伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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盾の少女と無精髭

 青白く発光する人間の肋骨ような姿。胸骨柄、胸骨体、胸骨角は無く、胸軟骨が蠢きあたかも牙の様。仰向けで浮遊して移動する。そして……全長は15m程。巨大な上に悪霊を思わせる姿には威圧感が有り、見ているだけで魂を奪われそうだ。

 

「うう……。怖いよう。今晩おトイレ行けないかも」

 

「頑張りなさいって。神様の為に戦うって決めたのは君でしょうに。ほらほら、オネショ布団はちゃんと洗ってあげるからさ」

 

「し、しません! ……三日前は偶々だもん」

 

  死霊の合戦場に数多く存在するボスモンスターの中でも最も巨大で強く、(バベル)の命であるバベルコアを守る存在だ。

 

 空中をゆっくりと漂い、創造主である(バベル)を脅かす敵を排除すべく動き出す。それに立ち向かうべく巨大な盾を構えるのは場違いな少女、スクルドだった。

 

「ク、クロウさ~ん! これ、本当に私が相手しなくちゃ駄目ですかぁ?」

 

 巨大で強力なボスモンスターだから怖いのか、不気味なアンデッドだから怖いのか彼女は震えながら助けを求める視線を後ろに向けるも返って来た反応は期待した物とは違って困った様に後ろ頭をポリポリと掻いただけだった。

 

「いやぁ、仕方無いかなぁ? オジさんだって子供に無理はさせたくないけど、高い所が怖いからって任務放棄しちゃった罰は受けないと」

 

「ううぅ……」

 

 諭している様に聞こえるがクロウはヘラヘラと笑って気楽な声色だ。それでは元気付けられる筈も無く、少女は世間の冷たさに震える。チラチラと視線を送るが頑張れとばかりに手を振って頼りになりそうにない。

 

「大丈夫大丈夫。危なくなったらオジさんが助けてあげるからさ。……ギリギリになったら」

 

「それ、本当に最後の最後まで助けてくれないって事じゃないですか~!」

 

 ヘラヘラと笑いながらも容赦無い言葉にスクルドは涙目になって叫ぶが、リブ・レイスも目の前の少女の涙に容赦を見せる事無く襲い掛かる。ギチギチと音を立てて肋骨が開いた姿はまるで鋭利な牙を持つ獣の口の如し。そのまま空中で身を激しく揺すれば鋭利な先端がスクルドに左右から襲って来た。

 

「きゃわっ!?」

 

 響いたのは肉が骨に貫かれる音では無く、分厚い盾が骨の刺突を防いだ音。小柄で幼い少女の体にも関わらず脚が地面から離れる事は無く、それどころかフラフラと崩れる事すら無い。感情が存在しないかに見える死霊の身であっても怒りや焦りを覚えたのか攻撃の激しさが増し、それに伴って一撃が大振りになって行く。

 

「む、無理! 無理ぃ~!」

 

「いや、大丈夫じゃない。避けれてる避けれてる」

 

「大丈夫じゃないですぅ~! 凄く怖いんですからぁ~!」

 

 激しくなって行く攻撃に対応する姿に一切の不安を感じない様子のクロウではあるが当の本人からすれば一歩間違えば体を貫かれるのだから堪った物ではない。ガンガンと盾の向こうから音がする度に小さな悲鳴が漏れ出し、腕に痺れはないが全身が恐怖で震える。既に目には涙が蓄えられていた。

 

 幼気な少女のピンチをヘラヘラしながら見守るだけの無精髭の中年男性という正直言って絵面が宜しくない状況の中、リブ・レイスの動きが止まる。体を右側に大きく傾け、全身がプルプルと震えている。更に開いた肋骨は弱点となる内臓が存在しない今は只の凶器でしかなく、その凶器は更に届く距離を増した。

 

「えっと、もしかして力を貯めて……ひゃわぁあああああん!?」

 

 正解だと告げるかの様にリブ・レイスは猛スピードで体を振るう。その勢いは凄まじく、先端が届くより前に突風が吹き荒れてスクルドの体勢を崩してしまった。そのまま胸骨の先端は枯れ草の生えた地面を掘削しながら彼女へと迫り、そのまま振り抜けば彼女の体は宙を舞う。その姿をクロウは微動だにせず傍観するだけだ。

