インホイール・ヴァンガード   作:毒しめじ

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第6話:ミアキス大海戦

 越えたい、勝ちたい相手がいた。だがその目標は突如としてこの世を去った。

 だから、彼に貰った全てを捨てようとした。越えることが叶わないのなら、彼とは全く違う存在になってやろうと。

 そうすれば、この心に穴が空いたような感覚が消えると思ったから。思いたかったから。

 

 

 

 宮日市、久里島駅前に広がる高級住宅街の中の一軒。そのリビングで父と息子が向かい合っている。二人が挟むのはカードが広げられたテーブル。

 

「『大義の青翼ファウロス』でヴァンガードにアタック!」

「ガード。俺のターン。『終末の切り札レヴォン』でアタック」

「ノーガード……」

「トリプルドライブ。っと、クリティカルだな」

「嘘だろ!?ダメージチェック……。2枚ともトリガーなし……参った」

 

 ダメージゾーンに2枚のカードが加えられ合計6枚。12歳の白銀セイガはボヤくように敗北を認めた。

 

「セイガも中々腕を上げたみたいだが、まだこの俺には及ばんな」

 

 そう笑う父を見て、セイガは不満気に眉をしかめる。

 

「大人気ねえんだよアンタ。そんなんで仕事はちゃんとやれてるんだか」

 

 そんな憎まれ口を叩くが、父の余裕の笑みは崩れない。

 

「そこは心配いらないさ。今度もまたフィールドワークに行く予定でな」

「はいはい、相変わらず抜かりないことで」

「当然だ。ヴァンガードも研究もやりたくてやってることだからな。手を抜くわけがない」

 

 だろうなあ、と心の中で呟く。自分の父はこういう男だと、セイガは嫌というほど知っている。

 

「なあ、セイガは出来たのか?やりたいと思えること、本気で目指そうと思えるもの」

 

 ふと、父が問いかける。

 

「またそれかよ。わかってるだろ、アンタを超えるファイター、アンタを超える学者になる。その鼻っ柱へし折って」

「そういうことじゃない」

 

 セイガの言葉をぴしゃりと遮る。

 

「誰かを目標にするのも良いがそれだけじゃなくてな。他人一切関係なく、ただ自分がこれだって思えるものはないのかってことだ」

「……んなこと言われてもな」

 

 ヴァンガードも地学も勿論好きだが、こんな身近にそのどちらともに天性の才を持つ相手がいるのだ。意識してしまうのも仕方ないではないか。

 だがそれをそのまま口に出すのは憚られた。だからセイガはこう言ったのだ。

 

「アンタに勝てたら考えるよ」

 

 

 

 

 セイガの父親、白銀イッセイ。地学の博士号を持つ大学教授、そしてセイガにヴァンガードを教えた張本人。強面とは裏腹に子供のように負けず嫌いで好奇心旺盛、研究もヴァンガードも常に心から楽しんでいた。

 そんな、セイガにとって誰よりも尊敬する存在であり同時に越えたいと願う壁でもあった彼は、数日後宣言通り野外調査に出掛け、二度と帰ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 そして、5年が経った現在。

 目覚まし時計の音が狭い部屋に鳴り響き、セイガはゆっくりと目を開いた。

 

「……最悪」

 

 安物の蛍光灯の紐を引っ張り、吐き捨てるように呟く。

 今でも父のことを思い出すことは多いが、中でも今回の夢はタチが悪い。何しろあのファイトこそが、父が亡くなる前の最後のヴァンガードだったのだから。

 イッセイがこの世を去ってから、セイガの生活は一変した。

 保険金は当然入ったが、母は家事で手一杯、姉は丁度大学受験の勉強真っ最中。

 だから自分がバイトで稼ぐと宣言した。最も、その頃の年齢では当然無理だったのだが。

 そして去年、ついに高校に進学したセイガは宣言の通り一週間の殆どにバイトを入れ、余った時間は全て勉強に注ぐようになった。大好きだったヴァンガードは、一切遊ぼうとせずに。

 

