インホイール・ヴァンガード   作:毒しめじ

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第16話:過去に囚われた少女

「……明日、なんだな」

 

 小さな町、小江山。その住宅地の公園のシンボルたる時計の針は一直線。

 夕焼けに照らされ朱色がかかった顔を正面の少女に向けて茶髪の少年、幼き日の倫道サチは寂しげに呟いた。

 

「……うん。今日まで本当にありがとう」

 

 その相手、戸々乃スイも同じ思いを浮かべているらしく、決して表情も声色も明るくはない。声の震えは未練を隠そうともしない。

 

「でも本当に楽しかった。ありがとね、サチ。今日までこうやって一緒に遊んでくれて」

「ううん、こっちも楽しかったから」

 

 毎日のように遊んでいた二人。だがそれは今日が最後になる。なぜならスイが両親の都合で引っ越すことになったから。

 

「じゃあ、明日は絶対見送りに行くから」

 

 これ以上話していてはいつまで経っても今日を終えることが出来ない。いつまでも今日という最後の日に引っ張られてしまう。

 そんなことを薄々と感じたサチは、最後にそう締めくくり公園を後にしようとする。

 

「待って!」

 

 それを引き止めるスイの、叫びにも似た声。

 振り向いてみれば、彼女が揺れる瞳でこちらを見ていた。相変わらず夕日は鋭く、空とともに二人の顔の肌を朱色に染めている。だが彼女の赤色だけ、夕焼けの朱の他にも別の色が混じっていた、ように感じられた。

 

 

 

 

「《士官候補生エリック》!」

「《忍竜マドイ》!」

 

 2枚のカードが広げられたフィールドの上で表に返される。その主たちである二人の男女がテーブルを挟んで向かい合っている。

 その一方は険のある顔つきの青年、白銀セイガ。もう一方は少年にも見える容姿の少女、戸々乃スイ。

 二人に殆ど面識はない。そんな二人がなぜファイトを始めたかといえばそれはスイが挑んだから。

 

「私と、ファイトしてください」

 

 突きつけられるデッキ、そして放たれる挑戦の言葉。

 セイガの戸惑いを察した少女、スイは続ける。

 

「一戦でいいんです。ダメ、でしょうか」

 

 その表情にはどこか必死さのような、ただ勝負を申し込む以上の意味が感じ取れた。

 断るのも寝覚めが悪いし、何よりセイガ自身デッキを弄るのに詰まっていたのは事実。

 

「わかった。白銀セイガだ、よろしく」

 

 こうしてファイトが始まった。先攻のスイは《蛇術の忍鬼ウジヒメ》にライドする。対する後攻のセイガは《共感の蒼翼マカリオス》に。

 

「アタック!」

「ノーガードです」

「ターンエンド」

 

 1ダメージ与えてターンエンド。普段1ターン目はリアガードを呼び出しての2連続攻撃を仕掛けるセイガだが、今回は手札が整っていなかったらしい。

 

「《フウライ》にライド!《ウジヒメ》をスキルでスペリオルコールしてパワー+5000!《ドレッドマスター》をコール!《ウジヒメ》でヴァンガードにアタック!」

「《スーパーソニックセイラー》でガード」

「《ドレッドマスター》でブースト、《フウライ》でアタック!スキルで《ウジヒメ》を手札に戻しパワー+6000、ドロー!」

「ノーガード」

 

 セイガも同様にヴァンガードのアタックを受け、これでダメージは同点。

 

「《頑迷の蒼翼シメオン》にライド。《共鳴の蒼翼マクシオス》、《発光信号のペンギン兵》、《大義の蒼翼ファウロス》をコールする。《ファウロス》からアタックする」

「んー……そこ守っとこうかな。《オオツヅラ》でガード」

「《シメオン》でアタック」

「ノーガード!」

「ドライブチェック、クリティカルトリガー!」

「っ……!」

 

 セイガが捲った《青嵐水将デスピナ》により、《シメオン》の与えるダメージが2点に上昇する。

 

「ダメージチェック、ドロートリガー!」

 

 しかしスイも負けてはいない。ダメージゾーンに置かれた《忍獣ミジンガクレ》の恩恵によりパワーと手札を得る。

 

