「んー……?」
サチとトオルのファイトの決着から30分と少しが経った。
レンタルデッキの一つ、だと思われていた出所不明のアクアフォースデッキを広げながら三秋ララは首を傾げる。
「やっぱこんなデッキ組んだ覚えないんだよねえ」
「持ち主に心当たりないんですか?俺の前にレンタルデッキ利用した客とか」
「前にも何も、今日ついさっき始めたサービスだからサチくんが利用者第一号なんだよねえ」
トオルとキリカに助言を貰いながらデッキを調整していたサチがララを見る。だがララは首を横に振って断言した。
「なら混ざるタイミングなんてねえじゃないですか。三秋さんが忘れてるだけなんじゃ?」
「なのかなあ……」
トオルの言葉に、ララも半ば納得しかけた。
奥の倉庫の方からエプロンを着た白銀セイガが出て来たのは、ちょうどその時だった。
「あのー、シングルの仕分けとストレージ詰め終わりました。時間も時間ですしそろそろ上がっちゃっても良いですか?」
「んーもうそんな時間か、良いよー……ああああああ!」
自分の返事をかき消すかのような大声を上げるララに、一同はギョッとしたような顔をする。
なぜ彼女が唐突に叫んだかといえば、デッキが紛れ込むような事態がついさっき一度だけあったことに気付いたから。
「どうしたんですいきなり」
戸惑いの表情を浮かべたキリカの問いには答えず、セイガの方を見て恐る恐る尋ねる。
「……ねえ、白銀くん。もしかして君、今日ヴァンガードのデッキとか持ってきたりしてない?」
「えっ、なんでそれを……あれ、ない!?なんで、確かにここに入れて……」
持ち物に気付かれた困惑と、その持ち物がいつの間にか消えている困惑とで慌てた様子で服のポケットを漁るセイガ。
それを見てあちゃーという表情を浮かべたララは、広げていたデッキを纏めケースに収める。
「ごめん、レンタルデッキの中に紛れ込んじゃってたみたい」
そのケースをセイガに差し出しながら、もう片方の手で頬を掻き申し訳ないという表情。
「ああ、そういうことでしたか」
セイガも状況を理解し、安堵の表情を浮かべ手を伸ばす。
だがもうすぐデッキケースに触れるというところで、その手をぴたりと止めた。
数秒、手を伸ばしたまま葛藤するように目を閉じる。
そして再び瞼を開きララを射抜いたその眼差しは、どこか冷めたような虚ろな雰囲気を帯びていた。
「いや、やっぱ良いです。そのデッキはそこに置いといてください」
気怠げに笑いながら、事もなげに言ってのける。
「……へ?それってどういう」
「そのままの意味ですよ。俺にはもう必要ない物ですから、レンタルデッキにでもしといてください」
「いやいやいや、そういう訳には」
「あ、タダじゃ流石にマズかったですか?なら買い取ってくださいよ、査定はそっちで適当にしてくれて良いんで、次のシフトの時に金受け取ります」
「ちょっ、白銀くん!」
一息で吐き捨てるように言い切ると、ララの静止も聞かずに荷物をまとめて店を去って行った。
微妙な空気が場を支配する中、おずおずと口を開いたのはサチ。
「……あの店員さんが、俺が借りたデッキの持ち主なんですか?」
「そ。白銀セイガくん。前からうちのバイトやっててね。風根の2年だからサチくんとキリカちゃんからすれば先輩になる」
「そういえば風根の制服着てる時もあったか。ヴァンガードファイターだとは初耳だが……」
キリカの呟きを聞くと、ララはゆっくり首を横に振る。
「あの子はね、いつも自分はヴァンガードを辞めたんだって言ってるの」
「ヴァンガードを辞めた?」
「うん。やってた頃は凄く強かったみたいなんだけどね。今は私が勧めてもやろうとしない」
ララはそこまで説明すると、一拍置いてからパンと手を叩いて笑顔を見せる。
「さっ、この話はここまで!そんな暗い顔しないの。ここはカードショップなんだから笑顔でいないと!ね?」
「いや、でもあのデッキはどうすんです」
トオルが怪訝な顔で聞くが、ララはあっけらかんとした態度を崩さない。