 今日は土曜日。学校はないが午前中からミアキスでのバイトがある。

 朝食と勉強は既に済ませた。鞄にバイトの制服など必要なものを詰め込んでその口を閉めたところで、視界の端に四角いものが映る。

 それはかつて自分が愛用していたヴァンガードのデッキ。

 見なかったことにしようとしても、それが不可能なのは誰より自分がよくわかっている。葛藤の後、盗難対策だと自分に言い訳をしてジャケットのポケットに差し込んだ。

 

 

 

 

 ミアキスを訪れエプロンを着たセイガは、店長の三秋ララに言われレジを担当していた。

 と言ってもまだ午前中ということもあってか客は疎ら。数回会計を頼まれた以外の殆どの時間、セイガは何をするでもなく店内を眺めていた。

 そして1時間程した頃、店のドアが空いて新たに一人の客が来店した。

 その少年のことはセイガもよく覚えていた。

 長めに伸ばされた茶髪、まだこの場に慣れてないためであろう不安げな表情、そして何より目立つのは下半身の車椅子。

 つい先日、この店最強と目されるファイターである途次キリカに勝利した少年である。

 

「倫道サチ、だったか。いらっしゃいませ」

 

 とりあえず店員としての義務は果たそうと定型句を放つ。

 

「どうも……。あれ。初めまして、ですよね?」

 

 戸惑いながらの返事が返される。そういえばあちらからすれば初対面だったか。

 

「この間のファイト、あの時に三秋さんが期待の新人だとかって言ってたから覚えただけだ」

 

 自分も彼とキリカのファイトに気を惹かれていた、とは言わないでおく。

 

「期待のだなんて、言い過ぎですよ」

「そうか?話を聞いてる限り、途次に勝ったのはまぐれって訳じゃなさそうだけど」

「そう言っていただけるならありがたいです。再戦も約束してますから、すぐ勝ち越しされるかもしれませんけど」

 

 苦笑するサチ。だがその目は、言葉とは裏腹にその再戦とやらへの期待に満ちていた。

 

「……そうかよ」

 

 その目と姿が父親に繰り返し挑むかつての自分のそれと重なり、セイガは曖昧に頷く。

 

「あの、ところで店員さんは」

「いた。その車椅子、アンタが倫道サチで合ってるな?」

 

 サチの問いかけを遮って放たれた声の主は、先程までショーケースを眺めていた小柄な少年。

 

「……えっと、誰?」

「俺は並木トオル。早速で悪いが倫道サチ、アンタにファイトを申し込む!」

 

 トオルと名乗った少年は、首を傾げるサチに人差し指を突き付ける。

 サチは初対面のようだが、セイガは彼のこともある程度知っていた。

 この店の常連の一人、学校こそ違うがサチ達と同じ高校1年生でグランブルーの使い手。ファイトの腕はそこそこといったところだが、キリカを始めとした格上の相手にも臆せず挑む向上心の持ち主である。

 

「別にそれは良いけど……なんで俺?」

「決まってるだろ。アンタはこの店最強って言われてる途次に勝った。そのお前に勝てば、それはつまりこの俺がこの店最強ってことになるわけだ」

「ああ成程……いやホントか?」

 

 自信満々に語られた、微妙に成り立ってないような気がするその理屈に、サチは思わず訝しげな目線を向ける。

 

「とーにーかーく!そういう訳だからこの勝負受けて貰う。アンタだって強い相手とやってみたいだとか言ってたんだろ?」

 

 こちらは紛れもなく事実である。サチにとって、自分よりも経験の豊富な相手に挑まれるのはまさに願ったり叶ったりなのだから。

 

「……わかった。俺で良ければ是非」

「決まりだな。んじゃ白銀さん、テーブル借ります」

「ご自由に」

 

 セイガが答えると、トオルはカウンターに背を向けファイトスペースの方へと歩み出す。

 サチも昨日で位置を覚えたのだろう、セイガに一つ会釈をしてからトオルに続いて車輪を回し同じ場所に向かっていった。

 

「白銀くーん!お昼近いし一旦休んで良いよー!」

 

