伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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この作品、実はもう片方の連載の外伝です


補食

 ルノア姉ちゃんは俺とミントを抱えたままグングン速度を上げて突き進む。もうちょっと小さい頃に背中に乗せて走って貰った記憶が有るが、その時よりもずっと速くて乱暴だ。上下に激しく揺れるし、ルノア姉ちゃんがぶつかって折れた枝が偶に当たって凄く痛い。てか、酔いそうだ……。

 

「ルノア姉ちゃ……」

 

「舌噛むから黙っとけ! 悪いけど今は(バベル)から離れるのが先決なんや! ロザリー! もうちっと速度上げても大丈夫やな!?」

 

「うん、何とか……」

 

 俺なんて既に後ろに向かって飛んで行く景色をが目で追うがやっとだってのに、ロザリーは無表情に少し疲労の色を浮かべながらもルノア姉ちゃんに着いて来れている。ミントとリゼリクなんて既に気絶してるってのに、本当に此奴は無茶苦茶だ。天才ってのはこんな奴を示すんだなって嫉妬混じりの関心をしていたらロザリーと目があった。

 

「大丈夫。私よりずっと弱くても、アッシュは十分強い」

 

「おーい。それってフォローになってへんで、ロザリー。挑発になっとるし、アッシュが怒鳴ろうとして舌噛まんように黙っとこうか」

 

「?」

 

 そして天然だ。今の言葉、俺を見下す気なんて毛ほども無いってのは伝わってる。ロザリーは感情を表に出すのが苦手だが、ちゃんと友達思いの良い奴だからな。……ちょっとズレてるけれど。

 

「……さてと、アッシュは兎も角、ミントとリゼリクは限界やし、此処まで離れたら大丈夫やろ。黒でもない限りってのが付くけどな」

 

 俺もそろそろ胃の中が逆流しそうでロザリーも少し速度が落ちて来た頃、ルノア姉ちゃんは足を止める。既に村は遠く離れて豆粒程度にしか見えないが、今居る場所は少し高い丘の上だから光の輪がハッキリと見えた。そして徐々に光は強くなり、空に向かって光の柱が立ち上る。

 

「……ギリギリやったな。光の輪が見えへん場所で気が付かずに遊んでたら終わってた距離や。……でも一応もう少し離れるで」

 

「うん。念には念」

 

 俺達の村を飲み込んで姿を現した光の柱の色は黄色。ロザリーとルノア姉ちゃんは少しだけ安心した顔だ。それでも俺達三人を担いだまま二人は丘を更に登って距離を開ける。漸く落ち着いて、未だ混乱している俺は気になっていた事を尋ねる事にした。

 

「ロザリー、さっき言ってた(バベル)が生まれるって一体……」

 

「……学校で習った。アッシュ、本当に探索者になりたいの? 知識、大切」

 

「うっ!」

 

 無表情だがハッキリ分かる。ロザリーの奴、完全に呆れていた。でも、仕方が無いんだ。俺は体を鍛える為に授業中は眠って体力を温存してたし、困った時はロザリー以外にもミントやリゼリクに聞けば大体分かったし……。でも、探索者に必要な事は少しは学んでんだ。(バベル)内部での動き方とか中心で、その他は少ししか勉強してねぇけど。

 

「……お喋りは其処までや。ちゃんと見ておきや。(バベル)が夢を馳せて飛び込む場所なだけやなくて悪夢を生み出す場所とも呼ばれる由縁をな」

 

「ルノア姉ちゃん?」

 

「黙っとけ」

 

 何だよ、そんな顔が出来るんじゃねぇか。二年前の一件以降は酒やギャンブルに夢中になって四六時中だらしない顔ばっかの駄目人間っだったのに、今は(バベル)に今から向かうぞって時の真剣な顔で、俺を一睨みで黙らせて柱の方を向かせる。

 

 一体何が起きているんだと思う俺だが、実は少し予想が出来ていたんだ。只、認めたくなかった。だって村には母さんが居て、三人以外にも友達やその家族が居る。だから目を逸らしたかった。

 

 

「……始まるで。探索者になろうってんなら絶対に忘れるなや。今から起きる光景を目に焼き付けろ」

 

 雲の上まで届きそうな程に高く伸びた光の柱は突然消えて、代わりにこの場所からでもハッキリと見える程に巨大な建造物、(バベル)が姿を現した。光と同じ青色で窓は存在しない。唯一の出入り口の門が静かに開き、死が広がり始める。俺達が育った緑豊かな森は(バベル)を中心にして全く別の物に変わっていった。

 

「森が枯れて行く……? 何で……」

 

「言ったやろ? 補食や、補食。……ああやって(バベル)が生まれた時と成長する時、周囲一体から生命力を吸い取る。それを補食って呼ぶんや」

 

