Witch Defense Forces(WDF)(完結) 作:ハヤモ
怪異が生まれし海。
今次大戦勃発の海。 黒海。
この海からやってきたネウロイは人類を圧倒し、欧州やユーラシア大陸へと侵攻を始めました。
ですが我々EDFにより欧州のネウロイは ほぼ一掃。
これにより余剰戦力が生まれた人類連合軍は、黒海方面へと戦力を集中。
今、黒海方面には再編成された国際黒海方面監視団のみならず、欧州の戦力が集結しつつあります。
人類側の攻撃が始まろうとしているのです。
人類連合軍による攻撃プラン立案、発動。
operation:Neptune。
それが連合とEDFの共同作戦名です。
持てる稼働戦力の大半を注ぎ込みます。
同時にこの世界で最後になる可能性がある作戦です。
只野二等兵は黒海方面へ向かい、現地連合軍と合流して下さい。
作戦開始日時、その他詳細は追って連絡します。
……世に平穏が訪れますよう願います。
備考:
WDFも参加。
先ずは黒海方面へ。
フラグ建築士。
※作中に出てくる様々は、あくまで作者と作中の妄想で構成されています。
その為、時期や歴史、土地や兵器群、人物が実際のモデル等と異なる可能性があります。
(何度目かの注意事項を繰り返して許しを乞うスタイル)
73.黒海へ。
◆黒海方面
展示会終了及び各方面へのEDF製ビークル輸送が落ち着き、早数ヶ月。
1940年6月辺りに行われていたダイナモ作戦などの欧州における大規模撤退作戦敢行中、EDFが突如としてカールスラントに現れてから人類は電撃的に巻き返し続けてきた。
アニメ3期でベルリンを奪還したのが1946年春なのを考えると、約5年くらい短縮したのではないだろうか。 かなり電撃的である。
……はい、そこ。 第501統合戦闘航空団が結成されたのは1942年と少し未来じゃないかとか、ウィッチ達の年齢とか、他にも様々な作戦と情勢を考えるとオカシイ矛盾とか言わない(殴)。
とにかく。
怪異を押し返す波濤の反撃は続き、とうとう舞台はヨーロッパとアジアの間にある内海、黒海へと移る。
黒海……亜硫酸化合物の沈殿の為、海底が黒く見えることから この名があるという。
が、ネウロイの巣になっている現状、暗雲立ち込める様が由来と言われた方がしっくりくる。
大戦が始まった大元がここだというから、人類が挑む心境は魔王城攻略とでも言うべきか。
さて。 この海岸手前には連合軍が集結しつつあるワケだが。
理由はブリーフィングをした隊員なら……いや。 しなくても分かるだろう。
魔王城を堕とす為の大攻勢準備だ。
欧州南東部に位置する多民族国家であるオストマルクには、未だネウロイが散見するが、そこは連合軍の別働隊が対処中。
オラーシャ方面から横槍を出しそうなネウロイに備えては、502部隊や他部隊が塞き止める。
対して主力、本隊は黒海に割り振られた。
そのカールスラント側、近い海岸手前の地には、欧州各国から運び込まれた物資が積み上げられ、戦車隊が並び、別方向には戦闘機が並んで壮観だ。
EDF製の戦車やコンバットフレームも混ざり、連合軍にアクセントを加えた上で何個師団かという規模。
中には扶桑からの援軍も見受けられ、本気度が伺える。
流石に陸戦戦力が海上戦闘に参加出来ないが、ある理由として海岸に蠢く怪異を倒したり、逆襲してくるヤツから身を守るのに陸戦兵器が必要故に。
その様子を高台から見た501部隊の宮藤軍曹は「わぁ」と息を吐いてから感想を述べた。
「凄い。 軍人さんって、あんなにいたんだ……あっ、扶桑にも戦車ってあるんだ。 欧州のと比べると弱そうだけど」
「……宮藤」
その隣、たまたま居合わせた只野がチカラなく声を掛ける。
「それ、坂本少佐に聞かれないようにな」
「わっ! 只野さんもいたんですか!」
「いたよ」
子どもらしく破顔する宮藤。
戦争中でも、こういう時くらい笑顔でいて欲しい。
只野は薄笑いを浮かべつつ、しかし、これからの事を思い言う。
「戦争が始まった、諸悪の根源の黒海。 そこに巣食うネウロイを倒すワケだからね。 扶桑からも遠路遥々来たんだよ」
