Witch Defense Forces(WDF)(完結)   作:ハヤモ

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作戦内容:
現在、連合軍との調整中です。
陣地警戒の任に当たる隊員は、引き続き地上及び空からの襲撃に警戒して下さい。
備考:
魔女の価値と兵士の命を天秤に。
重い話。



74.ニンゲンを食べた魔女の話。

◆黒海方面

 

夕暮れの薄暗、逢魔時。

烹炊の焚火が灯として点々と闇を照らす中、怪異に備えるのもまた兵隊。

魑魅魍魎は時と場を選ばず現れる。 可能な対策は限定的でも打つべきで。

特に闇深き刻、漆黒に染めて這い寄る怪異の認知は至難の業。

事今は睡魔と戦いつつの見張りが周囲を見渡す。

昼夜寒暖と循環過程に慣れぬ兵士たち。 瞼を擦り、己が命も時に無防備に晒す様が見受けられるのは、黒海沿線に来て皆 間もなくやむを得ない。

 

対してナイトウィッチは、宝石箱をひっくり返したように散りばめた輝く星の下を飛行する。

501のサーニャ、504から出張る形でのハインリーケ、カールスラント四強のハイデマリー。

他、EDF製電子装備のモブウィッチーズが夜間哨戒に当たっている。

 

そんな、吹けば飛ぶ静寂の夜だった。

 

只野二等兵は この時間になって、またも外をブラついていた。

所定の場所もなく、適当に警邏しとけ と投げられていれば仕方ない。

彼以外にも警邏しているMPはいるのだが、なにぶん兵隊の規模が規模だ。

規律守らぬ馬鹿は少ないと信じるが、新兵もいるし未成年のウィッチも混ざる。

ムラムラして夜這いするような命知らずがいたら即処刑……じゃなかった、処罰しなければならない。

 

 

「眠いなぁ」

 

 

が、今は暇に加えての睡魔にボヤく。

大戦中、夜間奇襲作戦時のオペ子みたいな事を言う。

命を懸けている最中に、あまり不真面目な態度を見せるのは良くないが、今は そこまで切迫していないが故に。

 

 

「うん?」

 

 

と、目につく子が。

焚火にウィッチや兵士が寄り添い、食事をとる中、1人だけ距離を置くようにして……暗がりでモソモソと食事を取るウィッチ。

痩せていて、元気がない。

他の者は気づいてないのか、敢えて そっとしているのか、声を掛ける者はいない。

 

 

「喪女ってヤツ?」

 

 

あまり馴染めないのか。

だとしても、これから大戦をするにあたり協調性は大切だ。

もしくは死に別れを辛く想い、馴れ合いを避けてる可能性もあるのだが。

或いはイジメか。 ウィッチの階級が高いとはいえ、ハブられない理由かゼロではない。

 

 

「行くか」

 

 

只野は話しかける事にする。

警邏が任務であり、これは任務の内だと言い訳して。

 

 

「君、どうしたんだい。 具合悪いなら医療テントに連れてくよ」

 

 

声を掛けられたウィッチは、ビクッとして顔を見上げ……また視線を下にしてしまった。

ただ 今度は食事を止めてしまったのを見て、何か蟠りがあると察し、隣に座る。

 

 

「隣、座るね」

「…………」

 

 

こくり、と頷いてくれた。

反応するというのは、只野に何か救いを感じているのだろうか。

 

 

「俺、只野。 EDF隊員なんだけど警備中でね、暇なんだ。 ちょいと付き合って」

 

 

こくり、と頷く。 言葉は無い。

でも只野にとってもウィッチにとっても十分な関係だった。

 

 

「ごはん、マズい?」

 

 

ふるふる、首を横に振るウィッチ。

マズくはない、と。

でも食事の手を止めたまま。 何か食事に想うところがあるのか。

見たところ、カールスラントの兵食である えんどう豆のベーコン添えだった。

 

 

「どれ」

「あっ」

 

 

只野はウィッチのスプーンを取って、勝手に彼女の分を一口。 ウィッチは反射的にだが初めて声を出す。 可愛らしい、女の子の声。

 

……あとコレ、間接キスなんだけど。

たぶん大丈夫……たぶん。

 

 

「うん、美味しい。 ここのは塩味が整っていていて良いじゃない。 ベーコンも増し増しで」

 

 

笑顔を向けて適当な感想を述べているが、他のベーコン添えを食ったことがない。

ただ、少なくとも、間違いなく、魔女料理よりは美味いと確信している。

 

 

