Witch Defense Forces(WDF)(完結) 作:ハヤモ
【無線を受信。 若い女の子の声】
再生:
「白銀の魔女……神さま?」
備考:
生存者有り。 回収する。
連合軍との調整へ。
509JFWとありますが、アプリゲームに出てくる部隊や、他の作者様に出て来る部隊とは 勿論 異なりますので注意。
◆ジークフリート線
鮮血で紅く彩られた地面は水分を多量に含んでぐちゃぐちゃで、無数の肉塊が紅海に浮いている。
時に、それらはヒクヒクと痙攣したように動いて波紋を生んでいたが、意志なんて微塵もない。
沈む夕日が淡い光で地を照らし、それだけなら曖昧に出来た現実も、空に広がる業火の海がより鮮明に映している。
その中心に浮く白銀の魔女。
神々しいまでに天と地の狂気の沙汰を照り返す姿は神話に出てくる神。
少なくとも、言われたら疑いなく信じてしまう。
特にこの地獄を生み出したのは他ならぬ彼女であり、それを"運悪く"生き延びた兵士は見て恐れ、慄き、滂沱して狂笑した。
そんな幻想的で狂気狂乱の世界。
いんふぇるの。
狂い笑う兵士の傍を通過する501部隊の面々。
ちゃぷちゃぷ、と紅海に足を沈ませて重く、だけど自分の意志で狂気から逃れる。
俯き、足を紅く染め、虚ろな目をしている様は まるで生きる屍、ゾンビだ。
幸いにも背中のはるか向こうにいる白銀の魔女が、神が攻撃してくる事はなかったが、501の精神は汚染され心はボロボロだ。
「…………」
誰も何も喋らない、気力もない。
だが気を失わずに落伍者なく"撤退"出来ているだけでも褒められるべき行為。
10代の女の子らが到底耐えられる環境ではないが、それでも動けたのは、軍人だからとかエリートだからではなく、一種の本能からだった。
ユニットを放棄し、着の身着のままで歩き続ける。
今後なんて考えない、考えたくない。
とにかく狂気から離れたい。
生きたい。 死にたくない。
幾度と死と隣合わせだった者でも、耐えられる世界ではない。
対ネウロイ戦争において花形であり続けた魔女、それもエリートの501部隊が無様な姿を晒している。
見栄も階級も名誉も誇りもいらない。
連合も国も土地も金も関係ない。
ただ、生きたい。 死にたくない。
そう。 それだけだ。
「おい小娘ども!」
そこに比較的"まとも"な兵士が声をかけた。
ベテランの兵士の様だ。
瞳孔は開ききり、焦点が定まらない目をしている。 つまるところ自覚なく狂っていた。
この地獄において、しかしそれが"まとも"だった。
「ウィッチだろ? 人類を守るウィッチなんだろ!? 俺を助けてくれよ! なあ!?」
先頭にいたミーナに縋る兵士。
そんな兵士の為すがまま、身体を揺さぶられるが、何も返す言葉がない。
「何とか言えよッ! くそぉッ!」
吐き捨てて、無言のミーナをど突く兵士。
バシャッと紅海に尻餅をつき、身を紅く彩られた。
階級なんて関係ない、本当に。
生殺与奪権を握られたような環境下。
人間が醜い姿を晒せるのが、立派な環境。
だが、誰も兵士を責める気が起きない。
言っていることは間違いないし、生きようと足掻いているだけ"まとも"なのだから。
虚ろな目で、皆は兵士を追う。
無意識だった。
兵士は紅海に沈んだ……事切れたモブウィッチを抱き起すと、また同じように揺さぶり、罵詈雑言を浴びせる。
ダメだと分かれば別の者、ダメなら別の者へと助けを求めた。
逞しい、それが。
正気の沙汰じゃないと言えるのは平時である。
やがて見苦しいと思われたのか。
白銀から一筋の閃光が走ったかと思えば、その兵士を貫き、次には果肉入りジュースになった。 一瞬だった。
思考をある程度シャットダウンしていた魔女たちは、そんな惨い様を見ても何とか耐えた。
身体にかかった果肉とやらを最低限の嫌悪感から払いのけると、また歩き始める。
いんふぇるの。
他に生きている者がいるか怪しかった。
ストームチームは……。
先程まで響いていた爆音と銃声は鳴りを潜め、水の音しか聞こえない。
聞こえない……筈だ。
「軍曹ちゃん! 俺だ! 只野だ!」
だから。
背後の叫び声、撤退した筈の男の声もまた……聞こえない筈だ。
◆ジークフリート線
只野二等兵視点
ちらほらと、ゾンビみたいに歩く人影が見えるが、地獄から逃れようとしている生存者たちか。
中には501部隊と思われる群れもいる。
この最悪な状況下で逃げる意志を持てるだけで立派だと思う。
中には狂った人影も見受けられた。
だが、俺は逃げるわけにはいかない。
狂うワケにもいかない。
先程までストームチームと軍曹ちゃんの間で戦闘……否、一方的な殺戮ショーが繰り広げられていた。
Storm1が最後に抵抗していたが、バルジレーザーではない、別の強力な衛星兵器による攻撃を最後に音沙汰ない。
ストームチームの安否が心配だが、軍曹ちゃんも心配で……つい、叫んでしまった。
だけど。
軍曹ちゃんは天から降り注ぐ連続ビームにも耐え抜き……同じ場所に浮いている。
ストームの面々の姿は見えない。
だが、俺はまたも叫んだ。
「軍曹ちゃん! 俺だ! 只野だ!」
俺は武器も無しに、地獄の元凶である軍曹ちゃんに無防備にも声を出した。
まさに無鉄砲。 これで死んだら全て終わる。
でも、軍曹ちゃんは虚ろな目を向けるばかりで何もしてこない。
ひょっとして、何も見えてないんじゃないか?