「そうなんですね」
あっけらかんと話す2人だが。
欧州と扶桑は遠く、そう簡単に増援を送れる距離間ではない。
それでも僅か数ヶ月単位で欧州に歩兵や戦車、その他 火砲や物資を送り込こめたのはEDFの輸送機ノーブル隊やエピメテウスの海上護衛幇助あってこそ。
扶桑以外にもEDFが協力した輸送計画はあるのだが「どの国にも軍部の腐敗臭がしました」とは少佐とオペ子の談。
優位性を保ちたいとかプライドを理由に他の国の手助けはいらんだの、ウチがこうするからソッチはこうしろとか、費用はソッチ持ちねとか。 あとは人種、国の差別。
戦略情報部は各国と調整するのに苦労したが、何とかした。
今までの功績、WDF拉致未遂事件を引き合いにしたり。
扶桑に関しては「ウォーロック事件の時に助けたろお宅の軍艦をよおぉ?」という他、欧州各国には「アントウェルペンを防衛したんだよこちとらよぉ?」といい、金に煩い連中に対しては、その際にかかる被害予想額を提示する事で黙らせた。
その意味、金勘定勝負では506A部隊の黒田中尉も参戦出来そうである。 守銭奴だし。
連合は相変わらずだ。
食えないプライドを振りかざし、前線を混乱させようとする。
ナニが哀しくて足の引っ張り合いをするのか。
感情のまま生きて良いなら、Storm1がテンペストミサイルを連合本部に直撃させているレベルだ。
因みにアントウェルペンに放置している鉄屑ことバルガに関してツッこまれた時は説明に困った。
1940年代、まだ大艦巨砲主義の思想に似たものを信じる輩がいるだろうからと喜ばれると思ったが、流石に非武装の移動式巨大クレーンは迷惑なのだった。
まぁ……ナニ言われても、不法投棄したブツを回収する予定は無い。
それに実績を盾にする。 氷山型ネウロイを倒したワケだし。
「聞いてないの?」
「聞いたような。 何故か記憶が曖昧なんですよね」
そう言い「うーん」と唸る宮藤。
EDF隊員の只野は少し気まずい。
恐らく、また記憶処理されたかナニかされたのだ。 その影響だろう。
「まあ なんだ。 たむろしているのは陸軍みたいだけど。 宮藤や坂本は海軍なワケだが……陸軍に知り合いは?」
誤魔化す様に言う。
相変わらず、階級の垣根を超えているような、ある種 恐ろしい会話をしているが庶民派宮藤は気にせず会話を続ける。
「いません」
キッパリ笑顔で言われた。
残念ながら、中島や諏訪とは会っていない様だ。 忘れているだけの可能性もあるが。
「そ、そうか。 これから出来ると良いな」
「へ? なんで ですか?」
「……友だち的な意味で」
「そうですね。 ウィッチの子もいるみたいですし」
宮藤の天然ぶりを発揮されると、調子が狂う。
ラジオでの某知り合いのウィッチ……赤ズボン隊のフェルナンディアとのやり取りでも「私は友だちじゃないの?」という問いに対し「友だちだったんですか?」と冷たい言葉を平然と放っている。
宮藤は優しく真面目な良い子だが、天然ぶりは時に常人を恐怖させる。 あと オッパイ星人ぶりも。
ついでに恐怖を感じること少し。
「501は少し離れた所で寝泊まりしてるんですけれど。 509も、沢山ここに来ているんですよね?」
マトモそうな話題になり、胸をなで下ろす只野。
「そうだよ。 航空ウィッチだけじゃくて、陸上戦力も充実しているからね。 参戦するのは当たり前みたいなモンさ」
そう言うが、その509の大勢の中にはWDFの2人も混ざっている。
元々WDFに対抗する為に509が創設されたようなものなのに、今は黒海を攻略する為に共闘するとは。 皮肉だ。
「ただ、この作戦が終わったら解散する予定だって」
「えっ! そうなんですか!?」
「509はWD……カールスラント本土防衛の為に設立されたけど、黒海のネウロイさえ倒せば欧州はネウロイからの脅威から解放される。 勿論、東のオラーシャや、南東のオストマルクにもネウロイはいるけど、それは他の部隊に任せるんだ」
