伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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私の交渉

 昇級試験への助っ人の参戦だが、抗議によって噂が広まった後は特に不満は出なかったわ。そりゃ最初はこんな形で試験が受けられない可能性が出るんですもの、抗議に押し掛けない方が変よ。組織のトップに立つ団長なら仲間の為に怒るわ。

 

 でも怒るのは其処まで。そもそも何か予想外の事態が起きれば命の危険に晒される探索者なんてやってるのですもの。”運”ってのは案外重要視されているのよ。隠し文字が見付からずに助っ人を加えられないのも、助っ人が見付からないのも、助っ人との連携が上手く行かずに足を引っ張り合うのも自己責任。それが嫌なら次の機会にって当たり前じゃない。

 

 私達は危険を承知でこの道に踏み込んだのよ? この程度でガタガタ抜かす奴は一発ぶん殴ってでも黙らせれば良いわ。

 

 

「……残り二日か。一緒に動いて打ち合わせとかもしてぇし、明日までに探さないとな」

 

「そもそもフリーでやってるのって集団行動が苦手なのか団が解散しても他の所に入れて貰えなかったって人じゃない。そう簡単に見付かるとは思ってないわ。ギリギリで良いから受験さえ出来ないって間抜けは避けましょう」

 

 探索者は危険な職業。だから探索団に所属して仲間を求めるのが賢いやり方よ。(バベル)で得た富を山分けにするのが嫌な金の亡者とか魔剣の指輪で受ける呪いが危険だけれど魔剣が強力で手放したくないとか、そんな理由じゃないとフリーでやる人は少ない。大体、フリーでやるにも探索団での実績が必要だもの。無謀な馬鹿が世間を舐めて犬死にするのを防ぐギルドの対策でね。

 

 まあ、探そうと思えば探せるわ。遠くの街まで足を運んで、臨時のメンバー募集をしているのが居ないか各支部で調べれば何人かは見付かる……のだけれど。

 

「ナインテイルフォックス? 駄目だよ。擬神に壊滅させられたところだろ? 悪いけれど他を当たってくれ」

 

「ちょっと縁起が悪い所と組むのはなぁ……」

 

 運を重要視する探索者なら、特にフリーでやってる連中は縁起を担ぐ。まあ、好き好んでAからGにまで下がった所と組みたがる人なんか居る訳が無いってね。苦難だろうが逆境だろうが立ち向かうのが私達だけれど、流石にこれは堪えるわよ。

 

「さてと、次の街まで走るわよ。急げば後何人かは当たれるでしょうし、駄目なら野宿なり夜通し歩くなりして更に遠くに行くだけね」

 

「相変わらず逞しい奴だな、ミントって。そのせいで男らしいって同性からモテるけどよ」

 

「はっ! か弱い乙女だったら最初から探索者になんかならないっての。それと女からモテる事は言うなっての。……殴るわよ?」

 

「もう殴ってるだろ!?」

 

 余計な言葉を吐いたアッシュに拳骨を落とすけれど当然の報いね。ったく、人が気にしてる事を。自分がラッキースケベ連発の変態野郎って噂を立てられてモテないからって僻んでるのかしら?

 

 実際私はそれなりにモテる。……但し同性から。通すべき筋を通して、くだらない弱音を極力吐かないで、目の前で困ってるのが居たら手を差し伸べているだけじゃない。男らしいってなによ、男らしいって! 他の野郎共が情けないだけだっつーの。

 

 毎月送られてくるラブレターの束を思い出して辟易する。いや、別に好きな男は居ないし、誰でも彼でも好意を寄せられたいとか逆ハー願望なんか持って無いけれど、あれはないって思うわよ。……私、どう見ても女よね?

