Witch Defense Forces(WDF)(完結) 作:ハヤモ
エピメテウスに着艦したな。
すぐに曹長を助けてズラかるぞ。
備考:
人は変わる。
◆エピメテウス
指定座標に到達すると、エピメテウスは浮上、ノーブル隊共々着艦して艦内へと入る事になった只野二等兵。
エピメテウス乗組員とやり取りしつつ、曹長ちゃんの場所へと案内される。
「こちらです。 急ぎ、運び出して下さい!」
狭い通路を駆け足で案内され、只野も歩調を合わして走り出す。
また連合軍が来るかも知れないのだ、そりゃ慌てる。
『対空、対潜警戒を厳にせよ! この機会を連合軍が見逃す筈が無い!』
艦長が叫んだ刹那、部下達が次々と報告を重ねる。
休まる暇がない。
『艦長! レーダーが敵群を捉えました! 連合軍の航空機です!?』
『ソナーにも反応! 潜水艦と思われます!』
『呼び掛けに応答ありません!』
どうやら時間は無いらしい。
エピメテウスは巨体だ、浮上すれば目立つし被弾率は高くなる。
潜って隠れようにも、連合軍にも潜水艦や対潜兵器はある。
WDF……魔女1人の為に航空機を何機も投入してきた連中だ、それら兵器をも投入してきても変ではない。
元々魔女は貴重な戦力だから、1人を助ける為に多数の一般兵士が犠牲になる話は珍しくないが……とはいえ、いくらなんでも過剰だ。
それに、だ。
なぜネウロイと戦争中なのに、それも水が苦手とされる敵を相手にしているのに、それら対潜兵器が運用されているのか。
そのうち水に潜るネウロイ対策だとか、ネウロイに気付かれずに こっそり島から島へ移動する手段にすると言えば聞こえは良いが……こういった対人戦闘に備えているのが本音かも知れない。
『チッ、早いな!』
『交信諦めろ! 戦闘用備ーーッ!』
『容赦するな! 相手が人間だろうと、襲ってくるなら敵だ! 迷いは捨てろ!』
乗組員が慌ただしく動き回り、怒声が響く。
助けねばならない、とにかく目的を達成しなければ。
事今に至っては、WDFという1人の魔女の為に多くのEDF隊員が命を懸けている。
「はやく!」
只野は慣れた動きで、素早い案内人を見失わないように食らいつきながら走り続け、やがて ひとつの部屋へ辿り着く。
「こちらです!」
言われて重厚な耐圧扉を乱暴に開けると。
そこには1人の少女が、ベッドに座っていた。
「……曹長ちゃん?」
その様子に、不安気に尋ねる只野。
だって、彼女は怯えて震えていたのだから。
軍曹ちゃんと同じく、白銀の髪に白い肌、カールスラントの軍服を着用。
しかし、顔立ちから曹長ちゃんだと分かる。
だが、もっと違うのは、前述の通り彼女が酷く怯えていることだ。
この緊急事態に怯えているワケではないのだと、只野はわかった。
人体実験で精神的に追い詰められたのだろう、心をボロボロにされたのだと。
軍曹ちゃんは神さまだと勘違いされるような威圧感を放っていたなら、曹長ちゃんは……病人だ。
「曹長ちゃん、只野だ。 覚えてるか? 只野二等兵だよ!?」
近寄ってみると、ビクビクと更に怯える曹長ちゃん。
本当なら、ゆっくり時間をかけて話すべきだろうが、それどころではない。
『魚雷発射音探知!?』
『回避行動をとれ!』
『面舵一杯ッ!』
とうとう攻撃が始まった。
大きく揺れる艦内、身体がよろけそうになり、近くの壁で転倒を防止する。
案内人は慣れた動きをしつつ、しかし切迫した状況に声を荒げる。
「時間が無いんです! 離陸が出来る内に運び出して!」
「分かってる!」
対して只野は怒り返しつつ、曹長ちゃんを無理やり抱き抱えようと近寄った刹那。
「くるな!」
曹長ちゃんが叫ぶ。
次には手で押されて吹き飛ばされる只野。
「ぐっ!」
「只野さん!?」
壁に叩きつけられ、悶絶する只野。
魔女とはいえ、ここまでチカラがあるのは不自然だ。
やはりか、改造手術を受けているのだと分かる。
そう思う只野に、今まで黙っていた曹長ちゃんは、追い討ちを掛けるように怒りをぶつけた。
「お前たちEDFは悪魔だ! 私と軍曹を騙してこんなカラダにして! 腹や頭の中にコアやら脳波誘導装置を埋め込んで! しかも私は軍曹の実験台だって!? あれこれ弄って失敗作!? 【M4レイヴン】みたいだとか、ワケわからない事を言いやがって! 少なくとも私や軍曹を人間扱いしてないのは分かってるんだ! お前たちにとって魔女の命は簡単なんだ! オモチャなんだ!」
早口で恐怖を口から吐き出す曹長ちゃん。
只野が知らないところで怖い目に遭ったのだと嫌でも分かる。
挙句に失敗作呼ばわりされたそうだ。
酷い話だ。
話に出てきたM4も失敗作との声があったから、例えで出されたのだろう。
M4レイヴン。
レンジャーのアサルトライフルであるレイヴンシリーズで、多砲身でガトリングのようになっている銃だ。
そのせいか、命中精度が そんなに高くなく、代わりに連射速度が高い……と言いたいが、直ぐに弾を撃ち切ったり弾着点がバラけたりと安定性に欠く。
そのことから失敗作と言う声もあった。
この結果から前のM3の改修が行われる事になった。
経緯で言えば曹長ちゃんはM4で軍曹ちゃんはM3SLSといったところか。
