伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
街の広場にある石像に背をもたれ掛かせて空を見上げる。今日は風が強いのか雲の流れが早いな。嫌な理由で有名な俺は目立つのかチラチラと視線を送って来る奴が居るし、女は俺に近寄らないように遠回りして歩いていた。
「待たせたな」
「いや、全然待ってないが……外で待ち合わせする意味ってなんだ?」
今日はハティの身の回りの物を買いに行くんだが、同じ家に住んでいるのに待ち合わせをする意味が分からない。だって遠目に玄関が見えるんだぜ。
「さあ? 人間のデートとは待ち合わせをする物なのだろう? 私に質問されても困る」
「だったらしなくて良いだろ……。んで、ちゃんと下着は着けてるか?」
「まあな。私としては無い方が落ち着くのだが……ほれ」
ドレスは着ているが、さっきはノーブラノーパンだったからな。直接触らされた感触が未だ手に残っている。思わず自分の手を見詰めているとハティはスカートの裾を摘まんで迷い無く持ち上げようとした。
「何やってんだ、ボケ! 街中だぞ、街中!」
「貴様が質問しておいて、私が見せてやろうとしたら止めるとは。……さては馬鹿だろう」
「馬鹿はお前だ!」
本当に駄目だ、此奴。外で平気でスカートを持ち上げて下着を見せようとするなんて常識外れにも程が有る。恥じらいはないのか、恥じらいは! 只でさえ酔っ払って外でグースカ寝てる時の有るルノア姉ちゃんやら呪いでラッキースケベが発動する俺のせいでナインテイルフォックスの評判が散々だってのに……。
「随分と視線を向けられるな。何やらヒソヒソち話をしているし、私が幾ら美しくても少し常識知らずではないか?」
「……そーだな。外で下着を見せようとする奴の次に常識知らずだな」
「むっ。外で下着は見せないのか? 漫画ではヒロインが普通にパンツをチラチラ見せているだろう?」
「……もう行こうぜ」
このまま話をしていても疲れるだけだ。漫画と現実をごっちゃにするなって言いたいが後にして買い物をさっさと終わらせよう。
「そうだな。では、少し腕を借りるぞ」
案内する必要が有るから隣を歩こうとすると腕を取られ、そのままハティは俺の腕に抱きついて体を密着させて歩き出す。好奇の視線に嫉妬の視線が混じった気がした。だが、それは別に良いんだ。既に擦り付けられたり揉んだりしている俺には分かる。押し付けられている胸はノーブラだ。
俺の腕を挟むようにして押し付けられ、歩く度に上下に揺れる。しかも胸元が大きく開いた服な上に俺の方が背が高いから視線を向ければ谷間が丸見えで、時々先端が……。
「おい、下着を一旦二人に借りて……あぁ」
「それ以上は口にしてやるな。哀れが過ぎる。……次女のニーナとやらは私よりも大きいと聞いたが、どうしてその様な差が?」
「知るか。……サイズの合うブラも買わないとな」
これ以上この話を続けた場合、話を聞いていなかった筈の二人の怒りを向けられる可能性が高い。ハティも特に興味が無いらしく続けないし、俺も押し付けられる感触を極力意識しないように歩く。
「触りたければ路地裏にでも連れ込め。抵抗はせんぞ?」
「……しない」
「まあ、今はこのまま楽しめ。特に腕を振り払おうともしないアッシュよ」
ったく、明らかに俺の反応を予測した上で言ってやがるだろ。どうやら全部計算の内らしい。此奴、もしかして性格が悪いのか? 今更振り払うのも何だし、悪い気はしないからそのままだ。……こんな姿をロザリーに見られたら面倒だな。
「おい、アッシュ。貴様が選べ。白のかピンクのか。私はよく分からんからな。貴様の好みで良い」
とある店の前で選択を迫られる。簡単に言うとブラの色を俺に選ばせている……訳じゃない。だって俺の評判考えたら女物の下着売場に行ける訳無いだろ。下手に行って呪いが発動したら社会的に死ぬし、探索者が居たら肉体的にも死んじまう。金を渡してハティに選ばしたよ。……後で俺に見せるみたいな事は言ってたな。