危うく本当の設立理由を言いかけたが、なんとか誤魔化した。
解散に関しては、EDFが この世界から撤退するにあたり協力してきてくれた連合兵士達をキャトルミューティレーション……じゃなかった、連れていくワケにはいかないから。
ネプチューン作戦が終わったら、彼らは母国ないし原隊に復帰する予定である。
「501の解散話は?」
「聞いてませんけど、ブリタニアの脅威は去りましたから……たぶん」
「そうか。 509と同じタイミングかもね」
少し暗くなる宮藤。
部隊を家族同然に想う者もいる。
それが解散となれば、各国の原隊に皆は散り散り。 お別れだ。
そんな感じに落ち込む宮藤を、只野は不器用に励ました。
「連絡は取れるんでしょ」
「はい。 そのはずです」
「なら、また会えるさ。 その為にも……黒海のネウロイを倒そう」
「はい! 頑張りましょう!」
ネウロイがいなくなれば、皆と会いやすくもなるだろう。
なにより、平和が訪れる。
やる気を出して明るくなった宮藤。
只野はニッも笑って頭をグリグリと撫でてやった。
こうしてると親子……妹……というより。
「犬みたいだなぁ」
思わず溢れる言葉。
忘れる事もあるが相手、軍曹である。 ウィッチの最低階級とはいえ、加えて正規訓練を受けていない元民間人とはいえ……軍曹である。 結構、偉いのである。
その者に犬。 これまた坂本には聞かせられない。
あいや、既にEDF隊員をある程度知り得ているから怒らないかも。 色々と今更ながら。
「もー! なんですか犬みたいって! 使い魔は そうですけど!」
宮藤は ぷんぷん 怒った。
そんな姿にも癒されながら、只野は撫でくり回す。
「はいはい可愛いよ」
「むっ……むぅ〜ッ」
怒りと嬉しさが混ざって、赤くなる宮藤。
それもまた可愛くなる只野だったが、沢山いる兵士に いつ見られるかも分からない。
只野は手を離した。
「あっ」
名残惜しげに甘い声。
怒っていたのに、急に切なくなって。 宮藤は何とも言えない気分になる。
父親とも母親とも違う、相手への この感覚は、501にいる間も味わった事がない初めての感覚だ。
「そろそろ行くね。 警邏中だし」
という名の散歩ではあるが。
あまり宮藤軍曹と居て、他の兵士に見られて噂されても困る。
特にWDFの軍曹と曹長にバレたら軽く半殺しの刑に遭う。
「あの」
宮藤が呼び止めた。
「また、会えますか」
只野は何も言わない。
代わりに微笑み返して、この場を去った。
ーーーーーEDFーーーーー
高台を後にし、多くのテントや装甲車、兵士とすれ違いながら海岸近くまで歩いた只野二等兵。
これから黒海のネウロイに挑むに当たり、敵の姿を見ておきたかったのだ。
既に同じ想いか、多くの将校や暇のあるウィッチと兵隊が横に並ぶように海……特に上空の巨大な暗雲を睨む。
「多いな」
少しでも前で見たいのと、WDFとのいざこざで連合兵と並ぶのに躊躇った只野。
他の場所を見渡して、1箇所だけ空いている部分があった。
「おっ。 空いてんじゃん」
そこは長いコートを着た、1人のお姉さんウィッチがいるだけだ。 そこに行く事にした。
お姉さんウィッチの階級や立場は知らないが、只野は気にせず隣に立つ。
ただ共に同じ敵を見据えるのみだ。 それ以上でも以下でもない。
だから、互いに見たり聞いたりする機会が無くても関係ない。
そのはず だったのだが、しばらくして。
「貴様、EDF隊員か」
相手が沈黙を破った。
「はい そうです」
淡々と訳文の様に答えながら、横を向く。
鼻の上、横に傷跡があるスカーフェイスのお姉さんと目があった。
「奴ら怪異も突如として現れたが、それは お前達もだ」
「何が言いたい」
只野は機嫌を悪くした。
連合の分からず屋は上層部だけで十分だ。
「そう言うな。 ただ聞きたい事があるだけだ」
「だから言ってるんだ、何が言いたい」
「お前たちも私達からしたら怪異だ。 姿形こそ同じ言語を話す人間だが、技術も能力もまるで違う。 エイリアン、とも形容するべきか」
成る程、と只野は怒りより笑いが出る。
