伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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前回出た婆さん、本当はドレイク姐さんみたいなのにするはずだったんだ


何故か直前に海賊姐さんが空賊の婆さん寄りに  何故


試金石

 まるで天国に来たみたいだ、その場所に足を踏み入れた瞬間に俺は思った。澄み切った青空は何処までも広がり、足元は純白の白。餓鬼の頃に絵本で見て憧れた雲の上を思わせる世界。それがEランク(バベル)雲海の園(うんかいのその)』。俺達に忘れられない悪夢を植え付けた場所は本当に綺麗だったんだ……。

 

「……アッシュ、行こう。広いから離れないで」

 

 少しだけロザリーの声は苛立って聞こえるし、俺だって内心では少し怒っていた。この場所は俺達の故郷を、家族を、日常を奪った所なのに景色に目を奪われる自分が居たんだから。きっと俺も関係無い場所に現れた此処に来たなら素直に景色を楽しんだんだろう。でも、あの日の光景はそれをさせてくれない。この美しい光景は俺達の家族の命を奪った事で存在しているんだから。

 

「しかし本当に広いな。地平……なんだかの先まで広がっているじゃねぇか。こりゃ迷ったら大変だぞ」

 

「うん。本当はそれを口実にして手を繋ぎたいけど……怒りをぶつける相手が来たよ」

 

 この(バベル)の調査は終わっているけれど地図は殆ど役に立たない。多少の起伏があっても基本的に白一色の似た地形が続き、数少ない目印は下の階層に続く巨大な豆の木。一階に入ったのに下に続く塔って本当にどうなってるんだよ。まあ、元から常識が通じない場所だけどな。

 

 さて、お客様のお出ましだ。今の俺の試金石になって貰うぜ。

 

 雲の一部が盛り上がって形を変えて行く。現れたのは……猫? まるで綿の塊を猫の形に整えたみたいな見た目。開けた口の中も真っ白で遠くから見たら周囲に紛れてしまいそうだな。

 

「クラウドキャット。この(バベル)で一番弱いモンスター」

 

「要するにそんなの一匹に苦戦する奴には此処を探索する資格は無いって事だな。じゃあ、行くぜ!」

 

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら体を伸ばすクラウドキャット。見た目は可愛い猫だが目玉まで白一色な上に大きい。それこそ猫の仲間の肉食動物位にはな。どうやら俺達を獲物と認識しているらしいが、動き出すに向かって俺は一歩踏み出し、そして体がフワって浮いた。

 

 ……いいっ!? おいおい、どうなってるんだよ? 水の中みたいに浮き上がる力が発生したのか浮かんだ俺の体はゆっくりと下に向かい、生じた隙をクラウドキャットは見逃さない。短い鳴き声と同時に横からの猫パンチが俺に叩き込まれて吹っ飛ばされた。浮かんでいるからか随分な距離を飛ばされるけれど柔らかい雲の壁にぶつかったからそんなに痛くない。

 

「アッシュ、此処の壁は青。……ちゃんと覚えてる?」

 

「……あっ。そうだった、そうだった。青い壁の(バベル)は地形にご用心だったな」

 

 (バベル)は壁の色によって特徴が出る。この前破壊した死霊の合戦場は白で、ボスモンスターが多かった。普段入っている早瀬の塔は特徴の無い橙色。色によって補食の規模やら周期が違うんだが……すっかり忘れてたぜ。

 

「……ミントも苦労するね」

 

「あー、はいはい。今度からは苦手だからってミント任せにしないで勉強するよ。それより今は目の前の敵に集中する時だ」

 

 俺に向かって駆け出すクラウドキャットに真正面から迎え撃つ。慣れてない時に動いても足を掬われるだけだし、だったらどっしり構えて迎え撃つ! 大振りにレヴァティンを振り上げ、我が庭とばかりに慣れた動きで跳び掛かりながら振り下ろすクラウドキャットの足を切り飛ばした。断面まで真っ白で血も出ないのに痛がって地面を転がるクラウドキャットに剣を突き刺せば光の粒子になって消える。

 

「感覚的にはハンドラー位か? Eランク侮れねぇ。……俺には未だ早かったな」

 

 ハンドラーはGランクのボスモンスターだ。それが一番弱いモンスターと同程度って事は、この前進んだ先で遭遇するのは更に強い。しかもそれが大量に出て来るだろうしな。

 

「止める? 帰る?」

 

「いや、もう少し経験を積みたいから付き合ってくれ」

 

「うん。アッシュと一緒なら何時までも何処までも付き合うよ」

 

「そうか。感謝するぜ!」

 

 手加減されても勝負にならなかったクロウは格上過ぎた。だが、此処なら丁度良い。分かり易い程度に格上の敵が出るんだったら自分が取り敢えず目指す場所が見えるからな。

 

 そんな風に話している最中にもクラウドキャットが寄って来る。大体三匹……いや、周囲に紛れて隙を伺ってるのが二匹。冷や汗が流れ武者震いが起きる。

 

「ロザリー、手を出すなよ? 全部俺が倒すからな!」

 

 この前はハティがこっそり力を貸してくれていた。だが、今は前より強くなった。後はどれだけ強くなったのか確かめるだけだ!