 倉庫の方からララの声が飛んできたのは丁度その時だった。

 

 

 

 

 すぐ近くにある店で軽食を取りミアキスに戻る。

 午後はシングルカードの仕分けをしてくれとのこと。

 指示通り裏にある倉庫に向かい、その扉を開けた瞬間。

 

「わあああああっ!?」

 

 甲高い悲鳴が耳をつんざく。

 そして少し遅れて、呆気に取られるセイガの頭上から雪崩のように降り注いだのは10個近くの直方体。当然、幾つかは頭部に直撃した。

 

「痛っ……!」

 

 その突然の出来事と痛みに、思わず尻餅を付いて倒れる。

 同時に着ていたジャケットのポケットから出かける前に入れたデッキが溢れ落ちたが、混乱しているセイガに気付く余裕はなかった。

 

「あれっ白銀くん!?ごめん、本当ごめんね!?」

 

 先程の悲鳴の主、ララは慌てた様子でそう言いながら散らばった直方体を手に持った籠の中に集めていく。

 

「い、いえ……。あの、それ何ですか?」

「これ?実はねえ、レンタルデッキサービス始めようと思ってさ。ほら、始めたばっかの子とかだと色んなデッキ試したいだろうし、その助けになれば良いなって」

「はあ、成程」

 

 改めて見ると確かにその直方体はデッキケースのようだった。

 

「でまあ、いざ出そうとしたらバランス崩して落としちゃってね。本当ごめん。……これで全部かな」

 

 言いながらセイガの横に落ちていたデッキケースを籠に入れる。ーーその中身はセイガのデッキなのだが、不幸なことにケースのデザインが似ていることもあり、お互いそれに気付くことはない。

 

「よしと。じゃあ改めて、整理の方よろしくね」

「ええ、任せてください」

 

 一杯になった籠を両手で抱えてララは倉庫を去る。

 セイガも痛みが引いてきたため言われた通り仕事に移ることにした。先程までよりジャケットが軽いように思えたが、気のせいだろうと片付けて。

 

 

 

 

 

「『ダイユーシャ』で、ヴァンガードにアタック!」

「プロテクトで完全ガード!」

「ツインドライブ……クリティカル!効果は『ダイドラゴン』に!アタック!」

「『お化けのしりる』でガード!ドロップ15枚以上の時のスキルでシールド+10000!さらに『キッキング』と『パンチング』でインターセプト!」

「……ターンエンド」

 

 ファイトスペース。サチとトオルのファイトは既に終盤。

 サチはいつも通りヴァンガードにパワーアップを集中させることでスキルの発動条件を整えてから攻撃に入った。

 だが前のターンにプロテクトを獲得し、更にヴァンガードの『スケルトンの海賊船長』のスキルでドロップゾーンの増やしていたトオルはそれらを巧みに捌く。

 ダメージ5までは詰めたものの結局決めきることは出来ず、サチは手番を譲るしかない。

 

「んじゃ俺のターン。スタンド、ドロー。もう一度、『スケルトンの海賊船長』にライド!」

 

 トオルは自身の分身たる人型の白骨の姿を一度脱ぎ捨て、新たにもう一度纏い直す。

 イマジナリーギフトを再び獲得できるのは勿論のこと、元のカードがソウルとなるためリソースの確保にもなる。

 

「そしてスキル発動。カウンターブラスト、更にデッキから上2枚をドロップ。そしてドロップゾーンから『パンチング・フラングル』をスペリオルコール!そいつと自身のパワー+10000!そして『パンチング』のスキルでドロップゾーンから『キッキング・フランガル』をスペリオルコール!」

 

 想像の世界、暗雲の下、漆黒に染まる海原に浮かぶ古びた船。

 甲板に立つ白骨の船長の両脇に、先程攻撃を防ぐため犠牲になった筈の2人の船員が再び現れる。

 

「『キッキング』のスキルで自身と『パンチング』にパワー+4000。更に『イービル・シェイド』をコールしてスキル!『しりる』1枚バインドしてもう1枚の『しりる』スペリオルコール!スキルでパワー+10000!」

