デスクリムゾンBLIED~刀~   作:K.T.G.Y

17 / 34
将軍様の影が薄いのは仕方ないね


足利編~④~

 

明智光秀が岐阜城に帰還した後、光秀は早速信長に謁見した。

将軍義昭公が信長に征夷大将軍の座を譲りたい方針であること、加賀一向宗が爆発したこと、石山本願寺が京か関東に出向したいという予定があること。等々。

「……事後報告ですいません。私の一存で本願寺には退去命令を出さずに戻りました」

「で、あるか……石山本願寺の件はお主に任せておったのじゃ。お主が良しとしたならばそれで良いのじゃろう……」

明智は内心ほっとした。場合によってはこの場で激高し首を切り落とされてもおかしくない賭けだったからだ。

 

「しかし、義昭公が儂に、征夷大将軍を、と? 笑えぬ話じゃな」

「ですが、事実です。……横溝殿が話を引きずり出したからでもありますが」

「あやつは徹底して場の空気を読まんからの。後で天ぷら200個作らせる刑にでもするかのう。しかし、うーむ、儂が征夷大将軍? うーむ……」

信長は考えた。考えに考えた。畿内平定。天下の在り方。織田家の未来。果たして征夷大将軍という地位はそこにたどり着くものであるのか、と……。

「光秀よ……」

「はい」

「皆をここに集めてくれ」

 

 

「信長様が征夷大将軍ですって!?」

「それは年明け早々めでたいことではありませんか!」

「こらこら、まだ本決まりではないのだ。早合点してはならぬ」

 

集まった武将達は一々報告された話題を歓迎した。信長の腹の内も知らぬまま。

「ですが、信長様が征夷大将軍の地位に着けば、外部の敵に脅かされることもありますまい」

 

内部の敵には、あるかもしれないが……。

 

「毛利との決戦も無効に出来るかも知れませんぞ」

「ふん、毛利は将軍義昭公が織田の傀儡に成り下がった、と宣伝するだけじゃわい」

「う……」

「やはり、毛利との決戦は避けられませんか……」

「将来的には、な……奴らが我々の支配下に下るとなれば話は別じゃが」

まずは、話を順に纏めていきましょう、という光秀の進言に皆は乗ることになった。

 

「まずは、本願寺から参りましょうか」

「うむ、信長様の言うとおりの結果になったな。加賀一向宗は爆発し、死者も多数出た。そして下間は破門……」

「遠慮なく本願寺退去を命ずることはできますが、何処に行くかまでこちらで決めてしまいましょうか……?」

「いや、その前に奴らに力を貸したという、比叡山延暦寺じゃ。あいつらこそ織田の顔に泥を塗ろうとした張本人よ。

あいつらだけは許さん。場合によっては、織田軍を動かしてもいいくらいじゃ」

信長が言う。思えば過去にも顕如を門前払いしたという報告すらあった。できればこちらの手で叩かねば腹の虫が収まらない、といった気分だった。

「光秀、この冬……、延暦寺を叩く準備だけはしておけ」

「……! ははっ!」

 

「では次は信長様の征夷大将軍即位の問題ですな」

「信長様は、この意見に乗り気ではなさそうですな」

「まあ、のう……」

 

確かに、信長の目指すところの天下の在り方とは、『織田が末永く暮らしていける世』であった。

「しかし、聞けば、義昭公は儂の命を、と思っていたそうではないか。その希望に乗ってやるのも面白くないのう……」

 

これについては集まった武将達も口を閉ざした。

信長の活躍によって畿内平定はあと少しのところまできた。しかしその過程には多くの死者が出た。義昭公にもその責任はある。

だが、将軍一生のお願いを、適当にはぐらかすのも武家の器に欠ける立ち振る舞いともいえる。

「のう、横溝、そちはどう思う?」

信長は平定の間の横で面倒くさそうに正座させられている渡人に意見を聞いた。

「……いいじゃねえか。なっちゃえよ、征夷大将軍」

「ほう……」

「俺もおまえさんが天下を平定し、世を裁定するところを見てみたい」

「そち、それは褒めておるのか」

「勿論褒めてるんだよ」

「ふむ…………」

信長は横溝の煽てに乗せられて多少は嬉しくなった。こやつもこやつで織田家の事を考えておったのか、と。

 

そしてしばし熟考し、結論を出した。

「……光秀、義昭公に書状の準備をしろ」

「はっ、して、その内容とは?」

「この織田信長、征夷大将軍の件しかと承った、とな。ただし、条件として、1年ほど待ってほしい。そして、幕府は安土で運営するものとする、と」

「なんと、京には赴かないのですか」

「幕府の運営に、わざわざ都を選択する必要はない。儂が考える幕府とは、自由なものでありたいからな。1年という歳月は安土の城が完成するまでの期間、といったところじゃな」