 

「ったく、最終的には一度断られた相手に熱意を伝えるしかないわよね。結局の所、探索者ってのは冒険に魅せられた馬鹿が殆どだもの。アッシュ、その際は凄い馬鹿のアンタが……こんな時もかっ!」

 

 縁起が悪いからって理由で断られていた私達だけれど、女相手に交渉失敗した理由はアッシュのラッキースケベの呪いが原因だった。そりゃ私だって同じ立場だったら嫌よ。

 

 そんな呪いが今目の前で発動している。二十歳位の人の前で躓いたのか胸に顔を埋めて抱き付く格好で……あっ、殴られた。

 

「何するアルか!」

 

「ぶへっ!」

 

 あ~あ、見事な一撃が入ったわね。天高く飛んで錐揉み回転をしながら地面に落ちていくアッシュの姿に心配はしないけれど、少し安堵する。いや、これが交渉の前だったら余計に成功率が悪くなるわよ。さて、仲間として尻を拭ってあげないとね。

 

「仲間が悪かったわね。謝罪させて貰うわ。でも、言い訳を許して貰えるなら……あら、貴女は確か……」

 

「むむっ! 確かミントだったネ。って、事はさっきの痴漢はアッシュだったカ」

 

 アッシュの首根っこを掴みながら下げた頭を上げて相手の姿をちゃんと見たら見覚えがある相手。つい1ヶ月位前に街中でワルキューレに襲われていたフリー探索者のシォンマオだった。

 

「……お詫びに食事でも奢らせて。所で訊きたいのだけれど……貴女って私達と同じGランクだったわよね?」

 

「そうアル。でも、それが一体……」

 

 千載一遇のチャンス到来! これを逃がすのは駄目だと私はシォンマオの手を握る。突然の事で驚いてるけれど、こっちとすれば相手が冷静じゃない方が都合が良いわ。さて、どうやって交渉した物かしら……。

 

 ……いえ、駄目ね。焦り過ぎだわ。

 

「……まどろっこしいのは無しにしましょうか。受けてくれたなら一時的でも命を預け合うのですもの。シォンマオ、悪いけれど力を貸して貰えないかしら?」

 

 交渉はストレートに。それが私らしいやり方よ。

 

 

 

 

「いや、具体的な内容を教えて貰わないと返答に困るアルね」

 

「……そうね。私とした事がうっかりしていたわ。これじゃあアッシュと同じ馬鹿じゃない」

 

「俺と同じってどういう意味だよ……」

 

 そのままの意味よ。

 

 

 

 交渉はナインテイルフォックスの拠点で行ったわ。テーブルに料理を並べて、交渉するのは勿論団長である姉さん。探索団である以上は団長が交渉を担うのが礼儀だもの。

 

「ふむふむ。成る程……引き受けたアル。この熊猫拳師範代シォンマオの名に懸けて全力を尽くすのを約束するヨ。流石にそろそろ何処かに入団しないと生活に困っていたからネ。ワタシ、パンダーラに入団希望だし、アピールのチャンスになるヨ。ワタシ、力貸す。そっちは試験が終わるまで生活の世話する。それでヨロシ?」

 

 最初はそんなに乗り気でなかった様子のシォンマオの様子が変わったのは試験官がパンダーラだって知った途端。何でも使ってる熊猫拳って武術を教えてくれたパンダ老師って喋るパンダを探して旅をしているのだけれど、パンダーラの団長であるアンノウンが何か関わりが有るって睨んでるらしい。

 

 いや、喋るパンダって……。え? 胸の名札に”喋るパンダ”って書かれていたって? ……言及は止しましょうか。

 

「構わへんで。幸い部屋は空いとるさかい、好きに使いや」

 

 リゼリクが暫く顔を見せないのは都合が良かったわ。部屋が空くって意味でも、あんな小さい子相手にデレデレしている姿を見られずに済むって意味でも。

 

 

「まあ、話が決まったのなら今後宜しくお願いするわ。改めて自己紹介するわね。私はミント。ナインテイルフォックスの副団長よ」

 

「俺はアッシュ。まあ、一度共闘した身だし今更だけどな」

 

「ワタシはシォンマオ。風来の武術家ヨ。じゃあ短い間だけれどお世話になるアル」

 

 私はそっと拳を突き出し、二人も続いて伸ばして先端を軽くぶつけ合う。さあ! 参加資格はこれで得た! 後は合格するだけよ!

 

 

 

 

 

「所でミント。試験の会場って何処の(バベル)だっけ?」

 

「アンタ、お客さんの前で馬鹿晒すの控えてくれない? Fランクの(バベル)で、鬱蒼と茂った巨大な植物や建造物が特徴で虫系モンスターが数多く出現する場所。名前は……『巨人の庭園』よ」

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