伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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古代の伝説

 早朝、目が覚めた俺は未だ体が睡眠を求めているので二度寝を決め込もうとしていた。何故かロザリーがすり寄って寝てるけど、一緒に昼寝してたら大体こんな感じだったな。手を繋いで寝たのが何時もより近い理由かも知れないが今はどうでも良い。睡魔に従うのが優先だ。

 

「この二度寝しても良いってのが最高なんだよな。起きる時間は同じでもよ」

 

 瞼を閉じて睡魔に誘われるがまま眠る。そんな至福の時は窓の外から聞こえて来た声に邪魔をされた。

 

「待てー!」

 

「……こんな朝っぱらから何だよ、うっせぇな」

 

「絶対に捕まえるんだねー!」

 

 他の三人は熟睡してるのか起きる気配が無いけれど俺は今起きてしまったばかりだ。折角寝ようとしても声は聞こえ続けているから五月蠅くて眠れない。我慢しようとしたけれど無理だ。どうしても気になる。

 

「ったく、何だってんだ……離れねぇ」

 

 こうなったら文句の一つでも言ってやろうとベッドから抜け出そうとしたんだが、ロザリーの手が俺の手を掴んで離れない。無理に離したら起きるよな、此奴……。

 

「よっと」

 

 睡眠を邪魔されるのもするのも嫌いな俺はロザリーをお姫様抱っこすると、そのまま窓に向かう。ニーナ姉ちゃんが鍵を閉め忘れていたので何とか開けた窓からカーテンを捲って外を見れば、声の主は丁度前を通り過ぎる所だった。

 

 最初に目に入って来たのは差し込み始めた朝日を反射するオレンジ色のツインテールだった。年齢は俺達と同じ七歳位の白衣の少女で、両側に取り付けられたウチワを羽ばたかせて飛ぶ巨大なバケツみたいな乗り物に乗っている。乗り物の底からは巨大な虫取り網を持った手が伸びて、追い掛けている相手を捕まえようとしていた。

 

「……何だあれ」

 

 そんな感想しか浮かばない。だって追い掛けられているのは金色に輝く体毛の狼に乗ったパンダのキグルミだったんだぜ。いや、本当に何なんだよ、彼奴達。

 

「ふっふっふ! 君がどんなに必死に追っても、僕はそれをスルリと躱す! 何故って僕がパンダだからさ!」

 

「今日こそ実験台にしてやるんだね!」

 

「おや、聞いてないね。君、そういう所直しなよ。ぶっちゃけ失礼だよ?」

 

 朝っぱらだってのに珍妙な格好をした奴を珍奇な乗り物に乗った奴が追い掛ける。パンダが屋根から屋根に飛び移り、時に道の真ん中を転がって逃げ続ける中、空中で突然乗り物がウチワの動きを鈍らせる。丁度俺が開けている窓の真ん前よりも少し高い位置でだ。

 

「……あれれ? もしかして故障なんだね!?」

 

「工房の警備が甘かったね! シリンダーの中に予めぼた餅を詰めておいたのさ! 今頃中は餅とアンコでベッタベタ! それじゃあ今日はこの辺で!」

 

「……」

 

 パンダが慌てふためく少女に向かって尻を左右に振った後で狼は屋根から屋根に飛び移って逃げて行く。乗り物からは明らかに煙が出ていて、俺は無言で窓を閉めると鍵を掛けてベッドに向かう。あれは関わったら駄目な連中だ。今すぐ眠って夢だと思う事にしよう。

 

「……ん? ちょっと変だな」

 

 未だ眠りながらも俺の手を握ったままのロザリーをベッドに戻しながら思ったんだが、片手が塞がってるから腰に手を添えて握った手でバランスを取って運んだし、これってお姫様抱っこじゃなくないか? てか、よく落とさなかったな、俺。実はロザリーがバランスを取っていた……は流石に有り得ないか。

 

「おーい。本当に寝てるのか?」

 

「……んみゅ」

 

 ほら、ちゃんと寝ている。気持ち良さそうに寝息を立てているし、わざわざ寝たふりをしてまで俺に抱っこされてる理由が無いだろ。布団の中の方が気持ち良いんだからよ。

 

「寝よ。眠いのに中途半端に起きたから変な考えが浮かぶし、変な連中……夢も見るんだ」

 

 横を見れば俺がさっきまで寝ていた場所に突き出されたミントの拳を除けて寝転がる。リゼリクの方には足が突き出されてリゼリクの姿が見えないけれど……ベッドから落ちたまま寝てるよ。

 

「……悪い。もう限界なんだ。恨むならミントを恨んでくれ」

 

