伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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受け入れられぬ提案

「ほらほら、泣かないの。もう十歳でしょうにさぁ」

 

「ご、ごめんなさ~い!」

 

 今日のお仕事は前回のお仕事失敗のペナルティーだ。まあ、高い所が怖くてギルドの連中と戦う事すら出来なかったなんて幹部として許せないわな。なので資金集めの雑用に参加させられたんだが、情報収集担当は何やってんのよ。

 

 折角オジさんが気が付かない振りしてあげたってのに紛らわしい事言っちゃってさ。最終的には墓穴掘ったんだけどね。小便臭いってのは漏らしてるのを指摘した訳じゃ無いのに。ってか、此処に探索団が入って来るのは明日って話だったよね? 来たじゃないの、目の前に。

 

「向こうの方にはそれなりに強い奴の気配がするし、ハティちゃんとも会うしさぁ」

 

 その上、一緒に来た連中はスクルドちゃんを舐め切って集める物だけ集めたら、さっさと通常ルートに向かって時間潰すってボスモンスター押し付けて行っちゃうしさ。あーあー。ハティちゃんったら随分と怒ってるよ。まあ、怒るよね。

 

「おい、クロウ! 何故貴様がその女と一緒に居るのだ!」

 

「えっと、お仕事? 世の中って厳しいから無駄飯喰らいを養ってくれる人って中々居なくてさぁ。こっちの世界はお酒も料理も変わっていて美味いし、遊ぶ金をもう少し貰えたらなぁ」

 

 女ばかりの職場だし、男手頼りにチヤホヤしてくれると思ったら女傑か高飛車ばかりで肩身が狭いし、唯一の癒やしは可愛いスクルドちゃんだけれど……。

 

「せめて八歳……いや、七歳年上だったらなぁ。ねぇ、少年……えっと、名前教えてくれるかい?」

 

「……」

 

「ありゃりゃ。警戒されてるねぇ。オジさん、そんなに怪しいかい?」

 

 流石に無視は寂しいけど、よく考えたらワルキューレの仲間だって分かってるんだろうし。所であの赤毛の少年がハティちゃんの主かな? ちょっと単純そうだけれど善人っぽいしハティちゃんは運が良かったみたいで結構。あの子とは一度会っただけだけど親父の方とは偶に酒を酌み交わす仲だし気になってたんだよ。

 

「おい、ハティ。あの怪しいオッサンは何モンだ?」

 

「……説明は後だ。奴の動きに集中しろ。決して気を抜くな」

 

「おんやぁ~? オジさん、別にそっちが戦う気じゃないなら手は出さないよ? 子供相手に暴力振るうとか大人としてどうなのって話だしさ。てな訳だよ、ハティちゃん。君の主……主だよね? 何か繋がりが変な気がするけれど……」

 

 ハティちゃんと少年の間には間違い無く繋がりが感じられる。今の段階からしてギリギリ友達程度の好意って所かな? なぁんか妙な感じだけれどさ。腕組んでウンウン考えても分からない。じゃあ、考えるだけ無駄か。

 

「ほら、リターンチャイムの残り時間も短いし、オジさん達はさっさと消えるし、此処のコアだって譲るよ」

 

「クロウさん!? えっと、それじゃあ怒られるんじゃ……」

 

「妥協案だよ、妥協案。調査班の不手際だし、オジさんが上手く誤魔化すから大丈夫だって」

 

 スクルドちゃんったら随分焦ってるけれど結構稼いだから多分平気でしょ。まっ、もしもの時は独断だって責任取れば良いさ。別派閥の連中対策にはオジさんが必要だからね。

 

「……ちょっと待て。どうしてお前達がリターンチャイムを持ってるんだ? それはギルドからの貸し出しだろ。……まさか!」

 

 おやおや、単純そうに見えて頭が働く……いや、勘が鋭いのか。少年はどうやってリターンチャイムを手にしたのか思い当たったみたいだね。

 

「まあ、ちゃんと死体と一緒に戻って来る物ばかりじゃ無いって事さ。……大層な事を言っていながらどうかとは思うけどね」

 

 ……うーん。これはちょっと失敗かな? 少年は随分と怒ってるし、此処はハティちゃんに期待しよう。あの子だったら……。

 

 

「どうやら主の答えは決まっているらしい。まあ、時間一杯暴れて一矢報いさせて貰うさ」

 

「主想いな事で。ちゃんとしたのに出会えて嬉しいよ。オジさんの方は酷い人でさぁ」

 

 ……まあ、オジさんは上司も本当の恵まれてる方だろうねぇ。今は出向してるみたいなもんだし、あの方が主だってのは変わらないし、変える気も無いさ。正直言うと取っ付きにくい人だって感じだったのよ、あの方。だから適当に命令聞いて後は気ままにさせて貰おうと思ったんだけどさ……。

