伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
野越え山越えひたすら進む。この道は何度も通った道、故郷があった場所へと続く道。少しは強くなったと思った度に通って、辿り着くまでの時間が短くなったのに少し喜ぶ。餓鬼の頃はあんなに必死で歩き続けたこの道も、今じゃ軽い散歩気分で進める様になった。
「……見えて来た」
少しだけ複雑そうな声のロザリー。視線の先には遊び場にしていて、何度も登ってはルノア姉ちゃんに怒られていた
「俺達が遊んでた時はもう少しマシな状態だったのにな」
「うん、雨風に晒されてるから仕方無いし、今じゃ壊したい気分。思い出の場所だけれど……」
何の覚悟も準備も無く故郷を、そして家族を失ってから九年。少しは強くなれたと思う。馬鹿なままだけれど知識だって身に付けて……いると思う。でも、足りない。今の俺じゃ全く……。
「アッシュ……」
この場所に来ると俺は毎回落ち込んでしまうんだよな。何度も自分が無力だって感じて、一緒に来た奴に励まされる。
ミントやルノア姉ちゃんなら姉妹揃って叱るんだ。頭を一発ポカってやって、不機嫌そうに文句を言う。
「馬鹿があれこれ考えんな。真っ直ぐ進むしか道は無いで」
「ウジウジ悩む暇があるなら鍛えなさいっての。悩んでたせいで弱いままでしただなんて笑い話にもならないわよ」
リゼリクだったら俺と同じで落ち込んで、それでも気を使って励まそうとするんだよな。
「が、頑張ろうよ。僕達は強くならなくちゃ駄目なんだから……」
そしてロザリーは……。
「……大丈夫。アッシュは強くなったし、これからも強くなれる。だって私が好きな人だから」
背中から手が回されて優しく抱き締められる。背中に当たる胸の柔らかさ、言葉を発した時の吐息がロザリーの存在を感じさせた。これで気が利いたなら……それこそロザリーと俺が恋人だったなら正面向いて抱き締め返してたんだろうが……。
「悪いな、ロザリー」
「何が?」
「いや、何でもない……」
チラッと後ろを見れば俺の言葉の意味が分からなかったのかキョトンとしているロザリーの顔が見える。こういう所が可愛いんだよな。その内陥落しそうだぜ。あれだよ、あれ。例のどっちが先に英雄になるかって賭けが無かったら変な意地を張らなかったんだろうけどな……。
だって負けた気がするじゃんか、受け入れたら。馬鹿だとは思うが男の意地って奴だよ。それに受け入れるなら受け入れるで正面からだ。中途半端な気持ちは絶対に駄目だからな。
「おい、行こうぜ」
「うん。でも……ちょっと疲れた」
ロザリーのお陰で少し持ち直したし、このままは気恥ずかしいから先に行こうとした時、俺は背中に重みを感じる。首に手が回されて背中にいっそう強く当てられる胸。ロザリーは俺の背中に飛び乗って体を密着させていた。
「いや、疲れたってお前……」
「疲れた」
「この程度で疲れる訳がないだろ? 変な事言っていないで……」
「アッシュはさっき謝っていた。だからお詫びにおぶって進んで」
「……分かった。でも、到着するまでだからな」
シャンプーの香りなのかサラサラの髪からは甘い香りがするし、ロザリー自体から良い匂いがするし、当たる感触は悪くないし、これも役得だって事にしておくか。頑固だから絶対に降りないだろうしな。鼻歌まで始めて随分と上機嫌のロザリーを背負ったまま遠くに見える
「ちなみに今日の私はノーブラ。……揉む? 後で揉む?」
「……揉まない」
「……意地っ張り。揉んで良いし、それ以上も……」
此奴、頑固なだけじゃなくて変な知識まで身に付けてるよな。光熱の剣ってマジでどうなってるんだよ……。
「団長以外は変人ばっかだっけ?」
「何人かは普通の人だって居るよ?」
「俺、何の事か一言も言ってないのに自分の所だって分かるって、ロザリーも変人揃いって認識してるんだな」
「うん。事実。現実は受け入れよう」
リゼリクもそうだけれどロザリーも変な風に染まって行くんじゃないかって心配になって来たよ……。
「こうして見ると思うよ。……命って凄いんだな」
あの日、俺達の故郷は死んだ。村は飲み込まれ、遊び場だった川も森も枯れて命全てが食い尽くされた。一切の命が感じられない死の土地。でも、あれから九年。少し、ほんの少しだけれど命が戻って来ている。足下には草が生え、飛び回る虫や、それを狙って鳥が地面に降りて来ていた。思い出に残る場所に比べれば全然だけれど、それでも命の逞しさに胸が熱くなる。
……そして人間も凄く逞しいってのを目の前の光景が教えてくれるんだが何だか微妙な気分になって来る。目の前には故郷を奪った憎い
「もう村よりも栄えてるよな、あれ」
「……うん。資金力が段違い。私達の村、貧乏だったから……」
一番近い街のダウロゴがGランクの
「Eランクだったか? そりゃ利益が段違いだもんな」
「気にしない気にしない。……ギルドの許可が出れば即座に壊す。その時はハティも一緒だけれど、今日は私とアッシュだけ。予行練習」
「まあ、そう思えば気が楽で良いな。頼りにしているぜ、ロザリー。これ、デートだからエスコートを任せるのはちょっと気になるけどな」
「デート、デート。アッシュとデート」
って、聞いちゃいないか。それだけ俺とのデートが楽しみにしていてくれるって事か。嬉しい事だな、ロザリーと一緒にキャラバンの露天を見て回る。少し高い料金の串焼き肉を買い求め、適当に腹を満たして
それじゃあ張り切って……。
「何やってるんだい、あの馬鹿は!」
「おわっ!?」
門に手を掛けた時に響いた怒声。思わず振り返った先に居たのはキャラバンの隊員に囲まれた大柄な婆さんだ。筋骨隆々の巨漢、怒りに任せて振り下ろした拳はテーブルだけじゃなくテーブルが置かれた地面さえ砕いた。何だ、あの婆さん。ただ者じゃねぇな……。
「特攻服だったか? 極東の服だよな、あれ。何かデカい文字が書かれてるけれど……読めねぇ」
「私、少し読める。ギリ……残りは無理」
婆さんの服に書かれた『義理命火羅』の文字。何となく格好良いと俺は思った。
「……真似しちゃ駄目だよ? アッシュがしたら馬鹿っぽいから、絶対」
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