伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
目の前に広がるのは破壊の奔流だった。クロウが吐き出したブレスは地面をひっくり返して土砂を巻き上げ、枯れ草を微塵にしながら突き進む。その破壊力も範囲も突き進む間に上がり続けていた。
「……行くぞ」
剣の柄を握る手に力を込め、緊張も恐怖も押し込めて進む。背後には立っているのも辛そうなのに腕組みをして俺の背中を見守るハティの姿。俺が負ければ一緒にブレスを食らって仲良く終わりだ。なら、負ける訳には行かないよな?
近付く程に威圧感は増し、押し込めた緊張と恐怖が頭を上げる。歯を食いしばり、足に力を込めて目前に迫ったブレスに向かってレヴァティンを振り下ろした。腕に掛かる途轍もない衝撃。今にもバランスを崩して吹き飛ばされそうになるのを堪えて踏み留まる。
「臆するな。迷うな。信じろ。自分を信じて突き進め」
刃を覆う青い炎は勢いを増し、接する地点を境にブレスによる衝撃と共に左右に割れて破壊を振りまいた。腕も顔も余波を喰らって血が流れ出るが、徐々に、それでも確かに俺は前に進み続ける。
「が、頑張って下さい、クロウさん!」
ブレスと炎がもたらす破壊の轟音に掻き消されながらも聞こえたのはスクルドの声。今にも泣きそうで、そしてクロウの勝利を願う声を受けてかブレスの勢いが増し、俺は押し戻されそうになった。
「ぐっ! ぐぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
おいおい、こんな所で負けてられるか。向こうが仲間の声援を受けて力を発揮するってんなら、俺は声援を受けた上に仲間の力を借りてるんだ。行け。進め。絶対に負けるな。あの野郎に一泡吹かせずに終わってたまるか!
余波が体を傷付けるのも気にせず俺は突き進む。炎とブレスが拮抗するなら炎を圧縮すれば押し勝てるよな? 炎を凝縮した事で確かに刃はブレスを切り裂くが、左右に分かれた事で開いた隙間はほんの僅か。はみ出した部分は多少威力が落ちたとしても問題無い程のブレスを浴びる事になる。だが、止まらないし止まれない。
「行け!」
背後から届いた声。それが俺に更なる力をくれる。徐々に進んでいた足は速度を増し、炎はブレスの内部を突き進んだ。そして遂に辿り着く。腹が立つ事に感心した様子のクロウの顔面に向かって炎全てを解き放てばブレスを完全に抑え込み、俺は拳を振り上げて炎の中に飛び込んだ。
剣を握っている間は感じなかったが此処まで力を込めれば制御不足なのか使い手の俺の肌まで炎の熱が容赦無く焼く。だけど……。
「それがどうしたっ!」
火傷を負うより、此処で一発も入れられずに終わる方が嫌だ。俺が肌を焼く熱を堪え、一気に拳を突き出せば硬質な感触が伝わる。そしてそのままクロウの顔面に触れた拳を振り抜いた。
「おらっ!」
拳に伝わる堅く重い感触。まるで巨大な岩でも殴り飛ばしたんじゃないかって錯覚が俺を襲い、続いて拳に痛みが走る。こりゃ骨にヒビが入ったかもな。痩せ型って訳じゃないが、あの見た目でどんだけ重いんだよ。
「着痩せするにも程があるだろが……」
「あれ? 拳痛めちゃった? まあ、素手で殴るのに拘った代償って事で勘弁してよ。その程度なら魔法で治るじゃないの」
「……それでどんだけ頑丈なんだよ。いや、アンタもしかして自分から衝撃殺したな」
「あっ、バレた? 鋭いじゃないの。そういった勘って大切だよ」
「隠す気無かっただろ。食えないオッサンだな」
俺が拳を痛めてまで殴ったってのにクロウはヘラヘラと笑って怪我一つ無いどころか俺の心配をする言葉まで投げ掛けて来る。これは拳を振り抜けたのはクロウが衝撃を和らげる為に体を動かしたからだな。しかも隠す気は無いんだから嫌な性格をしてるぜ。
「おっと。時間が来たみたいだからお別れだ。んじゃ、元気でね、アッシュ君とハティちゃん。おいおい、そんなに睨むなよ」
クロウとスクルドから聞こえる鐘の音。リターンチャイムで設定していた時間が来たから強制的に脱出する合図。つまりはお情けで一撃マトモに入れただけで終わり。……要するに俺の完敗だ。悔しいからせめて睨むがヘラヘラ笑ってるだけ。
だけど消え去る寸前、急に真面目な声で囁かれた。
「……気を付けな。糞ったれな神の娯楽で君は太陽の主と争う運命にある。……抗え。あんな連中の玩具になるな」
「お、おい!? それは一体……」
呼び止めるもクロウの姿は消え去り、意味深な言葉が耳にこびり付く。太陽ってスコルの事か? なんか絵本の事みたいだよな。じゃあ主は……。
「いや、そんな訳無いな。くっだらねぇ」
一瞬浮かんだのはリゼリクの顔だが、彼奴と俺が争うなんてプリンの食感はプルプルとネットリのどっちが良いかって事位だ。
「ありゃ悪戯だな。……そうに決まってる」
不安はあるが、俺は会ったばかりのオッサンよりも長年の親友との絆を信じる。本当に質の悪い冗談だぜ。
……この時、俺はそう思っていた。用意されていた運命を、それを用意した連中について知るまで信じていたんだ……。
「……おい、アッシュ。あの加齢臭がこの様な物を投げて寄越したぞ。この
「加齢臭って……酷い呼び方だな」
「知るか。私は鼻が利くんだ。近付いて戦うのも嫌だったぞ」
ハティは眉間にシワを寄せて忌々しそうに青い玉を指先で摘まむ。いや、仮にも父親の飲み仲間だって話だし、ちょっと酷くないか? 余程臭かったのか鼻に手を添えたハティはコアを口の中に放り込んで飴玉みたいに噛み砕く。
「うおっ!?」
突然の揺れ。しかも地震と違って一瞬で止まらずに揺れ続け、光が周囲を包んで眩しさのあまりに目を閉じる。……はっ!? 目を開けた時、俺が居たのは枯れ草が生い茂る荒野じゃなくて廃墟になった塔の内部。俺が餓鬼の頃に遊び場にしていた場所と同じがらんどうの塔の中だった。
「……ちょっと様子を見に行くだけじゃなかったの?