「《ペンギン兵》のブーストした《マクシオス》でアタック」

「《ウジヒメ》でガード!」

 

 互いのパワーはほぼ互角。スイは先程手札に戻した《ウジヒメ》を使って防ぐ。

 

「私のターン、《修羅忍竜クジキリコンゴウ》にライド!」

 

 続くスイのターン、スイがライドしたのは彼女のエース。紫紺の鱗片と甲冑に身を包んだ竜。

 

「イマジナリーギフト、プロテクトI!更にスキルで、手札を1枚捨ててもらいます!」

「……そういうデッキか」

 

 僅かに強張る表情、そして手札も削られる。前のターン攻撃に手札を使った分この消費はセイガにとって痛い。

 

「更にリアガードをコール!《タマハガネ》のスキルで《ペンギン兵》を手札に!《ヤミヤマネコ》のブースト、《クジキリコンゴウ》でアタック!」

「チッ……!」

 

 予め相手のリアガードを手札に戻したことで、《クジキリコンゴウ》のガード制限が発動している。そんなセイガに満足なガードは行えず、ダメージが一気に詰められる。

 

「《タマハガネ》でアタック!」

「《虹色秘薬の医療士官》でガード!」

「ターンエンド」

 

 とはいえ全てのカードが使えないわけではない。最後の一撃を防ぎダメージは4に抑えた。

 続くセイガのターン。ドローしてグレード3、《波乱の強鞭ゲオルゲ》にライドしアクセルギフトを得る。

 

「《バジリア》をコールしてスキル、《マカリオス》と《シメオン》を手札に加えてコール!《コーラル・アサルト》もだ。《ゲオルゲ》のスキルでヴァンガードのパワー-5000!」

 

 蛇腹状の鞭を振るう美青年、その力によりスイのヴァンガード、《クジキリコンゴウ》から防御力を奪った。

 

「《ファウロス》!アタック時スタンド!

「インターセプト!」

「もう一回《ファウロス》でアタック!今度は《マカリオス》でブースト!」

「《クロガネ》でガード!」

「《マクシオス》のブースト、《シメオン》でアタック!」

「ノーガード!」

 

 パワーを下げることで相手の必要な消費増やし、そこに潔白の軍服に身を包んだ蒼翼ユニットたちの連続攻撃を叩き込む。セイガのデッキの常套手段。

 それでも巧みに受ける攻撃と防ぐ攻撃を選んで捌くスイ。

 

「《バジリア》のブーストした《ゲオルゲ》でアタック!」

「ノーガード!」

「ツインドライブ、クリティカル!パワーは《コーラル》、クリティカルは《ゲオルゲ》に!セカンド、ドロートリガー!1枚引いて同じく《コーラル》にパワー!」

「うっ……」

 

 しかしそこにダメ押しと言わんばかりのクリティカルトリガーが突き刺さる。2ダメージを受けついにスイのダメージは敗北一歩手前の5点へ。

 

「《コーラル》!」

「プロテクト!」

 

 最後の一撃、パワーを大幅に上昇させた《コーラル・アサルト》の攻撃は予め獲得していたプロテクトギフトで防ぐ。

 

「《コーラル》をソウルに入れてドロー。ターンエンド」

 

 先程までの攻撃、そして最後のスキル発動、いずれも手際良く進めていくセイガ。

 一方のスイは防ぎきりこそしたものの、緊張もあってか軽く肩で呼吸している。

 

「強いな、流石挑んできただけのことはあるじゃねえか」

 

 その緊迫した空気で先に口を開いたのはセイガだった。口こそ悪いが、皮肉などの意図ではなく純粋な感服。

 

「それは……」

 

 もごもごと口を動かし、ようやく口を開いたかと思えばまた言い淀む。

 そんな躊躇いを数度繰り返してからいよいよスイは切り出した。

 

「それは、サチみたいに、ですか?」

「……何?」

 

 思わぬ名、ここで聞くとは思わなかった名に、セイガの強面もピクリと動く。

 

「……いや、そういや俺に話しかけてきたときもか」

 

