Witch Defense Forces(WDF)(完結) 作:ハヤモ
エピメテウス周辺海域にて戦闘発生。
敵は同じ人類です。
とうとう武力行使の事例が発生してしまいました。
とにかく、これを撃退。
政治的な理由で大規模な増援は不可能です。
代わりにStorm1と空軍が支援します。
WDFを連合の魔の手から守って下さい。
備考:
知恵と理性は剥き出しの憎悪と狂気の前では無力である。
◆エピメテウス周辺海域
青空の下、青い海の上。
この世界には存在しない1機の重装甲ヘリを、この世界のプロペラ戦闘機が群れて襲っている。
それは飢えたピラニアに集られる餌の様相を醸し出しているが、生憎とソレは餌ではなかった。
『こちとら空飛ぶ要塞ブルートだ! 旧世代の20ミリ程度で堕ちるかよ!』
パイロットが威圧するように、或いは自身を鼓舞するように言うが、劣勢である。
確かに表面装甲に火花が散るばかりで、ブルート自体は平然と飛んでいる。
だが、延々と喰らい続けられるほどタフではないし、ヘリの構造上の弱点であるローターは剥き出しだ。
武装に関しては、対空兵装は積んでいない。
ミサイルもなく、あるのはガンナー任せの横腹にあるドーントレス機関砲2門のみ。
回避行動を取るにも重装甲故に機動性に難がある。
ヘリだからホバリングやその場での方向転換など柔軟性はあるのだが、対空戦闘は想定していない。
技術格差があれど、運用方法が違えば相性の良し悪しが目立ち、旧世代の兵器でも異界の兵器と渡り合えてしまう。
こと今に至っては、プロペラ戦闘機の群れに対抗するにはあまりに無謀だった。
(このままじゃ殺られる!)
パイロットは意地を張らず、無線を飛ばす。
今、背後の只野や付いてきてくれたウィッチの命を預かっている以上、生存率は上げなければならない。
『バルクホルン大尉、ハルトマン中尉と南島へ撤退して下さい。 援軍要請とWDFの防衛をお願いします』
特に、子どもには……大人の都合による、人類同士の殺し合いに巻き込むワケにはいかなかった。
『お前たちEDFは どうするんだ!?』
バルクホルンは慌てたように言うが、どうして良いか判断に困っている。
そりゃそうだ。
いくらエースといっても怪異のネウロイ相手での話、人間殺しのエースじゃない。
まさか異国の軍隊相手とはいえ、宮藤や坂本の祖国の兵士を手には掛けられない。
『俺たちは大丈夫! EDF隊員はヤワじゃない、知ってるだろう?』
ホーク1は軍人の口調ではなく、子どもに優しく問いかけるように言って安心させようとした。
『しかし!』
それを感じて、バルクホルンは何かを言おうとするが、
『トゥルーデ、行こう』
ハルトマンが言った。
真剣な眼差しと、はっきりとした口調だった。
『エーリカ!』
何かを言おうとして、言葉に詰まる。
だが迷っている暇はない。
ここに残るということは、人類の殺し合いに加担することであるし、撤退するのは只野たちを見捨てる事である。
いくら人外のEDF隊員だからって、この数相手だ、死ぬかも知れない。
逆に死なないかも知れない。
『くそぉっ!』
バルクホルンは、撤退を選んだ。
WDF防衛も救援要請も大切なんだ……今はそれがベストだ……そう言い訳して。
思えば逃げてばかりだ、だが全て意味のあるものだ、恐怖からではない。
『絶対に死んじゃダメだからね』
ハルトマンも、そう言って撤退した。
それをキャノピー越しに見て、ホーク1はうすら笑みを浮かべる。
『そんなワケだ只野二等兵、気張れよ!』
「了ッ! ああ、チクショウッ!」
嗚咽を吐きながら、ヘリ搭乗員の只野二等兵はTZストークを撃ちまくる。
ひとつ、またひとつと戦闘機を逆に喰らい返しては減らして行く。
だが、数が多いのと射角が限られるから、いかにTZストークといえど捌き切れない。
「数が多過ぎる! 旧日本……いや、扶桑にはそんな余裕があんのか!?」
航空機の数で言えば、現EDF空軍より多い状況に嘆く只野。
TZストークは戦況を打開するアサルトライフルとして開発されただけあり、この世界の装甲をも容易く破壊する威力がある。
だが所詮は個人の携行火器、して今は一丁しか この場にない。
「援軍なんて期待出来ないですよね!?」
