インホイール・ヴァンガード   作:毒しめじ

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第9話:まだ見ぬショップへ

「次移動教室か……悪い、押すの頼める?」

「あいあい」

 

 人の慣れという物は馬鹿にならない、と最近の倫道サチは感じている。

 というのも、入学当初からサチが気にしていた奇異の目は最早すっかりない物と化しているのだ。

 そんな訳で現在は特筆するべきこともない日々が続いている。

 校舎内を移動する際にクラスメイトの御蔵リョウジに手伝いを頼むのもそんな日常の一環。

 

「にしても倫道、相変わらず毎日のようにミアキスに通ってるんだってな」

「ああ、ヴァンガード楽しいから」

「そりゃあ良かった。隣の席のヤツが機嫌良いと俺も気分が良いからな」

 

 くくくと喉を鳴らし、サチの足代わりを自らの歩みと共に進める。

 つくづく良い級友を持ったものだと痛感しながら車椅子に揺られるサチ。

 以前聞いた、車椅子の扱いに多少慣れているとの話の通り乗り心地も抜群。具体的には兄の次くらい。

 

「おや、倫道じゃないか」

 

 いよいよ教室が見えてきた、というところで後ろから声をかけられ振り向く。それに合わせて御蔵も足を止めた。

 声の主は途次キリカ。気さくに手を振りながら近づいてくる。

 

「奇遇だな」

「いや隣のクラスなんだし会うだろ」

「そういうことではなく、丁度君を誘おうと思っててね。明日のことなんだが」

「明日……」

 

 そういえば明日は祝日で学校が休みだと聞いていた。サチは部活動には参加していないし、特に面倒な宿題も出されてはいない。

 無言で先を促すということは予定は空いている、とキリカにも伝わったらしい。また口を開き語り始める。

 

「実はミアキスよりは遠いんだが徒歩で行ける距離にもう一つカードショップがあるんだ。流石に放課後に行くには時間が足りないが、明日は休みだからな。君さえ良ければ一緒に行かないか?」

 

 それはサチにとって願ってもない申し出だった。

 ミアキスに通うのは当然楽しいが、見慣れた相手ばかりではファイターとしての人脈も見識も広がらない。

 何か新しい経験をしたいとぼんやり考えていた真っ最中だったのだ。

 

「わかった。行く」

「それは良かった。それじゃあ明日10時にミアキスの前で」

「了解」

 

 サチが頷くのを確認してキリカが自分の教室へと戻っていく。

 会話が終わったのを確認して、先程まで黙っていた御蔵が口を開いた。

 

「随分と仲良くなったもんだな。まだ1ヶ月経ってねえぞ」

「仲良い……のかな。いつもあっちに気使わせてばっかだよ」

 

 申し訳ない、と首を横に振る。

 御蔵もふーんとだけ返し、二人で教室へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 そして翌日。

 

「……早く来すぎたか」

 

 ミアキスの扉の傍、サチは誰にともなく呟く。

 この生活になってからというもの、万が一に備えて家を早く出る習慣が染み付いてしまった。

 おかげでまだ9時30分、予定の30分も前だというのに待ち合わせの場所に着いてしまったのである。

 仕方がなくポケットから携帯電話を取り出し適当に弄っていると、後ろで扉が開く音が聞こえた。続けて足音が近づいてくる。

 

「……入らねえのか?」

「あ、白銀先輩……」

 

 小さな鞄を片手に白銀セイガがサチを見下ろしていた。

 

「今日はただの待ち合わせですから。そういう先輩は?」

「あー……この間のことをあの人に謝ってきた」

 

 気まずそうに顔をしかめながらもそう言う。

 

「この間って……ああデッキの」

「だいぶ時間が空いちまったけどな。三秋さんには悪いことをしちまったから」

「そう、ですか……」

 

 どうやらセイガの心境にも複雑なものがあるらしい。

 あまり深く探るものでもないだろう、とサチが曖昧に答えると、セイガは店に背を向けて鞄を持ち直した。

 

「帰るんですか?」

「ま、ちょっと買い物して帰るってとこだ。そんじゃあな」

 

 つかつかと歩き出す、その動作はどことなく早足に見えた。

 再び適当に暇を潰していると、待ち合わせの相手は予想よりも早く現れた。具体的には9時45分。

 

「すまない、待たせたな」

「いや別に。……というか15分も早いけど」

「誘った手前先に来なくてはと思ってね。いや、それで先を越されていたのでは格好も付かないが」

 

