伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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手が滑った(嘘)

 探索者になる動機は大まかに幾つかに分類出来る。アッシュ達の様に探索者を親に持つ者、一攫千金や名誉、はたまた刺激を求めて目指す者。後は腕っ節に自信があるからと荒事仕事として選んだ者だ。

 

「だ~か~ら~! 俺様は強いんだから探索団になんか入る必要が無いって言ってるだろ! ソロでやってる奴だって居るんだから俺様もそれで良いじゃねぇか!」

 

 

 お昼前の探索ギルドにて苛立った様子の大男もその一人だ。名はアーサー。遠く離れた街にて暴力だけでチンピラを束ねていたのだが、最近になって正規の軍人が駐在する事になったのを切っ掛けとして探索者を目指したのだ。真っ当に生きている商人達から用心棒代だと言って小銭を巻き上げ、ツケだと言って飯代酒代を踏み倒す毎日。それはそれで楽しかったが、どうせならば一攫千金で金と女に不自由しない生活を目指してダウロゴまでやって来た。

 

 一見無鉄砲なチンピラの様だが、暴力だけで他人を支配する者は大抵で寝首を掛かれる。暴力でしか従わせる方法が無いのなら数なり策なりで蹴落とされるのが世の常。にも関わらず今まで支配する側に留まれたのは知恵が全く働かない訳ではないという事だ。故に一番ランクが低い(バベル)を中心に経済が回っているこの街に来たのだ。

 

 但し、其処までだ。今まで暴力で他人を支配していた男が今更集団に属して下から頑張るという気にはなれず、大体腕っ節に自信が有るからと研修を受けるのも面倒だ。要するに今までの人生によって自信が肥大化し、根拠の無い全能感、もしくは自分は誰よりも強いという思い込みが起きている状態だ。

 

「ソロでの活動が許されるのは一定期間探索団に所属し、その実力を認められた方だけです。団員を募集している所ならば幾つか紹介致しますので入団して研修を受けた後、実績を積んだのならばソロでの活動許可が出せますので」

 

「テメェ! 俺を馬鹿にしていやがるのか!」

 

「私は規則をお伝えしているまでです。その様な意図は御座いません」

 

 道を歩けば誰しも左右に道を開け、拳を振り上げれば誰もが許しを求めた。だが、今は違う。自分よりも遥かに小さく若い女は威圧しても一切動じず、何を言っても無理だと突っぱねる。元から気の短いアーサーが怒り出すのは自明の理であったのだ。

 

「おい、キュアとかいったな! あんまり舐めた事言ってると……」

 

 脅そうと前にグイッと身を乗り出したアーサーはキュアの胸や顔をジロジロ眺め、途端にだらしない顔になる。既に彼の中では彼女を組み伏せて犯す光景が浮かび上がっていた。癪に障る態度を取った相手への制裁と快楽を両立させる事にアーサーの思考は切り替わり、無遠慮に手を伸ばす。

 

「おい、彼奴何やって……」

 

「誰か止めろよ……」

 

「でもよ……」

 

 アーサーは髭面の巨漢で如何にも悪党といった見た目であり、キュアは少々冷徹な印象こそ感じるも可憐な淑女。そんな両名の間で起きそうな諍いに対してギルド内の探索者達は遠巻きにザワつくだけで助けに入ろうとせず、同僚である筈のギルド職員達は我関せずと業務を続ける。

 

「へへっ! 所詮はこんなもんか。おら、一緒に来いよ。俺の強さをたっぷりと教えてやる」

 

 そんな周囲の様子に自分への恐怖を感じているのだと何時もの様に解釈し、目の前の女が泣き叫ぶ姿に更なる優越感を得ようとグイッと引っ張る。キュアの体は微動だにしない。変だと思って二度三度と力を込めて引っ張るも結果は変わらなかった。

 

 

「強さなら分かりました。この程度でのソロでの活動は許可出来かねますので一旦お帰り下さい。候補のリストを作成しておきますので」

 