「それはこっちでどうにかしとくよ。流石に持っとくわけにもいかないからね、機会見つけて返しとく」
「……素直に受け取るとは思えねえけど、な」
「まあそこらへんも含めて私がどうにかしとくって」
「あの」
ヘラヘラと笑いながらのララの言葉を遮り、サチが真剣な顔で口を開く。
「サチくん?何かな」
「あの人にデッキを返す役目、俺にやらせてくれませんか」
「へ?」
ララは勿論のこと、他二人もその提案を聞いて思わずサチの方を見る。
「……理由を教えてもらえるかな。君がわざわざそんなことをしたがる理由を」
取り繕った笑顔を消し、眉を寄せるララ。
「同じ学校なら機会もありますし……何より、ファイトしてみたいんです。あのアクアフォースデッキを作った人と」
膝の上でグッと拳を固める。
「彼の態度は見たよね。難しいとは思わない?」
「自信はないですけど……それでも、ファイトしたいって思っちゃった以上は仕方ないかなって」
頬を掻きながら笑う。だがその声色は依然として真剣で、決意が固いことがララにもはっきりと理解出来た。
「三秋さん、良いんじゃないでしょうか。任せても」
「キリカちゃん……」
「案外、まだ始めたばかりの倫道の言葉こそ彼に響くかもしれない。それに三秋さんは店のことで忙しいでしょう」
「むう……」
キリカからの思わぬ援護。ララは暫し考え込んでから、先程の取り繕ったものとは明らかに違う笑顔を見せる。
「わかった。サチくんに任せる。でも無理そうだったらいつでも私に任せてくれて良いからね」
ゆっくり頷きながらデッキをサチに手渡す。
「ありがとうございます!」
それを受け取って丁寧に鞄に入れるサチ。ララに向き直り、礼の言葉とともに頭を下げる。
「うん、じゃあ頼んだよ」
最後にそう言ってサチの肩をポンと叩き、店長としての職務に戻って行くララ。
それを見送ってから、最初に口を開いたのはトオルだった。
「……出来んのか?白銀さん、ヴァンガードのこと嫌いにすら見えた。説得しようとしたら暴言吐かれるかもしれねえ」
疑っている、というよりは心配するような口調。
「わかってる。でもこの機会を逃したら、あの人と一生ファイト出来ない気がするんだ」
「……まあ、お前が良いなら良いけど」
「ああ、大丈夫だ。……それから」
キリカの方を向き微笑む。
「む?」
「ありがとう、三秋さんのこと説得してくれて」
キリカは少し戸惑いの表情を見せるが、すぐにそれは笑顔に変わる。
「気にするな。一度ファイトしたいと思ったらどうしようもないのは私も同じだからな。それに、三秋さんに無理をさせたくもない」
「途次……」
「……三秋さんのためにも、頼むぞ。倫道」
ピンと人差し指を立てそう言うキリカ。
それに頷いてから、受け取ったセイガのデッキをもう一度手に取りじっと見つめる。
「……よし。早速明日、学校であの人に会ってみよう」
そう自分に確認するように一言。
そしてデッキから顔を上げると、何故かキリカが呆れを隠そうとせずにサチをじっと見ている。
横を見てみれば、トオルが身体を震わせ必死に笑いを堪えている。
「……え、何だよ、変なことでも言ったか?」
何が何だかわからない、とばかりに二人を見るサチにキリカは大きな溜め息を吐いて返す。
「……倫道、今日は土曜日。即ち、明日は日曜だ」
隣ではついに耐え切れなくなったらしくトオルが声を上げて笑っていた。
「……はぁ」
自宅に帰ってきた白銀セイガは、母親に軽く挨拶をしてから倒れ込むようにベッドに身を投げ出した。
「……これで、良かったんだ」
自分を納得させようと呟く。
どうせ自分はヴァンガードへの未練を捨て切れない。
ならいっそデッキを手放してしまえばいい。そうすれば未練も何も関係なく自分とヴァンガードの縁は切れる。
「これで、バイトに専念出来る」
それは半分は本当だが、もう半分は言い訳だった。
勿論、母親と姉のために金を稼ごうという考えは本当である。
