インホイール・ヴァンガード   作:毒しめじ

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第15話:セイガの歩み

「《メガララランサー》でヴァンガードにアタック!」

「《ダイレーサー》でガード!」

 

 カードショップミアキスの一角、倫道サチと途次キリカはファイトに勤しんでいた。

 

「次は俺のターンだな。《ダイユーシャ》にライドして更にコール!こいつらをレストさせてパワー+20000!ヴァンガードにアタック!」

「プロテクトⅠ!」

 

 どちらも相手の戦法自体は分かりきっている。それ故にお互い一歩も退かない。

 そんな熱戦が繰り広げられる傍らで、カランカランと新たな来客を告げる音が店内に響いた。

 

「こんにちはー」

 

 その来客は並木トオルだった。彼は最初こそカードが飾られたショーケースを眺めていたが、やがてファイトしている二人を見つけるとすぐに近づいてきた。

 

「よ。今日もお前ら二人でファイトか」

「ああ、並木は買い物か?」

 

 テーブルの横側から顔を覗かせるトオル。

 盤面から視線をそちらにやりキリカが答える。

 

「まあそのつもり、だったけどお前らいるんだったら俺も相手してもらおっかな」

「わかった。これが終わったら次は君の相手だな」

 

 それを聞いて満足したらしくトオルは観戦の位置に着く。

 そこで、ああそれなら、とサチが切り出した。

 

「このファイトで勝った方が次並木の相手、ってことでどう」

「お、いいな。そうしよう」

 

 サチの提案にご満悦といった様子のキリカは、トオルも同じく頷いたのを確認して続ける。

 

「なら尚更負けたくないな。抜けさせられるなどごめんだ」

「それは俺も同じ。そっちのターン、守りきってやるから」

「ほう、言うじゃないか。だが私が勝つよ」

 

 お互い自信満々に宣言しファイトは再開、キリカのターンに入る。そして。

 

「……仕方ない。買い物でもしてくるか」

 

 5分ばかり経ち、サチは車椅子の車輪に手をかけファイトテーブルを離れる。要するに勝負はキリカの勝利で終わったのである。当の彼女はドヤ顔でサチを見送っている。

 ちなみに、数週間程にサチとキリカは一勝一敗の関係になったわけだが、それ以降は毎日幾度となくファイトをしているためこれでキリカが勝ち越したのかというとそういうわけではない。

 

「んー……」

 

 商品として並べられたディメンジョンポリスのカードたちを見る。

 そろそろ新しいカードを買おうかとも思うがどれもいまいちピンとこない。さてどうしたものかと悩んでいた矢先。

 

「よ」

 

 後ろから聞き覚えのある声が投げかけられる。

 首を回してそちらを見ると、白銀セイガの強面がこちらを見下ろしていた。

 

「白銀先輩!珍しいですね、そっちから声かけてくれるなんて」

「バイト、早く来すぎて暇なんだよ。時間潰しにとりあえず、だ」

 

 誤魔化すように自分の髪を弄りながらセイガは答える。要するに話しかけたくて話しかけたんじゃない、と言いたいのだろう。

 とはいえサチにとってはちょうどいい。

 

「なら、良ければ俺のデッキ見てくれません?あれからまた色々変えたんです」

「……まあそれくらいなら」

 

 再びテーブルに向かおうとして、現在トオルとのファイト真っ只中のキリカの姿が目に入った。

 キリカがセイガのことを嫌っていることを思い出す。テーブルのあるファイトスペースにいるとキリカとセイガが鉢合わせしてしまうかもしれない。

 

「……ここで良いですか?場所」

 

 頼み事をするのに相手を立たせたままというのは無礼ではないかと恐る恐る尋ねる。

 するとセイガは、そんなサチの心持ちとは反対にすんなりと頷く。

 

「ああ、途次がいるからか。わかった」

「えっ……」

 

 セイガの言葉に思わず息を呑むサチ。

 それもその筈、セイガはキリカが自分を嫌っていることをいつの間にやら察していたのである。

 

「あの、途次が先輩のことどう思ってるかって……」

「ああ。何となく察しはな。前に枝垂桜で会った時、俺を見てからあからさまに機嫌悪そうにしてただろ。……それに、心当たりも大ありだ」

 

