伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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お仕置き

 ナインテイルフォックスじゃ食事当番は交代制だ。昔はニーナ姉ちゃんの世話になってたけど、団員じゃないからって俺とミントが頑張ったんだ。じゃないとルノア姉ちゃんの飯を食う事になるからな。

 

「……むぅ。飾り切りとやらをしてみたかったのだが難しいな」

 

「そういうのは普通のをマスターしてからやろうぜ。それと朝は忙しいからな。サッと作ってバッと盛るんで良いんだよ」

 

 新しく入団したハティも当然だけど当番が回って来る。だが、此奴は家事が全く出来なかった。肉は生が一番美味いだの掃除は魔法で風を起こして埃を外に出せば良いだの無茶苦茶だ。だけどルノア姉ちゃんの飯を一度食って、俺やミントに何かあったら毎食これになるって脅したら練習を始めてくれて、今みたいに手伝いをしてくれている。

 

 何時もの黒いドレスの上からエプロンを着て、長い銀髪を後ろで束ねて四苦八苦しながらも包丁を握る。今じゃ少しは興味を持ったのか今みたいに野菜の切り方に工夫を加えようとしてる程だ。下手くそだけどな。それでも続けたらマシになるだろ。

 

「最初の頃はくだらないとか言って適当にやってたのにな、お前」

 

「群れに属したならばルールは守らねばと思っただけだ。それに貴様、こうして家事をやっている私に好意を持っているだろう? ふっ! 力が漲るのを感じるからな。……今晩どうだ?」

 

「お断りだ。ったく、面倒な奴だぜ。ほら、運ぶぞ」

 

「まあ、それで良い。今はな……」

 

 好意を力の上昇って形で察するから誤魔化しも利かないし、何か気恥ずかしい。そんな俺の内面を見透かした態度を取るハティと一緒に皿を手にしてテーブルに向かった。

 

「ん? その本、何処に有ったんだ? 探したけれど見つからなかったのに」

 

 俺が飯を作ってる間にミントはテーブルを拭いて準備をして、ルノア姉ちゃんは新聞を広げて飯を待つ。そして今朝急に訪ねて来たスコルは古い絵本を読んでいた。

 

 この世界で崇められてる四神の物語を纏めた少し分厚い本で、元々はナインテイルフォックスが大規模だった頃に団員の子供が拠点に来た時の為に置いてた物。遺族への補償金やら資産の分配やらの際に倉庫に放り込んでた奴だ。

 

 俺、昔から本とかそんなに読まなかったし、小難しい話は聞くのも嫌だったんだが、クロウとの戦いの後で気になって探してたんだ。裏表紙の落書きはルノア姉ちゃんが小さい頃にしたって奴だし、探したけれど見付けられなかった奴で間違いないんだが……本当に何処に有ったんだ? ちょっと気になっただけだけど、探し物が見付けられないってモヤッとするもんな。

 

「この本、リゼリクが借りてて忘れてた奴。我、用事があったからついでに持って来た」

 

 本の有った場所が分かってスッキリした反面、探し回った時間が無駄だって気がするのはちょっと嫌だな。にしても用事って何だ?

 

「でも、その前に……ハティ」

 

「は、はい!」

 

 スコルは少しだけ目を細め静かな声で妹の名を呼ぶ。何かルノア姉ちゃんとミントを見ているみたいだな。見た目年齢完全に逆だし。てか、ハティは随分ビビって身を竦ませたけど……。

 

「あの、姉様? 私に一体何用で……」

 

「全裸で窓開けたら駄目。我、お仕置きする」

 

 ……うん。マジでミント達にそっくりだわ。

 

 

 

 

 

 俺は一人っ子だったが、村は小さくて住民の距離が近かったから近所のチビ達の世話をしていたし、普通は兄や姉が弟や妹の世話を焼くし、悪さをすれば叱るもんだって思ってる。いや、凄い身近にルノア姉ちゃんとミントって例外は有るけれど、次女のニーナ姉ちゃんはちゃんとミントの世話を焼いていたからな。ルノア姉ちゃんのも焼いていたけれど……。

 

「ハティ、反省」

 

「ひゃう! ぴゃう!」

 

「あと二十回」

 

 だから目の前の光景は何一つおかしな物じゃない筈なんだ。躾の内容だって虐待にしか見えないの以外は他人が口出すのはどうかと思うし。だって家庭ごとに考え方が違うんだから。

 

「ア、アッシュ。主なんだから助けろ……。私を助けて……ぴゃっ!?」

 