「……これだけやって、手札1枚しか使ってないのか」

「なんだ、グランブルーとやるのは初めてか?こいつらにとってこのくらいは序の口ってやつだ。んじゃ『海賊船長』でアタック!」

 

 サチは手札を見る。この攻撃を防ぐことは出来るが、後に続く兄弟の攻撃まで防ごうとするとシールドが足りない。選択肢はない。

 

「……ノーガード」

「ドライブチェック!クリティカル!パワーは『フランガル』、クリティカルは『海賊船長』!」

「ダメージチェック……ダメか」

 

 黒い手袋に握られた短剣、それに切り裂かれた『ダイユーシャ』の巨躯がぐらりとその体制を崩し、光となって消滅する。

 今なお暗雲に包まれた海原に、ならず者達の勝鬨が響き渡った。

 

「よっしゃ俺の勝ちい!」

 

 ダメージゾーンに置かれたカードがヒールトリガーでないことを確認し、トオルはパチンと指を鳴らす。

 

「完敗だ。凄いな、そのデッキ。インターセプトで減ったユニットが次のターンには元通り、しかもパワーまで……」

「まあなー。よーし、これで俺は途次に勝った倫道に勝った。つまり実質途次に勝ったってことに」

「誰に勝ったって?」

「誰ってだから途次……げっ」

 

 噂をすればなんとやら。

 椅子に座ったトオルを見下ろす形で、いつの間にかキリカが後ろに立っていた。

 

「それは聞き捨てならないな。ファイトもしてないのに負けたことにされてるとは」

 

 不満げに細められた目がトオルを射抜く。

 

「悪かった悪かった。でもお前に勝ったやつに勝ったってのは、ちょっとくらい威張ったって良いだろ?」

「と言うか途次、いつからいたんだ」

 

 反省してますとばかりに手を合わせるトオルの横で、今度はサチが問いかける。

 

「君が攻めきれないまま並木にターンを渡したくらいからだな。水を差すのも野暮だろうと思って観戦に徹していた」

「ってことは負けるところまで見られてたのか。……なあ、なんか見てて反省点とか見つかったか?」

 

 終盤の攻防を見られていたのなら、何か気付いたこともあるかもしれない。

 

「反省点?反省点か、ふむ……」

 

 キリカは数秒下を向き考え込む。

 

「とりあえず君は各クランの特性を知るところから始めるべきじゃないか?今もグランブルーの動きに着いて行けてなかっただろう」

「クランの特性か……」

 

 ポンと右の拳で左の掌を打ちながらなされたその提案は確かに的を射ていた。

 これまでサチがファイトした経験のあるクランは、つい先程戦ったグランブルー、昨日キリカが使用したメガコロニー、そしてミコトと自身の使用デッキであるディメンジョンポリスの3クランのみ。

 ヴァンガードのクランは一部例外を除いて全部で24種類。その中には他では考えられない挙動を見せる物もあると言う。

 今のサチの経験と知識量でそれらに対応出来るとは思えない。

 

「でもどうすりゃ良いんだろうな。手っ取り早いのは全部のクランと対戦経験することだけど、そんな都合良く使い手が集まる訳もねえし」

「まあ、座学だけなら簡単だがそれだと倫道もつまらないだろうしな……。だからと言ってこの場で組むというのも金が足りるか……」

 

 経験者二人が考えあぐね、場を沈黙が支配する。

 だがそれを破って、店の奥の方からドタドタと慌ただしく足音が近づいてきた。

 

「話は聞かせて貰った!お困りのようだね、若者達!」

 

 そんな決め台詞とともにやってきたララが、両手で持っていた籠をファイトテーブルの上に置く。

 

「三秋さん。何ですかこれ」

 

 中身が一杯に詰まったその籠を見て、トオルが首を傾げる。

 

「これ……もしかして全部デッキですか?」

 

 中身の直方体の一つを手に取ったキリカの言葉に、ララは胸を張って頷く。

 

