インホイール・ヴァンガード   作:毒しめじ

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ヴァンガード10周年の発表会にてスタン落ちの発表がなされましたが、本作は今後もVスタンのカードプールで継続いたします。


第10話:プロテクトでハンデスな少女たち

「ねえスイ。ホント、ホントに悪いんだけどさ……」

 

 海辺の小さな町、小江山。

 その住宅街にある公園で、ボールを持った少女が目の前の少女に声をかける。

 と言っても、どうも先を言うことに躊躇っているらしくそれ以降の言葉は一向に出てこない。

 しかし声をかけられた側の少女、戸々乃スイは全てを察したかのように小さく笑みを浮かべる。

 

「わかってるよ。私は入らないのがいいんでしょ?」

「う……」

 

 見透かされたことによる狼狽、そして一人だけ仲間外れにする罪悪感により少女はスイから目を逸らす。

 

「いいっていいって。みんなで楽しんでよ」

 

 何でもないことかのように笑ってみせる。

 相手の少女はいよいよ罪悪感に耐えられなかったらしく、踵を返して一目散に去っていった。

 

「……あーあ」

 

 その姿が見えなくなったことを確認して、スイは溜め息を一つ吐く。

 戸々乃スイは近所でちょっとした有名人だった。

 というのも、彼女の運動神経は同年代の友人たちの中において頭一つ抜けたものだったのだ。

 そのことは多くの人々に褒められ、スイもまた自らの誇りとしていた。

 だが今日、初めてそれを呪った。

 

「スイが出るとさ、そっちのチームが勝っちゃうでしょ。絶対」

「しかも良いとこ全部あの子が持ってっちゃうじゃん」

 

 偶然聞いてしまったその言葉が今も脳内で蠢いている。

 

「……帰ろ」

 

 こんな所で無為に時間を使っているのも勿体ない。

 気を紛らわせようと軽く首を振り、スイは帰路につこうとした、その時だった。

 

「なあ、お前」

「……?」

 

 横からかけられた声。振り向いてみると一人の少年が立っていた。

 年齢は自分と同じくらいだろうか。明るめの茶髪が陽の光を映しており、スイは思わず目を細める。

 

「えっと、何?」

「良かったらちょっと遊んでくれない?相手いなくて」

 

 目の前の少年は手に持ったボールを前に出してそう言う。

 どうやら彼もまた遊び相手がいないらしい。

 このまま家に帰っても気分は晴れないだろう。なら彼の頼みに乗るのも悪くない。

 

「ん、良いよ。私は戸々乃スイ。貴方は……」

「あー……」

 

 頬を指で掻きやや躊躇した様子。

 だがすぐにその仕草を止めて向き直る。

 

「倫道サチ。よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カードショップ『枝垂桜』、そこに備えられたテーブルの一つ。

 それを挟んで向かい合う二人の少女のファイトは、現在先行である途次キリカが二度目の手番を終えたところ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 キリカの反対側、美少年と呼んでも違和感のないベリーショートの少女は、落ち着いた表情を崩さずカードを手に取る。

 

「ライド、『忍竜フウライ』!」

 

 巨大な手裏剣を携えた忍装束の竜が戦場に降り立つ。

 

「スキル発動。貴方は手札を1枚捨てて1枚引く。捨てたのがグレード0なら私も1枚引ける」

「なら3を捨てよう。そしてドローだな」

 

 キリカが捨てたのは『滅槍怪人ドヴェスピード』。

 

「更にライドされた『ウジヒメ』のスキル。このカードをスペリオルコール。そして登場時スキルで自身ににパワー+5000。。それから『ツナマサ』をコール。こっちはスキルでパワー+3000」

 

 前列に3枚のユニットが並び立つ。

 

「まずは『ウジヒメ』でヴァンガードにアタック!」

「『キラーリーフ』でガード」

「『フウライ』でアタック。スキル発動、『ウジヒメ』を手札に戻してパワー+6000!」

「ノーガード」

「ドライブチェック、クリティカルトリガー。パワーは『ツナマサ』、クリティカルはヴァンガードに」

 

 振りかぶって一つ投げ、捻った身体を返してもう一つ。

 二つの手裏剣が左右双方から、さながら蛇の如く宙を這い襲い掛かる。

 

「ダメージチェック」

 