M4も使えないワケじゃない、只野は知っているが、出た言葉は別だった。
「落ち着いて……とにかく、逃げよう」
だが今、慰めている場合ではない。
只野はよろよろと立ち上がり、諦めず曹長ちゃんを連れ出そうとする。
一刻も早く脱出しなければ、下手すると海の藻屑だ。
WDFの彼女なら沈没しても脱出出来るかも知れないが、只野達には無理だ。
いくら屈強なEDF隊員とて、暗くて息も出来ぬ深い水底で重厚な耐圧壁や扉を突破して水圧に耐えながら水面に浮上するのは不可能である。
「来るなぁ!」
だが曹長ちゃんは拒絶した。
彼女の手から光弾が放たれると、至近距離にいた案内人を吹き飛ばす。
「グハッ!?」「ッ!」
吹き飛んできた案内人を、只野は素早くローリングで回避。
しかし案内人は壁に叩きつけられて、気を失ってしまった。
軍曹ちゃんだったら紅い花を咲かせていたところだが、曹長ちゃんは理性がある分、加減を知っていた。
「は、ははっ! ザマァ見ろ! お前達が悪いんだぞ! 私をこんな目に遭わせて!」
同情する暇も、曹長ちゃんを叱咤する暇もない。
只野はとにかく連れ出したい一心だ。
彼女の心境に沿うように言いつつ、只野は近寄る。
「曹長ちゃん! 一緒に逃げよう!」
「逃げる? どこにだ! 世界中どこ行っても、EDFは追いかけてくるだろう!」
かつて魔獣の宴にいたフェンサー部隊のような事を言うと、また光弾を放つ。
只野は素早くローリングで回避する。
至近距離であるが艦が揺れる他、彼女自身、安定性に欠き光弾の速度や精度は粗い。
「頼むよ! お願いだから!」
「騙されるか! 酷い事を続ける気だろ!」
言い合う間にも時間を浪費し、戦闘は悪化していく。
『制空権、奪われつつあります!』
『弾幕薄いぞ! 何やってんだ!』
『残弾、僅かです!』
『補給急げ!』
『海の底だよ!』
『曹長は脱出したか!?』
『まだです!』
『急がせろ!』
『それが、案内に就かせた隊員との交信が途絶えました』
揺れる艦内、爆音がここまで届く。
時間はない。
「このままじゃ、俺も曹長ちゃんも殺される! それも連合にだ! この騒ぎが分からないのか!?」
「お前たちが蒔いた種だ! 私は関係ない!」
「あるんだよ! 自分の胸に手を当てて聞いてみなよ!」
只野は叫んだ。
彼女にWDFである事を改めて自覚させて、どうするのが良いのか判断させようとした。
ただし、只野の考えとは別に曹長ちゃんは罪悪感に襲われる。
EDFの情報を連合に流していたのは紛れも無い彼女だ。
それが様々な展開と結びつき、武力衝突が起きたと考えるのは難しい話じゃなかった。
「私は悪くない! 私のカラダを、命を、好き勝手にいじくり回したのはEDFだ! その結果だ!」
「起きた事は取り消せない! だけどこれ以上の犠牲が出るかどうかは曹長ちゃん次第だ! 軍曹ちゃんは改心したぞ!」
改心、というには無理ヤり感があるが。
理性を取り戻し、チカラと記憶を無くす事で犠牲者は減ったと見て良い。
曹長ちゃんは会話が出来ることから理性は ある、辛い記憶を引きずっているだろうが後は本人次第だ。
「軍曹は……無事なのか?」
怒りから不安へ。
曹長ちゃんは、只野に尋ねた。
情報を流しつつも、軍曹ちゃんを見捨てられずに庇った彼女。
その人間の心は脆くも強く残っていた。
只野は、その不安を払拭するように強く深く頷いた。
「無事だよ。 とある南の島に匿ってる」
そういうと、曹長ちゃんはホッとしたようにベッドに腰掛けた。
「そうか……良かった」
僅かに笑みが零れる。
只野は畳み掛けるように、曹長ちゃんを言葉責めにする。
「会ったらきっと喜ぶよ。 死んだら悲しむ。 他のみんなもそうだ。 だから」
揺れる艦内。
只野は握手を求めるように手を伸ばして笑顔で言うのだ。
「守るから。 俺と一緒に逃げよう」
言われて、曹長の心の中でコンコンと温かいモノが湧き上がった。
只野二等兵。
ちゃちで臭くて、どうしようもない事を言うスケベな男だけど。
きっと、今度は嘘偽りの無いモノだと思えた。
「……わかった。 一緒に行ってやる。 お前は危なっかしいからな。 見張ってないと軍曹にセクハラするかも知れないし」
「むしろ逆に」
「えっ?」
「なんでもない。 行こう!」
曹長ちゃんは手を取ると、只野が力強く立ち上がらせた。
ここからだ、2人の逃避行が始まるのは。
曹長ちゃんは、どこか乙女な妄想で白い肌を赤らめたが、只野は分かっていない。
(血色が良くなった。 大丈夫だな!)
程度に思っていた。 おい。
『航空機に集られている!』
『弾薬が僅かです!』
『撃ち方止め! 曹長が離陸するタイミングで撃て。 弾薬を節約しろ!』
とにかく、逃げなければ。
只野は案内人が持っていた無線機を取ると、エピメテウス乗組員に告げる。
「こちら只野二等兵。 案内人が戦闘の衝撃で気絶。 代わりにWDFを連れて脱出します。 離陸準備願います」
そう言って無線機を放り投げ、曹長ちゃんの手を取り走り出した。
「行こう!」
こくり。
赤らめた顔のまま、彼女は頷いた。
グダグダ感が否めない……。