「その通り!実はレンタルデッキサービスってのを始めようと思っててね」

「レンタルデッキ?」

「そそ。ほら、色んなデッキを試してみたいけど組み方がわからないって初心者のためにね。クランの基本的な動きが体験できる貸し出しデッキを置いておこうってわけ」

 

 その言葉に三人の目の色が変わる。まさに願ったり叶ったりである。

 

「あの、なら早速貸してくれませんか?」

「勿論。そのために用意したんだからね」

「ありがとうございます!」

「うんうん、頑張れ期待のルーキー」

 

 そう言って店の奥に戻るララを見送って、サチは籠の中のデッキを一つずつ手に取る。

 それぞれのケースに『ネオネクタール』だとか『ノヴァグラップラー』だとかクラン名のラベルが貼られている。

 そんな中一つのケースを手にしてサチの動きが止まった。

 

「む、どうした?使いたいデッキでも見つかったか?」

「いや、このデッキだけラベルが……」

 

 サチが言葉と共にそのデッキをキリカに手渡す。

 確かに他のデッキには貼られているラベルが貼られておらず何のデッキなんだか分からない。

 

「普通に三秋さんのミスじゃねえの?デッキはちゃんと入ってんだろ?」

 

 トオルの言葉を聞いてキリカがケースを開ける。

 

「……うん、問題なく50枚、トリガー16枚だ。きっとただの貼り忘れだろう」

「で、結局何のクランだったんだ?」

「『アクアフォース』。海軍をモチーフにしたクランだな。リアガードを主軸に攻める点では、君のデッキとは真逆と言えるかもしれない」

 

 説明を聞きながら、キリカから受け取ったデッキを見る。

 一通り確認し終えたサチはデッキの束をまとめ、テーブルに置いた。

 

「決めた。これにする」

「ほう、やはりいつものデッキと真逆と聞いて惹かれたか?」

「まあ、な」

「わかった。じゃあ対戦相手は……」

「もう一度俺が相手する、じゃ駄目か?」

 

 キリカの言葉を遮ってトオルが自信ありげに笑ってみせる。

 

「俺からすればリベンジになるってことか。じゃあ頼む」

「よっし。アクアフォース対グランブルーなんて対戦カード、逃すわけにはいかねえからな」

 

 サチはもう一度デッキを確認してからファーストヴァンガードを置く。

 初めて使うデッキなので手札交換にやや時間がかかったものの、すぐに対戦の準備は整った。

 

「行くぜ、スタンドアップヴァンガード!『案内するゾンビ』!」

「スタンドアップ、ヴァンガード……えーっと、『士官候補生エリック』!」

 

 

 

 

「ライド、『倦怠の呪術師ネグロレイジー』!『ロマリオのスキル。手札をソウルに置いてデッキをドロップ、『ルイン・シェイド』を手札に。更に『ネグロレイジー』のスキル、『モータル・ミミック』をスペリオルコール!」

 

 現在は4ターン目、ダメージは共に2。後攻のトオルがグレード2にライドしたところ。

 サチのヴァンガードは『頑迷の蒼翼シメオン』。       

 11000というグレード2にしては高めのパワーを持つ防御に優れたユニット。更にリアガードには『大義の蒼翼ファウロス』と『共感の蒼翼マカリオス』。

 だがトオルはグランブルーの特色である蘇生を活かしブースト要員を確保する。

 

「『ルイン』と『ロマリオ』をコール!『モータル』のブースト、『レイジー』でアタック!」

「ノーガード」

「チェック、ノートリガー」

「ダメージ……こっちも何もない」

「『ロマリオ』でブースト、『ルイン』!スキルでパワー+4000!」

「『バトルシップ・インテリジェンス』!」

 

 4ダメージは流石にまずいとサチは持っていた15000のシールドを切る。

 

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!えーっと、これか。『波乱の強鞭ゲオルゲ』にライド!」

 

 ならず者達の前に立ちはだかる軍艦、その上に一人の青年が立つ。

 

「イマジナリーギフト、アクセルII!1枚ドロー!でもって『ゲオルゲ』のスキルは確か……そう、相手ヴァンガードのパワーを-5000!」

 