 彼女はこちらを『倫道サチと一緒にいた人』と認識していたことを思い出す。その時はあまり気にしていなかったが、彼は決して有名人というわけではない。となれば。

 

「お前、もしかして倫道の知り合い?」

 

 当然そうとしか考えられない。

 

「……」

 

 スイは再び口を閉じ俯く。

 そんなに答えづらい質問だっただろうか。とはいえ無理に聞き出すことでもない。

 

「まあいいや、お前のター」

「小さい頃近所に住んでいたんです」

 

 話を切ろうとしたまさにそのタイミングで、意を決したらしいスイが答えた。やはり何か言いづらいことだったのかその声は上擦っており早口気味。

 

「小さい頃……。じゃあ幼馴染ってやつか」

 

 セイガの言葉に頷き、スイは更に続ける。

 

「私が引っ越すことになるまで、よく一緒に遊んでたんです。まさか同じ町に来ることになるなんて思ってませんでしたけど」

 

 一番言いづらかったことを言ってしまい落ち着いたからか、ぽつりぽつりと静かに話す。

 

「へえ、良かったじゃねえか。要するに友達との再会ってことだろ」

 

 ところがセイガがそう返すとまたも表情に影が差す。やがてそれは自嘲的な笑みへと変わった。

 

「友達、じゃないですよ。友達だっただけです」

 

 吐き捨てるような口調。

 これ以上踏み込むべきではないのかもしれない。空気が重くなる一方だ。

 

「……そら、お前のターンだ」

「あ、そうでした。すみません。変なこと聞かせて」

「別に気にしてねえが」

 

 スイがカードを引きファイトが再開される。

 

「《修羅忍竜クジキリコンゴウ》にもう一度ライド!」

 

 白煙が上がり、紫紺の竜が生まれ変わる。それによりスイの手には2枚目のイマジナリーギフト。

 

「これでプロテクトを獲得……。次のターンも耐えれるって寸法か」

 

 セイガはそう呟くが、やがてそれは間違いだったと気付くことになる。

 それはスイがメインフェイズに移り、1枚のカードを盤面にコールした瞬間。セイガの顔が引き攣る。

 

「……そいつは」

 

 ミアキスでのバイトのおかげでカードの見識はいくらかある。そしてそのカードはたまたま目にしたとき思わず『うわっ』と小さく声を上げた覚えのあるもの。

 

「《修羅忍竜フゼンコンゴウ》!」

 

 藍色の忍装束に身を包んだ竜。傍には巨大な巻物らしき物体が浮かんでいる。

 

「《クジキリコンゴウ》のスキル、1枚手札破壊。更に《マガツゲイル》をコール、スキルでドロー。《サクラフブキ》のスキル、プロテクトマーカーを捨てて更にドロー、カウンターチャージ!」

 

 少ない手札だがドローを駆使して盤面を揃えていく。あっという間に6体のユニットが揃った。

 

「行きます、《ヤミヤマネコ》でブースト、《クジキリコンゴウ》でヴァンガードにアタック!」

 

 スイの宣言に応え、想像の世界にて、印を結んだ竜の指先から放たれる青白い炎。まるで命を持つかモノかのように空中を這って襲いかかる。

 

「《パスカリス》で完全ガード!」

 

 しかしそれは展開された翠色の光に妨げられセイガの分身たる《ゲオルゲ》に届かない。

 さて、本来最たる脅威であるヴァンガードの攻撃を防いだのだがセイガの表情には未だ緊張が宿っている。その視線はスイの手が添えられた山札へ。

 

「ツインドライブ!」

 

 スイはそう宣言しその手をカードと共に返す。

 

「1枚目、トリガーなし」

 

 セイガもじっとその様子を見つめる。

 

「2枚目、クリティカルトリガー!」

「うっ……!」

 

 そして捲られた《忍竜クロガネ》。セイガの喉からは呻くような声が漏れる。

 本来なら未だ手札を多く保持しているセイガにとってクリティカル1枚程度ならさほどの脅威ではない。しかし今この時においてはそうではなかった。

 

「効果は全て《修羅忍竜フゼンコンゴウ》に!」

「そりゃあそうするよな……!」

 

