Witch Defense Forces(WDF)(完結) 作:ハヤモ
発:潜水母艦エピメテウス
経由:作戦司令本部
ミッション・コントロールより緊急電。
【緊急プロトコルに切り替わりました】
我、白銀ノ制御能力無シ。
戦闘可能ナ部隊ハ、現在遂行中ノ作戦行動ヲ中止シ、直チニ当該魔女ノ静止ヘ向カエ。
備考:
WDF計画は連合軍にも漏洩している。
エピメテウスの現在地不明。
前回、長文でしたが今回は短め。
50.WDF
いずれ、こんな事になるだろうとは思っていた。
だが、実際に"災害"が起きるとなると、多少なりとも狼狽えるものである。
「攻撃部隊との交信途絶ッ!」
「何が起きた!?」
「現在地急げッ!」
「状況不明!」
「軍曹達は!? 只野二等兵はどうなった!」
「応答せよ! 繰り返す、応答せよ!」
突如として攻撃部隊との交信が途絶え、ジークフリート線の本隊は混乱状態に陥る。
それでも懸命に状況把握に努め、やがて偵察部隊が声を上げた。
「こちらスカウト! 人影を確認ッ!」
「生存者か!?」
地面が剥かれて出来た穴の上に、微動だにせず宙に浮く銀の人。
それは、生き延びた隊員には悪夢の光景である。
「あ、あれは……小さいが【かの者】!?」
「馬鹿な! 銀の人はストームが倒した!」
「死神が……か、帰ってきたんだ……俺たちを殺しに!」
「軍曹が! Storm2が やられた!?」
「うわああああッ!!」
「逃げろッ! 逃げろーッ!」
歴戦のEDF隊員が怯え、竦み、悲鳴を上げて蜘蛛の子散らす様に逃げていく。
何故、こんなことが。
何故、かの者が。
かの者。
それはエイリアンの神、死神と恐れられた者。
地獄を生き延びた精鋭を容易く殺戮していった、圧倒的な存在。
武器も装置もナシに宙に浮き、手から光線を放ち、宇宙から流星群を降らせ、隊員のいる地上ごと粉々に粉砕。
だが、そんな存在相手にストームチームは死闘の末に殺害した。
ソイツが復活したとでも言うのか。
この異常な事態は、ここにいた者ですら理解が追い付くか怪しいものだ。
単刀直入に言えば、皆の知る かの者ではない。
WDFが暴走したのである。
WDF。
Witch Defense Forcesの略であり、魔女(Witch)を守るチカラでもあり世界(World)を守るチカラ。
良く言えば他の魔女を守るし世界も守る、悪く言えば他の魔女がいらない、どんな軍隊をも圧倒する戦闘能力をEDFは得ようとした。
EDFの戦略情報部と提案に賛同した者らが本部に無許可で進めた計画で、この世界を掌握する為の兵器でもある。
核のようなものだ。
否。 それよりタチが悪い。
なにせ、制御が出来ていないのだから。
EDFの持つ武器よりも圧倒的な武器をチラつかせることで各国を脅し、EDFが この世界で有利に立てるようにする。
その為には、この世界にとって身近なチカラであるウィッチの姿が有効だとされた。
して、とあるウィッチ……軍曹ちゃんと曹長ちゃんを実験台にして人体改造、亡骸やデータで得た かの者のチカラを付与、人の姿をした兵器WDFとした。
それが暴走。
EDFのコントロールから外れ、キール攻略部隊を襲った。
エピメテウスは本部に事態の収拾を要請。
だが戦力に乏しいEDFが、かの者の紛い物である彼女を止められるか怪しく、司令官は現地展開する部隊に託し、祈るしかない。
隠密性の観点から、海中深くに潜む潜水母艦エピメテウス艦内で手術を施された彼女は、見た目も大きく変化している。
髪は白銀、肌は色白。
太陽の光を照り返す美しさは、女神のよう。
唯一、カールスラント空軍の軍服と、前と同じ顔立ちが元はどこの者だったのかを思わす証拠品だった。
そんな彼女は濁った虚ろな目で武装のひとつすらしていない。
それどころか、ストライカーユニット無しで空を飛んでいる。
ユニット無しで空を飛ぶ、というのは通常のウィッチには困難な芸当である。
それこそ、ファンタジー作品で見るような箒を使って飛ぶのも難しい。
それを簡単に達成して余りあるのだ、WDFは。
それだけではない。
武装もナシに、隊員が苦戦していたネウロイを瞬殺し、キール近辺で大きなクレーターを生み出すほどに巨大なエネルギー弾の攻撃を行った。
それはストームチームが死闘を繰り広げた圧倒的戦闘能力を持つ相手、銀の巨人……エイリアンの神、司令官と思われる存在。
【かの者】を思わせてならない攻撃。
