伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る 作:ケツアゴ
空高く昇った太陽の光が差すその大地は死んでいた。原因は荒廃した土地の中心にそびえ立つ
「……よいしょっと。そろそろ昼飯ザンスか? 今日は魚が食いたい気分ザンス」
「そりゃ残念だったべ。コックが良い豚肉が入ったとか言ってたし、肉だべな」
額に汗を滲ませながら働いているのはヨッシーとミヤーノ。先日アッシュ達に助けられた違法探索者であり、
するとどうした事か僅かながら大地に生命力が戻った様に見えた。本来ならば完全に死に絶えて種を撒いても水をやっても命など芽吹かぬ死の大地だったにも関わらず、十日ばかり前に同じ事をした場所では雑草が数本ながら芽吹いているではないか。
「昼になったら粉末にする作業の続きだったべ? えっと、アレはなんて名前だったべかな?」
「エナジーだったザンス。……
ヨッシーは額の汗を手で拭いながら遠目に見えるギルドの建物に目を向ける。中は彼等の様に作業する者達の宿泊施設や仕事に必要な物の倉庫が有り、その倉庫の中には水に混ぜている物が元の姿で山積みにされていた。それは一見すれば光り輝く苔。探索者が
「にしてもギルドも思い切った事を提案するザンスね。『神聖王国の情報を提供するなら罪を軽減し、匿いもする』、だなんて。まあ、祖国はギルドを受け入れてないザンスから渡りに船って所ザンス。そんな事よりお嬢様も渋っていたけれど最後は納得して助かったザンスよ」
「まあ、祖国を裏切る行為だとしても四の五の言っていられる立場じゃないべ。給金だって出るし、労務期間が終われば探索団だって紹介して貰えるんだ。其処で金貯めて堂々と胸張って帰れば良いべ。さあ! 飯まで仕事仕事!」
根本まで腐敗が進んだ祖国には最早未練は持っていない。重要なのは忠義を誓った家の令嬢であり、幼い頃から見守って来たアンナの未来。大切な領民の保護という理由が無ければ平和な国で平穏無事に生涯を終えて欲しいとさえ願う。領民を深く愛する気高い貴族であるアンナが領民を見捨てられないのが嬉しい反面少し辛かった。
「……守り通すザンスよ」
「んだ。絶対に守り抜くべさ」
二人にとってアンナは忠誠を誓った主であり、不敬だからと口には出さないが娘の様な存在。そしてアンナにとっても二人は家族同然の存在なのだ。例え血が繋がらずとも確かな家族の絆が此処には有った……。
「所でお嬢様は今は何を任されてるんザンス? 最初に厨房係を志願したけれど、異臭騒ぎの上に謎の物体を作り出して配置換えを受けたって聞いたザンスが……」
「今は書類作業だべ。お嬢様は学があるでな。ご実家でも当主様の仕事の手伝いをなさっていたし。……しかし包丁も握った事が無いのに料理に興味を持つだなんて……」
途中で言葉を途切れさせた理由は一つ。二人の頭に浮かんだ男……アッシュの顔だった。二人ともそれなりの年齢だし、色恋に疎く理解出来ない等という事はない。つまりアンナが料理を覚えたいのは作りたい相手が居るって事である。
「……うん。まだ殺すとかそんな事を口にするのは早いザンスね」
「……一応命の恩人だべ。一応は……」
この二人、相当過保護だ。尚、アッシュがラッキースケベの呪いをアンナに発動させてしまった事を二人は知らない。知っていれば既に殴り込んでいただろう。
「あっ。そう言えばGランクの探索団の昇級試験がこの近くの
「騙してでも忙しくさせるべ。お嬢様に恋愛は未だ早いし、するにしても探索者なんて不安定で危険な職業の男は許さないだべよ」
殺気すら漏らしながらクワを振るう二人。鬼気迫る態度で行う仕事は他の誰よりも進んでいた。
……こんな筈じゃない。俺はもっと出来る奴なんだ。昔からそんな事ばかり考えていた。変わらない。何も変わらない。何時まで立っても俺は何一つ変われない。
こんな筈じゃないって叫んで他人に当たり散らす、結局俺はそんな存在なんだって自分で自分に見せ付けるだけだった。
アーサー。その名前が昔の英雄の名前だって知った時、餓鬼だった俺は親の愛情を感じた。ノミやシラミだらけの小汚く学のない孤児。服はゴミ捨て場で拾った擦れ切れだらけの一着で、誰も彼も嫌な物を見る視線を俺に向けていた。
誰にも期待されず、誰にも期待しない。そんな俺が誰かから貰ったのは命と名前だけ。でも英雄と同じ名前だって知って、何かを期待されてたんだって嬉しかった。俺は要らないからと親に捨てられたんじゃなくて、不幸が起きて分かれ離れになったんだと思うと心の闇が少し晴れた気がしたんだ。
そうだ。明日から誰かの役に立とう。英雄の名前に相応しい男になろう。そして俺みたいな境遇の奴を救うんだ。……そんな風に自分に期待したんだ。
それからどうなったって? 盗んで奪って、それで何とか生きていた餓鬼に何が出来る? 誰が信用する? どうやったら変われる? 挫折の理由なんて幾らでも存在するだろうが。信用されず疎まれ心が折れる話でも妄想しとけ。
ああ、当たり前の事だったんだ。ドブ川で生まれ育ったネズミが華やかな場所で生きられる筈が無いって、馬鹿な俺でも考えずに理解出来て当然だったのに。
「……此処は?」
自分が生きて良いのはドブ川の中だけだったと自覚して、だったらと他の連中を押さえつけて、その居場所まで失った。力で意見を通す事しか知らない俺はそれ以上の力で叩き潰され、自棄酒をかっ食らって寝た筈だ。安宿かボロ酒場か道端か、どうせそんな所で酔いつぶれて眠った俺が居たのは一面が金色に輝く部屋。巨大な猫の像の前で座り込んでいた俺はおもむろに立ち上がろうとする。
「平伏するニャ」
「がっ!?」
猫から声が聞こえた瞬間、俺は見えない力に押さえ付けられ床に伏せる。指一本動かせず、堅い床に押し付けられ続ける痛みに耐えながら目玉を動かせば猫の顔が俺の間近にまで迫っていた。
「我が名はパステト。四神に代わって世界を滑るべき存在だニャ。喜べ。貴様を下僕にし、私の役に立ててやる。その恩に報い、期待に応えよ」
偉そうな言葉と共に全身が燃える様に熱くなり力が湧いて来る。今までの力がゴミ以下に感じる力。人を脱してしまったと自分で理解するに十分な程の力だ。
期待している? はっ! 俺は馬鹿だが……期待されてない事は分かるんだよ。だが、断って唾でも吐いてやりたいが体が動かない。声すら出ない。……そして俺の心が何かに塗り替えられて行く。俺の全てをパステト様に捧げるのが当然だと、吐き気のする物に変わっていった。
ああ、畜生。結局俺はこんなもんかよ……。
俺が俺でなくなる寸前、床に映った顔を見る。……猫耳が生えていた。