 ポーチを一つ肩から掛けたキリカはそう言って苦笑を浮かべる。

 

「いや、そりゃあ俺が30分前に来ちまったから」

「30分前……成程、私もまだまだということか」

「真似しなくていいからな?……じゃなくて、カードショップ行くんだろ」

 

 途次キリカは結構な負けず嫌いである。

 これまでの数週間の付き合いでサチはそれをよく知っている。

 この会話を続けると次の機会で1時間前にでも来かねない。流れを切り替えようと車輪に手を掛ける。

 しかしよく考えてみれば、彼女がどこの店に向かう気なんだかサチは聞いていない。

 結局、車輪に手を置いたまま助けを求めるようにキリカを見上げることとなった。

 

「ああすまない、私が案内するんだったな。……まあ私も実際に行くのは初めてなんだが」

「えっ」

 

 あちらから誘ってきたのだからてっきり少なからず通っている店なのだろう。そう思い込んでいたサチは予想外の言葉に眉をひそめる。

 

「安心してくれ、場所はわかっている。ただ私は基本ミアキス以外に行かないから」

「場所わかってるなら良いんだけど……。で、結局何て名前の店なんだ?」

「『カードショップ 枝垂桜』、だ」

 

 そこまで言うとサチの後ろに周り、車椅子のグリップを握って歩き出す。

 

「いや良いのに。自分でするから」

「待たせた詫びだ。このくらいさせてくれ」

 

 こうなると梃子でも動かないだろう。大人しくなすがままになっておく。

 いつもは通らない道を通り、普段は乗って使う電車の高架線を潜る。

 「こんな所に美味しそうなパン屋があったのか」、とか「そういやクラスにこっち方面に住んでるやつがいたな」とか、そんな取り留めのないことをぼんやり考えながら揺られている。

 

「着いたぞ」

 

 どのくらい経っただろうか。ややうとうとし始めた所でキリカの声が頭上から降ってきた。

 

「ん……ああ、ここか」

 

 首を回し顔を右に向けると、確かに『枝垂桜』と看板を掲げた店があった。

 サチの意識がはっきりしたのを確認し、キリカは車椅子を押して店に足を踏み入れる。

 店内の雰囲気は、ミアキスの明るげなそれとは異なり飾り気のないものだった。

 だが見たところ広さと品揃えはあちらにも劣らないように見える。

 とりあえずカウンターに向かおうとキリカに提案すると彼女も頷き、二人で周りを見渡しながら奥へと進む。

 

「おや、いらっしゃいませ」

 

 ショーケースの列を抜けるとカウンターに出る。

 そこには一人の男性が座っていた。

 歳はまだ若く見える。よく言えば穏やかな、悪く言えば覇気のない笑みでこちらを見遣っている。

 

「あ、どうも……」

「初めまして、店長の方ですか?」

 

 サチとキリカがそれぞれ軽く会釈をする。

 キリカの問いかけに男性は微笑んだままこくりと頷く。

 

「ああ、僕はここの店長の黒星ジュンヤだ。よろしく」

 

 言葉の後、ちらりと別の方向を見てからくすりとおかしそうに声を漏らす。

 

「ん、どうしたんです?」

「いやあ、新しいお客さんが三人もいらっしゃるなんて今日はついてるなと思って」

 

 サチに対してそう答える、ジュンヤと名乗った男性。

 

「さん?」

「にん?」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

「ああ、ついさっきもう一人初めましての人がいるんだ。ほら」

 

 視線をショーケースが立ち並ぶ店の奥へと向ける。

 確かにそこには一人の客がいて、ショーケースの中身をじっくりと眺めていた。

 そして、その人物をサチはよく知っていた。

 

「し、白銀先輩!?」

「ああ……?倫道!?」

「あれ、もしかして知り合い?」

「まあ、一応……」

 

 客、もとい白銀セイガは曖昧な答え方をしながらこちらに近づいてくる。

 

「さっきぶりですね。まさか買い物って……」

「……近くに用があって、ここにはついでに寄っただけだ」

「でも結構熱心に見てませんでした?」

「う……」

 

 悪気はないのだが、あまりにも的確なサチの指摘。それを受けて言葉に詰まるセイガと、彼の返答を待つしかないサチ。

 一方キリカは、先程までと異なり妙に不機嫌そうな表情のまま何も喋ろうとしない。

 そんなわけで、三人の間を微妙な雰囲気の沈黙が支配していた。

 

「こんにちはー」

 