 

 冷血で厳格な孤高の王。それがあの方に抱いていた印象。他の連中は怖くて意見なんざ出来なかったが、オジさんは単純な力だけなら上の自信が有ったし、偶に顔出しては睨まれても平気な顔で軽口を叩いていた。

 

「殺さないんですかい? その子を殺すのが一番でしょうに……」

 

 あの日もそう。顔見るのも面倒だからと使者を通して居城から離れた場所で暮らしてたんだが、オジさんを含めた側近全員が集められた。まあ、普段舐めた口振りでも一応部下な訳ですし? 従うべき時は従いますよ。んで、集められた先に待っていたのは主と普段は表に出ない奥方、そして産まれたばかりのご息女だった。

 

 こりゃ未来の主の顔見ておけって面倒な事で呼び出されたのかと思いきや、告げられたのはもっと面倒な内容だ。

 

「……妻の予言により分かった事だが、娘が将来産む者が私を殺すらしい」

 

 途端にザワザワしだす同僚達。そりゃそうだ。俺と違って忠誠心厚い連中だし、そうでなくても主が孫に殺されるだなんて将来の地位に差し障る。今の主に付けば孫が同じ地位を約束してくれる筈も無いし、孫側なら主ぶっ殺す前に自分が殺されちまうもんな。

 

 でもよ。解決する方法ってのは簡単なんだぜ? 死んじまったら子供なんて産めやしない。下手に生き残る可能性が有る殺し方じゃなく、目の前で消し炭にしちまうのが一番だぁな。他の連中も主が怖くて黙ってるし、奥方も下唇を噛みしめてる。まあ、産まれた我が子は愛しいが、長年連れ添った夫の命と天秤に掛ければって感じだな。なまじ予言の力に自信が有るばかりにさ。

 

「いや、その必要は無い。娘が生涯暮らす塔を用意し、夫となる者と出会わせなければ良いだけだ」

 

「生涯篭の鳥ですかい。姫様もお可愛そうな事で……」

 

 俺の軽口に同僚達は不敬だ何だと喧しいが、オジさんに言わせりゃ主が怖くて黙ってるだけの連中が何を言うかだ。この後、俺達が順繰りで塔の周りの警護をする事になったんだが、他の連中は主は実の娘だろうと容赦が無いって言ってたが……何を見てるのかねぇ。

 

 別に姫様以外の子供が誕生しない訳でもないってのに、自分の命を脅かす相手を我が子でも手に掛けないんだぜ? それに何を見てんだ。表情こそ変えちゃいないが、姫様に向けた視線は間違い無く父親が娘に向けるもんだ。

 

 

 ……それから? まあ、奥方の予言は凄かったって事で見事に姫様は男と出会ってご懐妊。まーだ予言の最後まではたどり着いちゃ居ないんだが……俺はどうも臭いと見てる。裏で糸を引いてた連中が居るんだろうさ。

 

 

「にしても、忠臣を名乗ってる連中よりも敵さんの方があの方を理解してるってどうなのよ? 娘に向けるのが何かってバレてたじゃないのさ」

 

 あの一件で良かったと思えるのは姫様にもちゃんと愛が伝わっていたって事だ。本人は絶対にさせないって言ってたが……。ああ、全く不甲斐無い。連中も、そして俺自身も……。

 

 

 

「んじゃあ、退去の時間が来るまでオジさんの相手をしてくれや。なーに、ちょいと遊ぶだけだからよ」

 

 とても遊ぶって態度じゃない二人だが熱いねぇ。若いってのは良かったり悪かったりだぁな。俺が更に人差し指だけ伸ばして、これだけで相手をしてやるって暗に伝えたら更に怒って……単純だぜ、お二人さん? 片方の手を当てた首をグキグキ鳴らし、スクルドの嬢ちゃんがちゃんと下がってるのを確かめるなり一歩踏み出し、地面を踏み砕いた。

 

「ちっ!」

 

「おいおい、舌打ちとか行儀が悪いぜ、ハティちゃん。お祖父ちゃんに怒られても知らないからね、オジさんは」

 

 俺が足を踏み下ろした地点を中心に激しく割れた地面が隆起し、咄嗟に後ろに飛んだ二人。リターンチャイムを見れば残り時間は十分。さて、オジさんからすれば無駄だが格式美って事で一丁やりますかね。

 

 

「俺はクロウ・クルワッハ! バロール神に仕えし闇の塔喰らい(バベルイーター)だ! ……あー、どうも性に合わないな、こーいうのって」

 

 どうも気恥ずかしさとか有るんだよねぇ……。

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