生き延びた隊員らは、その姿とチカラを見て死神だと恐怖した。
それくらい圧倒的なチカラ、悪夢だった。
歴戦のEDF隊員が逃げ出してしまうくらいに。
その悪夢を、絶望を断ち切った遊撃部隊ストームチームだったのだが、どうやら悪夢と再戦する日が来ようとは。
そんなワケで。
悪夢から隊員らが逃げていく反面、逆に逃げずに立ち向かう者達が出たのは必然と言えよう。
言わずもがな、筆頭ストームチームだ。
「ヤツも地獄に行きそびれたか」
最初に名乗りあげるはEDFの死神、グリムリーパー隊ことStorm3。
白銀と相対する漆黒の鎧を照り返し、鈍重に、しかし怖気付く事なく進む。
「アンコールとあれば、お答えしよう」
次に名乗るは、ウィングダイバーの精鋭、スプリガン隊。
赤き薔薇の様に美しくも棘のある踊りを披露するべく、前に進む。
「アレがWDF、シルバーか。 軍曹達が気掛かりだが……あの子も被害者だ。 だからこそ止めねばならない」
最後に言うは、エアレイダーにして我らが隊長Storm1。
あの子、止めるという言い方をする辺りから、優しさが垣間見える。
恐怖の色を微塵も浮かべず、白銀の少女に相対するストームチーム。
対して刃向かう者を確認した少女に意思はなく、どろりと濁った瞳に狂気を浮かべて右手をかざす。
地はクレーター。
バックは夕焼けの空。
宙に浮かぶ白銀の人工魔女に、立ち向かうは地球防衛軍の嵐。
西暦1940年代の異界の地にて。
EDFと かの者 は衝突する……。
◆キール近辺
只野二等兵視点
「ッ……!」
イテェなチクショウ。
ぼんやりとした視界が明るくなってきたと思えば、どこかの湾岸に転がされてるときた。
波の音が聞こえ、鼻をつく潮の匂いがする。
他は分からない。
舗装された地面に倒れているらしく、体全体が重い。
「……なにが、起きた?」
そう思うも、首と目を動かして痛む身体を確認する。
ネガティブな出血なし。
足、腕、大丈夫だ……動く。
センサー、オンライン。
近くに味方の反応アリ。
無線……応答なし。
混線している?
武器は……どこかいっちまったか。
仕方ない。
それより現在地急げ。
とにかく仲間と合流だな……くそっ、痛い。
「ぐっ……!」
鞭打って立ち上がり、周囲を確認。
クレーンや倉庫群といった湾岸設備が見受けられ、やはり港だったらしい。
「なぜ港に?」
思わずボヤく。
最寄りの港はキールだ、攻略対象でもあった。
して、俺は……俺らはキールへの進軍ルート上にいるネウロイと戦闘中だった筈だ。
頭の霧が晴れていき、記憶が蘇る。
そうだ……2体のネウロイの内、1体を倒して……もう1体を倒そうとした時、誰かが現れたんだ。
「あれは……あの顔立ちは軍曹ちゃんだった」
白銀の髪と色白の肌になって、イメチェンしていたが間違いなく軍曹ちゃんだ。
それを確認して直ぐ、俺ら側の……Storm2の軍曹が退くように叫んだんだ。
次の瞬間には視界が真っ白になって……今に至る。
WDFか、あれが。
「まさか……軍曹ちゃんに、キール港まで吹き飛ばされたのか?」
有り得ない。
否。 有り得ると考え直した方が良い。
象くらいある赤いα型の強靭な顎に噛まれて振り回されたり、エイリアン幼生体にしゃぶられながら強制空中散歩をしてきた。
「よく生きてるよ、俺も」
それで死んだ者も多い。
開戦から5ヶ月、まだドローンと怪物の攻撃で"済んでいた"時点で総人口の2割を失ったからな。
喰われる、溶かされる、糸に巻かれる、潰される、ドローンに撃たれる……。
日本はマシな方だったが、その時点で社会システムは既に崩壊の危機だった。
幼生体はもう少し後で確認されたが、やはり生物とは残忍だ。
増えるし、喰うし、見た目も最悪。
空を飛んで火を吐くとかドラゴンかよ。
捕食行為が何よりキツい。
ヤツらの口から覗かせる人だったもの。
撃ち殺した時に内蔵から飛び散る、溶けかけたナニかの肉塊、溶け切れない遺品……。
生理的悪寒による鳥肌は、今思い出しても止まらない。
そんな苛酷さは打ち切りを知らずに増して、今じゃ暗黒時代。
俺らの世界は世紀末ヒャッハーに近い。
って、俺らの世界は今は良い。
いや良くないが。
「……1番、残忍なのは俺ら人間かもな」
審判の日を、数多の惨劇を越えてもなお醜い争いを繰り広げ、挙句に異世界の少女を人体改造して俺らを攻撃したんだからな。
なんの悪い冗談だ。
エイリアンが人類を攻撃した理由のひとつじゃないのか?