 心当たりというのは言うまでもない。彼が、キリカが敬愛する存在である三秋ララに対して八つ当たりとも言える態度をとったからだ。

 

「悪いのは俺だからな。お前が気にすることはねえだろ」

 

 どう答えるべきかと狼狽えるサチにセイガは更にそう付け足す。

 

「ほら、デッキ見せろって話じゃなかったのかよ」

「ああ……わかりました」

 

 未だ戸惑いは消えないが、おずおずとデッキを差し出す。

 

「へえ、あれからまた弄ったのか。《ダイザウラス》減らしたか?」

「はい。カウンターブラスト足りないなーって」

「まあ確かに、《ブラドブラック》の効果で毎ターン1枚はカウンター使うからな。で、代わりにグレード1増やしたか」

「ブースト役はいるに越したことないかなと思ったので。最悪前に出しても《ブラドブラック》のスキルでパワーは10000上がりますし」

「……成る程」

 

 感心したように、漏らすように呟くセイガ。その感心の対象はサチのデッキそのものというよりもサチの成長だった。

 

「お前、暫くの間に随分詳しくなったな……」

「え?」

「カードのこと。前に俺とファイトした時はまだちょっとぎこちなかったってのに。今は自分でデッキ弄ってつらつら説明も出来てるなんてな」

 

 多少嫌味な言い方ではあるが確かに褒めてくれているのだろう。サチはそれを受け誇らしげに微笑む。

 

「目標がありますから。毎日デッキ強くして、早くそこに追いつけるようにしないと」

「前に言ってた、勝ちたい相手ってやつか」

「はい。あ、でも今はそれだけじゃないです」

 

 ちらりとファイトスペースの方に視線をやりサチは続ける。

 

「実は途次と組むことになったんです」

「ああ、チームだっけ」

「あれ、知ってたんですか?」

「知ってたっていうか、近頃三秋さんが彼方此方に言いふらしてるからな。大層嬉しそうに」

「あー……」

 

 思い出す。あれはサチとキリカが決戦の末にチームを組んだ次の日のこと。

 いつも通りミアキスを訪れたサチ。それを見るや否や店の奥から半ば飛びかかるようにやってきたララが「キリカちゃんと一緒に大会出るんだって!?あの子が遂に誰かとチーム組むなんてなあ……。いやーこれは色んな人に教えてあげないとなー!じゃ、キリカちゃんのことよろしくね!」と捲し立ててきた。

 そしてその言葉通り瞬く間にミアキスの常連にこの話は伝わっていき、1週間も経つ頃にはショップの利用者の殆どに知れ渡っていたのだ。

 

「先輩にも伝わってたんですね」

「バイトの時にな。で、チーム組んだ以上は今まで以上に頑張らないとってところか」

「はい。途次は強いですから。組もうって言ってもらった以上は迷惑かけないようにしないと」

 

 自分で語りながら、そのプレッシャーに目を伏せるサチ。

 

「あいつが俺のことをヴァンガードファイターとして頼ってくれたのが嬉しかったんです。これまでヴァンガードのこと、知らないショップのこと、色々教えてもらったので」

「……そうか」

「あ、えっと、すみません。こんな話先輩に聞かせるのもなんですよね」

 

 慌てて付け足すサチ。だがセイガは数秒考え込んでから首を横に振る。

 

「いや、いいと思う。そういう相手は大切にしとけ」

「え?」

「身近にいて、気軽に何回でもファイト出来て、その度になんか新しいものが学べる相手ってことだよ」

 

 そう語るセイガの瞳は、目の前のサチではないどこか遠くを見ているように感じられた。

 その瞳に込められた感情が、何故か自分の感じたことのあるそれに似ている気がしてサチは微かに首を傾げる。

 そしてそれと同時にもう一つ感じたことがあった。それを伝えようとサチは口を開く。

 

「できれば、ですけど。白銀先輩ともそうなりたいです」

「……は?」

 

 思いを馳せるような様子から我に帰ったセイガは、意味がわからないといった様子で怪訝そうな目を向ける。

 

「この前ファイトしてもらったとき、先輩はアドバイスをくれたじゃないですか。それを使って本当強くなれたこともこの前見てくれてた筈です。だから良ければまたファイトして、またアドバイスを貰いたいんです」

