伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
その土地はとうの昔から既に死んでいた。枯れ草すら生えておらず、乾燥した大地には無数のヒビが広がっている。気候の問題か乾期が長く、半径数十キロに街道すら存在しない。完全に人から見捨てられた土地が此処であり、今後もそうだろう。
だが、この日は違った。白い制服を身に纏った探索ギルドの職員達の姿の存在に興味を示す獣すら存在しない死の大地に集まる理由は只一つ。大山程の高さと面積を持つ建造物。黄色い外壁の
「各員、仕事を急げ。漸く発見したが、それ故に次の補食が次の瞬間ではないとは言い切れないぞ」
この日、ギルド職員達による
「計測が完了しました。本部に送り、この
「採取した物の評価ですが下の下。攻略の拠点を設置するのも困難。存続させる価値は低いでしょうね」
計測の為の道具を手に内外で調査を続け結論を出して行く。元より死した大地に誕生したのがこの
故に結論は近日中の破壊。長期的に使用可能な拠点設置の為の資金調達も難しい。放置など絶対に有り得ない。何故ならばこのまま成長を続けた場合……。
「では、誕生地次第では変更の為の儀式が必要ですね。必要な秘宝を所持する探索団は……」
「パンダーラだけっす。戦いましょうよ、現実と」
「だな。悪い、どうしても避けたい現実なんだ。じゃあ拠点を今はグナロクに移動させておいた筈だし……今は鬱陶しい連中と戦おう」
職員達が少し憂鬱そうな表情での会話をした後で崖を見上げる。仮面とフード姿のワルキューレが武器を手にして構えながら彼等を見下ろしていた。各自年の頃は別々で武器もバラバラ。同じ目標で動く集団としては異質だろう。
「あ、あの人達が神様の降臨を邪魔する悪い人達なんでしゅね。……噛んじゃいました」
「……子供?」
身の丈と同等の大きさの盾を構え、オドオドとした様子で自分達を窺う少女に思わず怪訝そうな表情となるギルド職員。仮面で顔の上半分を隠しているが相手が十歳程の少女だと分かった。藍色の髪をツインテールにし、ローブの隙間からは派手な蛍光色のフリルだらけの服を着ている。まるで魔法の力を得て悪と戦う少女の物語に出て来そうなデザインだ。
「あ、あの! 神様の為ですから……邪魔しないで下さ~い!」
「……邪魔か。言っておくが君が口にする神は禄な存在ではない。絵本に出て来る優しく偉大な存在ではなく、欲にまみれた化け物共だ。本当に信仰すべき真の神の敵だ。……其方こそ邪魔をするな」
弱気な少女に強めの口調で反論が向けられる。双方とも会話で引く様子は見せず一触即発の空気。睨み合いが暫く続き、ワルキューレの一人が崖の上から飛び降りれば他の者達も後に続く。但し、盾の少女は除いて。
「スクルド様!」
「む、無理! 無理ぃいいいい」
後に続いて欲しいと仲間が叫び、意を決した表情で飛び降りようとした少女は突風で足が止まり、思わず見てしまった崖下までの距離に足を竦ませてヘナヘナと崩れ落ちる。既に涙目になっており、参戦は無理だろう。
「くっ! だったら例の
彼女の頼りない言葉にワルキューレ達は多少の残念さを感じさせながらも目の前の敵から視線は外さない。人数差、約二十倍。無論ワルキューレ達が上だ。急な崖を物ともせず迫る大人数の敵は見るだけで威圧感を与え、全員から放たれる殺気に並の者ならば心すらへし折れる。
「何か企んでるみたいだけれどさせないよ!」
だが、それは並の者だった場合の話。ワルキューレの先陣とギルド職員達がぶつかった瞬間、人の体が紙切れのよう宙を舞う。鎧袖一触、数の差など物ともせずにの一方的な蹂躙劇。その上、ワルキューレ達の誰も死んではいない。高く吹き飛ばされ地面に叩き付けられて呻き声こそ上げてはいるが意識すらある。但し指一本動かせない程にダメージが大きく、槍を持ったギルド職員の青年を通してしまった。