 先程からセイガの恐れの目を一手に受けるもう一体の修羅忍竜。クリティカルの恩恵を受け、遂に動き出す。

 

「《フゼンコンゴウ》でヴァンガードにアタック!私のダメージが5なのでスキル発動、ソウルのグレード3、《クジキリコンゴウ》をドロップ!」

 

 ギフトのためだと思われていた《クジキリコンゴウ》から《クジキリコンゴウ》へのライド。その真の目的はソウルにグレード3のカードを用意しこのスキルのコストを確保することだった。

 巨大な巻物が開かれ、そこに描かれた竜の絵が実体を得て飛び立つ。

 

「私のドロップゾーンのカードを全てバインド!《フゼンコンゴウ》のパワーをその1枚につき5000アップ!私がバインドした枚数は13枚、よって+65000!更に守護者でガード出来ない!」

 

 これこそがセイガが恐れていた《フゼンコンゴウ》の力。ドロップゾーンと引き換えにとてつもないパワーを得る必殺のスキル。

 ヴァンガードにおいて高パワーは完全ガード効果を持つ守護者で守るかノーガードで受けてしまうかが定石。しかしこのスキルはその守護者すら封じる。そしてセイガのダメージ4に対し、先のクリティカルトリガーによるクリティカル2の攻撃である。

 

「ノーガード……俺の負けだな」

 

 ダメージゾーンに置かれた2枚のカードはどちらもトリガーを持たないノーマルユニット。そしてそれらを合わせ、セイガのダメージは敗北を意味する6枚。

 

「はぁ……はぁ……。なんとか、勝てた……」

 

 これまでの力と緊張が抜け落ちたらしく、セイガの敗北宣言を聞くと同時にスイは崩れ落ちる。

 

「なんで勝った側がガックリしてるんだ」

「あはは、つい……」

 

 力なく笑みを浮かべスイは顔を上げる。だがすぐに姿勢を直した。

 

「あっ、ありがとうございました。えーっと、白銀……さん?」

「ああ、こちらこそ。戸々乃」

 

 お互いぺこりと頭を下げ合う。

 そしてお互い無言でデッキを片付けるが、やがてスイがおずおずと口を開く。

 

「あの、出来れば、なんですけど……。私のこと、サチには言わないでくれませんか。会ったこととか、ファイトしたこととか」

 

 言葉を受けたセイガは一瞬驚いた顔をして、しかしすぐため息と共に返す。

 

「別に言う理由もねえだろ。俺はただショップでファイト挑まれたから受けただけだ。お前と倫道の仲にどうこう口を出す気はねえっての」

「本当ですか……?」

「嘘吐いてどうすんだよ」

 

 ほっと安心の表情を浮かべるスイ。それを横目にセイガは片付けを終え席を立つ。

 

「ただまあ、アレだ。もしお前がファイト挑んだら、あいつは喜んで受けるだろうよ」

「えっ……」

「あいつはヴァンガードにかなりのめり込んでる。お前があいつをどう思っててどうしたいのかは知らないが、あいつとのファイトは……多分、楽しい」

 

 立ち去ろうとしたセイガの言葉。当の本人がいない場所だからこそ言えているのだろう。

 スイは最初目を丸くし、やがて再び暗い表情を浮かべる。

 

「……もしそうだとしても、私にはサチと一緒に何かやる資格なんてないので」

 

 『やりたくない』ではなく『やる資格がない』と言う。

 その瞳は今ではなくいつかどこかの昔を見つめるようで、だがそこに郷愁といった温かさは感じられない。見て取れるのは後悔と自責の感情ばかり。

 

「……そうかい」

 

 それ以上セイガは何も言えなかった。

 過去の何かに囚われていた、という点では父親との記憶を引き摺っている自分も同類だろう。ましてやその鬱憤をヴァンガードや他人といった対象にぶつけてしまった自分には、スイにこれ以上言う言葉は思い付かなかった。

 

「じゃ、俺はこれで」

「ありがとうございましたー」

 

 ジュンヤとナミの声を背に受けながらセイガは店を後にする。

 

「やる資格がない、か……」

 