「倫道、お前な……」

 

 溜め息を吐くが、一方でその口角が僅かに上がる。

 

「まあ、考えといてやるよ。一応今デッキは弄ってるからな。それが終わって気が向いたら、だ」

「……ありがとうございます」

「気が向いたらっつてんだろうが。……ほらよ」

 

 誤魔化すように左手で頭を触りながらデッキをサチに返すセイガ。

 サチがそれを受け取ってからセイガはショーケースへと目を移した。つられて目をそちらへやるサチ。

 

「こいつ、《宇宙英雄グランザイル》。相性いいんじゃねえの?入れとくといいかもな」

「《グランザイル》……」

 

 セイガが指さしたそれを見る。能力は『山札からグレード3を手札に加える』というものと『グレード3のユニットがいるとパワーが上がる』というもの。

 確かにグレード3を引き込むことで《ブラドブラック》の能力を活かすことができるため相性はいい。のだが、サチの表情は明るくない。

 

「えーっと……それは良いなーって前々から俺も思ってたんですけど」

「なんだ、教えるまでもなかったか。あれ、でもお前のデッキ入ってなかったよな?」

「あれです。要するにお金なくて」

「あー……」

 

 苦笑を浮かべるサチ。《グランザイル》はそれなりにレアリティの高いカード。それをヴァンガードにおける同名カードの上限である4枚集めるのはある程度の金がかかる。

 セイガも納得したと同じく苦笑い。

 

「ま、なら機会が来たとき買えば良いんじゃねえの。後は……」

「おーい倫道、終わったぞー」

 

 セイガが再びショーケースに視線を向ける。

 そこに新たに訪れた人物。それを見てサチは思わず『まずい』という表情を浮かべる。

 

「ああやっぱりここにいた。ディメンジョンポリスのカードを見ているんだろうなとは思っていたが……」

 

 その人物、即ちトオルとのファイトに決着を付けたキリカはいつもの気さくな笑顔でやってきて、そして隣のセイガを見るとそれをわかりやすく顰めた。

 とはいえキリカも、サチがセイガを尊敬していることは知っている。自分の嫌悪感でサチまで傷つけるわけにはいかない。そういうわけで微妙な表情でただただ立ちすくむ。

 そうして微妙な沈黙が流れた。

 

「……じゃ、俺はこれで」

 

 素っ気なく手を振りセイガが歩き出す。キリカと目を合わせないようにその横を通りレジの方へと歩いていった。

 時計を見れば長い針が真っ直ぐ上を指そうとしていた。キリのいい時間、彼のバイトの時間なのだろう。

 残された二人は顔を見合わせる。先に口を開いたのはキリカ。

 

「すまない。彼と一緒とは思わなかった」

「いや、こっちこそ気付かなくてごめん。お前が先輩のこと嫌いなの知ってたのに」

「いや、私の嫌悪感に君が付き合う必要はないよ。これは私の感情だからな」

「……そういうもんか」

「そういうものだ。ほら、並木が暇している。次は君と戦うと言ってたぞ」

「ん、わかった。ちなみにどっちが勝った?」

 

 サチの問いかけにキリカはにんまりと笑う。

 

「私の大勝利だとも」

 

 

 

 

「すみませーん、このカードお会計お願いします」

「はい」

 

 それから数時間経過した。

 セイガはバイトとしてレジ業務をしていた。

 カードの束を数え値段を提示する。束の内容は大量のかげろうのカード。トリガーも含まれているあたり新しく一からデッキでも組むのだろうか。

 会計を終えれば次の客が。今度は壁にかけられていた構築済みデッキを渡してくる。最近発売されたばかりの新しいものだ。

 

「このデッキお願いします」

「はい、333円になります」

「500円からで」

「はい、こちらお釣りになります。ありがとうございました」

「おーい、今日の分の仕事おっけーだよ。お疲れ様」

 

 淡々と仕事を進めるセイガに向けて、奥からひょこっと顔を覗かせたララが声をかける。

 

「あれ、もうこんな時間でしたか」

「そうだよー。白銀くんってばとっても真剣にやってるんだもん、時間も見ないで」

「すみません」

「褒めてるんだけどなあ」

「それは、どうも」

 