 だから俺は目の前の光景に口出し出来ないでいた。ソファーに座るスコルの膝の上にうつ伏せに寝転んだハティは服の裾を捲って尻を露出し、スコルの小さな手による平手打ちが行われていた。一発ごとに乾いた音が響いてるし、ありゃ痛そうだ。俺達も餓鬼の頃は悪さしたら尻を叩かれたから痛いのは知っている。ハティの白い肌は尻の部分だけ赤くなり、涙目で上げる悲鳴は本当に辛そうだ。

 

 こりゃ見てられないし、流石に止めようと思ったんだが止められない。助けを求める声に思わず立ち上がろうとした俺だが、スコルの何処を見ているのかさえ不明な目で見られたら体が動かなくなったんだ。まるで巨大な狼を前にした野ウサギの気分だぜ。

 

 同じ理由で目を逸らそうにも気迫が凄くて逆に逸らせない。結果、どう見ても上下が逆な姉妹による尻叩きの様子を終わるまで見せられていた。……いや、本当に十歳位の女の子が俺と同じ年頃の奴の尻を叩くとか異様な光景だよな。だから変な気持ちじゃ見てないぞ? ハティの尻に目が釘付けになったりなんてして……ないからな?

 

「……反省してる?」

 

「し、してるぞ! 姉様は私が信用出来ないのか!?」

 

「出来ると思う?」

 

 あっ、これは絶対に前から何かやらかしてるな。俺は何となくミント達姉妹に目を向ければ二人揃って共感と同情の視線を別の相手に向ける。どっちがどっちかは言うまでもないよな?

 

 

「立場が違っても姉妹ってのは何処も同じなのか?」

 

 だからこんな呟きが出てしまうのも自然な事だった。そして会話をしながらも続けられるお仕置きの最後の一発は今までで一番音が響き渡り、解放されたハティは屍の様に力無く横たわっていた。

 

「ミント、回復したれや」

 

「あら、駄目よ。少しの間痛みが続くのもお仕置きの内なんだから」

 

 姉妹でこの対応の違い。普段どっちがどっちの立場なのか知らない奴でも丸分かりだ。き、気まずい。俺が何か言って空気を変えるべきなのか? だけど何の話題なら……。少しの間、足りない頭を働かして思い付いたのは共通の仲間であるリゼリクについてだ。今日は一緒に居ないけれど普段は仲良くしているみたいだし、居ないからこそ話せる普段の様子だって有るはずだもんな。

 

「なあ、スコル。リゼリクとはどんな風に仲良くしてる?」

 

「我とリゼリクが?」

 

 よし! これで空気が変わるぞ! そんな風に一安心したのも束の間、慌てた様子のミントとルノア姉ちゃんが小声で話し掛けて来た。

 

「ちょ、ちょっと。流石に急に話されても困るわよ」

 

「そやで。心の準備ちゅうもんが有ってやな……」

 

「いや、リゼリクの様子を知る程度でそんなのがどうして……あっ」

 

 そうだった。先日もワルキューレの連中が拠点を襲った時も鼻眼鏡とかリアルな肉襦袢とか兎に角変な格好させて吊り下げたり、ロリコンになってたりと色々変になってたんだ。それがパンダーラの影響なのか元々の性癖なのかは知らないけれど、俺はあまりにも軽率な真似をしてしまったのか?

 

「我、こう見えてもリゼリクより年上。だから問題無い」

 

「何が!? い、いや、話さなくて良いから……」

 

「何故? 聞かれたから起きた事話す。楽しかった事、話すのも楽しい。我とリゼリク、この前一緒に遠くの街に出掛けた時も怪しまれてたけれど理由が分からない。その時に雨が降ったから宿で雨宿りしてルームサービス食べてベッドでゴロゴロして、その後気持ち良かった」

 

「ミント! アッシュ! ちょっと相談や! スコルはちょっと待っててや!」

 

「うん? 分かった」

 

 不思議がりながらも頷くスコルを部屋に残した俺達はルノア姉ちゃんの号令に応じて部屋から出て行く。こんな時は頼りになるぜ、本当に。……じゃあ、話し合わないとな。

 

 

 次にリゼリクと会った時、俺はどんな顔して会えば良いんだ?

 

 

「……姉様。それで何処まで進んだのだ?」

 

「足と腰を揉んで貰った。リゼリク、マッサージ上手。所で三人は何があった?」

 

「いや、うん。……気にする程ではない。姉様は暫くはそのままでいてくれ。妹からのお願いだ」

 

 

 

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