 それを破ったのは、入り口の方から聞こえた一つの挨拶。

 

「いらっしゃい」

 

 ジュンヤには聞き覚えのある声らしく、さして驚きもせず定型句を返す。

 ショーケースの列からひょこりと顔を出したのは一人の少女だった。

 髪を左右でまとめたロングスカートの少女は、こちらを見るや否や物珍しそうな顔でこちらへ近づいてくる。

 

「もしかして初めましての人?」

 

 頷いて肯定するジュンヤ。

 ますます好奇心を刺激されたようで、目を輝かせながら歩み寄ってくる。

 

「ってことはさ、カードゲームやってるんだよね?何やってるの?」

「俺たちがやってるのはヴァンガードだけど……」

 

 三人を代表する形でサチが答える。後ろでセイガが「一緒にするな」という顔で見ているが気にしないことにした。

 すると目の前の少女の目の輝きが更に増す。好奇心の色から期待の色に。

 

「ならさ、誰か私とファイトしてくれない?」

 

 デッキを取り出し、二、三度振ってみせる。

 三人は顔を見合わせた。すぐにセイガが無言で首を横に振る。お断りだ、と言いたいのだろう。

 一方キリカはしばらく考えていたようだったが、サチを見ると一つ頷く。

 

「君が行っていいぞ、倫道」

「良いのか?」

「強くなりたいと言っていたじゃないか。実戦に勝る勉強はないだろう」

「……ならお言葉に甘えて。ありがとう」

 

 キリカに一つ礼を言って少女に向き直る。

 

「俺で良ければ」

「おっけ。いやあ助かるよ。何しろ待ち合わせしてたのに早く来すぎちゃって」

「……そうなのか」

 

 どこかで聞いた話である。

 

「私は戸畑ナミ。そっちは?」

「倫道サチだ。よろしく」

 

 店の奥へ進みながら、互いに手早く自己紹介を済ませる。

 

「さって、やろっか!」

 

 枝垂桜にもファイトスペースはあるため、その端のテーブルを借りることにした。

 片方には少女が座り、もう片方にサチが車椅子を停める。そしてテーブルの横では暇潰しと言って観戦しているセイガ。

 キリカも最初は観戦すると言っていたのだが、直後「気が変わった」と言い残しいなくなってしまった。今は店内を模索しているらしい。

 

「ああ、対戦よろしく」

「そんじゃ、スタンドアップ、ヴァンガード!『星を射る弓アルテミス』!」

「『次元ロボ ゴーユーシャ』!」

 

 想像の世界に描かれたのは惑星クレイの光の国、ユナイテッドサンクチュアリの神殿。

 紺碧の鋼を纏った巨人と、弓を携えた幼げな少女が同時に降り立った。

 

「『次元ロボ ダイスクーパー』にライド!」

「『源泉の魔女フィクシス』にライド!スキルで手札に加えた『清白の魔女クラリー』をコール!アタック!」

「ライド、『次元ロボ ダイボート』!『ダイドラゴン』をコール!アタック!」

「『隕星の魔術師ヴァーイン』にライド!『白燐の魔術師レヴォルタ』をコール!スキルで山札上3枚を見て、『挺身の女神クシナダ』を手札に、残りはソウルに置く」

「完全ガードか……」

 

 横で見ていたセイガが呟く。

 

「『ヴァーイン』でアタック!」

「ガード!」

「『クラリー』のブースト、『レヴォルタ』でアタック!」

「ノーガード」

「『クラリー』のスキルでソウルチャージ、ターンエンド」

 

 このターンだけで5枚のソウルチャージ、それによりナミのソウルは既に6枚。

 

「これが、ジェネシス……」

 

 これまでファイトした相手とは全く違う戦法、サチは声を漏らさずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「……はあ」

 

 並べられたカードをぼんやり見渡しながらキリカはため息を吐く。

 本音を言えばサチのファイトを見たかった。だがそれ以上に、あの場にいたくない理由があった。サチには言いたくない理由が。

 だからあの場を離れこうしてウィンドウショッピングに興じているわけだが、やはり気分は優れない。

 

「どうしたものかな」

 

 ボヤいても何も解決しないことはわかっているが、せずにはいられなかった。

 

「ねぇ」

 

 そんなキリカは、声をかけられてようやくすぐ後ろに立っている見知らぬ少女の存在に気が付いた。

 パーカーを着て髪は短め、ボーイッシュな印象の少女。

 