「……EDFが、食料とか。 調味料を調達してくれたから」

 

 

火元の方でパチパチと小さく爆ぜる音。

その心地良い音に誘われるように たどたどしく、だけど ようやく喋り始めるウィッチ。

どうやら、EDFは糧秣にも関わっているらしい。 連合軍も仕事をしているのだろうが、不甲斐なく感じる。

たぶん、連合軍は兵糧を甘く見ている。 それをEDFの情報部や本部が嘆いて、支援した形であろう。

 

 

「そっか。 俺は補給部隊じゃないから分からないけど。 護衛はした事があるから、大変さは 何となく分かる」

 

 

そう言う只野に、ウィッチは顔を上げて見つめてきた。

綺麗な顔だったが、どこか目が死んでいる。

只野は引く事も驚くワケでもなく、見つめ返した。

心の言葉を吐ける相手になってやろうと。 それくらいなら出来るぞ、と。

 

 

「じゃあ」

 

 

その想いを受け止めてか。

ウィッチは小さな口をモソモソと、震えながら。

 

 

「飢えたこと、ありますか?」

 

 

そういって……続きを語る。

 

 

「ヒトを……ニンゲンを……食べたこと、ありますか?」

 

 

ガタガタと震え始めながら、でも自力で、自分の言葉で言う。

その意味は救いを求める声である。

 

 

「聞こう」

 

 

只野は怯えない。 悲惨な目には、先々で散々に経験した。

今更に、人間の血肉が飛び交う光景を思い浮かべようと実際に見ようと常人ほど竦まない。

飢えた事だってある。 エイリアンの空挺部隊に囲まれて、孤立した時は酷かった。

飢え死にするくらいならと吶喊した仲間がミンチになるサマも見た。

 

でも、きっと彼女は。

それ以上に恐ろしく……飢えていたのだ。

 

だって、ニンゲンを食ったかどうか、聞くくらいなのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

戦争で死ぬ。

射殺、爆死、焼死、溺死、蒸発。

国や家族の為に戦い、武運拙く壮絶に死ぬ。

その中で敵を打ち倒し、例え死んでも勇敢な者として存在できる……。

 

そんな生易しいモノじゃない。

 

誰もが壮絶に死ねるワケじゃない。

ウィッチのように花形として生きる、敵を打ち倒して武勇伝にする……それが出来る者は多くなく……。

 

いや、そうじゃない。

そうじゃ……ない。 言いたいのは。

 

戦死する数よりも、別の要因で死ぬ数を考えた事はある?

 

その要因。

病気、仲間内での殺し合い。

 

それから……餓死。

 

撃ち合いで死ぬより、寧ろ病気や餓死の方が多い。

 

 

「わ、私は。 ここに来る前はオラーシャの戦線にいました」

 

 

オラーシャ。 ユーラシア大陸の殆どを国土に持つ大国。

 

 

「怪異が。 ネウロイが攻めてきて。 倒すには魔女のチカラが必要だって。 それで志願して」

 

 

適正があったから自ら志願、厳しい訓練の後、すぐネウロイとの戦闘に投入された。

部隊の仲間内の雰囲気も悪くなくて、簡単な仕事さと励まされたし、守ってくれた。

きっと大丈夫。 そう思えたし、勇気が出た。

それで皆と戦って、怪異を倒して皆のチカラになるんだって。

 

 

「でも。 戦争を私は知らなかった」

 

 

初めての戦争が始まった。

ビームが飛んできて、先ず1人が死んだ。

次に私を庇って2人死んだ。

その次、私だった。 それで全滅だった。

呆気なく、苦しむ間も無く。

 

それだけネウロイを甘く見ていた。

戦争を、舐めてた。

 

 

「でも運良く……ううん。 運悪く、私はユニットだけが壊れて飛べなくなっただけで」

 

 

雪の凍てつく大地に不時着。

怪我も大した事なかった。

でも、仲間を一瞬で失った衝撃が頭から離れられず、現実を受け入れられなくて、しばらく狼狽した。

 

でも、これは絶望の序章に過ぎなかった。

 

墜落地点は、ネウロイの勢力圏。

珍しい話じゃないけれど、墜落したウィッチやパイロットの生存率は低い。

ネウロイと、その瘴気に殺されるのが大半だから。

 

 

「それでも回収任務を遂行する兵隊さんが、命を賭けて助けに来てくれた。 嬉しかった」

 

 

普通の戦闘機パイロットよりも、ウィッチは貴重だから。

一般兵が何人か死んででも、ウィッチを助けるのは それだけ大切だから。

 