多勢に無勢。
どんなに高火力の武器を振り回したところで、その優位を覆すのは簡単じゃない。
『良いから撃て! 救難信号は飛ばしている!』
EDF隊員なら、数の暴力の恐ろしさを知っているだろう。
あの地獄を乗り切るには、武器だけでなく戦術も必要だった。
建物に籠る、狙撃する、軍曹爆弾……は、不謹慎だが。
今も、そうしなければならない。
只野が掟破りの、ヘリのサイドドアを開けてのアサルト撃ちだって、そのひとつだ。
その異界の兵器、戦法、それを受けての多大な損害に相手もたじろぐ。
《たがが1機、何故墜とせない!?》
《装甲が厚いのか!?》
《機銃を使わずに歩兵銃で!?》
《機動力はこっちが上だというのに!》
《たった1人に、こうも編隊が崩されるとは!》
敵パイロットは狼狽えながらも攻撃を続行する。
人間相手だというのに、その闘志の炎は燃えている。
《怯むな! 扶桑の為、人類の為だ!》
どうやら、上に騙されているようだ。
だが、そんな事は只野たちは知らない。
知ったところで、どうにもならない。
上の命令で動き、歪んだ正義を感じたところで理不尽に死ぬ。
意思決定をするのは上層部だろうが、戦うのも死ぬのも結局は彼ら兵士だ。
『ホーク1よりノーブルリーダー! そっちは無事か!?』
『まだな!』
『エピメテウスは来れないのか!?』
『さっきも言っただろう! 来れない、水深が浅過ぎる!』
『ミサイルは!?』
『誘導ビーコンが必要なヤツなら撃てるだろうが、無いだろ!』
『くっ、Storm1がいれば!』
そうこうやり取りをしていたら、突如として耳元で銃声や金属音が。
それは無線の向こうの話で、こちらではない。
『くそっ! こっちにも敵が!』
どうやら別働隊がノーブル隊を襲っているらしい。
銃声や火花以外にも悲鳴や被害報告の声も聞こえる。
彼らノーブル隊には護衛機がない。
武装もない。
本当ならつけるべきだったが、そんな余裕がなかったのと、海上でネウロイに襲われる可能性は低いと判断した結果だった。
まさか同じ人類に襲われるとは思っていなかったのである。
『コンテナ切り離せ! 機体を軽くして逃げるんだ!』
『馬鹿ッ、これは俺たちの命綱だ!』
『それで死んだら元も子もない!』
『命の方が大事だろ!』
『後で潜水艇で回収すれば良い!』
『被弾! 被弾!』
『May Day May Day May Day!』
『2番機がやられた!』
『右翼機被弾ッ!』
『cargo fire! cargo fire!』
『くそっ、切り離せェッ!』
『散開! 固まるな!』
『機体に着火!』
『燃料噴くぞッ!?』
『持ち堪えろ!』
『操縦士が撃たれた!』
『emergency! reason:pilot trouble!』
『full throttle! 速度はこっちが上だ!』
こちら以上に被害は甚大のようだ。
あれ、おかしいな……ノーブルはいくら被弾しても堕ちない気がしたんだが……それはゲームの話だよ。
『さっさと片付けろ! でないとノーブル隊が全滅だ!』
「俺ひとりで どうしろってんだ!」
文句を言いつつ、弾をばら撒く只野。
他に出来そうな事がないので仕方ない。
そんな時こそだ。
大将は、いつも良いところに来る。
それはStorm2、軍曹の部下の言葉である。
『こちらStorm1。 救援に向かう。 持ち堪えてみせろ!』
して彼はStorm3、グリムリーパー隊長の言葉を使った。
残念ながらStorm3は来ないのだが、代わりがやってきた。
『EDF空軍のKM6!』
識別信号を確認したホーク1が、嬉々として叫んだ。
その期待に応えるように、KM6のパイロットから声がかかる。
『こちらボマー。 Storm1の要請で来てやったぞ感謝しろ』
言うが早いか。
KM6によるミサイル群が空を耕しながら飛んでくると、次々と戦闘機を爆炎の中に沈めていく。
《なんだ!?》
《ロケット弾!?》
《追尾してくるぞ!》
《どこから!?》
《見えないぞ!》
風防の中で、必死に左右上を見回すパイロットたち。
だが、見える筈もない。
同じ戦闘機とはいえ、機能も武装もまるで違うのだ。
特に遠距離から一方的に行われるミサイル攻撃に対抗する術なんて、この世界には無い。
