伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
地平線の彼方まで広がる一面の荒れ野。枯れ草が生い茂り、空は鉛色の曇天。気分を害する蒸し暑さに加え全くの無風状態という快適さとは縁遠い場所に怪しげな者達の姿があった。
「うっひょー! これ全部売ったらオイラ達は大金持ちザンスね、お嬢!」
気が滅入るだけの辺り一帯の枯れ草色の中、その場所だけは金色に輝いて別世界にさえ思える光景が広がっていた。少々堅太り気味の小男が出っ張った腹を揺らしつつ太い腕で大木から皮を剥いで行く。驚く事に皮は眩く輝く金色であり、表面だけでなく裏側まで一切の混じり気のない純金だ。それを背負った籠に詰め込みながら大声で笑う男だが、その頭に女の細腕が叩き込まれた。
「しっ! 連中に聞かれたらどうしますの! このアンポンタン!」
小男を叩いたのは少々派手な格好をした少女。金髪碧眼横ロールという良家のお嬢様を連想させる典型的な容姿であり、少々気品が感じられる立ち振る舞いをしている。だが、ゴージャスに見える服はよく見れば縫い直した跡が見られ、小男への態度からも間の抜けた印象を与える。周囲を見渡して聞き耳を立てている者が居ないかキョロキョロとあからさまに警戒する彼女だが、これでは怪しんでくれと言っているのと同じだろう。
腰の辺りまで伸びた枯れ草のせいで誰かが潜んでいても分からないが、どうやら誰も居ないと判断したのか安心した様子の少女。尚、彼女の声の方が小男より数倍大きかった。
「そうだべ。途中で全部持ち逃げする作戦が台無しになるだべよ」
小男と同じく籠を背負って小男を責めるのは痩躯で長身の中年男性。見事なカイゼル髭だが顔の作りが小者感を醸し出して逆に滑稽に見えさえしている。小男を責める彼だが、聞かれたら余計に不味い内容なので彼の頭にも少女の制裁が叩き込まれる。
歳が親子程離れている二人が二十にも満たない彼女の制裁を甘んじて受け不承不承といった様子は見られない。逆に何処か信頼関係さえ感じられる。
「お馬鹿! 奴らを利用する作戦が台無しじゃないですの! きゃっ!?」
「「お嬢!」」
その証拠が今の行動だ。腰まで伸びた枯れ草の根元は石や何かの骨が散乱する荒れ地であり、そんな場所にも関わらず派手なドレス姿の少女の靴はハイヒール。当然バランスを崩し、即座に二人が支えたので倒れる事は無い。二人が即座に動けたのは彼女の一挙一動に注意を払い、何時でも動ける様にしていたから。慣れた動きからして少女が転ぶのは珍しい事でも無いのだろうが。
「よ、よくやりましたわよ、ミーヤノにヨッシー。それにしてもフェレンツァ伯爵家の長女である私がどうしてこんな事を……」
「いや、お嬢は宿屋に留守番しておいてって言ったザンスよ?」
「ミーヤノの言う通りだべ」
「あら、おかしな事を言いますのね。高貴なる者は率先して動くべし! それが我が家の家訓だとお忘れですの? あの様な怪しい者達の依頼を家臣に任せて留守番などと有り得ませんわ!」
「「お嬢……」」
堂々と言い切る少女に向ける二人の表情は少々複雑そうだ。立派になったと嬉しい反面、この様な場所でどう見ても怪しい仕事を仕える相手にやらせている事への不甲斐ない想いが入り混じっている。
「さてと。次に行きますわよ。家の再興の為にもお金が必要ですもの。亡くなられた一族の皆の為、難民となった領民の為。この程度の苦労なんて気にしていられません。二人共、気合いを入れて行きますわよ!」
「「へい! お嬢!」」
気合いを入れる為にか少女は大声で拳を天に向かって突き上げ、ミーヤノとヨッシーもそれに続くと地図を広げて次の金の樹皮が採れる場所へと向かい出す。
三人が立ち去った後、全くの無風状態にも関わらず草が動いてマントを脱いだワルキューレの構成員が姿を現した。
