「『ダイボート』でヴァンガードの『ハイディング・キラーリーフ』にアタック!」
「ノーガードだ」
「ドライブチェック、ノートリガー」
「ダメージチェック……こちらも何もなし」
「『ダイドラゴン』!」
「それもノーガード。トリガーもない」
「ターンエンド」
ダメージはサチが2、キリカが3。後攻であるサチの二度目の攻撃が終了し、ターンはキリカに移る。
「スタンドアンドドロー……ふふ」
「……なんだよ」
「よく拘られたデッキだと思ってな。君が作ったのか?」
キリカが興味津々とばかりに問いかけてくる。
「いや、貰い物だ。俺も多少改造はしたけど」
「そうか。……ファイトを見ればわかる。君にも製作者にも大切にされてきたんだな、そのデッキは」
「俺はまだ一度もこいつらを勝たせてやれてないけど、な」
悔しげに苦笑を浮かべると、キリカがゆっくり首を横に振る。
「それでも、だよ。君のデッキへの愛着はファイトを見ていればわかる」
そうもはっきりと言われては否定もしづらい。サチは黙ってキリカの話に耳を傾けていた。
「きっと、そのデッキをくれたという人と君は強く繋がっているんだろうな」
「……ま、かもな」
今度は苦笑ではなく心から、そうなら嬉しいとばかりに微笑む。
「……それだ。そういう表情の相手とファイトするのが一番楽しい」
キリカは満足気に呟くと、自らの手を先程引いたカードへと持って行く。
「行くぞ。ライド!」
言葉と共にそのカードを掲げ、ヴァンガードサークルに勢いよく重ねる。
キリカがライドしたそのユニットは、メガコロニーのユニットとしては異質な存在だった。
昆虫を模した外見でこそあるものの、他の怪人達とは違い悪辣な兵器らしい兵器は殆ど備えられていない。
常盤色の甲殻を輝かせ、双剣を携えて佇むその姿はむしろヒロイックにすら感じられた。
「『無双剣鬼 サイクロマトゥース』!」
そうカード名を読み上げる。楽しげな声色に爛々と輝く瞳。おそらく彼女にとって特別な意味合いのあるカードなのだろう。
「プロテクトIを獲得。更にコール。『七色怪人 スタッガーセブン』、『マシニング・ホーネット』。『タワーホーン』を後列に移動して『盛装怪人 アルゴビルバグ』。『ホーネット』でブースト、『サイクロマトゥース』でアタック!」
そう言い放つと共に剣士が翅を広げ地を蹴る。
「スキル発動。パワー+10000。君はデッキトップをドロップゾーンに置いてそのグレードを教えてくれ」
「……『次元ロボ ダイスクーパー』。グレード1」
苦々しげに返す。G1以上が捨てられればスキルが追加され、そうでなければトリガーが山札から減る。ギャンブルの体を装った一方的な搾取。
「ではクリティカルも1追加。さあどうする?」
「流石に守る。『ゴーレスキュー』と『ダイダンパー』でガード、『ダイドラゴン』でインターセプト!」
「ではドライブチェック……。ふふ、クリティカルトリガーだ。しかも……」
「『挟弾怪人 ボムシザー』……」
単体30000という高いシールド値を誇る、完全ガードとは違うタイプの守護者。ライド時に獲得したプロテクトIと合わせ、次のターンの防御も盤石となる。
剣を構え、サチのライドした『ダイボート』に迫る『サイクロマトゥース』。そうはさせまいと呼び出されたユニット達を一つ、また一つと斬り伏せる。だがその攻防により削がれたパワーでは、『ダイボート』の青い装甲に傷をつけるには至らない。
「効果は全て『アルゴビルバグ』に。『タワーホーン』のブーストでアタック!」
「『ダイレーサー』で……」
「おっとそれは無理だな」
すかさず次の攻撃が宣言される。防ごうとカードに手をやると、得意げに人差し指を立てたキリカがそれを遮る。
「このターン君のデッキがドロップされてるだろう?『アルゴビルバグ』の効果によりこの攻撃はカード2枚以上でなければガードできない」
「……ならノーガード」
ガード制限の付与されたクリティカル2の攻撃によりダメージ差は逆転。だがキリカの攻撃は終わらない。更に不幸なのは、ダメージに置かれたカードはどちらともトリガーでないことだった。