「ぐっ! こんな所で……」
振りかぶった剣をへし折られ、ローブの下に着込んだ鎧をも砕かれて宙を舞う女が目を向けたのは粗末な馬車に向かうスクルドの背中。荷台には古びた金属製の扉が乗せられており、それに使うには少々大きい鍵をスクルドは必死に取り出しながら走る。
「どうやら地位が高いみたいだし、秘宝も持ってる。うん、そうだね。……手足の健でも切っておこうか」
それは先程ワルキューレの戦陣を強行突破した青年。彼女達がときの声を上げながら駆け下りた崖を一足飛びに飛び越して着地、ヘラヘラと不真面目そうな笑みを浮かべているが目は一切笑わず槍を構える。少し前傾姿勢になり、足に力を込めた瞬間、彼の肉体は引き絞られ放たれた弓矢の如く少女に迫る。槍の穂先が細い足の健を貫くまで一秒と掛からない。
次の瞬間、地面へと引き寄せられて行くワルキューレの構成員は悔しさの滲む言葉の続きを口にした。
「こんな所で忌々しい奴の力を借りるなんて」
金属同士がぶつかり合う音、遅れて堅い物がへし折れる音が響いて槍の穂先が宙を舞う。根元からへし折れてクルクルと宙を舞った後で地面に転がった。
「ク、クロウさんっ!」
「危ない危ない。オジさん、焦っちゃったよ。怪我はないみたいだね、スクルドちゃん」
焦った、そんな言葉と裏腹に彼の顔には余裕が見えている。細身ながらも引き締まった戦士の肉体を持ち、着込むのはダルダルのシャツとズボン。飄々とした笑みからはやる時を感じられず、無精ひげも茶色の髪もボサボサだ。だが、間違い無く槍をへし折ったのはこの中年男だ。青年も似た感じの笑みを浮かべたままだがバックステップで距離を取り、彼の一挙一足に神経を集中させる。その頬を冷や汗が流れていた。
「ワルキューレってのは女性ばっかりの組織じゃなかったっけ? ロクデナシのエロ野郎共の趣味でさ」
「まあ、構成員は基本そうかな? オジさんはちょっと特殊でさ。やる気も無いし……この子以外はあげるから見逃してくれない?」
「ちょっとクロウさん!? そんなの……むごっ!?」
笑みを浮かべたままだが彼の目も青年同様に笑ってはいない。断れば戦闘も辞さないと暗に語っているが、それを分かっていないのか文句を言おうとしたスクルドの口が手で塞がれ、そのまま後退する。青年は少しだけ考える振りをした後で柄だけになった槍を投げ捨て、虫でも追い払うみたいに手首を動かしてさっさと行けと告げた。
「物分かりの良い子は助かるよ、オジさん。じゃあ、お仕事頑張って」
「お仕事の邪魔をした連中が何言ってるんだか」
「おっと、そりゃそうだねぇ。……あっ、君の名前は? オジさんはクロウって呼ばれてるよ」
「おいおい、呼び名かよ。……ランスロットだよ、俺は」
「そう。じゃあ、今度機会があれば酒でも飲もうよ、ランス君。じゃあね」
クロウがスクルドの手の中にあった鍵を扉の鍵穴に差し込めば、開いた先に見えるのは荒野ではなく女の子の子供部屋らしい場所。カーテンが閉められて窓の外は見えず、そのままクロウ達が入った後で扉が閉められた。
「……やれやれ、面倒なのが向こうにも居るだなんて。俺の相方ってのをさっさと見つけたいよ。可愛い女の子だと良いけれどさ。さて、酒でも飲んで眠りたいけど……後始末が先か」
ランスロットが視線を向けた崖下では既に全員捕縛されたワルキューレ達とほぼ無傷の同僚の姿。只、面倒な仕事が増えた事に肩を竦ませ溜め息を吐いた彼は迷い無く崖下に身を投じた。
「所であの人の相方は誰なのやら。性格悪いどブスだと助かるんだけどなぁ」