「みんな無事だと良いが」
雑念を抱きながら、痛む身体を引き摺る様に歩く。
やがてセンサー上の友軍表示まで辿り着くと、そこにいたのは軍曹チームとフェンサーチーム、ラビットチームだった。
「みんな!」
俺は痛みも忘れて、駆け寄った。
みなボロボロで膝をついている。
フェンサーのパワードスケルトンなんて、火花が散ってるぞ。
「只野、無事で何よりだ」
力なく軍曹が言う。
合わせて他のメンバーも無事を褒めるが、喋るのも辛そうだ。
「軍曹も無事、とはいかないですね」
「ああ……すぐ動くのは難しい」
他のメンバーも見やる。
同じくダメそうだ。
どうやら動けるのは俺だけのようだ。
「生きているだけでも儲け物とは言いますが、状況は最悪ですね」
「そのようだ。 突如、空に現れた白銀の少女は……まるで【かの者】だ、ソイツにキール港まで吹き飛ばされたと見て良いだろう。 キールにいたネウロイは、かの者に殲滅されたのかもな」
混乱してもおかしくない状況下でも、冷静に何が起きたか把握して語る軍曹。
さすがStorm2、テレポーションシップ撃墜方法やエイリアン歩兵隊との戦い方を見抜き、ブレイザーを託されただけある。
「……そうか。 お前は かの者を知らないんだったな」
表情が大きく変わらないからか、軍曹が思い出したように言った。
すみません、俺、欧州に篭ってましたから。
「他の隊員から、何となくは聞いています。 圧倒的な存在であったと」
「そうだ。 ヤツは恐ろしいまでに強い存在だった。 俺たち重症のストームチームと、残存部隊で立ち向かい、最後はStorm1がトドメを刺した」
ここで軍曹は思案顔になり、ブツブツと唱えるように言う。
「亡骸はエイリアン本隊が持ち去った筈だが……EDFでも回収していたのか? それを魔女に組み込んだ結果が……噂のWDFか?」
……本当、その洞察力はさすがだよ軍曹。
まぁ、それが正解かは俺にも分からないけど、だいたい合っているだろう。
「たぶん、そうです。 して彼女は……俺の知り合いです」
そう言うと、悲しげな顔を一瞬だけ浮かべた軍曹。
怪我が酷い中、他者を想えるのも立派だよ。
「そうか……辛いな」
「なんとか出来れば良いのですが」
「WDFに関わった者に尋ねるしかない。 だが最悪の事態は覚悟しておけ」
分かってる。
分かっているんだけどな。
「射殺してでも止めなければ、この世界が俺らの世界みたいになるかも知れない」
「はい。 それは、最後の手段として考えておきます」
「そう言える お前は強い。 悔いのないように動け」
「了解です。 軍曹たちは?」
「動けるようになったらWDFの対処に向かう」
指をさす軍曹。
その先で、爆発や閃光が飛び交っている。
戦闘が起きているのだ。
恐らくそれは……WDFとストーム。
「仲間が攻撃を受けている。 時間を稼ぎ、助けねばならないからな。 最悪は」
「分かっています。 殺すのでしょう」
感情を殺しつつ、そう言う。
軍曹もまた、淡々と言った。
「悪く思うな」
仕方ない、と完全には思えない。
悪いのはWDFなんて子を生み出したEDFだ。
operation:ΩでEDFを怨んだ者は、どれくらいいたんだろうな。
戦略情報部め……オペ子さんとやらはStorm1にWDFの情報を流す辺りから、良いヤツなのかも知れないが。
「そうなる前に、俺が止めますよ」
「その意気だ。 さあ、行け!」
俺は敬礼をすると、直ぐに港を後にした。
エピメテウスに乗り込みたくても、どこにいるのか分からない。
武器もビークルもない。
今はStorm1と合流して、指示を仰ごう。
何か策を練っていた筈だ!
WDF戦、開始。
ストームチームは どうなるのか?
只野二等兵は?
シルバーは、軍曹ちゃんや曹長ちゃんは救えるのか?
?「ウィッチって、魔法が使えなくなる時がくるんだっけ?」
?「20歳あたりからだね」
?「その前にも使えなくなるんだっけ?」
?「……えっち すると、そうなるみたいだね」
?「もうひとつ、質問良いかな?
…………WDFって、ウィッチだよね?」
?「勘の良い隊員は嫌いだよ」