 

 

「先ずは一匹!」

 

 真正面から突っ込んで来た奴の頭を縦に両断、僅かにタイミングを遅らせて来た二匹目が前足を振り下ろしたのを咄嗟に剣で受け止め顎に蹴りを叩き込む。仰け反るかと思ったんだが少し動いただけだ。でも、剣を押し込もうとする前足の力が緩んだので弾き上げて切り裂いた。これで二匹目だ。

 

 三匹目は仲間が二匹やられたのを警戒してか尻尾を上げたままソロリソロリと慎重に距離詰める。あー、こりゃ面倒だと跳び掛かった俺の体は予想以上に上に行き、チャンスとばかりに飛び付いたクラウドキャットの前足の爪が腹を掠る。防具を引っ掻いた事で金属が擦れる音が響き、それが嫌だったのか僅かに怯んだ顔面に蹴りを入れれば真下に落ちたが、あんな地面じゃ大して効いてないな。

 

「フシャー!!」

 

 鼻が曲がってはいるが三匹目は健在。蹴った感触もフカフカのクッションを蹴ったみたいだったし打撃に強いのか? 全身の毛が逆立っているのが分かり辛いけど見て取れる。どうやら随分とお怒りみたいで蹴り落とされたばっかりだってのに真正面からの突撃だ。

 

「これで三匹目!」

 

 刃を真下に向け、投げる。フワフワした力は地面に接した時に発生するのか特に抵抗無くレヴァティンは真下に向かい、空中で三匹目の体を串刺しにして地面に突き刺さる。今の俺は素手な上に落ち始めた最中。当然だけど隠れていた二匹が起き上がって左右から襲い掛かって来た。……読めてるんだよ、馬鹿が!

 

「戻れ、レヴァティン! そして来い!」

 

 俺の叫びと同時に地面に刺さったレヴァティンが消えて俺の手に指輪として姿を現し、即座に剣に戻って真横に振るえば二匹同時に切り裂けた。……うげっ! 柄が妙に熱くなったし、これはぶん投げたの怒ってるな。悪かったって。心の中で謝れば柄の熱は消えるけど、次に投げたらもっと怒りそうだな。父さんは平気で投げてたそうだし、俺が未だ認めて貰ってないって事か……。

 

「よし! これで全部……」

 

「ねぇ、アッシュ。……もう一匹居るよ?」

 

「ニャア!」

 

 着地して気を抜いた瞬間に警告がされ、間に合わず呼び出して来た六匹目に組み伏せられる。レヴァティンを握ってる右腕を押さえつけられて振るうに振るえない。これもまた父さんだったら好きな方の手に出せるんだがな……。

 

 見た目は雲の猫なのに生臭い息が顔に掛かり、俺の手を押さえつけてない前足が振り上げられる。狙ってるのは顔。さっき仲間が腹を狙って無駄だったからだろう。何も装備していない部分を狙った一撃は勢い良く振り下ろされ、それが届くよりも先にレヴァティンの刃から噴き出した青い炎がクラウドキャットを飲み込む。断末魔の叫びすら上げずに炎で焼かれた部分が蒸発し、直ぐに残りも消滅する。

 

「……炎に弱かったのか」

 

「うん。此処のモンスターは大体炎に弱い。でも、注意が必要。ほら、地面見て」

 

 起き上がって言われた通りに地面を見てみれば炎が触れた部分に大きな穴が開いてる。下手に炎を使っていたら地面が穴ぼこだらけ。……いや、待てよ? 此処って下に向かって進んで行くし、貫通して下の階層まで真っ逆様って事も有るのか……。

 

「それでどうする? 先に進む?」

 

「……いや、戻る。自分がどれだけ足りてないか大体分かった」

 

 一番弱いモンスター相手にこれだったんだ。もっと強くなってから挑むさ。ロザリーやハティが居ればって思うけど、俺の因縁でもあるんだから仲間を頼るのと頼りっきりにするのは別だ。

 

 

「今日は此処までだ! でも何時の日か絶対にお前を完全にぶち壊してやるからな!」

 

 雲海の園に向かって怒鳴り、ロザリーと一緒に外に出る。さて、時間も残ってるし普通にデートするか。何処に行くのが良いもんかな……。

 

 

 ……この時、俺は予想だにしていなかった。

 

 

 

 

「大丈夫。責任は取るし、天井のシミを数えていれば終わるから。……多分」

 

 ベッドの上でロザリーに押さえ込まれる事になるだなんて……。

 

 

 

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