伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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奇妙な連中

 広い空の下、俺達は左右に広がる壁に造られた巨大な門の前に集まっていた。今日はGランク探索団の昇級試験の日。周りを見渡せば俺達以外にも助っ人を見付けられた探索団がチラホラと。それでもルノア姉ちゃんから聞いた数の二割も居ないんだから難しい課題だったよな。

 

「それにしても姉さんは団長としての用事だから兎も角、ハティまで見送りに来ないなんて。朝から何処に行ったのかしら? 何か変な事に巻き込まれてないと良いんだけれど、あの世間知らず」

 

「そんな事よりも試験はまだ始まらないアルか! ワタシ、気合いが入りまくってるヨ」

 

 二人共、全然緊張した様子が無い。相変わらず図太い奴だな、ミントは。シォンマオも少しの間一緒に暮らして分かったが、此奴は結構単純な奴だ。兎に角体を動かすのが好きで、考える前に体が動くタイプだな。俺と気が合うぞ!

 

 にしても注目されてるな。まあ、他の探索団はそれなりの期間を使って経験を積んでたし、俺達が正式に探索者として認められたのは半年も経っていない前だ。

 

「おいおい。どうしてお前達みたいなペーペーが此処に居るんだよ。あれか? 怖くて探索者を引退した団長の功績か?」

 

「兄貴ぃ。あの駄目人間にどんな功績が有るんっすかぁ? 他の探索団の手伝いをしても自分だけで(バベル)に挑めない臆病者ですよ? そして新人は変態野郎にマトモに魔法が使えない半人前以下の回収士」

 

「そうだ! きっと残っていた財産を賄賂として送ったんだ。おいおい、参加するだけじゃ合格しないって知らなかったのか?」

 

 まあ、こんな風に俺達が気に入らないって連中だって居るんだ。大柄のハゲに小柄なモヒカンのコンビ。如何にも堅気の人間じゃありませんって悪人面。

 

「はっ! 万年Gランクの”栄光の道”様は自信があるのか饒舌だな。それとも逆に不安だから喋ってるのか?」

 

「何だと!」

 

 俺の挑発にハゲの方が食ってかかり胸ぐらを掴もうと腕を伸ばすが、ミントが間に入ってそれを止めた。ハゲの手首を掴んで止め、俺の頭を平手でピシッと叩く。

 

 

「試験前にくっだらない喧嘩をしてるんじゃないわよ。否定したかったら結果で示しなさい。それが実力の証明だから。それが無理なら口だけの雑魚って事よ? ……ほら、始まるわよ」

 

 ミントの気迫に俺とハゲの動きが止まった時、門の前に軽薄そうなヘラヘラ笑いを浮かべたランスロットさんがやって来た。この辺の支部の中では結構な地位だってのに相変わらずそうは見えないよな。

 

「ほらほら、元気が有り余ってるのは結構だけれど、その元気は試験に使おうか。早速会場に繋げるよ。この秘宝・帰郷の鍵でさ」

 

「む? アッシュ……ミント、あの鍵はどんな力の秘宝アル?」

 

「おい、どうして途中で変えた? 俺の顔を見ながら言ってみろ。……アレなら俺だって知ってるからな。リゼリクやロザリーが帰って来るのに使うからよ」

 

 ランスロットさんがトランクから取り出したのは巨大な鍵。幾ら門が巨大でも鍵穴にはとても入らない大きさだ。なのに鍵の先は水面に突っ込んだみたいに鍵穴に刺さった。そして捻れば門は自然に開く。

 

「一番最初に開いた門と開いた門を繋げるんだよ、あの鍵は」

 

 開いた門の先に広がった風景は壁の向こうとはまるで別物。橙色の(バベル)の周りに僅かながら芽吹き始めた緑が見えた。

 

「ほらほら、初見の人は驚くだろうけれど先に進もうか。列になって進んでね」

 

 ランスロットさんの指示に従い、俺達は大人しく進む。……ハゲとモヒカンは他の連中を押し退けて進んだけどな。そうやって全ての探索団が門の向こうに行ったんだが、試験を行う筈のパンダーラの姿が何処にも見えなかった。

 

「……皆様、ようこそお集まり下さいました」

 

 はっ!? 今、一瞬で現れた!? 俺達の目の前には少し無気力な感じの灰色のウサギのキグルミが立っている。声からして大人の女って事しか分からない。

 

「それでは皆様、彼方をご覧下さいませ」

 

 あっちを見ろと言われるが、何も無い。そんな風に思った時だった……。

 

「な、何だっ!?」

 

