伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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受験資格

 この世界にて信仰を受ける四神にはそれぞれ司る物がある。

 

 悪意と善意を司る神 ロキ

 

 闘争と発展を司る神 バロール

 

 欲望と愛情を司る神 マーラ

 

 死と誕生を司る神 ティアマト

 

 職業や地域によって信仰する対象は変わって来るが、他に信仰する神は存在せず、基本的には四人で一セットなので宗教的な闘争はそれほど起きない。寧ろ起こそうとすれば何かしらの災害が起きて戦いどころではなくなるのが特徴だ。まあ、闘争を司るバロール神も信者同士の戦いは気に入らんらしいからな。

 

 神々が争いを止めていると伝わるが、実際にその通りだ。自分と同僚それぞれの信者が信仰を理由に争うのは気まずいとお祖父様が言っていたぞ。届きもしない生け贄を捧げる奴の次に迷惑だとな。

 

「さて、今回の講習はこの辺りか。……私が今更習う事でもあるまいに」

 

 ペンを置いてノートを閉じる。今日はギルドで新人探索者としての講習の日。昇級試験の調整で忙しいらしく当初の予定から少しズレたが順調に進んでいた。まあ、殆どの知識が私にとっては既知の内容。講義を受けてテストで合格するのは容易い事だ。その程度は目の前の奴ならば知っているだろうに……。

 

「規則ですので。何人だろうと一定の研修を突破せずに探索者にはなれません。貴女が(バベル)に入る事が許されるのは特例中の特例だという事をお忘れなきように」

 

「貴様、この世界に染まり過ぎではないのか? 今の名は……キュアだったな。もう少し融通が利く性格だっただろうに……」

 

「昔は昔、今は今。此処に居る私はキュアであり、それは他の職員も変わりません。連中に付け込まれない為にもギルドは中立を貫かねばなりませんので」

 

「まあ、それは分かるが……」

 

 こうしている間もアッシュはロザリーとのデートを続けているのだろう。好きになるとは宣言したが、未だに男女間の恋愛については一向に理解が進まん。お父様やお祖父様への”好き”とは別物だろうとは分かるのだがな。故に私はアッシュと交流を深めねばならぬのだ。奴を好きになるのが好きになって貰う第一歩だからな。

 

「しかし面倒だ。予定では三日以内に好きにならせる筈だったのだが、まさか裸で誘惑しても手を出さぬとは。おい、キュア。あの年頃の男とは女を抱きたい衝動に襲われているのではないのか? 貴様は我が主の担当であろう? よもや奴は男色という訳でもあるまい?」

 

「探索団内部の男女関係についての相談は業務外ですのでお答え致しかねます。彼にその気が有るかどうかは調べた事が有りませんし、今後も調べませんので」

 

 キュアは私の問いかけに素っ気なく答えながら講義の後片付けを進めて行く。むぅ。頭の固い奴め。まさか私がバロール神の塔喰らい(バベルイーター)でないからではあるまいな……。

 

 それにしてもバロール神といえばクロウ・クルワッハだ。何故ワルキューレの味方をしている? 連中が誰の道具か忘れる筈も無いだろうに。まさか主の地位を守りたくないのか?

 

「いや、流石にそれは有り得ぬか。何せ奴は忠臣だったと耳にしている。それが主の命を失わせたままで良いはずも無かろうに」

 

 ……今は考えても無駄か。アッシュとの絆を深めて力を高め、次に会った時に雪辱戦のついでに聞き出すまでだ。結局の所、私がすべき事は変わらない。力を高め、家族を助ける。たったそれだけだ。

 

「では私は一旦帰ろう。次の講義も頼んだぞ。……出来れば面白い事を習いたい」

 

「そうですか。では、規定の範囲内で貴女が知らないであろう事を……何でしょうか?」

 

「騒ぎが起きているらしいな……」

 

 講義を受けていた部屋の扉から騒ぎ声が漏れて入って来る。どうも数名の者が何やら慌てた様子で詰め掛けて居るのだが、その中に知った者の声も混ざっている。……ルノアの奴、一体何用だ?