 受けた2ダメージ、そのどちらにもトリガーはない。

 

「『ツナマサ』でアタック!」

 

 続く攻撃もキリカはノーガード。前のターン受けたダメージと合わせて早くもダメージは4。

 

「『ツナマサ』のスキル、手札に戻してターンエンド」

「ついさっきまで連続攻撃を受けてたのに、ターン終了時にはリアガードサークルが空ときたか。夢でも見せられたみたいだな」

「忍者、だからね。相手には姿も捉えさせずに追い詰めていく……みたいな?」

 

 パーカーの袖を口元に当て悪戯っぽく笑う。

 

「なら隠れている間に本体を斬り裂いて終わりにしてやろうじゃないか。私のターン!」

 

 手番を受け取ったキリカがカードを引き一瞥、それを高々と掲げる。

 

「行くぞ、ライド!『無双剣鬼サイクロマトゥース』!」

 

 キリカの霊体が身に纏った衣は、彼女が最も信頼するユニットの姿。

 月を映し煌めく甲殻の具足、その奥の赤い瞳で目の前の敵を見据える。

 

「イマジナリーギフト、プロテクトI!更にコール!『盛装怪人アルゴビルバグ』!『マシニング・ホーネット』!『槍撃怪人メガラランサー』!」

 

 前のターンにコールした『リトルドルカス』と合わせて各列の火力を上げていく。

 

「仕掛けてくる気だね」

「ああ。『サイクロマトゥース』でヴァンガードにアタック!スキル発動、カウンターブラスト、ソウルブラスト!パワー+10000、更に相手は自身のデッキトップをドロップ!」

「……『忍竜アンテンブランド』」

「グレード1、ヒット!クリティカル+1!」

「ノーガード!」

「ツインドライブ!ヒールトリガー!ダメージ1回復、パワーは『アルゴビルバグ』に!」

 

 光の二本線が描かれた。それが『サイクロマトゥース』の携えた刀によるものだと理解するより早く、『フウライ』が地に膝を付く。

 

「ダメージチェック、ドロートリガー!パワーはヴァンガードに!」

 

 負けじとトリガーで立て直す。

 

「なら『ホーネット』のブースト、『アルゴビルバグ』でアタック!この攻撃はカード1枚でガード出来ない!」

「ノーガード」

 

 膝を震わせ立ち上がろうとする『フウライ』の背後から、更に小柄な怪人が鈍器を振り下ろす。

 

「ダメージチェック」

 

 そう何度もトリガーとはいかない。これでダメージは4点。

 キリカは先程のヒールトリガーで回復したためダメージ差は逆転した。

 

「『ホーネット』のスキル。2枚目の『サイクロマトゥース』を手札に加え自身をソウルに。『リトルドルカス』のブースト、『メガラランサー』!」

「『ツナマサ』でガード!」

 

 突き出された槍を、二又に分かれた刃が払う。その持ち主は先程姿を消した羽織の青年。

 

「ターンエンド。出来れば5点まで詰めたかったが、まあ仕方ないか」

「私だってそう簡単にやられるつもりはないからね」

 

 ふふんと得意げな表情。

 

「スタンドアンドドロー!ライド!」

 

 『フウライ』の姿を掻き消す、突如として上がった白煙。

 その内側から濃紫の竜巻が巻き起こる。中心で、同じく紫紺の鱗と鎧に身を包んだ竜が瞳を開く。

 

「『修羅忍竜クジキリコンゴウ』!イマジナリーギフト、プロテクトI!更に『修羅忍竜カブキコンゴウをコール!スキル発動、パワー+3000!そして同じ縦列の相手リアガード、『メガラランサー』と『リトルドルカス』を手札に!」

「なんだ、効果を使いまわさせてくれるのか?気が利くじゃないか」

「その後手札を戻した分だけ捨ててね」

「……まあ、だろうな」

 

 相手の利になることなどわざわざするわけがない。わざとらしく肩を落としてみせつつも指示に従う。

 

「更に『クジキリコンゴウ』のスキル!相手のリアガードが手札に戻ったら、そのターンそれと同じグレードを相手はコール出来なくなる!」

「つまりグレード1、2がガードに使えなくなったわけか……」

「『クジキリコンゴウ』のスキル、手札をもう1枚捨ててもらうよ」

 