 兎のキグルミが(バベル)を指差した時、突然地面が揺れ出した。地震? いや、それにしては長い。グラグラと揺れ続ける地面に俺以外の連中も戸惑い、平然としているのはミントやシォンマオを加えた一部だけだ。……うわぁ。ウチのチームの女って凄ぇ。

 

「この程度でジタバタしてるんじゃないっての! 私達が挑んでる場所に比べたら地面が揺れる程度でガタガタ抜かすんじゃないわよ!」

 

「体幹のトレーニングが甘いアル、アッシュ。熊猫拳を学ぶならこの状況で玉に乗って皿回しが出来ないと半人前ネ」

 

「近付かない方が良いわよ、シォンマオ。此奴にセクハラされるから。……ほら、見なさい。もっと驚く事が起きてるから」

 

「驚く事? ……げげっ!?」

 

 地面が揺れる中、ビキビキと音を立てて地面に亀裂が入る。俺達の少し前から(バベル)の入り口まで伸びて、更に激しい地響きと共に左右に開いて行った。

 

「おい、中は空洞だぞ。随分と広……うわっ!?」

 

「げげっ!? うわっと!?」

 

 あっ、さっきの連中が落ちた。不用意に覗き込んだ仲間に服を掴まれて二人一緒に落下するが、誰も助けに入る余裕が無い。

 

「あれ? 地面の下から何か聞こえる? これは……音楽?」

 

 俺達の中で最初に気が付いたのはミントだ。言われてみて耳に集中すると確かに何かがせり上がる音と共にギターの音色が聞こえ、地面の下から巨大な舞台が姿を見せた。それと同時に地面は閉じる。まあ、空洞だから潰されてはないだろ。彼奴達も探索者だ。

 

「彼奴、何やってんだよ……」

 

 舞台上に居るのはギターを軽快な指捌きでかき鳴らすリゼリク(但し上手とは言っていない)とバックダンサーらしいキグルミ達がバラッバラの動きでグッダグダの踊りを披露していた。ありゃ昨日今日練習を開始しましたって感じだな。ほら、猫と熊だけ上げる手を間違えた。

 

「いや、そもそもキグルミの意味は?」

 

 きっと俺以外の誰もが思っている事だ。そうだよな? 俺が馬鹿で理解出来ていないって事は無いよな?

 

「意味が全然分からないわ。どうしてキグルミなのよ……」

 

「……良かった。変だよな、アレって。リゼリクの格好からして変だったけどよ」

 

 しっかしデタラメな噂だって思ってたのに、実際にキグルミかよ。じゃあ、彼奴が団長か。あんなのが暫定世界最強って……。

 

 ……にしても、何処かで見た気がするな、彼奴。

 

 舞台の中央、少しだけ段になった場所でパンダのキグルミが踊っていた。こっちに背中を向けて尻を左右に振り続ける。

 

「……老師? まさか本当に老師アルか!?」

 

 シォンマオの探していた師匠って彼奴!? おいおい、どんな偶然だよ。偶々出会って偶々再会した奴の探し人を発見するなんて。

 

「お、おいっ! どうなってるんだ!?」

 

 横から驚きの声が聞こえ、突然周囲が暗くなる。月明かりすら存在しない一面の暗闇の中、雲を切り抜いたみたいにリゼリクとパンダだけが光の柱に照らされてリゼリクの歌声が響く。

 

「彼奴が彼奴がやって来た! 愉快な彼奴がやって来た! 彼奴はどんな!」

 

「パンダ!」

 

「此奴はそんな!」

 

「パンダ!」

 

「まさかのこんな!」

 

「パンダ!」

 

 リゼリクの声に合わせてパンダは動きを止めて叫び、下手くそな演奏は更に激しくなって行く。そして演奏が突然止まると同時にパンダは回転しながら真上に飛び上がった。

 

「此奴は此奴は! 彼奴は彼奴は!」

 

「アンノウン!!」

 

 名乗りと共にパンダ……アンノウンはこっちを向いて着地し、舞台の後ろから無数の花火が上がる。全て舞台上のキグルミの動物の顔で、最後に特大のパンダの花火が消えると空が元に戻り、世界は太陽に照らされる。

 

 此処に居る誰もが完全に言葉を失っていた……。

 

 

 

 

「矢っ張り老師は凄いアル!」

 

「あの探索団、どんだけ権力()が有ればこんな事が出来るのよ。……リゼリクが染まるのも当然ね」

 

 但し目をキラキラさせるシォンマオと呆れているだけのミントを除いてだけどな。……この二人、此処に居るどの男よりも肝が据わってやがる。

 

 

 ……ん? 何か忘れてる気がするけど一体何だろう?

 

 

 

 

 

「……兄貴ぃ。俺達、忘れられてるよな?」

 

「そんな気がする」

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