「『スタッガーセブン』でアタック。スキルでパワー+20000だ」
「20000!?……ノーガード」
防ぎきれないことはないが、次のターンの展開も考えると手札を消費したくはない。
更にダメージが重ねられる。もう一撃も受けられない。
「ダメージ5……」
「ターンエンド」
キリカは自分の手札を揃えるようにトントンとテーブルを叩き宣言する。
改めて盤面を見てみる。ガードには手札2枚だけでなくリアガードまで消費した。対して相手側は4枚のリアガードに完全ガードと30000シールド。そして何よりも敗北まで後1ダメージ。
『気付いてないの?君は盤面ばっかり見て、全然自分の手札を見てないんだよ。……そうやって、自分には出来ることがないって思い込もうとしてるんでしょ』
『確かにそうやって頑張って考えて、それでダメだったら凄くガッカリすると思う。でもさ、ちょっとだけ向き合ってみなよ。自分が今手元に持ってるものとさ』
ヤバいな、と心の中で呟いた瞬間、1ヶ月前の光景と彼の言葉が脳をよぎる。
「……そうだったな」
そういえばあの時も相手側の先行で、自分がグレード3になろうとする頃にはダメージ5まで追い込まれていた。今の状況とそっくりだな、と気付いて思わず笑みが溢れる。
「……楽しそうだな」
その表情の変化に気付いたのだろう、キリカがまじまじとこちらを見つめてくる。
「初めてのファイトの時にもこんな感じのピンチがあって、その後負けてさ。それを思い出してた」
「ほう。……それで、不安になりでもしたか?」
「まさか。むしろ、今度こそはって気持ちだよ」
確かに状況は似ているが、その時の自分と今の自分には大きな違いがある。今の自分には彼に教わった言葉があり、彼との思い出があり、そして彼に勝つという目標があるのだから。そして。
「スタンドアンド、ドロー!」
彼から託された切り札がある。引いたカードを確認して、自分の手札と見比べて、思いを馳せるように数秒目を閉じる。
「良いものは引けたかい?」
キリカのその問いに答えるように目を開き、口角を上げる。
「そうか。なら見せてくれ。君の全力を」
言われるまでもない。あの日一目惚れしたカードにこの勝負の運命を託す。
「ライド!『黒装傑神 ブラドブラック』!」
漆黒の鋼を煌めかせた機械仕掛けの紳士。サチの叫びに呼応してその頭部、仮面を模した意匠の下の瞳に光が灯る。
『黒装傑神ブラドブラック』。別れの間際に受け取った、二人の約束の証。
「イマジナリーギフト、フォースI!コール!『次元ロボ ダイジャッカー』、『超次元ロボ ダイザウラス』、『次元ロボ ダイブレイブ』、『次元ロボ ダイレーサー』!」
前のターンガードに使う予定だったグレード0までリアガードとしてコールする。当然そこまでするのは勝算があるから。それは先程デッキに入れたばかりの、新しい奥の手。
「最後にコール、『マスクドポリスリーダー シルバード』!」
巨大な機械の戦士が立ち並ぶ中に、異彩を放つ存在が一つ。大柄でこそあるものの、鎧と兜を身につけただけの人間の姿。だがその実、彼の力は次元ロボ達にも決して劣らない。
「『ブラドブラック』のスキル!前列全てのパワー+10000!更に『ダイブレイブ』のスキルでヴァンガードにパワー+5000!」
スキルを駆使しヴァンガードのパワーを上昇させる。だがそれは決して一点突破のためだけの布石ではない。
「ヴァンガードのパワー30000以上!『シルバード』のスキル、自身にパワー+5000、クリティカル+1!」
ヴァンガードのパワーが一定数を突破することでリアガードもまた強化される。更に『ブラドブラック』は自身だけでなく前列全てのパワーを上昇させる。
スキルを組み合わせ、全てのユニットが最高の攻撃を行える状況を作り出す。それこそがサチのディメンジョンポリスの真骨頂。
「……良いな」
そしてその光景を見ていたキリカは、ボソリと一言呟いた。愉快そうに、期待するように、感動したように。
「『ダイジャッカー』のブースト、『ダイザウラス』でヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