「……私に何か用か?」

「ちょっとファイト相手が欲しくって。勘違いだったら悪いんだけど、暇そうに見えたから」

「まあ、確かに暇だが」

 

 気分は優れない。だが断るのも気が引ける。何より良い気分転換になるだろう。

 

「いや、やろう。相手をしてくれ」

「ん、ありがと。じゃあファイトテーブルだけど、あそこで良い?」

 

 少女が指差したテーブルは、サチとナミがファイトしているテーブルの、丁度対角線上にあるもの。

 

「わかった」

 

 二人は歩き始めた。

 

 

 

 

 

「『黒装傑神ブラドブラック』でヴァンガードにアタック!」

「ノーガード」

「ツインドライブ、クリティカルトリガー!」

「ダメージチェック、こっちはドロートリガー」

 

 サチとナミのファイトは続いていた。

 クリティカルの上昇したサチのヴァンガード、『ブラドブラック』のアタックによりナミのダメージは4点。

 

「『ダイボート』で『レヴォルタ』にアタック!」

「ノーガード!」

「『ダイスクーパー』でブースト、『ダイドラゴン』!」

「『ローリエ』!」

「ターンエンド」

 

 対するサチのダメージは3。現状ではサチが有利。だが次はナミがグレード3にライドする番である。

 

「行くよ、私のターン!スタンドアンドドロー!ライド、『白虹の魔女ピレスラ』!」

 

 大きな白い三角帽子の下に幼げな顔。

 そしてその背丈にも迫る長さの杖を携えた少女が、傍らによく似た帽子を被った小さな獣を引き連れて浮かんでいる。

 同時にイマジナリーギフト、フォースIIが獲得され、リアガードサークルに置かれた。

 

「そしてコール!『白筆の魔女アーティク』、スキルで山札上2枚を見て1枚をソウルに、1枚を山札の上に。次に『レヴォルタ』、スキルで山札上3枚から1枚を手札に加えて残りをソウルに」

 

 ナミが手早く盤面にカードを並べていく。

 その効果により次々とソウルが蓄えられ厚みを増したヴァンガードサークルは、得も言われぬ威圧感を放っていた。

 

「『ピレスラ』のスキル、カウンターブラスト。リアガードの『アーティク』を手札に戻してもう一回コール。スキルで山札の上2枚を再び操作。それから『ピレスラ』と『プレゼモ』をコール!」

 

 二度コールした『アーティク』を含めれば、このターンだけで5枚のコール。

 前のターンから生き残っていた『クラリー』も合わせて、全てのサークルがユニットで埋められた。

 

「さあ行くよ、『ピレスラ』のソウルブラスト14!」

「14……って今のソウル確か11枚じゃ」

「いや、確かあのユニットのスキルは……」

 

 困惑するサチを遮って呟かれたセイガの言葉に、ナミの自慢げな表情は更にその濃さを増す。

 

「そう、この子のコストはこのターンにコールした『魔女』と『魔術師』の数だけ減る。このターンコールした回数は5回、つまりソウルは9枚で十分ってわけ!」

 

 積み上げられたソウルから9枚を抜き取り、ドロップゾーンに置くナミ。

 

「そしてこのターン、私の『魔女』と『魔術師』は全てパワー+10000、更にヴァンガードにはクリティカルも+1!」

「げっ……!」

 

 サチのダメージ3点、対するナミのヴァンガードはクリティカル2、更に隣のリアガードの『ピレスラ』もフォースIIにより同じく。

 クリティカルトリガー1枚でダメージ6に届く、王手とも呼べる盤面が展開された。

 

「さて、まずはインターセプト潰しちゃおっか。『クラリー』でブーストした『レヴォルタ』で『ダイドラゴン』をアタック!」

「ノーガード」

 

 杖を一振り。それを引き金として空から流星の如く光が降り注ぎ、その行先、空に浮かぶ赤い鋼は煙を吹く。

 

「『アーティク』のブースト、ヴァンガードの『ピレスラ』でアタック!『アーティク』のスキルで自身とヴァンガードにパワー+5000、つまりライン的には+10000ってわけだね」

「あーっと、もともとさっきのスキルでそれぞれ10000上がってるから23000と18000で、そこに今ので10000だから……51000!?」

「ふっふっふ、さあどうするよ倫道サチ」

「どうって、これ切るしかないだろ」

 

 二人の盤面の間にこれ、もとい『ダイヤモンドエース』が置かれる。

 サチが同時に手札を1枚捨てることで、想像の世界そのものをつんざく勢いで放たれたその光の塊は輝く盾に弾かれた。

 