「このっ!」

 

 言葉で脅しても怯まず、力で屈服させようとするも効果は無い。今までの人生の内、搾取される側だった頃以来の屈辱だ。アーサーにとって忘れたくとも忘れられない時代。物心ついた頃、彼は名前以外何も持っていなかった。死んだのか捨てられたのかさえ覚えていない両親。道端のゴミを見る目を向けてくる他人。人に優しくされた記憶など乏しい。自分より弱い相手から盗み奪い、同じく奪われ続けて同じ様な者達が消えて行く中で生き残った。

 

 暴力だけが、他人から奪う事だけがアーサーにとっての存在意義。それを壊そうとする者は憤怒の対象であり、隠しているが何よりも恐怖する相手。だから暴力で目の前の相手を叩きのめそうとするのは本能に近かった。

 

「……やれやれ」

 

 キュアのその声が耳に届いた瞬間、アーサーの体は真横に飛んでいた。キュアは腕を突き出した体勢から直ぐに事務仕事へと戻る。

 

「失礼。手が滑りました」

 

 聞いた者達は皆揃って嘘だと思うも口にはしない。遠巻きに見ていた者達が近寄らなかったのもこれを予想しての事であり、何時の間にか開け放たれた扉からアーサーは外に飛び出して、外には彼が飛び出して来るのを予想してか左右に分かれて事が終わるのを待っていた者達の姿もあった。

 

 

「……だから止めろって言ったのに。流石に可哀そうだろ」

 

「そんな事より並ぼうぜ。ったく、ああいう馬鹿には毎回困るぜ」

 

 ギルド内で動揺を見せている者は居らず、寧ろ慣れている様子。結局の所、探索者は荒事家業であり、アーサーの様な手合いは定期的に現れるのだろう。外で目を回している彼に注目しているのは一部のお人好しなのがそれを物語っていた。

 

 

 

「……彼奴、ちょっと玩具にしてやろうかニャ。偉大なる私がこの世界に君臨する私に選ばれた事を光栄に思うのニャ。……ルール違反だけれど、バレなかったら構わないだろうニャ」

 

 此処ではない何処かで誰かが呟く。遙か遠くから声の主がアーサーを面白そうに見詰めていた……。

 

 

 

 

「……凄い」

 

 ログハウスに入った時、ロザリーが思わず言葉を漏らしたのは仕方無い事だった。玄関から入って直ぐにフカフカの絨毯が敷かれ、壁には絵画が飾られている。しかも外からは曇りガラスに見えたのに中からだと外が丸見えだし、椅子やテーブルだって多分高級な奴だ。

 

 俺達がずぶ濡れだからか通された時には既に暖炉には薪がくべられているし至れり尽くせりって奴だな。泊まった事は無いけど高級な宿ってこんな風なのかもって思うし、それなら暴利な値段も納得だな。

 

 まさか変な道具で雨を降らすのを目撃した上にずぶ濡れになるだなんて想定してなかったけど、却ってラッキーだったかも知れないと少しワクワクしながら部屋の中を眺めていた時だ。背後から鍵をする音が聞こえた。

 

「これから着替えるから一応」

 

「そうか……」

 

 別に俺は何も言っていないのにロザリーが鍵をする理由を口にしたのが少し気になった。まあ、長い付き合いだけれど天然に振り回される時があるから変に気にしない方が得か。仲間を疑いたくないし、こんな状況で貞操の危険を感じるのって普通はロザリーの方だしな。

 

 そのロザリーが積極的に誘って来たのがついさっきだから少し不安になりながら服を脱げる所を探す。着替えは借りたし、暖炉の火で濡れた服を乾かせるのは助かったぜ。おっと、クローゼットまで有るのか。これは本当に金持ちが道楽で来るのを見越してるな。そうでなくても豪華だし、どうせ大金が入るからと財布の紐だって緩みそうだし。