弾丸が剣士の甲殻に傷をつけ、ダメージゾーンに4点目のカードが置かれる。右上にマークはない。
「『ダイジャッカー』のスキル!自身は退却、ヴァンガードにクリティカル+1!更に『ダイザウラス』のスキル!ソウルに移動、ヴァンガードにパワー+10000、ドライブ+1!」
攻撃を終了した機体の装備を受け継いだ『ブラドブラック』の背に現れる紫紺の翼。空へと飛び立ち、相対する双剣の戦士を見下ろし杖を構える。
「『ブラドブラック』でヴァンガードにアタック!」
杖の先に嵌め込まれた水晶から光が放たれ、形作られたのは一振りの刃。
「プロテクトIで完全ガード!」
だが振り下ろされたそれは、剣士が手をかざすと同時に現れた光の障壁に阻まれる。
前のターンに手札に加えられたプロテクトI。完全ガードとして扱うことの出来る、惑星クレイからの祝福の一つがサチの攻撃を許さなかった。
「トリプルドライブ!」
サチもこれが防がれることは想定済み。すぐさま手をデッキの上に持っていきカードを捲る。
「ファーストチェック、ノートリガー。セカンドチェック、ドロートリガー!1枚引いて『シルバード』にパワー!」
二つの光がぶつかり合うその傍ら、仮面の戦士に力が託される。
「サードチェック、ヒールトリガー!ダメージ1回復、パワーは『シルバード』!」
「む……」
ここに来てキリカの眉がピクリと動く。おそらくはリアガードのパワーが予想以上のものになったのだろう。その機を逃さず、サチは最後のスキルの発動を宣言する。
「『ブラドブラック』のスキル、山札上7枚を見てグレード3を手札に加える。手札に加えるのは『ダイユーシャ』!」
「そして、私のヴァンガードは既にグレード3……」
流石に経験豊富なだけあってこのスキルは知っているらしい。自分が使われた時には驚いてしまった分少し残念に思わないでもないが、今はそんなことを考えている暇はない。
「手札2枚ドロップ!スペリオルライド、『超次元ロボ ダイユーシャ』!」
障壁により刃が弾かれたその瞬間、その光を切り裂いて新たな戦士がその姿を現す。
「イマジナリーギフト、フォースI!更に『ブラドブラック』のスキルでパワー+10000、ドライブ-1!『ダイユーシャ』の永続スキル、パワー35000以上で自身のクリティカル+1!」
積み重ねた祝福の力と、『ブラドブラック』が残した力により剣が輝く。
更にそれに応えるように仮面の戦士も並び立つ。『ダイユーシャ』がパワー30000を越したことで『シルバード』のスキルも再び適応されている。
「『ダイユーシャ』でヴァンガードにアタック!」
出来ること、使えるスキルは全て使い切った。後はただ、その結果をキリカにぶつけるのみ。
勇者の剣が『サイクロマトゥース』を打ち砕かんと振り下ろされる。
「『ボムシザー』と『バタフライオフィサー』でガード!」
「守られたか。でも!」
これはヴァンガードの攻撃、即ちドライブチェックが可能。再びデッキに手を添える。
対するキリカは手札とサチの場を交互に見やる。まだ先程ドライブチェックで引いたものとは別に、手札にはまだ『ボムシザー』が残っている。
『シルバード』の攻撃は僅差だが防ぐことが可能。少なくとも、今の数値ならば。
「……ドライブチェック!」
「……」
覚悟を決めたと宣言するサチ、その手元を沈黙のまま見守るキリカ。そしてカードが捲られる。
「ドロートリガー!パワーは『シルバード』に!」
『ダイヤモンド・エース』。サチのデッキの防御の要が、ここに来て攻撃の最後の一押しとして輝いた。
「……お見事」
『ダイユーシャ』の剣が怪人たちに阻まれたその瞬間、入れ替わるように『シルバード』が前に出る。
「『マスクドポリスリーダー シルバード』で、ヴァンガードにアタック!」
仮面の戦士は空高く跳び、流星の如く蹴りを放つ。対する『サイクロマトゥース』に最早盾となるユニットはいない。双剣を構え、ただその一撃を待ち受ける。
「ノーガード。ダメージチェック。……トリガーはない」
そっと6枚目のダメージ、『無双剣鬼 サイクロマトゥース』をダメージゾーンに置いた。