だが、セイガがヴァンガードとの繋がりを断ちたい何よりの理由は別にある。
再びヴァンガードを楽しいと思ってしまえば、それを教えてくれた父親がもうこの世にいないという事実に耐えられない。
その悲しみを感じるのが怖いからこんなことをしているのだと、セイガも本心では理解していた。
「……でも、それももう良い」
相棒とも言えるデッキはもう捨てた。これで自分は二度と苦しまなくて済む。
「後は、ミアキスのバイトどうするかだな……」
あんなことを言ってしまった手前、ララとも話しづらい。
来週辺りにでもあそこのバイトは辞めよう。どうせバイト代が良いわけでもないのだから、むしろ良い機会だ。
そう心の中で呟き、一眠りすることにした。
「なあ、白銀セイガって人知ってる?」
「白銀セイガ?ああ、2年の先輩だろ?」
休みが明けた月曜日。
1年5組の教室に登校したサチが最もよく話すクラスメイト、御蔵リョウジに話しかけてみると、思いもよらぬ返事が返ってきた。
「知ってるのか!?」
「部活に仮入部した時に先輩が話してたんだよ。何でも2年の中じゃ成績はダントツでトップなんだと」
「それは凄いな」
目を丸くするサチにうんうんと同調して御蔵は続ける。
「しかも、なんでも一週間の殆どにバイトを入れてるらしい。給料の良いバイトを曜日毎に入れて、少しでも多く稼ごうとしてるんだとさ」
「そうなのか……ありがとう、教えてくれて」
「おう。でもなんでいきなり白銀先輩のことなんて聞いてきたんだ?」
「ああ、あの人俺が行ってるカードショップでもバイトしてるからさ。ちょっと気になって」
サチが正直に説明すると、御蔵は不思議そうな表情と共に少し首を傾げ、それからボソリと呟いた。
「……ミアキス、この辺りじゃあんまり給料良くない方なんだけどな」
「え?」
思わず聞き返すサチ。
「客のお前に言うのもアレだけど、ミアキスはあんまりバイト代良い方じゃないんだよ。なんで金稼ごうとしてる筈の人があそこのバイト辞めてないんだろうって思っただけ」
たまたまだろうけど、と御蔵は付け足す。
だがその言葉を聞いて、サチは一つの予感を頭に浮かべることが出来た。
「……それだ。本当ありがとう、お陰で良いことが知れた」
「お、おう……?まあ、役に立てたなら良いんだけど」
何のことだか理解出来ず、とりあえず笑い返す御蔵。
「最後にもう一個教えてくれ。白銀先輩って部活とかやってる?それともすぐ帰る?」
「帰宅部だった筈。バイトがあるから部活やってる暇はないってことなんだろうな」
「……よし」
話すチャンスがあるのは今日の放課後すぐしかない。
そう決意したところで、ちょうど朝のチャイムが鳴り響いた。
そうして1日は過ぎていく。
「それじゃ今日はここまで、気を付けて帰るように」
日も傾き始めた時刻、2年2組の教室。
担任の決まり文句が述べられ室内は一気に騒がしくなる。
部活へ向かう者、雑談に興じる者、忘れた課題をやらないと帰れない者などがそれぞれの動きを見せる中、白銀セイガはもう帰り支度を整えていた。
階段を降り校舎を出て、そのまま正門を通り過ぎようとする。
「あの、白銀先輩」
横から声がかけられたのはその時だった。
声の主は車椅子に乗った茶髪の少年。
「倫道サチ……。何の用だ」
「これ、三秋さんから預かってます。貴方の物ですよね」
鞄から見慣れたデックケースを取り出しセイガに向ける。
「お前、一昨日も店にいたんだから聞いてただろ。俺にはもう要らないから手放した。返すも何も俺のじゃない」
「ヴァンガードを辞めたから、ですか」
サチの問いかけに、そこまで知られているのかと小さく舌打ち。
「……ああ、そうだよ。俺はもうヴァンガードと縁を切った。だからそれも俺のじゃない」
「なら、どうしてミアキスでバイトしてたんですか」
続けて更に質問が投げかけられ、セイガはあからさまにうんざりした様子を見せる。
「金が必要だからバイトをしてる。それだけだ」
「でもミアキスのバイト代はあんまり良くない」
「……」
