伝説の聖剣に選ばれたのは俺じゃなくて幼なじみの美少女剣士だったので、俺は別の方法で英雄になるべく塔を登る   作:ケツアゴ

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聖剣に選ばれし者

 秘宝、それは(バベル)で希に発見される不可思議なアイテム。父さんの形見である剣に変わる指輪である魔剣の指輪もそうだし、中には生活に役立つ程度の物から戦争の火種になった物も有るらしい。

 

 だから管理や所有者登録は探索ギルドや探索団によって徹底されて、個人所有は許されていない。王族でさえ貸し出しという形で手元に置いている位で、それが俺達の今後に大きく関わろうとしていた。

 

「ちょっと待てよ! 別の探索団に入るってどういう事だ!?」

 

 それは昼過ぎ、散歩に出掛けたロザリーとミントが持ち帰ったギルドからのお知らせに関係していた。その内容は今後の探索団における新人登録の人数規制と訓練の義務化について。

 

「ミントちゃん、これってどういう事なの? 今までは違法行為がないか監査に入る事は有っても、運営については自主性を尊重してたのに……」

 

「でも、弱小探索団が人数だけ集めて無理をするのには前からギルドの介入があった。多分これが踏み込んだ切っ掛け。流石ギルド、仕事が速い」

 

「新聞? 何々? 貧民街の住人や孤児を集めての実質的な奴隷化を摘発だって!? 犠牲者は殆どが子供だなんて酷い……」

 

「食うや食わずの人の弱みに付け込んで大人数に(バベル)内部での過酷な採掘や採取行為をさせていただなんて。四日で摘発されたけど、モンスターの群れに襲われた時に本来のメンバーは戦わずに逃げ出して、結構な人数が死んだらしいわ」

 

 差し出された新聞によるとメンバーの多くが逮捕された探索団はCランク。大国の騎士団に匹敵する実力を認められてたのに、更に評価を稼ごうと欲をかいた結果がこれらしい。

 

「でも、それでどうしてお前達二人が別の探索団に入る理由になるんだよ」

 

「ちゃんと読みなさい。お知らせに書いてるでしょ。ナインテイルフォックスはGランクの上にメンバーは姉さん一人。しかもAランクの若手エースだったけれど、若手だから指導能力に繋がる実績不足。この場合、加入可能な人数は二人。探索団に所属登録していないと(バベル)には入れないし、個人登録のフリーでやるには一定以上の功績が必要なの」

 

「探索者は危険な仕事だから。余計な犠牲を減らし、全体の質を高める為に必要」

 

「でも、それで俺は決定ってどうして……」

 

 ミントやロザリーの言葉は理解した。多くの命を守るってのがギルドの理念の一つだし、不満は残るけど文句は言えない。でも、それはあくまでギルドの決定についてだ。

 

「だってお父さんの指輪を使うにはナインテイルフォックスに所属するしかないじゃない。別の探索団に入る際に譲渡するとして、あくまで団の所属なんだからアッシュが使わせて貰えると思うの? 命の危険が伴う以上、強い力を持つ秘宝は強い人に使わせるわ」

 

 ……確かにそうだ。魔剣の力を引き出せていない俺が指輪を持たせて貰えるのが確実なのはナインテイルフォックスに所属した場合。仮に成長したら返して貰える約束をしていても、その間に手に馴染んだ武器を手放す事になる人がどう出るか分からないし……。

 

「でも、それでお前達が……」

 

「あのね。私達も探索者になりたいの。ギルドが行う研修だって受けたいし、早めにちゃんと入団したいわ。じゃないと差を付けられるもの。先に入団したメンバーの研修が終わってから入団したら(バベル)に入れるのは何時になるか分かったもんじゃないもの。だからアンタは自分の事を考えてなさい!」

 

「……うん。違う探索団でも私達は友達」

 

「僕もお祖父ちゃんの居た団だけれど、だからって無条件で入る気は無いよ。だから三人で話し合うからアッシュ君は気にしないで」

 

 ……何だよそれ。皆、ナインテイルフォックスに憧れてたじゃんか。絶対に入りたいって思ってたの知ってるんだぞ。それなのに俺に気を使って二人は別の所に行くだなんて。

 

 何で俺は直ぐに拒否出来ないんだ。形見の品じゃなくて想いを受け継いでるから平気だってどうして言えないんだ……。

 

 俺、本当に英雄になれるのかな?