 

「ルームサービスまで有るのか……」

 

「頼む? 私、この位なら払えるよ? 財布は忘れたけど小銭入れなら持ってるから」

 

 ロザリーと一緒に着替えるのもアレだって事でさっさとクローゼットに行こうとした俺だが、テーブルの上のメニュー表に思わず足を止める。これまた少し強気の値段だが、此処を借りる奴なら払える値段でもある。そんな風に意識がメニューに移った俺はロザリーの接近に気付けなかった。いや、それだけじゃない。ロザリーが装備を外して服を脱ぎ捨てる音にさえ気付けなかったんだ。

 

 俺の真横からメニュー表を覗き込んだロザリーはパンツこそ穿いているが他は当然脱ぎ捨てていて、体を動かす度に胸が揺れている。くびれた腰も傷跡こそ少し有るが、それでも余りある程に綺麗な肌も丸見えだ。思わず凝視してしまったのは無理もない話だろ。

 

「お、おい! 未だ俺が居るのにどうして脱いでるんだ!?」

 

「早く脱がないと体が冷えるから。それにアッシュに見られるのは嫌じゃないし、見て貰いたいと思うから。……私の体、何処か変?」

 

「い、いや、魅力的じゃねえの? 俺も着替えてくるから早く着ておけよ!」

 

 慌ててロザリーから目を逸らしてクローゼットに駆け込むが、今の光景が目に焼き付いて離れない。ハティの方が妖艶ならロザリーは健康的な美しさで違った魅力が有る。……これで俺に甲斐性があって理性が少し足りなかったら二人とも侍らせるとか妄想するんだろうが、実際は色々な意味で無理だな。ちょっと妄想してみて心は踊ったがな。

 

 結局の所、ハーレムなんてギスギスするらしいし、王族とか一部の特権だよ。世の中には妙にモテる奴が居て大勢に囲まれてるが、何時まで均衡が保てるんだって話だし。

 

「……そろそろ良いだろ。おい、ロザリー。ちゃんと服を着てるか?」

 

「……うん」

 

 今、ちょっと間があったのが気になるけれど俺も火に当たりたいし出る事にする。少し時間が経ったから目に焼き付いた光景も薄れたし、ロザリーの顔が見れないなんて事は無いだろ。

 

 クローゼットから出た時、確かにロザリーは着替えていた。問題が有るとすれば普通より大きい胸が身長に合わせたサイズの服のせいで強調されてるって事だ。普段はオーダーメイドか少し大きい服の裾や袖を短くして貰ってるらしいんだが。

 

「これ、キツい。……アッシュ?」

 

 不意打ちで見てしまった俺は固まって濡れた服を落とし、ロザリーは首を傾げて近寄った時にその服を踏んで足を滑らせる。そして毎度お馴染み、父さんの形見である魔剣の指輪から受けたラッキースケベの呪いの発動だ。普段なら足を滑らせないロザリーが滑らせて俺の方に倒れて来たんだが、それでもSランク探索団で鍛えられているだけあって簡単には転ばない。転びそうな体勢のまま真正面に跳んだ。

 

「うおっ!?」

 

 ロザリーが咄嗟俺を掴み、二人揃って倒れ込むが堅い床じゃなくてベッドの上だ。ベッドの上、少し動けばキスしてしまいそうな距離に俺はドギマギし動けない。でも代わりにロザリーが体を起こしてくれたから助かった。

 

「手が滑って咄嗟に掴んだ。……これは良い機会」

 

 何か嫌な予感がして起き上がろうとするけれど起き上がれない。ロザリーが片手で俺を押さえ付けているからだ。そして空いた手で器用に服を脱げば至近距離で胸が揺れて目が離せない。てか、手が滑ったとか嘘だろ……。

 

 

「大丈夫。責任は取るし、天井のシミを数えていれば終わるから。……多分」

 

 え? シミとか一つも無いんだが?

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