強ち間違いではない。
技術格差が酷い。 兵器の質も兵士の練度も比べ物にならない。
戦にさえ備えれば、束になられたところで鎧袖一触だ。
「だろうね。 なんならバケモノさ」
自傷気味に言うのは、少しは均衡を保ちたいからだ。
言葉通じぬバケモノより、通じるバケモノだとアピールするぶんは、互いに利用し合える仲で済む。
互いに踏み込まないし、踏み込ませない。
下手な干渉を避けたいし、これ以上の半端な馴れ合いと殺し合いは無用だ。
特に只野は連合兵を手にかけた。 WDF拉致未遂事件の際だ。
やむを得なかったが、もう無駄な殺し合いは御免だ。
それは勿論、WDFの軍曹ちゃんが ジークフリート線や他戦線で やらかした無差別殺傷も二度と御免である。
「そうだな。 私が言うのもなんだが」
「間違いじゃない。 魔法使いと呼ばれた方が可愛いとは思うけど」
「可愛い事を言う」
「なら可愛く振る舞おうかな」
機嫌の悪さも何処へやら。
互いに笑みを見せ合うくらいには仲良く出来た。
その和んだ空気のまま、彼女は会話を続ける。
「私が戦う理由は世界平和の為だ。 その為に怪異を、ネウロイを消し去り続ける。 その為に戦い続けている。 十匹、百匹、千匹と倒せば いずれ戦いは終わる。 お前は何の為に戦う?」
「なれば、我は願いを叶える補助者じゃ。 故にその手伝いをして しんぜようぞ」
おちゃらけて、お伽話の魔法使いみたいな言葉を使う只野。
背負っていたTZストークを手に持つと、魔法の杖に見立てて ごにょごにょと魔法を唱えるように振舞って見せた。
TZストークの銃身独特の、発光しているように錯覚させる水色のラインが揺れて幻想的だ。
お姉さんはクスクスと笑う。 良いムードだ。
「ふふっ……それとも神様かな?」
厳格そうな顔もすっかり解け、可愛い顔を見せるお姉さん。
が、"神"というワードに反応した只野は しんみりと返す。
「"神は死んだ"よ」
神は死んだ。 英傑が殺した。
「? ニーチェ、哲学か? 科学的精神の……君たちEDFにとっては そうかも知れないが」
「いや……分からないなら良いんだ」
ぎこちなく言って、話を打ち切った。
無理に干渉する必要もない。 互いに。
「なぁ」
それでも話を引き延ばすように、風と共に流れそうな只野を引き止めるように。 お姉さんは聞いた。
「君の願いは、なんだ?」
只野は一瞬キョトンとして、しかし考えるまでもなく答えてあげた。 おちゃらけて。
「ふぉっふぉっ。 お主と同じく世界平和じゃよ?」
それもまた、嘘ではない。
だけど。 お姉さんとは意味が大きく違うのだ。
お姉さんには、それが分からない。
だからか。 呆れたように、だけど嬉しそうな顔を浮かべる。
初対面の男に、ここまでリラックスして……いや、好意を持って話をした事は無かったかも知れない。 つまるところ、胸をコンコンと温めてくれる この感覚が好きだった。
「ハンナ・ウルリーケ・ルーデル。 階級は大佐だ」
だからこそ名乗った。 名乗られた。
お姉さんは まさかの カールスラント4強のひとりにして、世界最強の地上攻撃女王、ルーデル大佐だった!
欧州戦線で戦い続けてきた女傑で、幾度に及ぶ被撃墜にも屈しない不屈の魔女。
もっというと、ネウロイの勢力圏ド真ん中に墜落、大怪我しても生きて戻ってくる異能生命体。
また今となってはカールスラント空軍 第二急降下爆撃航空団司令。
司令で要職だし、20歳超えて あがりを迎えてシールドが張れないにも関わらず、自ら先頭に立って戦ったりする。 無断出勤。
他にもヤバいエピソードとして皇帝直々に金柏葉剣ダイヤモンド付き騎士十字章(ルーデルの戦果がヤバくて、特別に新設された専用の勲章のようなもの)を授与されると共に前線から退くよう要請された時「二度と私に地上勤務をしろと言わないのであれば、ありがたく頂戴しましょう」と言上、居並ぶお偉方を青ざめさせたりしている。
「そうなんだ。 じゃなくて、そうなんですか」
ところがこの男、そんな人とも知らず呑気に振る舞う!