声も聞こえないのかもな。
少なくとも正気じゃない筈だ。
正気で、こんな地獄を生む筈がないんだ。
「軍曹ちゃん!」
それでも呼びかけ続ける。
何もしないより良い、そんな考え無しの判断。
「もう止めよう! 本当の軍曹ちゃんは、こんな事をする子じゃない!」
虚ろな瞳に、俺が浮かんでいた。
ボロボロな戦闘服は、血の跳ね返りでところどころ赤黒い。
「全部、EDFが悪いんだ。 軍曹ちゃんは何も悪くない。 だから、だから大丈夫だよ!」
僅かに、瞳に光が戻った気がした。
「ね? 曹長ちゃんも、こんな事を望んでなんか」
ない、そう言おうとした時。
軍曹ちゃんは頭を抱えて苦しみ始めた。
うーうー言っている、こんな状況じゃなきゃ可愛いのだろうが、それどころじゃない。
「軍曹ちゃん!?」
言い終わるより早く。
瞬きした次の瞬間、軍曹ちゃんのいる空間が歪んだと思ったら、消えていなくなった。
「空間転移!?」
それはかの者がやったとされる空間転移。
テレポーションアンカーで、怪物が転送されてくる光景は何度も見たが、装置も無しに かの者はエイリアンの歩兵を召喚したという。
それを自分にやったということか!?
まさか跡形も無く この世界から消えたワケじゃあるまい!?
《只野二等兵……ッ!》
無線が!
慌てて応答すると、それはStorm1だった。
「良かった、隊長! 今どこに」
《早く逃げるんだ……ッ!》
へ? なんで?
そう問おうと思ったが、天からの轟音に気づき、理解する。
「あ、ああ……マジかよ……」
無数の火の玉が頭上にあった。
どんどん大きくなってきている。
「隕石ッ!?」
そういえば、かの者は こんな攻撃もしたと隊員から聞いた事があった。
ヤバい、圧倒的にヤバい。
「くそっ!」
俺はアンダーアシストで全力疾走。
血の海をバシャバシャと走り抜け、少しでも落下地点から離れる。
刹那。
強烈な衝撃と共に、地面はめくれ上がり、土砂と血、その他の人間の体液などが津波となり俺を襲い。
俺は意識を失った。
結論から言えば、俺は またも生き延びた。
ストームチームの面々もだ。
後からベルリン本部から来た救助ヘリやキャリバン救護車両に回収されたのだ。
ただ、軍曹ちゃんは行方不明になり、この惨劇からの立ち直りにEDFと連合は尽力していく事になる。
メンタルのやられた兵士らに関しては、どこぞの組織よろしく記憶処理を施して。
身体が欠損した者にはエイリアンを研究して出来た体液的なのをぶち込んで"生え直させた"。
非人道的な出来事だ。
もちろん、それはEDFの所業だ。
俺たち……疲弊したEDFは、連合軍の非難や調整を受ける形となる。
それはもう、仕方ない。
だが かの地獄を良くも悪くも"評価"するしかない連合上層部が、WDFの所有権を主張。
元は連合兵士であるので連合に所有権があると言う。
欧州の撤退戦や、ガリア解放の為のエトワール作戦やらで使い捨ての駒にした癖に、手の平をくるっとする大人達には反吐がでる。
だが、このままではEDFも連合も共倒れ。
喧嘩している場合ではない。
そこで総司令部にいるガランド中将の提案などで、EDFは連合軍のひと部隊として組み込まれる。
ある種の刑罰、拘束の意味もあるが、兵站……連合からEDFに補給をするには、この方が都合が良いのもあった。
して、EDFの残存戦力は決して小さくない。
本隊が逃げ出したのもあったが、元々吸収した元連合兵士、ウィッチらは 本国の兵士らよりも強くなっていた。
特にEDFが抱えるウィッチらの戦力は、各統合戦闘航空団の10名前後しかない戦力より ずっとあり、これも含めた新たな大部隊が創設される。
対WDF決戦部隊。
第509統合戦闘航空団である……。
短め。
まだ曹長ちゃんの件も分からないですね……。