「ちゃんと私も誘いなさいよ。経験にならないじゃない」
少し離れた場所に居たロザリーとミントも目の前に居るし、これが破壊された
「ヨッシー!」
「無事だったでザンスか!?」
壊れた門の方から慌ててアンナとミヤーノが気絶したままのヨッシーに駆け寄って来た。……まあ、クロウの件は不満だが、こうやって助けられたのは良かったな。
「なあ、ミント。彼奴達の今後はどうなるんだ?」
「さあ? 全部ギルドに丸投げするし、私には分からないわ。でも……今は暖かく見守りましょうよ。罪が軽かったら良いのにって」
「……だな」
正直言って未だ違法探求者って事で良い印象は抱いていない。だけど今は無事に三人揃った事を喜ぼうか。
「これから大変だぜ、連中」
「アンタもね」
「うん? それは一体どうしてだよ?」
一体全体どういう事だ? ミントはさっさと我関せずって感じに去って行って俺は取り残される。慌てて追いかけようとしたのは質問をする為……だけじゃない。何か嫌な予感がしたから逃げ出そうとしたんだ。……結果を先に言えば遅かった。
「さて、アッシュ。帰ったら風呂に入るぞ。約束通りに私の髪と背を洗え。それ以上進まないかどうかは……保証出来んな」
「……私とのデートも。丸一日する。お早うからお休みまで。……ベッドもお風呂も一緒」
両側から二人が腕に抱きついて睨み合う。ミントが言ってたのはこれかよっ!?
「お、おい。二人共、一旦離れてくれ」
「「却下」」
「……そうか」
振り払おうにも振り払えず、頼んでも離れてくれそうにない。こりゃ本当に大変だな。今後の苦労を予想したら溜め息が出そうだ。でも、こんな程度じゃ止まってられないぜ。外に出て振り返れば随分と小さくなった
「……此処からだ。此処から積み重ねて……何時の日か絶対に全ての
強く心に誓いながら口にする。絶対に成し遂げると誓いながら……。
「……さて、今回はご苦労であった。我々以外の者が降臨する祭壇など不要。今後も貴様には期待しよう」
アッシュ達の居る場所から遠く離れた地。何処かの国の王城の地下にて相手を見下しているのを隠す気もない声が響く。
「そりゃどーも。今後も頑張りますよっと」
神々しさすら感じる部屋の中、声を発する石像に囲まれるクロウは一切態度を変えず、その事が不愉快なのか歯噛みする音も聞こえて来た。
「それで他の
聞こえたのは少女の物と思しき声。時々猫が喉を鳴らした時と同じ音が混じっている。
「さあ? 鳥の奴は姿隠してるし、象のは例の国に居ますからねぇ。狼は……さっぱりで」
「さっさと見付けるニャ。ゲームのお邪魔キャラはさっさと処分して私達だけで競うべきだからニャ。まあ、四つの席の内の一つはこのパス……」
飄々と適当に受け流すクロウに少女の声は苛立ちが混ざり、室内には異常な重圧が満ちる。だが、部屋の中の神々しい気配は急に消え、石像からも声が発せられなくなった。
「……ったく、鬱陶しい連中だぜ。漸く時間切れかよ。全部思い通りに行くと思いやがって。……これだから神って連中は腹が立つ」
クロウはアッシュ達の前では見せなかった怒りの姿を見せ、直ぐに元の顔に戻った。
「……悪いな、バロール様。俺、アンタを裏切らせて貰うわ」
取りあえず一巻分終わり 次は賢者書きつつ細かい構想を