「間抜け共が。企みに気が付かぬとでも思ったか? ……まあ、良い。貴様達が無駄に溜め込んだエネルギー、死をもって我らが神に捧げろ。役立たずのお嬢様とその家臣には過ぎた名誉であろう?」
遠目に映る三人組に向けるのは路傍の石ころに向けるのと同じ物。利用した後は処分する対象であり、見下す相手が自分達を騙せていると思っている事への腹立ちすら感じない。
彼女は再びマントを被り、秘宝たるその力を持って姿を消そうとする。だが、その前に荒れ地に跪き、太陽の代わりに
「さて、パンダーラに襲撃を行った者達はどれだけの成果を上げたのやら。私がこの様な場所で数日にも渡って働いているのだ。せめて住民を巻き込み、連中への悪意を募らせてくれれば良いのだがな……」
女は一人呟くとマントを被って姿を消す。その姿は完全に不可視となり、足音を忍ばせれば周囲を漂う人魂の姿をしたモンスターさえも反応しなかった。
「……ふむ。では任務を続けるか。あの三人は……静観で良かろう。足掻く姿が楽しめそうだ」
その姿を木の上から見張る者が一人。決して見上げねば上が見えぬ程に高い訳でもなく、葉が生い茂って姿を隠せる訳でもない。彼はただ木の上に居ただけだ。先程の女と違い秘宝で姿を消してもいない。なのに誰も気が付かなかった。三人組も、女も、モンスターすら一切の違和感を覚えさせない彼は地面に降り立つ。彼が視線を向けるのは一見すれば誰も居ない場所。だが、其処には不可視となった女が居る場所だ。
「ククク。さてさて、どれだけの物を私に見せてくれるのやら。貴様達の信仰心が何をもたらすのか、精々私を楽しませて欲しいものだな」
一方その頃、ナインテイルフォックスの拠点はお茶の時間の真っ最中であった。甘いケーキと熱い紅茶が有れば話には幾らでも花が咲く。この場の者達もたぶんに漏れず話をしている最中だ。……但し、とても和やかとは言えない空気だが。
「ほほぅ。このモンブランとやら、どの様な物か知ってはいたが成る程成る程。……ふわぁ」
「チョコケーキこそ至高。……異議は認める」
尊大な態度がモンブランを口に運ぶ度に崩れるハティ。今にも蕩けてしまいそうだ。その隣に座るロザリーも同じく。普段は感情が分かり辛い彼女だが、ケーキを食べている最中は幸せそうな顔になっている。同じ男を巡って争う二人ではあるものの、こうして甘い物を食べている最中は仲良く隣り合って座る。
「お、おい。これじゃあ俺がケーキを食えないんだが……」
但し、座っているのは椅子ではなくてアッシュの膝の上。左右に広げた足に左右に分かれて座り、仲睦まじい姿に見えても修羅場だ。当然ながらアッシュはケーキを食べられる状況ではない。
「ふふふ。大丈夫だ。私が食べさせてやるから貴様は私の体を支えておけ。腰でも胸でも好きな部分に触れてな」
「……私も食べさせる。チョコケーキも分けてあげる。だから支えてて」
ハティとロザリーはにこやかな表情のままアッシュの手を取り自分の体に触れさせる。ハティは胸から腰まで撫でさせる様にして、ロザリーは迷い無く胸に持って行くと少し自慢する風にハティを見る。
「アッシュはおっぱい好き。……知らなかった?」
「はっ! 貴様のお陰で今知ったぞ。お礼に不在の間は私の胸で此奴を満足させてやろう」
笑顔のまま二人の間に火花が散り、二人同時にアッシュの口元にケーキを差し出す。
「「どっちを先に食べる?」」
思わずアッシュは助けを求めて対面のルノアとミントを見るが、ルノアは残ったケーキを紅茶で流し込むなり立ち去った。アッシュの姿も見て見ぬ振り。巻き込まれたくない気持ちがダダ漏れだ。
ならば最後の希望は残ったミント。目を逸らす事無く三人を見据え、静かに呟く。
「……馬鹿馬鹿しい」
所詮色恋の上での争い等、他人からすればその程度、そういう事だ……。