 セイガは以前自分の無礼を謝罪しララもそれをすぐに受け入れた。今ではいつも通り店長とバイトの関係である。とはいえ未だセイガの態度は素っ気ない。

 だがそれを気にしてかせずかララはなお続ける。

 

「それになんか前より楽しそうだよね、仕事」

「そうですか?変わってないと思いますけど」

「うーん、なんだろ。商品……要はカードを見る目がね、なんかキラキラして見えるの。お客さんの買うカードを手に取るのがさ」

「そんなこと……」

 

 ない、と言おうとするがそれは出来なかった。

 確かに先程までの自分は客が買ったカードを『カード』として見ていた。ついこの間までの自分は、店員として扱っているそれを値札がついた物体程度にしか思っていなかった筈なのに。

 

「やっぱサチくんとのファイトが大きかったのかなあ」

「……まあ、そういうことですよ」

 

 これ以上否定は出来ないだろう、と素直に答える。

 

「あいつとのファイトは、悔しいけど楽しかった。途中で終わったのが惜しく思えるくらいには」

 

 三秋ララという人物はやたらこちらを見透かしたような物言いをしてくる。セイガはそれが少し苦手だった。だからこそ、これ以上言い当てられる前に自分から話すことにした。

 

「そういうわけで、他の人が買ってるカードを見ても『俺が使うならどういうデッキにするだろう』とか考えちまうんです」

「なーるほどね」

「それでは、失礼します」

 

 セイガは一礼とともに店を後にする。

 それを見送ったララは意味ありげに微笑んだ。

 

「良いね、その目。似てるよ」

 

 

 

 

 そしてその十数分後、セイガは先程までいたミアキスとは別の店の前に立っていた。そこに掲げられた看板には、『カードショップ枝垂桜』と書かれている。

 

「……こんにちは」

「やあ、いらっしゃい」

「いらっしゃーい!」

 

 足を踏み入れると落ち着いたものと弾むようなもの、二つの声が出迎える。

 前者の主はこの店の店長である覇気のない細身の青年、黒星ジュンヤ。そして後者の主は以前サチとファイトした魔女デッキ使いの少女、バイトのエプロンに身を包んだ戸畑ナミ。

 二人の慣れた様子からもわかる通り、セイガはバイトのない日はしばしばこの店を訪れていた。理由はもちろん、苦手な相手であるララや自分を嫌っているキリカを避けるためである。ついでに品揃えもなかなか良い。

 

「んー……」

 

 最早自分の定位置と化したアクアフォースのカードのショーケースを眺める。

 しかしピンとくるものはない。そもそもセイガのデッキは父親が他界するまでの間毎日欠かさずに調整したものであり、当時の自分の最高傑作である。今更これ以上のものにすることなど考えられない。

 

「はぁ……」

 

 そんなことを考える向上心のない自分に苛立ちながらセイガは店の奥に進む。そこにあるのはミアキスのそれよりややこじんまりとしたファイトスペース。

 デッキを改良する案が思いつかないのでとりあえず今のデッキを眺めて頭を整理しようと考えたのだ。

 そうして席につきデッキを取り出した。それを広げようとする。

 

「あの」

 

 緊張からかやや震えた声が前方、机に目を向けたセイガにとっての頭上から投げかけられたのはちょうどその時だった。

 セイガがテーブルから顔を上げるとそこには少女が一人。パーカーを纏い髪は少年のように短い。顔は幼さが残るものの端正だ。

 そしてセイガにはその少女に見覚えがあった。確か以前、自分が観戦していたサチとナミのファイトと同時刻。キリカとファイトしていた少女。

 

「前、サチ……あ、倫道サチと一緒にいた人ですよね」

「あ、ああ……」

 

 あちらもあの日のことは覚えていたらしい。

 セイガが戸惑いながらも頷くと、少女はセイガの向かいの席に手をかけながら続ける。

 

「私、戸々乃スイっていいます」

 

 肩にかけた鞄をそのテーブルの端に置きそこから何かを取り出す。

 

「私と、ファイトしてください」

 

 その何か、もといデッキを突き付け、スイはそう言い放った。

 

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