 

 少し気になったので話を聞きに行こうとした時だ。キュアが私の耳元で囁いた。

 

「……今回の試験の場ですが、どうも怪しい動きを見せているパステト神の所有地です。ご留意を」

 

「……良いのか? 今のは肩入れだろうに」

 

「まあ、別に宜しいでしょう。どうせ調べれば判明する事ですし……私、あの方が嫌いなので」

 

 珍しく不快感を顔に出すが、私はそれで良いと思う。人になった事で人形みたいになったと思っていたが、そうそう変われるものではないという証拠だ。喧しいのは嫌いだが、この程度なら人形みたいなのよりはマシだろうさ。

 

「今の生活も今の家族も私にとっては大切な物です。職務上得た物だとしても、それをあの様な連中の我欲の為に乱させはしません」

 

「はっ! それをどうにかするのは私達塔喰らい(バベルイーター)の仕事だ。まあ、精々サポートに励め。……所で課題の量は減らせんか?」

 

「無理です。ギルドの規定ですので」

 

 高く積まれた課題の山。話の流れでどうにかならんかと思ったが、それは別の話だという事か。キュアは一礼すると用事は済んだとばかりに去って行く。……石頭め。ミントの奴、課題をしなかったら翌日のデザートを抜くんだぞ。

 

「……昼寝でもするか」

 

 夕飯前に少しは手を着けろと五月蠅く言われるだろうが、本当に少しやって飯の後で終わらせれば良いだけだ。私の力ならば軽いはずの課題が重く感じる。通り過ぎる際に横目で見ればルノア以外に数名の者達、確か他の探索団の団長だと紹介された事のある者達がギルド職員に何やら抗議していた。

 

「ですから! 試験については担当する探索団に全てお任せしているんですってば! 今回は通知書もパンダーラが作成すると言い張りまして、ギルドは何一つ関与していません!」

 

「何言っとるんや、ランスロット! 試験まで三日やぞ!」

 

「ギルドが紹介してくれるって言うのか!」

 

「いやいや、それも含めて試験って事で。逆に言えば達成したら他よりも優位に進められるっすよ?」

 

 ……ほぅ。あの男もそうか。この様な狭い町に三人も関わっているとはな。

 

「いや、奴もそうだからか。残るは象と鳥だが……象のとは勘弁して欲しい物だ。パステトもそうだが、奴も苦手だからな」

 

 今首を突っ込んでもややこしい事になりそうだし、一旦戻る事にしよう。何やら一大事らしいし、アッシュが戻った時に説明するだろうしな。

 

 詰め寄るルノア達に困り顔の優男をもう一度だけ視界の端に収め、真っ直ぐに帰路に着く。さて、寝るか……。

 

 

 

 

「……助っ人だと? おい、今度の試験は二人一組ではなかったのか?」

 

 昼寝を決め込み、夕食直前まで寝過ごした私はリビングの机で課題をやらされながら話を聞いたのだが、どうも水で濡らした通知書に文字が浮かび上がったと言うのだ。書いてあったのは一言。

 

「『これを発見した所はGランクでフリーの探索者を助っ人に加えるのが出場資格ね』、やと。他の所も暖炉に当たりながら読んでたら炙り出しで浮かんだり、黒インクをこぼしたら浮かんだり、条件はバラバラやけれど中身は同じや。ったく、フリーの探索者なんか簡単に見付かるかいな」

 

 通知書には試験時に持参する様に書かれているし、これは知らん振りは出来ぬか。……面倒な。奴め、何を考えて……いや、何も考えていないな。父様がそんな感じの評価をしていた。

 

「今時フリーよりも団に所属した方が便利だものね。秘宝の管理だってフリーだとギルドが厳しいし、どうするの? 姉さん、何かコネない?」

 

「……無い」

 

「あっそ。じゃあ仕方無いわね。……試験までに探すわよ。このまま出場資格が得られなくて不合格だなんてふざけた結果になってたまるかってものよ。こんなのを仕掛けた連中に正面から向かい合って認めさせてやるわ。ナインテイルフォックスの実力をね!」

 

「俺も賛成だ。舐められて終わりってのは気に食わないからな。次回に懸けるとか有り得ないだろ」

 

 成る程。見事な逆境だが、かえって闘志が燃え上がったらしいな。実に頼もしい事だ。だが、果たして三日で助っ人が見付かるのか? 少し心配だな。

 

 

 

 

 だが、強い運命を持っている者は有り得ない奇跡を引き起こす。精々足掻いて面白い物を見せて貰おうか。……少し気になる事も有るしな。

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