 

「まあ、流石に人数制限が有る以上は子供の入団は難しいだろうし、ルノアさんに親しい探索団を紹介して貰うよ。それなら別の団の友達と会っても何も言われないだろうし、一緒に探索だって出来るだろうしさ」

 

「案外英雄になるのは私かもね。……まあ、姉さんが団長ってのは妹としてちょっとね。別の所に行っても行かなくても同じでしょう」

 

「競争。一番先に英雄になった人が好きな相手に何でも命令出来る」

 

 三人の言葉に嘘がないのは友達だから分かる。だからこそ俺は気を使わせて憧れてた探索団に入らない決断をさせた事が悔しい。そんなモヤモヤとした想いを抱えたまま日が沈んでまた昇り、聖剣祭の日がやって来た。

 

 

「アッシュ君、昨日から落ち込んだままだけれど大丈夫かしら?」

 

「アッシュなら大丈夫。聖剣に選ばれて直ぐに上機嫌になる」

 

 私、ロザリー・エリュシオンにとって世界は色褪せて見えていた。物心付いた時から感情を表に出すのが苦手で、周りの人が感情を露わにする理由も分からない。そんな私を周りの子供達は気味悪がって、ますます感情が表に出なくなった頃、お母さんの故郷に移り住む事になって、アッシュ達と私は出会った。

 

「引っ越して来たのってお前か。なあ、一緒に遊ぼうぜ」

 

「……うん」

 

 この手の手合いは一度断ってもしつこいのは分かっていたし、大人じゃないと遊び相手にならない私の動きで圧倒すれば直ぐに遊ぶのが嫌になる、そう思ってたんだけど……。

 

「アンタ凄いわね。私達がついて行くのがやっとだなんて」

 

「もう一度! もう一度勝負だ!」

 

「ぼ、僕は少し休ませて……」

 

 追いかけっこやボール遊びを他の子供として、ちゃんと勝負になったのはこの日が初めてで、少しだけ楽しいと思った。それでも私の表情は動いてくれない。感情は表に出てくれない。

 

「あっ! 今笑ったぞ」

 

「分かりにくいけど確かに笑ったわね」

 

「表情が固い子だね、ロザリーちゃんって」

 

「……分かるの?」

 

 正直言って驚いた。お母さんでさえ時々分からないのに初対面の子達が分かるだなんて。それから私は何となく三人と遊ぶようになって、相変わらず表情は変わってくれないけれど三人が分かってくれるから別に良い。特にアッシュに伝わるなら別に構わない。

 

 私はアッシュが好き。大好き。彼は私の英雄で、絶対に英雄になる人。

 

「……所で聖剣ってどんなのだっけ? リゼリク、覚えてる?」

 

「え? アッシュ君じゃあるまいしロザリーちゃんまで忘れちゃったの? えっとね、本来探索団ってS級が最高ランクだって知ってるよね? 聖剣……ラーヴァティンはそのS級が手を組んでも攻略不可能だった(バベル)から持ち帰られた物なんだ。分かっているのは一部の秘宝と同じで所有者を選ぶ事と、定期的に他の場所に転移する事。転移先で兆候が現れるのは結構ギリギリだから大勢は集まらないけれど……ほら」

 

 リゼリクが指差した先には大勢の人集り、そして大きな岩に刺さった光り輝く剣。柄は白銀で刃の中央は蒼く他は金色に輝く。

 

「使う時に眩しそう。外じゃ使えない?」

 

 私が感じたのはその程度。リゼリクがラーヴァティンを持ち帰って特例でSS級に認定された探索団の良い意味でも悪い意味でも無茶苦茶な噂話を聞き流し、今はニーナさんを見ている。

 

「……大きい」

 

