伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
高く飛び上がり、体重を乗せた全力の一撃を叩き込む。人間相手にレヴァティンを振るうなんてした事が無いが、俺の本能が告げていたんだ。目の前の男は人間じゃなく、別のとんでもない化け物だって。俺の攻撃をクロウは避けようともせず、そのまま叩き込む。
「んな馬鹿なっ!?」
手に伝わったのは鈍器で巨大な鉄塊でも殴り付けたみたいな痺れと感触。さっき暗に告げた通りに右手の指だけでレヴァティンの刃を受け止め、押し込もうとしても全く進まない。
「……う~ん。力も足りない技も足りない。そして何よりも覚悟が足りなくて無意識の内に加減しちゃってるのかな? 少年、人を斬った事無いでしょう? 炎出さなきゃ、炎。ほいっと」
「げっ!」
クロウは俺に呆れながら諭す口調で告げると軽く指を振るう。それだけで俺は後ろに飛ばされ、真横をハティが突き進む。
「ふっ!」
姿勢を低くし、指先を曲げた右腕をすくい上げる様に振るえば地面に五本の深い爪痕が刻まれたけどクロウには避けられてしまった。俺のは避けずに受けたってのに腹立つな。避ける必要すら無いって事かよ。
「殺気がだだ漏れ。その上で攻撃の軌道が丸分かりだねぇ。……って、さっきからアドバイスとか何やってるんだろ、オジさんは。これじゃあ帰ったら怒られそうだ。スクルドちゃ~ん。減給嫌だから黙っていてくれないかい?」
「は、はひっ! 頑張ります!」
俺達との戦いの最中だってのに随分と余裕だな、此奴。ヘラヘラしながらスクルドって子にお願いしてるけど、あの様子じゃ顔見れば何か隠してるってバレバレだろ。あっ、不安そうな顔になりながら自分の服見てる。
「ねぇ、出来れば服には傷が付かない方向でお願いしたいな。オジさん薄給だから替えの服も殆ど持ってないのよ。酷くない? オジさんだけ装備が支給されない上に着替えないと汗臭いとか不潔だとか言われるんだぜ?」
「ああ、確かに臭うな。加齢臭が」
「えぇっ!? マジで臭うっ!? おいおい、未だ先だって思ってたのにショックだわ」
「大丈夫です、クロウさん! 少ししか臭くないですから!」
「……それ、少し臭いって思ってたよね?」
「あわわわわっ!? ごめんなさ~い!」
ハティの言葉に少しショックを受けたクロウはおどけた様子で自分に腕に鼻を近付けるが、思わぬ追撃を受けてうなだれた。彼奴、天然って奴だな。それもロザリーとは違うタイプの……。自分の発言が不味いと気が付いたのか慌てた様子のスクルドだが、もう戦いって雰囲気じゃ無いよな。
「……おい、オッサン。矢っ張りアンタは気に入らないぜ」
「そりゃ敵だからね。少年がそんな風に思っても仕方無いさ」
「さっきからヘラヘラして真面目にやらないで俺達を舐め腐りやがってる上に……目が全然笑ってないだろ、アンタ」
「ありゃま。気が付いてたんだ。感心だねぇ」
「この……っ!