階級を持ち出されたから、一応敬語に切り替えとこう程度の認識の只野。
変なところで怖いもの知らずだ。 無知ともいう。 相手が気にしてないから良いものを。
うん、まあ……ルーデルの戦果を知っても特別驚かないかも知れないが。
EDFには もっとヤバいバケモノがいるから。
神殺しの英傑。 誰とは言わない。
「名乗ったんだ。 名乗り返して欲しいな」
「"ただの"兵士ですよ」
「答えになってないぞ」
本当なんだけどな、と苦笑しつつ。
体を向け背を伸ばし、敬礼しつつ名乗った。
「全地球防衛機構陸軍 日本支部 欧州救援隊 Storm1麾下【只野 仁】二等兵であります!」
わざとらしく長々と。
お姉さん……ルーデルはキョトンとして「そうかそうか」と笑みが零れた。
「只野、答えになってたか。 これはやられた! しかも二等兵ときた……ふふっ」
「つまり"ただの"兵士。 その他大勢のひとりですよ」
「いや? 只野は面白いヤツだ!」
気に入られたらしい。
なんにせよ、美人が笑顔になってくれるのは悪い気はしない。
「二等兵だなんて謙遜を。 "ただもの"じゃあるまい」
「マジで二等兵なんだけど」
「勲章は?」
「貰った事ないね」
「……昇進の話は?」
「来ないね」
「…………EDFでは、只野のような男が普通なのか?」
フィーリングに見えて、理論家の彼女は考え込んでしまった。
話だけならルーデルとは真逆の只野。
階級は雲泥の差。
勲章総なめ者と無勲章者。
なのに この余裕の振る舞いは。
軍隊という枠組みで考えているようだが、そも連合軍とEDFは まるで違うから比べない方が良い。
それを伝えるかの様に只野は言う。 誤解を解く為としてだが、余計だった。
「俺より後に入った徴兵組でも階級が上になったヤツはいるよ。 でも俺が二等兵なのは、訓練課程を修了してないからだな」
(だが新兵ではあるまい)
Storm1よりマシだと思うが。
彼は民間人の時、仕事として基地に訪れたら戦争に巻き込まれ、なし崩し的に戦争に参加した経緯があるので。
只野の場合、ほぼ入隊直後に戦争に巻き込まれた。
して地平線を埋め尽くす様にして押し寄せる怪物相手に、触って間もない銃を振り回して必死の抵抗。
その後、続く戦争の中で ぶっつけ本番のビークル操縦や銃火器取り扱いを学び、今の戦闘技術を身につけていった。
それでもまだ、僅かながら訓練していた分、良かった方なのだろう。 たぶん。
ただ、軍隊という実力主義というか、その中で戦果を上げているなら訓練を修了してなかろうと階級は上がって良い筈な気がするのだが。
そうでなくても、軍務に従事し続けてるなら一等兵以上になっていても……。
「しかも逃げ出しちゃったんだよねー」
補足するように只野が言った。
余計な混乱を招いている気がしてならない。
(……未訓練。 軍人というよりほぼ民間人として。 逃げるのも無理もない、か?)
「でもさ、仲間が助けてくれて。 だから俺も仲間の為に逃げちゃダメだーって思って戦う決心をしたんだな」
間違ってないが、間違ってる。
説明過程が所々飛んでいる。 決心してから戦い始めたみたいになってるが、その前から ずっと戦っていたからね。
ちょっと悪い夢を見ただけさ。
「そうか。 やはり、お前は強いんだと思う。 昇進しないのが不思議だよ」
「目立った戦果を上げてないし」
謙遜するが、普通にドローンやら怪物やらを倒しまくっている。
この世界においてはネウロイを何体も倒してきた。
ただ、他のEDF隊員と比べて飛び抜けた戦績ではないと言うだけだ。
「私から言ってやろうか。 せめて……」
「いや良いよ。 今の地位に甘んじるさ」
「私も無理にとは言わないが」
「そうそう。 こうして のんびり美人と話せるワケだし」
「おいおい。 私の願いを叶えるんじゃないのか?」
「そうじゃった。 こりゃ失敬。 さっそく準備に取り掛かろうかのぉ」
また おちゃらけて、只野は話を終わらせる。
今度こそ、ルーデルと お別れだ。
次に会えるかは分からない。 戦争だ。 死ぬかも知れないし、兵隊の数も尋常じゃなく集まっている中だ。
こうして会えたのは、奇跡のひとつなのである。
「只野」
背中を小さくしていく彼に、ルーデルは言っておく。
激戦の中で部下の命を幾人を救ってきたのもある。
彼もまた、彼女の中では初対面ながら既に部下のようであり……いや。 特別な感情が芽生えてたから。
「死ぬなよ」
短くも、重くて想いのある意味。
「甘んじるというなら、戦死による二階級特進は許さない」
只野は後ろ向きのまま片腕を上げて、手を振った。
反応してくれた事に、ルーデルは柄にもなく嬉しくなった。
手の込んだ自殺?
キャラ崩壊とか、歴史上のツッコミには対応出来ません(殴)。