは良かった。俺は全然落ち着かないけどな。密着して風呂に入ってるんだし、どうしても意識してしまう。ドキドキしてるのが通じてるんじゃないだろうな。
駄目だ。このままじゃ風呂に入ってもスッキリ出来ないぜ。えっと、何か話題は……。
「……えっと、どうして強くなりたいんだ?」
「力を求めるのは本能だろう? まあ、姉に負けたくないという意地も有るが……祖父を救う為だ」
「祖父さんを救う?」
背中越しに聞こえたのは真剣な声。上から目線で利用する為に誘惑する時とは段違いだ。ちょっと気になるな。
「……今の貴様には未だ話すには早いが、いずれ話そう。兎に角、家族を救う為には
「……家族か」
俺の家族は全員死んでいる。父さんは擬神の一体であるアポロンに殺されて、残った家族も
……仕方無いか。聞き出したのは俺で、此処まで聞いてしまったらな。
「おい、ハティ。お前もナインテイルフォックスの一員になれよ」
「むっ? 唐突だな」
「仲間だったら絆が深まるし、どうせ
本当は団長のルノア姉ちゃんに話を通してからってのが筋なんだろうが今回の場合は仕方無いよな。俺の勧誘にハティは暫く考え込み、急に立ち上がった。
「よし! その申し出に乗ってやろう。私は今この時より貴様の仲間だ、主……いや、アッシュ!」
「そ、そうか……」
今振り返ったらどんな光景が広がっているのか分かってるから振り替えれないし、後頭部に感じる感触で俺は気恥ずかしさから声が震える。
「ん? ああ、尻が当たっていたか。悪いな」
「いや、別に良い……」
駄目だ、此奴は常識が通じない。スコルも空気読めてない所が有ったが気遣いやらは出来てたってのによ。
「お前には色々教えなくちゃな」
「それは調教という奴か? 成る程、そんな趣味が……」
「無いからなっ!?」
こうしてナインテイルフォックスに新しい団員が加わる事になった。酒に弱い駄目人間にラッキースケベを連発する奴に射程が半分程度のヘッポコ魔法使いに加わったのは世間知らずの痴女。
いや、こんなんで大丈夫か? 不安になって来た……。
まあ、これで一旦色仕掛けは止めるだろうし、俺の安息は大丈夫だな。……と俺は寝る前に安心していた。ちゃんと部屋だって与えたし、疑いもしなかったんだ。
「おい、何で俺のベッドに入ってやがる? 昨日部屋を貰っただろうが」
翌朝、目覚めた俺の視界に広がったのは白い肌。風呂に入った後で入団を申し出たらあっさりと許可が出たハティが俺の隣で寝ていたんだ。しかも裸でな。俺が声を掛けても目を覚ます様子が無いし、下手に揺すってラッキースケベが発動しても困りもんだ。
「放置するか。……飯でも作ろうっと」
カレンダーを見れば今朝の当番は俺だし、ハティを起こさないようにベッドから出ると布団を被せてやる。冷えるし、また起こしに戻った時に目の毒だしな。被せる時は視線を外しながらだったんだが少しは見えてしまうし、色気に負けそうになる。……耐えろ、俺。此処で流されたら負けだ。
「あれ? 下手すれば毎朝こんな感じなのか?」
選択を誤ったかもな……。少し後悔しつつ部屋から出る。閉める時に見えたハティの寝顔は幸せそうだった。
「……ヘタレめ。あの年頃の男なら隣で裸の美女が寝ていれば迷わず襲うのではないのか? 別に構わんと伝えてもいるのに。……さて、どうするか。あの様な奥手では色仕掛けのみでは心許ないな。ふむ……奴の心を射止めるにはこれしか有るまい」
……何だ? 猛烈に嫌な予感がして来やがった。
「昨日の残りのシチューを温めて、サラダと……ハムでも焼くか」
適当に朝飯を作りながら新聞を広げる。まあ、俺は連載小説と四コママンガしか読まないけどな。記事は基本的に目に付いたのだけ……おっ。パンダーラについての記事が載ってるな。
「……ワルキューレがグナロクを襲撃しようとしてパンダーラの団員に捕らえられた、か。連中、禄な奴じゃないな……」
見出しに目を付け写真に目を向ければ縛られて吊された女達。仮面を剥がされ妙にリアルな肉襦袢を着せられ鼻眼鏡を装着してハゲのカツラを被せられて目が完全に死んでいた。……そりゃそうだ。こんな目に遭ったら心がへし折られるに決まってるよ。
「団長のアンノウンのコメントでは、今回の一件は全部期待の新人リゼリクの判断であり、一から十まで他の誰も関与していないよ、……うわぁ」
幾ら街を襲おうとした連中でも此処まで酷い目に遭わせるとか、リゼリクの奴に何があったんだよ……。まさか団長が嘘ついてるとかは無いだろうしよ……。
「ロリコンの上に外道とか、変わっちまったな、彼奴……」