想像の世界でも、彼女の魂が宿った剣士ががくりと膝を突く。最後に自らを破った鋼の巨人と仮面の戦士を一瞥し、その身体は塵となって消滅した。
「ーーえ、俺、勝った?」
キリカがダメージを置いて数秒、状況が飲み込めないといった様子でサチが瞬きを繰り返す。
「ああ、君の勝ちだ。良い勝負だったよ」
その微笑みを受けてようやく実感が持てた。自分は人生で初めてヴァンガードファイトに勝利したのだと。
「俺が、勝てた」
確かめるようにもう一度呟き、それを噛み締めて大きく息を吸う。口角が少しずつ上がっていくのを感じる。
「……やった。どうしよう、初めて勝てて、こんなに、こんなに嬉しいなんて思わなかった」
そしてその息を全て吐き出すように言う。ファイトしているだけで楽しいと思っていたが、勝利とはこんなにも幸福感を味わえるものなのか。緩んだ表情が一向に戻らない。
「そうか、これが初勝利だったか。おめでとう、倫道」
「ああ。ありがとう、途次」
祝福の言葉に礼を返してから少し俯いて、もう一度キリカに向き直る。
「なあ、またファイトしてくれないか?お前さえ良ければだけど」
「だーかーら」
溜め息混じりの声に言葉が遮られた。
「そんな改まらなくても良いと先程も言っただろう。……それに、君にその気がなくても私は再戦を挑むつもりだぞ?」
「そう、なのか?」
「当然だ。このファイトは楽しかったのは私も同じだ。何より」
一度言葉を切り、鋭い目でサチを射抜く。
「負けっぱなしは性に合わない。この借りは必ず返すさ」
言い終わると広げていたカードを纏めて席を立つ。
「じゃあな倫道。また明日、学校で」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「む、まだ何かあったか?」
背を向けるキリカを慌てて呼び止める。不思議そうな顔で振り返った彼女を見てくすりと微笑む。
「お前の言う通りだった。50円、大金だな」
あの時拾って貰った50円で買った『シルバード』があったから勝てたのだ。認めざるを得ない。
キリカはそれに対して何も言わず、ただ「だろう?」とばかりに得意げな笑顔を見せ、そのまま店を去っていった。
「よっ、まさかキリカちゃんに勝っちゃうなんてねえ」
入れ替わりにカウンターからララが声をかけてくる。
「……俺が一番驚いてます」
「だろうね、顔を見ればわかる」
「でも本当に強かったです。あのターンで決めきれなかったら、きっと……」
次のターンの攻撃を凌ぎ切ることは不可能だっただろう。
「実際あのデッキの強みはガード制限を交えた攻撃。もう一回ターン回したらきっと耐えられなかっただろうからね。思い切って決めに行ったのは正解だったよ」
「成程……」
サチも似たスキルの『ダイマリナー』をデッキに入れてはいるが、彼女の場合はそれにかなり特化した構築のようだった。
「ま、きっとこれから先何回も味わうことになるから説明するまでもないだろうけど」
「何回も?」
オウム返しで聞き返すと、ララはニヤリと笑って続ける。
「君、さっきのファイトでキリカちゃんにロックオンされちゃったみたいだからね」
「えっと、つまり?」
「気に入られたってこと。きっとこれから毎日のようにファイト挑まれるよ?」
「それは……楽しみです」
高校でヴァンガードのライバルと出会えるのか。強くなれる機会はあるのか。そもそもこの身体で対等な友人が出来るのか。
そんな不安を抱いて入学したは良いが、蓋を開けてみれば初日から巡り合ってしまった。その相手とこれからもファイト出来るというのなら、そんなに幸せなことはない。
「……これも『手元に持ってるもの』ってやつなのかな」
漠然とした不安に震えるよりも、今持ってるものーー手札と向き合ってみる。彼から貰った言葉の贈り物をもう一度思い出す。
きっとこれから先何回もこの身体に苦労させられることになるだろう。それでも今の自分には趣味があって、目標があって、そして今日新しく出来た友人がいる。その幸せに目を向ければ、将来の不安すら消し飛ばせる気がした。
「……良い日だったな。初っ端から」
ララに礼を言って店を出た後、サチはそんな呟きと共にくすりと微笑んだ。