セイガが言葉に詰まった。
その様子を見て、サチは一拍置いてからゆっくりと続きを口に出す。
「……それなのにカードショップのバイトを続けてるのは、ヴァンガードが好きだからじゃないんですか。そもそも、辞めたのにデッキを持ってきてたのだって」
「もう良い」
憎々しげな目でサチを睨みつけ、その言葉を遮るセイガ。
「さっきから何のつもりだよ。俺のこと言い負かしでもしたいのか?」
「……いえ」
ゆっくり首を横に振るサチに、ますます苛立ちの眼差しを向ける。
「なら何の目的があって俺に……」
「貴方とファイトがしたいんです」
「……は?」
その答えに、思わず怒りの表情すら忘れて素っ頓狂な声を上げる。
「間違えて貴方のデッキをお借りしてファイトしました。凄く強くて、面白くて……こんなデッキを作れる人と、是非ファイトがしてみたいなって、出来たら絶対強くなれるだろうなって、そう思ったんです」
セイガの目を見上げながら真っ直ぐに言い放つ。
「……意味わかんねえ、俺とファイトして何になるってんだか」
自嘲的な笑みを浮かべ吐き捨てるが、サチの瞳が揺らぐことはない。
「俺は強くなりたいんです。そのために出来ることは全てやりたい。……勝ちたい相手がいるので」
「勝ちたい、相手……」
瞬間、かつての自分の姿がセイガの脳裏によぎる。
なんとしても父親に勝とうとファイトの腕を磨き続けていた自分。
一度でもファイトしてしまえば、きっと自分はヴァンガードが好きなのだと、父を失った悲しみを認めざるを得なくなるのだろう。
だからここまでバイト優先だと自分に言い聞かせ拒絶し続けてきた。それを今更、初心者一人のために破ってやる義理などない。
「……今日も俺はバイトがある。けどシフトの時間はまだ先だ」
「それじゃあ……」
それでも、昔の自分を裏切ることだけはしてはいけないような気がした。
「一戦だけだ。相手してやる。それ寄越せ」
「……はい。ありがとうございます」
深々と頭を下げ、手にしたデッキを差し出すサチ。
それを受け取ると、セイガは校舎の方へと踵を返す。
「ミアキスまで行ってる時間はない。空いてる教室でやるぞ、良いな」
「わかりました」
先に立って歩き出すセイガに、サチも車輪を回し続く。
校舎内に入り、エレベーターに乗り、開放されている教室の一つ、その扉の前まで辿り着いた。
「まあ、ここで良いか」
セイガが一言呟いてその教室に足を踏み入れる。
机を適当に動かし並べて、その傍に椅子を置いて座る。
「ほら、向かい使え」
「は、はい!」
促され、サチも車椅子を動かし机の前に止める。
「……こいつで合ってるっけな」
少し不安そうな顔でファーストヴァンガードを机に伏せると、サチも同じくカードを伏せる。
「……じゃあ、よろしくお願いします」
「ああ」
「スタンドアップ、ヴァンガード!『次元ロボ ゴーユーシャ』!」
「スタンドアップ、ヴァンガード。『士官候補生エリック』」
惑星クレイの国家の一つ、スターゲートの大都市で、正義を掲げる二人の戦士が向かい合う。
「俺の先行です。『次元ロボ ダイスクーパー」にライド!」
「俺のターン。『共感の蒼翼マカリオス』にライド。『発光信号のペンギン兵』をコール。アタック!」
先に攻撃出来るのは後攻のセイガ。
パワーより攻撃回数を優先しリアガードも前列に並べる。
「『ペンギン兵』はガード!俺のターン、『次元ロボ ダイボート』にライド!コール!」
防御力に優れた『ダイボート』をヴァンガードに置きつつ、『ダイブレイブ』、『ダイダンパー』を並べ攻撃の準備も万端。
「アタック!」
「どっちもノーガード。ゲット、ドロートリガー」
「『ダイブレイブ』のスキル、ソウルに入れてドロー。ターン終了です」
「『頑迷の蒼翼シメオン』にライド。『信念の蒼翼バジリア』をコール。『ペンギン兵』は移動して手札に加えた『マクシオス』2枚、『ラッコ兵』もコール。『マクシオス』はスキルで+5000、アタック!」
「っ……!」