 見なかった事にして瞼を閉じれば再び睡魔が訪れる。俺は直ぐに二度寝して、外から聞こえた爆発音は聞こえない事にした。

 

 

「姉さん。新聞を取りに行ったら家の前の地面が黒こげだったけれど何か知らない?」

 

「さあ? 酔っ払った探索者さんが魔法でも使っちゃったのかしら?」

 

 朝、清々しい気分で目覚めた俺はニーナ姉ちゃんの手料理を堪能しながらミントとの会話を聞いていた。魔法かぁ。俺も使ってみたいんだが才能が皆無らしいからな。その事が分かった時の父さんを思い出すよ。

 

「ま、まあ、お前は体を鍛えれば良いって。魔法の修行してたらどうしても体の方が疎かになるからな」

 

 あの豪快なのか馬鹿なのか分からない父さんが気を使ったのって記憶の限りじゃあれが最初で最後だ。うん、本当にな。俺以外の三人には魔法適正が有るってのも何とも……。

 

 ……ミントは魔法使いとしてはポンコツだけどな。

 

「じゃあ朝ご飯が終わったらお風呂にしましょうか。ウチのお風呂は結構狭いから二人が限度だけれどね。……もっと広い借家に移りたいわ」

 

 ああ、この家って借家だっけ。そんな事より風呂か。昨日から動き通しで体中が汚れてるのに疲れていたから泥みたいに寝たからな。ちゃんと風呂に入ってスッキリしたいぜ。

 

「じゃあ入ろう、アッシュ。髪洗って」

 

 ロザリーとミントが先に入るだろうから俺達は少し待たされるんだと思ったんだが、ロザリーは俺の手を取って風呂場に向かう。その動きに一切の迷い無しだ。

 

「へいへい、分かった……って、おいっ!?」

 

「ロザリー、何言ってるのよ、アンタ!?」

 

「ちょっとそれはどうかと思うな……」

 

「だって私は髪洗うの苦手。前にミントに洗って貰ったけど下手だった。でも、アッシュは上手。だから一緒に入る」

 

 まあ、俺達って未だ子供だし、一緒に入っても別に構わないとは思うけどよ。だからって俺と入るのを迷わず選ぶかよ、普通。

 

「ロザリーって大人になってもアッシュとお風呂に入ろうとしそうよね。バスタオルを巻いて体を隠せば大丈夫だって言って」

 

「ミント、それって駄目なの?」

 

「駄目に決まってるでしょ! あーもー! 自分で髪洗うのに慣れなさい!」

 

 我慢の限界が訪れたのかミントはロザリーの手を掴んで強引に風呂場に連れて行く。うん、本当にこんな時は頼りになるよな、ミントって。普段から何かと頼りになる友人の有り難みを再確認しつつ俺はソファーに座る。天井を見上げれば感じる事は只一つ。

 

「退屈だ。……ロザリーはカラスの行水なのにミントは長いからな……」

 

 待ち時間が長くなる予感をヒシヒシと感じつつ暇つぶしの方法を考える。ニーナ姉ちゃんと話でもしていたら楽しそうだけれど少し恥ずかしいし、リゼリクと話すか。

 

「って、読書かよ。相変わらず好きだな、お前」

 

 気が付いたらリゼリクは随分と古い絵本を黙々と読んでいた。ボロボロだし汚い字でルノア姉ちゃんの名前が書かれている。

 

「太陽の王と月の王か。俺、この絵本苦手なんだよな」

 

 表紙に描かれているのは太陽を背景に大剣を構えた男と月を背景にナイフを構えた男。結構昔から伝わる伝説を元にした絵本で俺の家にも有ったけど一回しか読んでなかったな。

 

「僕はどっちでもないよ。って言うかアッシュ君って基本的に本自体が嫌いじゃないか。絵本でさえ途中で寝落ちするよね。もはや特技だよ」

 

「うっせぇよ、モヤシ。一応その絵本は最後まで読んだぞ。終わりが何故か気になってよ」

 

「つまり他の本は一切気にならないって事?」

 

「うん」

 

 太陽の王と月の王は簡単に説明したら友情が壊れるって話だ。元々の伝説は確か……。

 

 

 強い絆で結ばれた者二人、太陽と月の主に選ばれる。だが、月の主は太陽に心惹かれ、やがて心を闇へと落とす。その時、両者の絆は断ち切られるであろう。

 

 ……何故か俺はその伝説が印象に残っていて、記憶にしっかりと残っていた。

 

 

 

「それは兎も角、明日のお祭りが楽しみだよな。何せ聖剣に選ばれるかも知れないんだ。俺は絶対に選ばれる! それが俺の目指す英雄への第一歩だ!」

 

「アッシュ君って切り替えが早いよね、本当にさ……」

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