 

 

「ほら。大丈夫だったじゃないの。オジさんはそういうのちゃんと分かって言ってるんだよ」

 

 彼が見上げる先、空中に投げ出されたスクルドには一切の傷無し。鋭い先端が地面を削りながら迫った時、咄嗟に盾の真芯で捉えると同時に真上に飛んだのだ。彼女の持つ身体能力にリブ・レイスの一撃の威力も加わり、彼女の体はかなりの高さに迄到達している。少なくても彼女が怖がって飛び降りれなかった崖の高さに近かった。

 

 そんな彼女を狙って急上昇して行くリブ・レイス。攻撃範囲を広める為に広げた肋骨を閉じ始め、まるで両顎で獲物に喰らい付く肉食獣の如き勢いで少女の矮躯へと迫る。その恐怖を煽る姿は幼子なら一目で失禁しながら泣き叫ぶ程。だが、先程から泣き出す寸前だったスクルドは真っ直ぐにその姿を見据えるだけで怯え泣く様子を見せず、盾の裏側にはめ込んだスピリッツライトを構える。そのカンテラの内部の炎は青でも白でもなく黒。

 

 

「サンダークラウド!」

 

 迫り来るリブ・レイスに向かってスクルドが放ったのは帯電する黒雲。瞬く間に巨体を包み込み、脱出するよりも前に内包する電撃を全て吐き出した。

 

「お、終わりまし……ひゃわわわわっ!? 前門の虎後門の狼ぃ~!?」

 

 轟く雷鳴に迸る雷光。雷雲が消え去るのを待つまでもなく漏れ出した光の粒子がリブ・レイスの消滅を少女に知らせる。ホッとしたのも束の間。目の前の驚異が消え去った事でスクルドは気が付く。今、自分は凄く高い所から落ちているのだと。恐ろしい死霊に襲われても辛うじて泣かなかった彼女は泣き出し、強烈な攻撃を防ぎ切った盾を手放して軽いパニック状態だ。

 

「クロウさぁああああああああああんっ!? た~す~け~て~!」

 

 情け無い程に泣き叫びながら落下するスクルドは手足をバタバタと動かすも当然だが落下速度は落ちてくれない。地面が迫り、遂に気を失いそうになった時だった。

 

「……あー、はいはい。ったく、締まらないねぇ、君ってば。まあ、危ないから助けますよ」

 

 彼女の落下はクロウが空中で受け止めた事で漸く止まる。羽ばたく音を立てながらゆっくりと着地した彼は俵担ぎ状態でグッタリしている少女に苦笑気味だ。

 

「まあ、花丸は無理でも頑張ったで賞はあげられるし、帰りにパフェ……アイスでも奢ってあげますか」

 

 途中、ポケットの財布の厚みを確かめたクロウはそのままスクルドを降ろそうとして鼻に届いた臭いに一瞬だけ固まる。

 

「……先にお風呂に行こうか。ほ、ほら、汗と土埃でドロドロだしさっ!?」

 

「ううぅ……」

 

 鼻に届いた臭いの理由が何か察しても口にしないのが大人の男であり、彼はその辺大丈夫だった。欠点を上げるなら声が上擦って気が付いているのに気が付かれている事だが。

 

(やっべぇ。こんな時はどうやって慰めれば良いんだ? 前の主なら娘相手に……あっ、あの人は娘を監禁して育てたんだっけ)

 

 高所からの落下とは別の理由で泣き出しそうなスクルドを慰めたいが方法が分からずオタオタするクロウ。だが、耳に届いた足音にハッとして顔を向け、相手を確認した途端に気まずい表情になった。

 

 

「……ハティちゃんかぁ。嫌な時に会ったなぁ」

 

「久しいな、クロウ。此方に来る準備の時に顔合わせをして以来か。して、其処の小便臭い小娘は何だ?」

 

「オジさん、君のストレート過ぎる所は好きじゃないなぁ……」

 

 

 

 

 

 

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