 萌黄色の鞭が亡霊の身体を絡め取る。

 ヴァンガードのパワーが下がるということはそれだけ一回一回の攻撃がガードしづらくなるということ。

 連続攻撃を持ち味とするアクアフォースの特性を活かす為のスキルである。

 

「コール!『マクシオス』、『ファウロス』、『ペンギン兵』!『マクシオス』のスキルで自身にパワー+5000!その『マクシオス』でアタック!」

「ノーガード。ダメージチェック、トリガーなし」

「次、アクセルサークルの『ファウロス』!」

「それもノーガード。ダメージチェック……クリティカル!効果はヴァンガード!」

「げっ……」

 

 先程のパワーダウンを補うだけの加算にサチの表情が強張る。だがまだ攻撃自体は残っている。

 

「『ペンギン兵』のブースト、2体目の『ファウロス』でアタック!」

「『カットラス』でガード!」

「『マカリオス』のブースト、『ゲオルゲ』でアタック!『ペンギン兵』を退却させてカウンターチャージ!」

「『ナイトスピリット』!そして『ルイン』でインターセプト!」

 

 合計シールド20000。ツインドライブで2枚トリガーを引かなければこの攻撃は通らない。

 

「ツインドライブ……ドロートリガー。パワーは『ゲオルゲ』に。1枚ドロー」

「でもガードは成功だ」

「わかってる。ターンエンド」

 

 ダメージはサチが3でトオルが4。だが次のターンにはトオルのグレード3が現れる。

 

「スタンド、ドロー!もう一回見せてやるよ、『スケルトンの海賊船長』にライド!」

 

 先程サチを打ち負かしたならず者達の頭領が、秩序の番人たる軍服姿の兵士たちを髑髏の奥の瞳で睨みつける。

 

「プロテクトI!そしてスキルでドロップゾーンから『パンチング』をスペリオルコール!パワー+10000!『パンチング』のスキル、『キッキング』をスペリオルコール!『キッキング』のスキルでグレード2の2枚にそれぞれ+4000!」

「またその2枚……」

 

 中央に白骨の船長、その両隣を屈強な人造人間の兄弟が堅める。トオルの十八番とも言うべき陣形が再びサチの前に展開された。

 

「ドロップゾーンの『カットラス』のスキル、バインドして同名カードをスペリオルコール!」

 

 前のターンからいる『モータル・ミミック』、『ロマリオ』と合わせて全てのサークルが埋められた。

 

「行くぜ、『モータル』でブーストした『海賊船長』でアタック!」

 

 短剣を片手にブーツを履いた足で甲板を蹴り、『ゲオルゲ』へと飛び掛かる。

 

「ノーガード!」

「ツインドライブ!クリティカル!パワーは『キッキング』、クリティカルはヴァンガードに!『ロマリオ』でブーストした『パンチング』でアタック!」

 

 鋭利な刃に切り裂かれ、白い軍服が赤く染められる。よろめくその身体に追い討ちをかけるべく、船長と入れ替わりに人造人間の剛腕が振われる。

 

「『マクシオス』と『ペンギン兵』でガード、『ファウロス』でインターセプト!」

「ならこっちだ、『キッキング』!」

 

 兄の攻撃が防がれるこの瞬間を待っていたとばかりに、弟の鋭い蹴りが死角から放たれた。

「『バトルシップインテリジェンス』でガード、もう片方の『ファウロス』でインターセプト!」

 

 その一撃もサチは何とかして凌ぎ切った。だが既に手札は1枚。

 トオルは展開に殆ど手札を使っていない上、完全ガードであるプロテクトIも構えている。

 

「倫道がここから逆転する手段は……ああ、あるにはあったか」

 

 観戦していた、デッキの内容を確認済みであるキリカがそう呟く。

 

「え、そんなのあんのか?」

 

 疑わしげな目でキリカを見るトオル。

 だがその視線に答えたのは向けられたキリカではなくサチだった。

 

「ああ、あるよ。上手くいけばここから勝てるカードが」

 