そうだ。会った時から不真面目でこっちの敵意を飄々と流している癖に目が全く笑ってなかった。敵意を感じさせないで友好的にさえ見えるのに一切油断していないんだよ、此奴は。俺の指摘を受けても全く態度を変えない様子に苛立ちが募る中、クロウの真横からハティが襲い掛かった。
四足獣みたいに姿勢を低くして枯れ草に身を隠し、クロウが俺に意識を向けた瞬間に飛び出して爪を振るう。斜め下から振り上げた一撃はクロウが大きく状態を後ろに反らした事で空振りになるが、飛び出した勢いを乗せた飛び回し蹴りが振るわれる。
「おっと。気が付かなかったよ。凄い凄い」
指先だけで爪先を受け止められたハティはそのまま着地、拳や蹴りを放つがクロウには掠りもしない。その上拍手までされるとか、余計に苛立って攻撃が荒くなってるぞ。
「嘘付け。どうせ気が付いていただろう」
「まぁね。オジさんも結構鼻が利くのさ。まあ、スペックでのごり押ししか出来ない君とはちょっと違うかな?」
「落ち着け、ハティ! 挑発に乗ったら思う壺だ!」
「私は落ち着いている!」
駄目だ。こりゃ口で言っても意味が無なと俺もレヴァティンを構えてクロウに向かって行く。ハティの両手を交差させて振るう爪を伏せて避けたクロウが額に指先を当てれば縫い付けられたみたいに動きが止まり、そのまま俺が背後から斬り掛かれば指を支点にして飛び上がって避ける。
「惜しい惜しい。今のは及第点に近かったぜ?」
「このっ!」
額に当てられた指に押されて後ろに仰け反らされたハティは仰向けに転び、クロウは空中で一回転して着地する。汗の一滴も流しちゃいないし、随分と余裕って顔だ。
「……強い」
「まあ、今の君よりはね。でもハティちゃんも中々だよ? 多分オジさんが同じ年齢の時は君より弱かったよ」
「ちぃっ! 随分とふざけた態度を続けよって! ……だが、このままでは不味いな」
「ああ、余裕綽々の顔に一撃入れなきゃな」
俺達の攻撃は傷一つ所か掠りもしてない。力も技も経験も向こうが完全に上って事だ。でも、だからってやられっぱなしってのは駄目だろ。ハティはその場で飛び起き、俺は横に並ぶ。そろそろ向こうが言ってた時間が近いし、絶対に顔面に拳を叩き込んでやりたいが……。
「……仕方無いか。おい、アッシュ。こっちを向け」
「うん? 何で……むぐっ!?」
反応した胸元を掴まれるなり引き寄せられ、唇に唇が押し付けられる。
「いやいやいやっ!? 何やってるのさ、君達っ!?」
「は、はぅうううう……」
返す言葉も無いぜ。スクルドは俺達の姿を真正面から見ちまって真っ赤だし、クロウは慌てて俺達との間に入って壁になる事で見えなくする。
「あっ、こら。スクルドちゃんは子供なんだから見ちゃ駄目だってっ!」
本当に戦いの最中に何をするんだって話だ。抵抗しようにもハティの方が力が強く、口の中に舌をねじ込まれて動かされても抗えない。時間にして十秒にも満たない間、俺の口の中は一方的に蹂躙された。
「……後は任せたぞ。気張れよ? 我が主」
「いや、お前何を……何だっ!? ……力が湧いて来る?」
口の中から喉に向かって熱い物が流れ込み、全身に広がると同時に力が漲って来た。これはエナジーストーンを吸収して強くなった時に感じる高揚感と同じだ。まさか今のキスの時に何かをしたのかと思ってハティを見た時、前のめりに倒れそうになっていた。
「おいっ!?」
「……平気だ」
「何処から見ても平気じゃないだろ!」
慌てて支えれば頼り無いと足取りながらも体勢を整える。だけど押せば倒れそうだし、本当に何をやったんだ?
「……力の譲渡だよ、少年。その様子じゃ教えて貰って無いみたいだけれどさ。今日、ちょっと調子良かったりしないかい?」
空気が変わった。圧し潰されそうな重圧がクロウから放たれ、まるで言葉の一つ一つが重量を持っているかの様にのし掛かる。得たばっかりの高揚感は消え失せ、息苦しさすら感じる。これは俺が気圧されているのか?
目の前の軽薄な男が今は巨大な竜にさえ見える。おいおい、本当に本気じゃなかったんだな。
「俺達
「……そうか。今日絶好調だったのはハティが知らない間に力を貸してたからか」
一度出したっきりの力が思うがままに使いこなせて喜んでいたが俺の力って事じゃ無かったんだな。ぬか喜びだった事を責めるのかってクロウは俺に聞いているんだ。答えは既に出ている。
「ありがとうな、ハティ。お陰で何となく感覚が掴めた。後は俺の力で使いこなせるようになるだけだ」
「……アッシュ」
「はっ! 黙ってるとか水臭いな。俺が責めるとでも思ったのか? そんな訳無いだろ」
意外そうな顔をするハティに笑みを向け、そしてクロウに向き直る。バロールの配下とかワルキューレの事とか知りたい事は沢山有るし、正直言って少しビビったままだ。でも、仲間が此処までお膳立てしてくれたのに立ち向かわないって選択肢は無いだろ。
「……やる気みたいだね、少年」
「……アッシュ。アッシュ・ニブルヘルムだ」
「そうかい。アッシュ君……いや、アッシュ。今からちょっとだけ力込めた一撃を放つからさ……死ぬなよ?」
クロウは一瞬で大量の空気を吸い込み魔力を高める。口の中が煌々と輝いたと思った瞬間、耳をつんざく様な咆哮と共に破壊が放たれた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」