結果、逃げ切る事も出来ず敵を見る事も叶わず戦闘機は喰い尽くされていく。
《うわああ!?》
《脱出しろ!》
《風防が開かない……ぐわああッ!》
《助けてくれェッ!》
《熱いッ! 熱いイイイイッ!!?》
直撃しての爆発で即死したパイロットは幸運で、直前まで中途半端に生きた者は地獄を味わう羽目になる。
「くそっ」
只野は見た。
コックピット内で炎に抱かれたパイロットが、手をジタバタさせながら苦しむのを。
それから炎はガラスの中で充填すると、耐えられなくなった風防が内側から砕けた。
次に機体が爆発、消えていなくなる。
「惨いなぁ。 戦争で見慣れた筈なのに、くそぉ……なんだって、こんな……!」
只野は嗚咽をもらしながらも、ソッとサイドドアを閉めた。
敵がいなくなったなら、戦う必要はない。
惨い光景を見続ける必要もない。
だが、その光景は脳裏に焼きついてしまう。
人間に似たエイリアンの、四肢や頭が取れる光景を何度も見てきた只野。
だが明確に同じ人間と殺し合った事実、それに加担して名も知らぬ兵士たちの惨い死に様を見たのとはワケが違う。
命を奪った側、理屈では説明できないこの重さが、今になってのし掛かる。
『大丈夫か、只野』
心配したホーク1が尋ねた。
只野は、息を詰まらせながらも返答する。
「はい……大丈夫です。 覚悟はしていました」
『誰しも覚悟を持って挑んでも、現実はその上を上回る。 例え慣れていたと思うものでもな。 だから、お前の気持ちは普通だ、深く考えるな』
「俺たち、どうなるんでしょう」
『細かい事は上に投げつければ良い。 お前は もう心配するな』
「分かりました。 すんません、ありがとうございます」
ホーク1に慰められて、気持ちを落ち着かせる只野。
過ぎたことよりも、未来のことよりも今だ。
まだ戦争は続いている。
考えてる余裕があるなら、現実と戦わねばならない。
『こちらボマー。 このままノーブル隊の救援に向かう』
『ホーク1よりボマー。 頼む』
現代のジェット戦闘機が、ブルートの脇を一瞬で通り抜けていく。
して、ジェットエンジン部の光源とは別の光がいくつも見えたと思ったら、爆炎が生み出されていく。
ノーブル隊を襲っていた部隊を器用に叩き落としているのだと、すぐに分かった。
『ノーブルリーダーからボマーへ。 救援感謝する』
『こちらボマー。 敵は殲滅した、後は任せたぞ。 アウト』
見えないところで、戦闘が終了した。
同じ戦闘機というカテゴリであれ、こうも文明差がある。
有視界飛行及び戦闘が主流の この世界からしたら、遠距離からの一方的なミサイル攻撃なんてどうしようもない。
結果はコレだ、当然である。
それでも中には同じ人間がいて、一瞬で皆死んだ。
それも激戦の中で、武運拙く……ではない。
戦闘なんて起きていない、一方的に虐殺されたと言って良い。
厳しい訓練を乗り越えて、国の為に家族の為と信じた者もいただろうに……こうも命とは簡単に散るものなのかと、只野は薄らと思う。
『トラブルはあったが予定通りエピメテウスに着艦、曹長をさっさと回収ないし無力化する。 準備は良いな、只野』
「悪くてもやるんでしょ?」
『当然だ』
「了解……やってやりますよ」
この先、ネウロイなんていう人類共通の敵が仮にいなくなった時、人類は自分達の深淵を見ることになるだろう。
それは食糧問題やエネルギー問題等ではない。
平和の中で利益を求めなくなったなら、緩やかに滅んでいくかも知れない。
逆に闘争を抑えられないなら、隣人や家族を傷付け合っていくだろう。
その時、果たして どれくらいの命が散るのだろうか。
……そうならない為に。 世界には分かりやすい物語と、敵役が必要なのだ。
それこそ、異界の侵略者EDFと。
かの者……WDF、Storm team。
時代から与えられたEDFの役割。
プライマー。
望んでいなくても、そうなっていた。
『Storm1から只野へ。 先に行っていてくれ、俺も後から行く』
「了解です……はやめに、来て下さい……記憶処理をしないとならなくなる、廃人みたいになる前に」
なんにせよ、互いに やる事をやらねばならない。
少なくとも只野二等兵は、そうだった。