 キリカは苦々しげな表情を強めながらもまたその指示に従う。捨てられたのは先程手札に戻された『リトルドルカス』。

 

「コール、『月下の忍鬼サクラフブキ』!スキルで手札1枚を捨ててパワー+3000、カウンターチャージ、ドロー!手札から捨てた『忍獣ヤミヤマネコ』のスキルでソウルチャージ!2枚目の『ヤミヤマネコ』と『ウジヒメ』をコール!スキルで自身にパワー+5000!『ウジヒメ』でアタック!」

「ノーガード!」

「『ヤミヤマネコ』のブースト、『クジキリコンゴウ』でアタック!スキルでパワー+3000!」

 

 鱗に包まれたその指が印を結ぶと共に、蒼白の炎がまるで生きているかのように牙を剥く。

 

「『ボムシザー』!」

 

 だがそれらが剣士の艶やかな甲殻に届くことはなかった。

 炎を受け止めたのは虫の顎を模した鋼鉄の盾。煙を上げつつも先導者には火の粉一粒浴びせない。

 

「ツインドライブ!……ゲット、クリティカルトリガー!効果は『カブキコンゴウ』に!『サクラフブキ』のブーストでアタック!」

 

 『ボムシザー』が退却した死角を突き、『サイクロマトゥース』の四肢を鎖が絡め取る。

 

「プロテクト!完全ガード!」

 

 自由を奪われたその身体に刃を突き立てんとするその瞬間、眩い光と共に形作られたのは、紋章とも呼べる半透明の障壁。

 『カブキコンゴウ』の向けた刃がそれに弾かれた隙に、『サイクロマトゥース』も自らを縛る鎖を引き千切った。

 

「んー、ターンエンド。防がれちゃったか」

「だが私も正直辛い状況だな。何しろ手札をかなり消費させられた。手札破壊……所謂ハンデスというやつか。敵に回すと厄介なものだな」

「ふふ、でしょ?……敵に回すと?」

 

 おうむ返し。同時に得意げだった表情は訝しげに顰められる。

 

「だからこれ以上の長期戦は無理だな。このターンで決めて見せよう。私のターン!」

 

 そんな目の前の相手を他所に自らのターンを進めるキリカ。

 

「久々にやるぞ、相棒……。ブレイクライド!」

 

 語りかけるように溢し、新たにカードをヴァンガードサークルに重ねる。それは元々一番上にあったカードと全く同じもの。

 

「『無双剣鬼サイクロマトゥース』!」

「同じカードに……?」

 

 イマジナリーギフトを得られる、という意味で同じカードへのライドは無駄な行為ではない。だが、このターンで勝とうとしているのならわざわざ完全ガードを得る意味は薄い。

 真意を掴みかねているという表情を見てキリカが口角を上げた。

 

「まずはプロテクトを獲得。そして『サイクロマトゥース』のもう一つのスキルはライドされた時に発動する。その効果で君には手札を1枚捨ててもらう。そのグレード分だけ新たに登場したヴァンガードにパワー+5000だ」

「そっちもハンデスしてくるの!?うーん……じゃあこれで」

 

 手札から捨てられたのは先程引いたクリティカルトリガー、『忍竜クロガネ』。

 グレードが0なのでパワーこそ上がらないが、シールド15000を削ったのはキリカにとっては十分な成果である。

 

「更に『ブローニィ・ジャーク』をコール。『ブローニィ』のスキル、ソウルブラストしてパワー+6000。それから君にはデッキトップをドロップしてもらう」

「また……あっ」

 

 ドロップされたカードは『忍妖ザシキヒメ』。右上には『治』のマーク。

 

「おや。なら効果は発動しないな。最もそれより嬉しい結果になったが」

「むぅ、折角のヒールトリガーだったのに……」

 

 発動するはずだったトリガーを無力化され軽く唇を尖らせる。

 

「コール。『滅槍怪人ドヴェスピード』のスキル!今度は2枚ドロップだ」

「はいはい」

 

 流石にそう何度もトリガーが落ちるわけでもなく、ノーマルユニット2枚がドロップゾーンに置かれる。

 だがキリカの余裕の表情は崩れない。

 