 脳裏に二人の人物の姿が過ぎる。

 一人は自分なんかにファイトを挑んできた、そして今も自分を尊敬しているらしい酔狂な少年、倫道サチ。もう一人は自分を嫌って、憎んですらいる少女、途次キリカ。

 この正反対ともいえる二つの縁が結ばれたのは、どちらも自分がした一つの愚行に起因している。

 

「それは俺も、の筈なんだけどな……」

 

 一人に嫌われ、一人に慕われる。八つ当たりという愚行の代償にしてはあまりにも安く、無から何か縁が生まれたという意味ではむしろプラスですらある。

 

「どうすれば償えるんだろうな、これ」

 

 自らを呪うように呟きながら、セイガは帰路へと着いた。

 

 

 

 

 

「ねえ戸々乃、大丈夫?」

 

 未だ暗い表情を拭えないスイの元に、バイトを終えたナミがやってくる。早足は親友への心配の表れだろう。

 

「あ……。お仕事、お疲れ様」

「こっちの心配じゃなくて。……この前倫道が来てから戸々乃、よくそういう顔してる」

 

 以前倫道サチが枝垂桜を訪れた日、それを知るや否やスイは隙を見て逃げるように店を去っていった。そしてそれ以降スイは事あるごとに今のような寂しげで後悔に満ちた表情を見せるようになった。

 

「ねえ、私ね、今度ミアキス行こうと思ってる」

「ミアキス……?って、ここからちょっと歩いたところのお店だっけ」

 

 スイの確認に頷きナミは続ける。

 

「あそこね、倫道とそれから戸々乃とファイトしたあの女の子も通ってる店なんだって」

「……そう、なんだ」

「別にそれで戸々乃のことを話すとかじゃないよ。ただ倫道ともう一回ファイトしたいし他の人とも話してみたいだけ」

 

 ますます俯くスイの向かいに腰掛けるナミ。

 

「でもさ、良ければ戸々乃にも着いてきて欲しいかなって思う」

「なっ、なんで私が……!」

 

 思わずスイは声を荒げる。

 この友人は何を言っているのか。事情こそ話してはいないが、自分が倫道サチと関わることを躊躇していることは誰よりもよく分かっている筈ではないか。

 

「じゃあさ、戸々乃はずっとそういう顔して生きてくつもり?」

 

 しかしそんなスイの苛立ち混じった思考を見透かしたようにナミはそう返した。

 

「こっちとしちゃ、戸々乃のそういう顔はあんまり見たくないの。もちろんだから無理矢理解決させようとか、そうしなきゃ絶交とかそういうことじゃないけど、機会が作れるなら作りたい。倫道が悪いやつじゃないこともこの前よくわかったし、ね」

「……それは」

「戸々乃が昔倫道と何かあったんだろうなってことはわかる。でも少なくとも今二人は同じ趣味……ヴァンガードをやってる。それはとっても良いことなんじゃないかな」

 

 諭すようにナミは語る。目を伏せたままの友人の横を通り過ぎ、またすぐ立ち止まった。つまり今の二人は背中合わせの形。

 

「私は来週の日曜にミアキスに行こうと思ってる。もしよければ、親友に付き合うものだと思って一緒に来てほしいかな」

 

 それだけ言い切ってナミは再び歩き出す。スイは、そんな彼女が店の外に出るまでついぞ何も返すことはなかった。

 

「……わかってるよ」

 

 ナミは立ち去って更に数十秒、まるで崩れ落ちるかのようにスイはテーブルに突っ伏す。その肩を僅かに震わせて。

 自分でもこのままでは駄目だと、変わりたいと思っている。そうでなければサチの友人らしいという理由でファイトを挑むなどしていない。

 

「サチ……」

 

 親友『だった』少年に対し、スイがこれ程まで暗い心持ちを見せる理由は二つある。

 一つはナミが言う通り昔の出来事。そしてもう一つは。

 

「何があったの。そんな、歩けない足になって……」

 

 この店にやって来た車椅子の少年がかつての友人だったと知った瞬間のスイの驚き。それは言葉で言い表せるものではなかった。

 自分の知らない間に一体何があったのか。それを知ることがどれだけ恐ろしいか。

 スイの肩の震えはそれから10分近く止むことはなかった。

 

 

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