 

「でも……でも! 助けるの意味が……違ってくるの」

 

 

2人の兵士に発見され、一緒に撤退しようとしたけれど、吹雪に見舞わせて引き返せなくなった。

 

止むを得ず、見つけた洞穴で吹雪が去るのを待ったけれど。

中々止まなかった。 食糧も とうとう無くなった。

 

 

「私のことを……優先して食べ物をくれていたから。 兵隊さんは、もっとお腹が空いていたのに。 それなのに」

 

 

2人の兵隊さんは話し合って、2人とも泣き出して。

この時、まだ私は なんの話をしていたのか分からなかったけれど、泣いた理由を聞くのは 憚れて。

 

代わりに、2人はすぐ笑顔を見せると、こう言ったの。

 

 

「食べ物を持ってくる。 少し待ってて、と」

 

 

2人の兵隊さんは吹雪の中出て行って。

少しして……銃声が1発だけ。

 

怖くて、外を見に行けなかった。

どうしようか迷っている内に、1人だけ戻ってきたの。

 

 

「手に、血が滴る肉を抱えて」

 

 

生暖かった感触は、今でも覚えてる。

だけど、その時の私は空腹で考えてる余裕がなかった!

 

 

「貰った肉を生のまま貪って! 私は! 私は……その後、知ったのよ……!」

 

 

直ぐ外で、雪に隠すように横たわるニンゲン。

 

その腹部が、柔らかな部分が。

明らかに人為的に───。

 

 

 

 

 

ーーーーーEDFーーーーー

 

 

「もういい。 もういいんだ、頑張った」

 

 

現実に戻った時、誰かが彼女を抱きしめて囁いた。

温かい、だけど心臓の鼓動がトクン、トクンと心地良く伝わってくる。

 

 

「うっ……うぅっ……うわああああんッ!」

 

 

抱き返して、わんわん泣いた。

罪の告白をして、わんわん泣いた。

 

 

「ただのさんッ! ただのさん……ッ!!」

「よしよし、もう大丈夫だよ。 心配しなくて良いからね」

 

 

今まで誰にも話せず、苦しんでいた魔女。

仲間が死に、兵士の命を貰い、その罪に悶えながら彼女は戦い、ここまできた。

 

素直に称賛したい。

それも未だ10代にして、凄まじい経験のひとつをしてなお、記憶を保持したまま生き延びたのだ。

 

紛れもなく、彼女は強い。

故の夜の孤独を、只野は慰めた。

 

 

「そうか……彼女は」

 

 

気がつくと、周りには同じグループの兵士、ウィッチが囲っている。 聞いていたらしい。

慈悲深い目でしゃがみこみ、只野と同じように抱きしめ、頭を撫で、慰めながら指揮官と思われる年配者が言う。

 

 

「戦争が続く以上、辛い事は続くかも知れん。 だが、この戦争の先に光明が見えたかに思える。 EDFのお陰でな」

「ぐすっ……はい」

「今は俺たちがいる。 仲間がたくさんいる。 彼等と共に、近く怪異への総攻撃が始まるだろう。 そうしていけば、もう、君のように辛い思いをする子もいなくなる筈だ」

「はい……ッ、私、頑張ります……ッ! きっと、今度こそ皆の役に立って! 私みたいな子が出なくて良いように頑張りますッ!」

 

 

涙を拭いながら、改めて決意を表明した魔女。

記憶処理の話をもちかけようかとも思ったが、只野は閉口した。

罪を背負っていけると言うならば、無理矢理引き剥がす必要は無い。

只野自身もそうであるように、そうする事で前を向いて歩けるなら。

 

 

「只野さん。 ありがとうございます」

 

 

ウィッチは憑き物が取れたかのように、晴れ晴れとした顔で礼を述べた。

 

 

「礼を言われるような事はしてないさ。 話を聞いただけ」

「それでもです。 吐き出すキッカケになってくれました」

「そっか」

 

 

些細なすれ違い。

否、立ち止まって生まれた小さな罪の告白。

 

只野は牧師、修道者ではない。

慰めの言葉は持ち合わせていないけど。

 

存在だけで、武器となり心の支えになるなら、寄り添うのも悪くないと思えた。

 




ふとギャグ話を作りたくなったりする。
風邪を引きにいくスタイル(殴)。
アニメでもあった土偶事件、おっぱいハザード。
某閣下「おっぱいぷるんぷるんっ!」

……この局面で、俺はナニしたいんだ。
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