「置かれた中にグレード1が含まれるならスキル適用。このターン『ドヴェスピード』の攻撃をカード1枚ではガード出来ない」

「なっ、ちょっと待って!確か横の黒いのも……」

「その通り、相手のデッキがドロップされたことで『アルゴビルバグ』にも同じスキルが与えられている。『小隊長バタフライ・オフィサー』をコールしてスキルで『アルゴビルバグ』にパワー+10000!」

 

 妖しく輝く鞭に叩かれ、小人のようだった『アルゴビルバグ』の風貌がみるみる変化していく。

 真っ黒なその身体は相対する竜にすら引けを取らない大きさとなり、愛らしげだった黄色い瞳は充血したような赤へ。

 巨人と化したその怪人が、同じく棍棒のように変化したその獲物をゆっくりと構えた。

 

「さて、攻撃に入ろう。まずはヴァンガードからだ!『ブローニィ』のブーストで行け、『サイクロマトゥース』!」

 

 配下の変化を見届け、甲殻の剣士が地を蹴る。

 

「『ブローニィ』のスキル。手札1枚、プロテクトを捨てることで相手も手札を1枚捨てる!」

「嘘、また!?」

「更に『サイクロマトゥース』もスキル発動!パワー+10000、更にトップドロップ!……クリティカル+1!」

 

 ドロップゾーンに置かれた『忍竜フウライ』を見てキリカがにっと笑ってみせる。

 

「プロテクト!」

 

 だが『サイクロマトゥース』の一撃は光の障壁に阻まれた。剣を持つ腕に力を込めても亀裂一つ見せない。

 

「ツインドライブ!」

 

 防がれるのは予想通り、とばかりにキリカは山札に手をかける。

 

「ゲット、クリティカルトリガー!」

 

 1枚目は『シャープネル・スコルピオ』。それを確認し高らかに叫ぶ。

 

「効果は全て『アルゴビルバグ』に。セカンドチェック!」

 

 そのまま勢い良く2枚目を表に返す。

 ショップの照明に照らされ、そこに描かれた黄色い紋章が二人の目に映る。

 

「ゲット、クリティカルトリガー!効果は全て『ドヴェスピード』に!」

「……!」

 

 少女の表情が強張る。

 それもその筈、先程からの手札破壊と今の完全ガードで手札を大きく消費したのだ。そんな状況でガードに2枚を要求してくるユニットたちにクリティカルが乗ったとあればそうそう防げるものではない。

 

「決めるぞ、『アルゴビルバグ』でアタック!」

「ノーガード」

 

 今や竜すら超える程となった黒き巨躯、その腕が棍棒の如き得物を『クジキリコンゴウ』の脳天へと勢いよく振り下ろした。

 

「ダメージチェック……」

 

 『忍竜ドレッドマスター』と『忍竜ボンバク』。ダメージとして置かれた2枚のどちらもヒールトリガーではない。

 地響き一つとともに、ぐらりと紫紺の竜が体制を崩す。だが倒れ伏すことはなく、刀の先を地に突き、そのままゆっくり光の粒となって空気に溶けていった。

 

「あちゃあ、負けちゃったかぁ」

 

 気の抜けた笑顔で頬を掻く。

 

「楽しい勝負だったよ。良い気晴らしになった、感謝する」

「ん、こちらこそありがと」

 

 軽く握手を交わす。

 

「おーい」

 

 サチ、セイガ、ナミの三名が二人の元へやって来たのは丁度その時だった。

 キリカは三人の方へと振り向いたが、一瞬ピクリと眉が不快そうに動いた。具体的にはセイガの存在に気付いたタイミングで。

 

「こっちにいたのか。てっきり買い物をしてるもんだと思ってた」

「はは、いやすまない。私もそのつもりだったんだが誘われたものだから」

 

 すぐにいつもの表情へと戻り、サチの言葉に向かいの少女に視線をやりながら答える。

 一方その少女の方に顔を向けたのはナミ。

 

「なんだ来てたんだ。一言声かけてくれても良かったのに」

「ごめんごめん。なんかファイトしてたみたいだったから終わったら、って思ったんだけどね。時間潰しにファイトしてたらそっちが長引いちゃった」

「もしかして待ち合わせって」

 

 ふと気付いたようにセイガがそんな二人をを見ると、ナミが軽く頷く。

 

「そ。まさかその親友もファイトしてるとは思わなかったけどねー」

 