「ツインドライブ!ファーストチェック、クリティカルトリガー。効果は全てリアガードの「ピレスラ』に」

 

 カードを捲るとともに、いや、それが捲られるより一瞬早く、その右上の黄色いマークが示す単語を読み上げた。

 

「……あ」

 

 サチは気付く。

 このターン二度コールした『アーティク』、その二度目の登場時効果でデッキの上に置かれたカードと今捲られたカードはイコールだと。

 

「ふふ、セカンドチェック……クリティカルトリガー!全部『ピレスラ』に!」

 

 こちらはただのナミの幸運。ただし、サチにとって致命的な。

 パワー43000、ただしブーストも付くので実質58000。クリティカルは3。

 

「アタック!」

 

 当たれば次はない。

 数秒手札を見つめて思案する。

 ガード値自体は足りている、では何を切って何を残すか。

 ふと、手札の1枚に視線を向ける。まだ一度も試したことのない、新しい力。

 これを使えば、目の前の相手が作り上げた値すら越えられるパワーを叩き出せる。

 そう出来たらきっと楽しいだろうと、そのカードを手元に伏せて残りを強く握る。

 

「ガード!」

 

 並べられたカードは合計4枚、『次元ロボダイレーサー』、『次元ロボダイバトルス』、『次元ロボダイブレイブ』、『次元ロボゴーバイカー』。

 元のパワー13000にこれらシールド値を足して合計63000。

 

「あっれ嘘、防がれた!?」

 

 最初は疑いの目を向け、しかしそれが確かに自分側のパワーを上回る物だとわかりがっくりと肩を落とす。

 

「ターンエンド。あーあ、決めきれなかったかあ」

「それじゃあ俺のターン、スタンドアンドドロー!そしてコール!」

 

 今引いたカードとは違う、先程手元に残しておいたカードに手をかける。

 そこに描かれたのは、鋼の鎧を纏い液晶の瞳を輝かせた、深紅の剣士。

 

「『ツイン・オーダー』!」

「なっ……!」

 

 そのカードを見て驚愕の声が漏らされる。ただしその主は目の前の相手ではなく、横で観戦していたセイガ。

 

「倫道、お前それ」

 

 『ツイン・オーダー』。白銀セイガがサチに勧めたカード。

 セイガとのファイトの後にデッキに入れ、これが初陣となる。

 

「ええ、入れました。折角いただいたアドバイスですから」

「……律儀なヤツ」

 

 喜ぶでも苛立つでもなく、ただ一言。

 それ以降は何も言わず、サチもまたすぐにカードを動かし始める。

 

「更に『マスクドポリスリーダーシルバード』と『次元ロボダイジャッカー』をコール!そして『ブラドブラック』のスキル、前列全てにパワー+10000!『シルバード』は条件達成でパワー+5000、クリティカル+1!」

 

 前のターンにコールされた『ダイボート』を含めた3枚のユニットがパワーを増す。

 

「『ブラドブラック』でアタック!」

「完全ガード!」

 

 予め手札に加えていた『挺身の女神クシナダ』。

 その手元から放たれた光の壁は、紫紺の刃を正面から受けてなお傷一つ付かない。

 

「ツインドライブ、ファーストチェック」

 

 『超次元ロボ ダイザウラス』。トリガーではない。

 

「セカンドチェック。ドロートリガー!効果は全て『シルバード』に!」」

 

 だが攻撃自体はヒットせず、役目を終えた『クシナダ』がフィールドを去る。

 

「『ブラドブラック』のスキル、山札上7枚を見て『ダイユーシャ』を手札に。その後……」

 

 ドライブチェックで得た2枚を捨てて『ダイユーシャ』にスペリオルライド。

 いつもと同じようにそうしようとしてふと手を止める。

 たまにはいつもと違うことがしてみたい。そして嬉しいことに今どれが出来る状況が整っている。

 手札を見つめて、意を決し一つ頷く。

 

「手札2枚をドロップ!」

 

 捨てたカードは、先程引いたドロートリガーの『アーミーペンギン』ともう1枚。

 

「『ダイユーシャ』を捨てた……!?」

 

 先日サチとファイトしその戦法を知っているセイガが動揺を見せる。

 その視線の先にはドロップゾーンに置かれた2枚目、いつもならばライドしているはずの『超次元ロボ ダイユーシャ』。

 

「そしてスペリオルライド!『超次元ロボ ダイザウラス』!」

 