「補食からは誰も逃れられない。どんなに強くても、例え同じ(バベル)でさえも食い殺される」

 

 鮮やかな緑の葉を茂らせていた木が急速に萎れ、地面に溶けるように消えて行く。暑い日は皆で水浴びに行った川も乾いた砂が水を吸うみたいに干上がり、大地は急速に命の輝きを失って行った。

 

 死が広がる大地の上空を飛んでいた渡り鳥の群れも次々に墜ちて行き、地面にぶつかった時は骨だけになって砕け散った。鳥だけじゃない。異変を感じて親子で逃げ出した鹿も骨になって崩れ落ち、干上がった川に取り残された魚も一瞬で骨になる。

 

 死だ。死しか存在しない。俺達が生まれ育った森は死の世界に変わってしまった。残ったのは命が一切感じられない広大な広野と、その中央にそびえる巨大な(バベル)。俺はこれが現実だって思いたくなかった。悪夢であって欲しいと願ったんだ。

 

「お、おいっ! 母さんはっ!? 村の皆は建物の中に……」

 

 俺は僅かな希望に縋り付く。そうだ。森は死んだけれど、村は(バベル)の中に取り残されているだけかも知れない。(バベル)の中にはモンスターが出るけれど、村にだって引退したけどナインテイルフォックスのメンバーだった人も居るし、その人達が守っている間に救助に向かえば助かるかも知れない!

 

「なあ、もう補食は収まったみたいだし、急いで皆を……」

 

 俺はルノア姉ちゃんに今すぐ助けに行こうと言おうとして言葉を止める。ロザリーが泣いていたんだ。普段は本当に表情を変えない奴なのに、膝から崩れ落ちて涙を流していた。ああ、そうか。母さんは、村の皆はもう……。

 

「うあ……うああああああああああああああああっ!」

 

 この日、俺はみっともなく大声で泣いた。その泣き声で目を覚ましたリゼリクとミントも泣いて、ルノア姉ちゃんは俺達が泣きやむまで四人揃って抱き締めてくれていた。きっと自分が一番泣きたいのに。父さん達仲間を目の前で失って、今度は故郷まで失って……。

 

 

「おい、皆。絶対探索者になろう。探索者になって、俺達の故郷を奪ったあの(バベル)を破壊するんだ。いや、あれだけじゃない。世界中の全ての(バベル)を壊せる位に強くなって、世界を救った英雄になろう」」

 

 涙を拭いながら俺は誓う。この日、只の憧れから英雄を目指していた俺は変わった。それは故郷を、家族を奪われた復讐心であり、同時に俺達みたいな奴らの為にも一本でも多くの()を破壊してみせるという目標だ。

 

「……ルノア姉ちゃん、俺を鍛えてくれ。言う事をちゃんと聞くから。だから俺を強くしてくれ」

 

「ぼ、僕も! 僕も強くなりたい!」

 

「姉さん、私も!」

 

「お願いします」

 

「……先ずは数日間休んでからや。気の高ぶりが収まって恐怖が出て来た後からよーく考えなあかん。恐怖は大事やが、飲まれとったら死を招くだけやさかいにな。取り敢えず街に行こうか。彼奴にも村の事を伝えなあかん。ほれ、ひとまず大きく息を吸って」

 

 俺達を落ち着かせる為か軽く深呼吸の真似をして、俺達も後に続く。もう十分に泣いた。なら、俺が次にすべき事は一つだ。

 

「……来い」

 

 (バベル)を睨みながら右手の中指に填めた金色の指輪に触れる。そのまま念じれば指輪が輝き、俺の手には刃が鈍く輝く剣が握られていた。父さんがこの剣を使っていた時はもっと輝いていた上に炎に包まれていた。腕にずっしりと掛かる重みに耐えながら刃の切っ先を正面に向けた。

 

「この重さも切れ味の悪そうな見た目も俺の弱さの証明だ。だがな、何時までも弱いままだと思うなよ。絶対に此奴を使いこなし、伝説の聖剣にだって選ばれてやる。……見てろ。絶対お前をぶっ壊してやるからな」

 

 この日、俺達は決意を共にした。このまま四人で一緒に歩んで行くんだろう。……この時の俺はそれを信じて疑わなかったんだ。

 

 

 

 そして気が付きもしなかった。ルノア姉ちゃんが複雑そうな顔で俺達を見ている事に。

 

(バベル)を壊す、か。それが何を意味するのか、未だ話さん方がええやろなぁ……)

 

 この時、俺は予想もしていなかった。(バベル)に隠された残酷な真実を俺は何も知らなかったんだ……。

 

 




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