伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
慢心していたと自覚していたのはこの前、ミントから話を聞いた時だった。
「……好きになる事にした?」
「だって。最初は一方的に好きにさせようってしてたのに、少しは進歩したって事じゃないの? アンタも頑張りなさいよ?」
子供の頃から好きで、既にプロポーズだって済ませているアッシュの隣にハティが居た時、少し嫉妬したけれど危機感は無かった。一方的に都合を押しつけているだけだし、私とアッシュの間に入れやしないって思ってた。
元々アッシュは呪いのせいで女の子と仲良くなるのは難しい。だから何時も隣に居なくても頻繁に顔を出せば良いし、何時も近くに居るミントに対しては安心感が有る。だってミントだから。あの二人が恋人になる姿が想像出来ないし、このままゆっくりと関係を進めれば良い筈だったのに……。
「ミントはハティとアッシュの関係に賛成?」
「賛成も反対も無いわよ。基本的にアンタ寄りだけれどハティだって仲間だし、幾ら仲間でも恋愛に口出しはちょっとね。……リゼリクはちょっと不安だけれど」
「……うん。流石にリゼリクは不安」
実にミントらしい考えだと思う。昔から妙に男らしい所が有るし、ラッキースケベの呪いの対象にならない時点で色気を一切感じられていないから。
「今、失礼な事を考えなかった?」
「考えてないよ?」
「……まあ、言及は避けましょうか。それよりハティの方が接する時間が多いし、アッシュだって男なんだから色仕掛けに流されるかも知れないわよ?」
「やだ。それはやだ」
「だったらさっさと関係を進めなさい。今の関係が心地良いって進めないと負けるわよ?」
アッシュの隣に居るのが私じゃない誰かなのを想像すれば胸が締め付けられる。絶対に渡さない。奪わせないし、奪われたなら奪い返す。
……この恋心は絶対に負けたりしない。
「……」
私は今、半裸でアッシュをベッドの上に押し倒している状態だ。この状況になるまで幾つも偶然が重なったし、邪魔に入る人だって居ない。そしてこんな時の為に準備を積み重ねたのを思い出す。
朧気な知識しかないから光熱の剣の皆に相談して、その手の本を借りて読み込んだ。団長はその手の話に疎いから単語の意味が分からない時に教えて貰おうとしたけど役に立たなかったけれど、経験は無いのに興味と知識はある人も居るから助かった。仲間って素晴らしいと思う。
「わ、私だってその気になれば男の十人や二十……一人や二人程度はだな……」
そんな嘘を語りながらも教えてくれた先輩も何時か知識を役立てられる相手が見つかると良いな。
本のシチュエーションを私とアッシュに置き換えてイメージトレーニングをしたり、経験者に話を聞いて色々学んだし、多分大丈夫。最初でしくじったら微妙な気持ちが続くらしいから自分でも慎重だったと驚いている。
知識は身に付けた。状況も最適。セリフだって良さそうなのを小説を読んで幾つも候補に挙げいと欲望に任せて……だったんだけれど。
今、私の頭の中は真っ白。あれだけ頑張ったのに思い出せない。……勢いに任せる事にした。
「……好き」
多い被さり、何か言おうとした口を唇で塞ぐ。えっと、この時に更に何かするんだったけれど、チューって唇を合わせて終わりだったよね? じゃあ気のせい気のせい。
私の方が強いからアッシュの抵抗は無意味。少し悪い気はするけれど、多分気持ち良いらしいから耐えて貰おう。抵抗するアッシュの手を掴んで胸を触らせ、ズボンに手を伸ばす。
地面の下から突き上げる様な衝撃がログハウス全体を揺らし、
「補食……? でも、あの
あの光景を私は知っている。何処かの馬鹿な違法探索者が
それと同じだと理解した時、私は迷わずアッシュの上から飛び降りて服をさっと着ると避難を促す為に窓へと向かう。好きな人と結ばれる寸前だったけれど、人命と天秤に掛けて迷う子にアッシュに好きになって貰う資格なんて無いから。
でも、無駄だった。私の行動は全くの無意味。だって……隊商の人達は手早くテントを設置したり屋根のある所で盾になる物を構えたりしていたから。……後少しだったのに。
「おい、補食って事は逃げた方が……」
「大丈夫。生まれる時と成長の為とでは補食の方法が違うから。……寧ろ逃げた方が危険。此処なら安全」
あと一分、いや、二十秒有れば私とアッシュは身も心も繋がっていた。それを邪魔された事に怒りが湧くけれど、それ以上に幼い頃の光景が強制的に蘇って体が震える。思わずその場で倒れそうになった時、アッシュが支えてくれなかったら床に倒れていたかも。
「見ていて。これが生まれた後に行う補食。私達がモンスターを沢山倒したりモンスターコアを破壊して防いでる悪夢だよ」
周囲を照らす光は更に強まり、一瞬で消えたかと思うと頂上から空へと放たれる。一瞬遅れ、光の手が、無数に降り注いだ。
小さな子供の物程度の細くて小さな手の形をした光は無差別に地上に存在する物に触れ、命有る物なら一瞬で生命力を奪われ枯れ果てた。私達が居るログハウスにも降り注ぐけれど窓ガラスに当たっても風が吹いた程度にさえ劣って一切破れる様子は無い。何かに触れた瞬間に光の手は消え去って行き、九年の月日で蘇りつつあった故郷の自然はまた枯れたけれど、幸いにも死者は一人も出ていないみたい。
ホッと一安心。でも、終わったから続きをって気分にもなれない。蘇った恐怖は私の心を蝕んで、体に力を入らせなかった。これじゃあアッシュを押し倒せない……。
「アッシュ、帰ろう……」
「だな。この服は洗濯して返しに来るとして、お前はそこでジッとしてろ」
アッシュは私をベッドに運ぶと帰り支度を始める。……今、私ってなすがままなのに襲わないんだね。アッシュらしいと言うかヘタレと言うか。これじゃあハティに手を出すのも相当先だろうし、それまでに続きをしよう。……次はもっと準備をして、絶対に邪魔が入らない状況で……。
「よし! 帰るぞ!」
こんな事が有ったんじゃデートの続きをしても楽しめないし、今後暫くは光熱の剣での活動が有る。Sランク探索団は担当する場所も多いし、その分大勢の命に関わるから仕方無いけど……寂しい。
アッシュ、そんなに簡単に帰るって決めて平気なの? もう暫く一緒に……え?
「ア、アッシュ……?」
「歩けないんだろ? 二人分の装備と荷物背負ってるからこうするしかないだろ」
アッシュはベッドの上の私を持ち上げる。それもお姫様抱っこで。……不意打ちでするのは卑怯。私が自分の事を好きだって知っている癖に。
「……アッシュの馬鹿。好き、大好き……」
そっと両手でアッシュにしがみ付く。このまま帰るまでこうして運んで貰えるだなんて。……今日は色々有ったけれど幸せな一日かも。
「でも、本当にどうして補食が? 起きる筈が無いのに。何か嫌な予感がする……」
「どどど、どないするねん!?」
「落ち着きなさいよ、姉さん! ガタガタしてても解決しないわ。ドーンッと構えなくっちゃ!」
……一方その頃、ナインテイルフォックスの拠点では少し騒ぎが起きていた