 たはは、と笑ってみせる。

 一方その親友とやらは顔の向きを変えサチ達の方へ。

 

「ありがとね。ナミがお世話になったみたい」

「いや、こっちも楽しかったから」

 

 サチの微笑みに少女もホッとしたような表情で笑う。

 

「ところでさー」

 

 そんな二人にナミがふと話しかけた。

 

「やっぱり私、見たことある気がするんだよね。あんたのこと」

 

 まじまじとサチを見て、釈然としない表情。

 

「またその話か。俺は初対面だと思うんだけど」

「なのかなぁ……。じゃあさ、テレビか雑誌に出たりは?」

「いや……」

 

 こちらもやはり覚えがない。強いて言えば事故に遭った時だが、その際にも自分の写真が出回ってなどはいなかったはずだ。

 

「じゃあやっぱ勘違いか……。ごめんね変なこと言って」

 

 なおもすっきりしない様子ながらナミは引き下がる。

 

「別に気にしな……」

 

 しないでいい、と続こうとしたサチの声が、人の声ではない異音に掻き消された。

 具体的に言うと、サチの腹の虫。

 

「ああ、もう12時回ってるのか」

 

 キリカが時計を見ながら呟く。見てみると現在の時刻は12時15分。ファイトに熱が入っている間にだいぶ時間が経っていたらしい。

 音の主であるサチはやや顔を赤らめ気まずそうな様子。

 そこで口を開いたのはナミが親友と呼んだ少女。

 

「あーっとね、このお店を出て右の信号を渡ったところに定食屋さんがあるの。そこで食べてくといいよ」

「へえ、じゃあそうしてみる。途次と白銀先輩は……」

 

 言いながらサチは名を呼んだ二人へと視線を向ける。

 先に口を開いたのはセイガの方。

 

「俺はいい。外で食うと金が勿体ないからな。先に帰るよ」

 

 いつも通りのぶっきらぼうな口調。

 だがどこか残念そうな、あるいは申し訳ないというような声色が混じっている。

 それを何となく感じ取り、サチは笑って答える。

 

「わかりました。……よければ今度、一緒にショップ行きましょう」

 

 その言葉には何も返さず、セイガは店を後にした。

 それを見送り、サチはキリカへと視線を移す。

 

「途次はどうする?」

「……折角だ。行くとしよう。君も一人で昼食は寂しいだろう?」

「まあ、それはそうだな。助かる」

 

 数秒思案した後のキリカの答えにサチも頷く。

 

「そんじゃ、私たちはまだこっちいるから。行ってらっしゃい」

 

 ナミ達に見送られる形で、サチとキリカは教えられた店へと向かっていった。

 

「ところでさ、戸々乃」

 

 残されたナミがふともう一人の少女、もとい戸々乃スイへと話しかける。

 

「戸々乃がファイトしてたあの女の子ってなんて名前だったの?」

「あー……、ごめん、わかんないや」

 

 思い返してみれば、特にお互い名乗ることせずファイトを始めてしまっていた。

 

「そっかー。倫道以外の二人の名前聞き忘れてたんだよねえ。ほら、倫道ってのはあの車椅子のやつね」

 

 苦笑を浮かべるナミ。

 だがスイはその言葉を聞くや否やぴたりと動きが止まる。その目はまるで信じられないものでも見たかのように見開かれている。

 

「……どしたの?」

 

 ナミも親友の異変に気付き訝しげに尋ねる。

 スイは数度息を整えてからゆっくりと口を開いた。

 

「その、車椅子の人さ。フルネーム、何だった?」

「え?えーっとね……」

 

 視線を上に向けて記憶を辿る仕草。

 やがて思い出したらしく、ああ、と一つ声を上げてから続ける。

 

「確か倫道サチって名前だったかな」

「……サチ。倫道、サチ」

 

 スイの口からは、震えるような吐息とともにおうむ返しで声が漏れる。

 一体どうした、とナミが尋ねようとして、そこでふとそれまで感じていた違和感の答えが頭に浮かんだ。

 つまり、サチという少年に対する既視感の正体。

 

「あの、写真……」

 

 春休みに見た、スイとその幼い頃の友人だという少年とが映った写真。

 顔つきや身長、そして何より車椅子という違いこそあれど、サチの姿はあの少年とよく似ていたのである。

 

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