「いや、好きなのを選べよ。アイスだろ、たかがアイスだろ」
「……たかが? おい、小僧。今、たかがって言ったか?」
「すいませんでした!」
怖っ! アイス屋の店長怖っ! 低い声で俺を睨む店長に俺は即座に頭を下げる。謝らなければ……死んでいたかも知れない。アイス食ってないのに俺の体が冷える中、ハティは腕を組んで困り顔だ。
「私は食った事がないからな。味の説明をされてもさっぱりだ」
下着を買い、部屋に置く品を適当に選ぼうとした時だ。ハティはアイスに興味を示した。此奴、どうも知識として知っていても実際には触れた事が無いことばかりでブラをどうやって着ければ良いのかも分からなかったし、金自体は知っていても、どの硬貨が何ミョルかも知らなかった。……知識自体も偏ってたがな。
「じゃあバニラとやらを貰おうか。こっちのチョコやらも気になるが……」
やれやれ、漸く決まったか。最後に二択まで絞り込んだ。それでもバニラを口にしながらもチョコ味を気にしてたがな。
「甘い……。うん、良い物だ。アイスとは素晴らしいな」
一口齧り、驚いた様な顔の後でハティは年頃の女の子らしい顔になる。お気に召したなら結構だ。少し疲れたが、この顔を見られただけで良しとするか。
「……おい。俺にはチョコをくれ」
だからこうやって俺が買い求めて食べれば手に持ったチョコをチラチラと見て来る。だが、欲しいとは言わない。そりゃ偉そうな態度を取るだけあってプライドが高いんだろうよ。俺は気が付かれない程度の大きさで溜め息を吐き、そっとチョコをハティに差し出す、
「……そっちも美味そうだ。一口で良いから交換してくれ」
俺の頼みに一瞬だけキョトンとしたハティは直ぐにパァッと明るい顔になり、直ぐに我に返って尊大な態度になった。
「……はっ! 意地汚い事だが仕方無い。まあ、私の寛大さに感謝し、心して味わえ」
「へいへい。ハティ様のお心の広さには感謝の極みだよ」
適当に返事をしながら差し出されたバニラアイスを齧る。一口が大きいとか文句を言われたが知った事かよ。
「聞いているのか、アッシュ!」
「……悪かったって」
「ええい! 貴様には罰を与える! 今直ぐ背を向けろ!」
何だよ、蹴りでも入れる気かよ。だけど無視するのも面倒な事になりそうだし、此処は大人しく蹴られておくか。怠い気持ちを抑え込んで俺はハティに背を向けるが、背中に感じたのは蹴りや平手打ちの衝撃ではなく、弾力がある二つの物が押し当てられる感触と重み。肩には手が置かれ、間近で揺れる髪の良い匂いがする。
「このまま私を背負って行け! 貴様は今から私の馬だ!」
「本当にお前は……」
多分何を言っても無駄だろうし、俺が好奇の視線に耐えれば良いだけか。ハティが落ちないように足を支えて少し前屈みになる。頭の上から随分と上機嫌そうな鼻歌が聞こえて来た。
「おい、アッシュ。私はある事を思い付いたのだ。貴様に私への好意を抱かせる、その目標は一切変わらんが、それだけでは悪いと思ってな」
「出来るんだったら直ぐに思って欲しかったよ。散々色仕掛けをする前によ」
「ええい! 話はちゃんと聞かんか!」
ハティはポカポカと俺の頭を叩いて来て、結構痛い。此奴、思った以上に力が強いな。まあ、細腕だろうが馬鹿力ってのは探索者なら珍しくもないんだがよ。
「心して聞け。矢張り仲間になったならば一方的な要求は望ましくない。私の肉体を好きに貪れる権利もヘタレ相手ではな……はぁ」
呆れるなよ、失礼だろ! 深い溜め息が聞こえ、俺は降ろしてやろうかとさえ思った。幾ら何でも失礼だろ。俺だってギリギリで理性を保ってるのによ!
「だから決めた。貴様が私を好きになる為、私もお前を好きになろう。どうだ! 光栄だろう?」
得意そうな声が上から聞こえて来る。……前の方に不満そうな顔の青髪ポニーテールの美少女が居た。