 この人がアッシュの初恋の相手。つまりは好みの見た目。ちょっと自分と比べてみる。先ずは胸が大きい。私は子供だけれど、お母さんは大きかったから多分大丈夫。髪は金色でサラサラ。私は青い髪。……どうにもならない。

 

「ミントはルノアさんに似て」

 

「いや、急に言われても……何となく分かったわ」

 

 問題はミント。だってニーナさんはずっと年上。だから妹のミントがそっくりに育つ方が驚異。今の言葉で通じたし、後はアッシュが聖剣に選ばれるのを見るだけ。アッシュなら絶対に選ばれるに決まってる。

 

 

 

「……むぅ」

 

 なのに何故か私がラーヴァ……なんちゃらを抜いていた。ちょっとボケッとしていたら何時の間にか剣を岩から抜いていて本当に意味が分からない。知らない人達が歓声を上げても興味が無いけれど、ミントとリゼリクが喜びながら抱き付いたのは嬉しかった。\

 

「ありがとう」

 

 友達が誉めてくれるのも喜んでくれるのも嬉しい。この剣、アッシュが抜くはずなのを間違えた間抜けだし、こんなのが無くてもアッシュは英雄に……あれ?

 

「アッシュ……」

 

 抱き付いて来たのは二人。アッシュは私に背を向けてはしりだしている。多分泣いている。私には……私達には分かった。

 

「……行って来る」

 

 二人にはそれだけで十分。直ぐに離れてくれて、私はどうでも良い人達の頭の上を飛び越えて走り出す。何か呼び止める声が聞こえたけれど興味が無いから頭には入って来ない。直ぐに置き去りにして、聖剣を何処かに落としたけれど最優先で探せばアッシュは直ぐに見付かった。でも、泣いているからどうしよう。

 

「えっと、こんな時は……」

 

 多分抱きつけば良い。私はそれで元気が出る。だから直ぐに抱き付けば、アッシュは一瞬びっくりしたけれど、直ぐに私と分かってくれた。それが嬉しい。凄く嬉しい。

 

「……悪いな。俺が聖剣を抜きたいって思ってたんだ」

 

「あれ、多分明るい所だと眩しくて使い辛い。あんなの無くてもアッシュは英雄になれる。でも、私も英雄になりたい。だから勝負」

 

「いや、聖剣の扱いが……。それに相変わらずだな」

 

 名残惜しいけれどアッシュから離れて指を突きつける。変に慰めるよりもこっちの方が絶対に元気が出るのがアッシュ。ほら、ちょっとだけげんきになってる。

 

 

「私とアッシュ、どっちが先に相手を英雄に相応しいと認めるかで勝負。勝った方が相手に一つ命令出来る」

 

「はっ! 上等だよ。聖剣を持ったお前を父さんから受け継いだ魔剣を持った俺が越えてやる!」

 

 それでこそアッシュ。でも、勝つのは私。絶対に負けない。だから……。

 

 

 

 

「私が勝ったらアッシュは私のお婿さん。アッシュが勝ったら私はアッシュのお嫁さんになれって命令を受け入れる」

 

「どっちも同じだ!? ……俺が出す命令はその時に考える」

 

 ……もう少し引っ掛かるなり照れるなりしてくれたら良いのにアッシュったらケチ。……あれ? 私がアッシュを好きって通じてた? 別に恥ずかしくないけれど少し驚き。

 

「……びっくり」

 

「……本当に驚いてるのかよ。まあ、良い。お互い頑張ろうぜ!」

 

「うん、頑張る。勝つのは私だけれど、私の後でアッシュも英雄になれる」

 

 突き出された拳に拳をぶつける。前に教えて貰った約束の方法。ちょっと嬉しくなった時、遠くからミントとリゼリクの声が近付いて来た。聖剣がどうとか言ってるし、多分拾ってくれたと思う。……別に要らないのに。

 

 

 

 

 こうして私達はちょっと違う道を歩く事になった。そして九年の月日が流れて……。

 

 

 

 

「……お邪魔虫」

 

 アッシュの近くに余計なのが増えた。




聖剣の扱い……
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