 それは、肩に肉食恐竜の頭部を模した兵器を備えた深紅のマシン。

 そして、普段のサチがリアガードとして愛用しているユニット。だが今はそれがヴァンガードとしてサチの魂を宿している。

 

「イマジナリーギフト、フォースI!更に『ブラドブラック』のスキルによりパワー+10000、ドライブ-1。そして『ダイザウラス』のスキル!自身がヴァンガードなら、そのパワーを自分の受けたダメージの数だけ5000上げる!つまりパワー+20000!」

「フォースが2枚とスキルで30000と……63000!?さっきの私より高いじゃん!」

 

 ナミが目を丸くする。

 サチからしてみればこれこそが敢えて『ダイザウラス』を選んだ理由だった。

 先程の『ピレスラ』のパワーを見たとき、サチの中にはそれを脅威に思う感情と、それからもう一つ抱いたものがあった。

 対抗心。ヴァンガードにパワーを集中させるディメンジョンポリスを扱うものとして、あれを悠々と超えるだけのパワーを叩き出してみたいという欲求。

 そして、まだそれは満たされきっていない。

 

「『ダイジャッカー』でブースト、『ダイボート』で『レヴォルタ』にアタック!」

「ノーガード」

「『ダイジャッカー』のスキル、自身を退却させて、ヴァンガードにクリティカル+1!」

 

 ドライブ数が減っている分を補うクリティカル増加能力。

 どんなに高いパワーを叩き出してもノーガードでやり過ごされてはたまったものではないが、クリティカルを上げておけばその心配もない。

 

「『ツインオーダー』のブースト、『ダイザウラス』でアタック!」

 

 そしてその高いパワーというのは先程までの上昇で終わりではない。

 

「『ツインオーダー』のスキル!ブーストした時、ヴァンガードのパワーを自分のフォースマーカーの数1枚につき10000上げる!今のフォースIは2枚!つまり+20000、これに元のブーストも合わせて合計パワーは……」

「きゅ、91000!?」

「マジか……」

 

 ナミがその数値を前にたじろぐ。

 そしてセイガは目の前の、自らが与えたアドバイスをこうも早く吸収しファイトに取り入れる少年を見て、驚くと同時にどこか心が躍っている自分を感じていた。

 

「ヴァンガードに、アタック!」

 

 『ダイザウラス』の鋼の指が引鉄を引く。

 その銃口からは弾丸、そしてその身に刻まれた無数の傷跡からは光が一斉に放たれ、一つの束となって『ピレスラ』へと襲いかかった。

 

「……ノーガード、だなあ」

 

 たはは、と笑って2回カードを捲る。

 『戦巫女ククリヒメ』と『白虹の魔女ピレスラ』。

 

「あーあ、私の負けかあ」

 

 ヒールトリガーではないその2枚をダメージゾーンに並べるナミ。

 

「……ふう」

 

 一方のサチは、力が抜けたらしく車椅子の背もたれに身体を預ける。

 そのまま緩慢な動きでファイトテーブルからカードを1枚、『ツインオーダー』を手に取った。

 

「白銀先輩。このカード、強いですね。アドバイス通りだ」

「俺が半端な助言なんかするかよ」

 

 心なしか口角を上げ放たれた言葉に、サチもまたくすりと笑う。

 

「いやー、倫道強いねえ。完敗だよ」

「ありがとう。こっちも結構危なかったけどな」

 

 苦笑を浮かべるナミにサチも笑い返す。

 だがふとナミの表情からは笑みが消え、どこか神妙そうなものへと変化した。

 そのまままじまじとサチの顔を見つめる。

 

「……なんだよ」

 

 流石に気まずくなったサチが、微妙に視線を逸らしながら尋ねる。

 

「んー……。いや、なんかあんたのこと見た気がするんだよね。どっかで会わなかった?」

「いや、特に……」

 

 サチからしてみれば全く心当たりがない。

 つかえが取れないようなすっきりしない表情のナミは暫く首を傾げ続けていた。

 

 

 

 

 

 時を少し巻き戻し、サチとナミが使っているものとは別のファイトテーブル。

 

「それじゃあよろしく頼むよ」

「ん、こちらこそ」

 

 二人の少女がそれぞれファイトの準備を整え終えた。

 

「スタンドアップ、ヴァンガード!『年少怪人ワーレクタス』!」

「スタンドアップ、ヴァンガード!『忍竜マドイ』!」

 

 表に返される2枚のカード。

 もう一つのファイトが幕を開けた。

 

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