G2の段階から全てのサークルを埋めての速攻。全ての列が『ダイボート』の高めに設定されたパワーを越えている。
その攻撃の内一撃はガードするも残り二回の攻撃を受け既にサチはダメージ3。
「凄いですね。グレード0まで攻撃に使って……」
展開されたセイガのユニット達と置かれたダメージを見て、サチが目を見張る。
「凄いも何も、これがこのデッキの使い方だ」
「でもこの間の俺はここまでの攻撃は出来ませんでした。……やっぱりそのデッキは、貴方の」
その言葉に舌打ちで割り込み、憎々しげな目でサチを睨みつける。
「……ファイトを続けろ。時間の無駄だ」
「わかりました。俺のターン、スタンドアンドドロー。『黒装傑神ブラドブラック』に、ライド!」
摩天楼が立ち並ぶ大都市の空に赤い翼を広げ、サチのエースがその姿を現す。
「イマジナリーギフト、フォースI!更に『シルバード』、『ゴーバイカー』をコール!」
「『シルバード』……確かそいつのスキルは」
「『ゴーバイカー』のスキルでヴァンガードのパワー+10000、『ブラドブラック』のスキルで前列全てにパワー+10000。ヴァンガードのパワー35000以上!『シルバード』は自身のスキルでパワー+5000、クリティカル+1!」
リアガードも同時に強化出来る『ブラドブラック』と、ヴァンガードが強化されると自身も強化される『シルバード』の組み合わせ。
キリカとのファイトでも使用した、今のサチの十八番。
「行きます、『ブラドブラック』でアタック!」
漆黒の巨体が宙へと浮かび、携えた紫紺の鎌を一振り。
それが描いた弧は光の刃となり、一直線に突き進む。当然その先にいるのはセイガがライドしたヴァンガード。
「ノーガード」
「ツインドライブ!ヒールトリガー!ダメージ回復、『シルバード』にパワーを!」
その一撃を正面から受け蹌踉めくも、すぐに体制を立て直す。
だがサチもこれだけで終わらせるつもりはない。
「『ブラドブラック』のスキルで、山札から『ダイザウラス』を手札に加えます。『ゴーバイカー』でブースト、『シルバード』でアタック!」
「そいつを通すわけにはいかねえな。『バトルシップインテリジェンス』、『蒼嵐水将デスビナ』でガード!足りない分は『クイックシールド』で補う!」
『ブラドブラック』の放った光の刃、それが巻き起こした砂煙の向こうから『シルバード』が迫る。
クリティカル2、ヒットすれば後はない。
だがその拳を受けたのはセイガ本人ではなく、彼が即座に呼び出した2体のガーディアン。
46000のシールドにより見事その一撃を防ぎ切った。
「……なら、『ダイダンパー』で『マクシオス』に攻撃します」
「ノーガード。退却だ」
どうせこのターンでは決めきれない。なら次のターン確実に放たれる連続攻撃を少しでも弱めるしかない。
「ターンエンドです」
「……成程な」
サチが宣言を終えると、セイガは納得したように小さく頷く。
「『マクシオス』は俺のデッキの火力源。一回使っただけでそれをきっちり理解しやがったか」
「……すみません。俺だけそっちのデッキ内容知ってるのは不公平ですよね」
「いや。ちょっと前に初めて見たデッキの仕組みを、すぐにそれだけ理解できんのはお前の実力だ。三秋さんが気にかけるのもわかる」
「え……?あ、ありがとうございます」
相変わらず不機嫌そうな顔を崩さないが、どうやら自分のことを褒めてくれているらしい。
「だが」
セイガは続ける。
その表情は、土曜日にミアキスで見せた冷めた眼差しのそれとは真逆。
「俺だって」
だからやりたくなかったんだ、とセイガは心の内で呟く。
ヴァンガードを辞めれば、父への未練も捨て去れる。そう思い、この5年間ずっとファイトを遠ざけてきた。
ファイトを一回でもしてしまえば、こういう気持ちになることは自分が一番よくわかっていた。
「そう簡単に、負けてなんてやらねえよ」
それでもそう言わずにはいられなかった。
今のセイガの瞳には、確かな闘志が宿っている。