 手に持った1枚のカードをひらひら振って見せる。

 

「うわ、その顔ハッタリとかじゃねえな。マジでやる気だ」

 

 トオルの声は嫌そうな、だがどこか期待するようなもの。出来るのなら見せてみろとサチの一手を待ち構える。

 

「……よし。俺のターン、ドロー!ライドはスキップ、そしてコール!『信念の蒼翼バジリア』!」

 

 前のターン、1枚手元に残しておいたカード。

 戦場に新たに降り立った端正な顔立ちの兵士が、鮮やかな色合いの剣を天に掲げる。

 

「登場時のスキル、山札から上3枚を公開!」

 

 言いながら山札を捲っていく。表になったのは『頑迷の蒼翼シメオン』、『共鳴の蒼翼マクシオス』、『大義の蒼翼ファウロス』。

 その3枚を見て、サチの口角が更に上がる。

 

「この効果で表になった『蒼翼』の名を持つカードを好きなだけ手札に加える!3枚全部だ!」

「なっ、これで手札4枚……」

「本当にやるとは、な」

 

 驚愕の表情を浮かべるトオルと、くすりと笑みを浮かべるキリカ。

 

「この3枚と、それから『マカリオス』をもう1枚コール!そして『マクシオス』はスキルでパワー+10000!『ゲオルゲ』のスキルにより相手ヴァンガードのパワー-5000!」

「前のターンには+5000だったが……蒼翼名称のユニットが5枚いることで、より強力なスキルが適応されたということか」

 

 キリカの言葉にサチは大きく頷く。

 

「その通り、そしてそれは『マクシオス』だけじゃない。『ファウロス』でアタック!スキル発動、蒼翼が他に4枚以上で自身をスタンド!」

「スタンド……!」

 

 トオルが苦々しげに手札を見る。完全ガードには手札2枚が必要で、それ以外でもそれぞれのガードに15000以上のシールドが必要。そしてこれ以外にもあと4回の攻撃。

 

「……ノーガード!」

 

 トリガーのパワーアップに賭けるしかない。そう判断し宣言する。

 『ファウロス』の刃が煌びやかに彩られた船長服を切り裂いた。船長はその髑髏顔を憎々しげに歪ませる。

 

「ダメージチェック!……トリガーなし」

 

 捲られたカードは『伊達男ロマリオ』。その右上には何のマークも描かれていない。

 

「よし、『ファウロス』でもう一度アタック!」

 

 トリガーを引けなかった以上、これを防いでも残りのどれかは受けなければならない。

 手札をもう一度見てそのことを確認し、トオルは意を決したように一つ息を吐いてから宣言する。

 

「……ノーガード。ダメージチェック」

 

 そっと運命の1枚が表になる。

 『キッキング・フランガル』。ヒールトリガーではない。トオルはそのカードをそっとダメージゾーンに置く。

 

「くっそー!マジで逆転されたー!」

 

 そして心から悔しそうにそう叫んだ。

 

「いやあ見応えのある勝負だった。二人ともお疲れ様だ」

 

 キリカが軽く拍手をしながら二人を労う。

 

「ふー……、一か八かってところだったけどどうにかなった……」

 

 サチは緊張の糸が切れたからだろう、車椅子の背もたれに身体を預け安堵の表情を浮かべている。

 

「おっ、終わった?」

 

 そんな三人の様子を察知したらしいララが再び顔を出す。

 サチは使い終わったデッキを丁寧にケースに戻し籠に入れてからララの方を見た。

 

「ありがとうございました。いつもと違うデッキを使うって新鮮な体験で楽しかったです」

「それは良かった。折角だからデッキの使い心地の方も教えてくれると参考になるんだけど……と言うかそもそもサチくんどれ使ったんだっけ?」

「ああ、アクアフォースを……」

 

 サチがそう答えると、ララは数度瞬きをしてから心底不思議そうな顔で首を傾げる。

 

「……アクアフォースのデッキなんて用意してないんだけど」

「え?」

「む?」

「は?」

 

 高校生三人の素っ頓狂な声が重なった。

 

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