「分かりました。お任せください」

「おお、これで信長様が幕府を……」

「正月も終えて随分経ちますが、今日は皆で酒を囲みたいですな」

「お主はただ飲みたいだけであろうに」

「ふふ、仕方ない、今日は無礼講といこうではないか」

「さすがは信長様、話が分かる!」

「くはは、褒めても何も出んわ」

「……そうかい、話が纏まったか、じゃあ俺はこの辺で……」

「これ待て横溝、貴様には命がある。全員分の天ぷらを揚げてこい。大至急な」

「はああっ!? 何で俺が……」

「ふんっ、将軍に無礼な口をきいた罰じゃ。ほれ、さっさとゆけ」

「信長……後で覚えてやがれよ」

 

その夜は一段と慌ただしくなった……。

なお、横溝は平定の間と炊事場を何度も往復させられ、日付が変わっても帰させてもらえず、結局そのまま倒れるように岐阜城で眠りこけたらしい。

しかし明智光秀だけはこの度の労役の成果を評価され早めに帰されたとか。

 

光秀は妻を亡くして以来、急に老け込むようになった。

今は従者を雇い、家の手伝いをさせている。長男である光慶が一人前になるまで死ぬわけにはいかないと零していたが、それも危うくなってきた。

信長は不意に、隠居せぬか、と尋ねてみたが、光秀はそれを断った。私は死ぬまで織田家の家臣を務めたいです、と答えた。

しかし老齢の身である。はたして彼の最後の希望が叶う時は来るだろうか……。

 

 

それから数か月。

本願寺は幾度となく延暦寺に書状を出したが、完全になしのつぶて。

この状況に、流石の将軍義昭公も動かざるを得なかった。

延暦寺は『逆賊』である。という命が下された。ただし、願わくば最後の最後まで交渉の場を設けるようにと伝えられた。

しかしこの状況においても延暦寺は全く話を聞こうとしなかった。

 

――4月。雪解けも始まる畿内において、遂に織田軍が2千の兵を用いて延暦寺を取り囲んだ。

大将は、織田信長自らが赴いた。

「これより、比叡山延暦寺を攻略する。寺を焼き、女子供も逃さず殺せ。さすれば公家衆や帝の一族への見せしめにもなろう」

 

信長の皆殺しの命令に一同がざわめいた。

「待ってください。信長殿。願わくば、私めに最後の通達を……」

 

織田軍には本願寺顕如も同行していた。

「勿論そのつもりじゃ。顕如よ、あの分からず屋をなんとかしてまいれ」

「言われるまでもありません。では、しばしお待ちを……」

 

顕如は従者数名と共に延暦寺に赴いた。しかし待つこと僅か10数分、踵を返して戻ってきた。

 

「ははは……門前払いでした。もはや延暦寺は誰の言うことも聞く気もないようです」

「ふふ……当然よ。そうでなければここまで状況を悪化させるものか」

 

どうやら延暦寺のお偉いさんは最後の最後までたわけ者のようだ。

 

「これより、延暦寺を焼き討ちにする!」

周りからウォォォォォォッ!という声がした。

 

「横溝、そちは天台座主を殺れ」

「……ほう、俺に天下の大罪人になれ、と?」

「どうやら分かっているようじゃな。天台座主を殺るということがどういうことか」

「まあな。だが、承知した。せっかくだからクリムゾンでハチの巣にした挙句、首を斬り落として持ってきてやるよ」

「横溝殿……」

顕如が不意に声をかけた。

「顕如さん…。なあに、心配することはないって。所詮俺は織田の番犬よ、やれ、と言われたら誰にでも噛みつかなきゃなあ」

「…………ご武運は、祈りませんぞ」

 

 

織田軍の焼き討ちが始まった。まだ冬の名残もある乾燥した空気で、火の手は一瞬にして延暦寺を囲んだ。

先ほど顕如を門前払いした門番は織田兵の槍で殺された。

織田軍が寺院内に侵入する。

 

「蟻の子一匹逃すな!間違っても敵に同情などするなよ!」

信長の檄が飛ぶ。

武装した僧の姿もあったが、織田軍の精鋭部隊の敵ではなかった。

 

火の手は延暦寺本寺院まで広がり始めたところで、横溝と織田兵が一斉に突撃した。

許しを請う女がいた。助けてと泣き喚く子供もいた。全員殺した。

当然である、ここにいる女は、子供は、犠牲になったのだ。延暦寺座主の面子の犠牲に。

そして、遂に、延暦寺座主を横溝が追い詰めた。

 

「よう座主さん、こうして会うのは初めてだな。ぶっ殺しにやってきたぜ」

「き、貴様ああああっ! この儂を誰だと思ってる!?」

「は? 自分の面子のためにあらゆる人間を犠牲にした無能な阿呆としか思ってないけど」

「くっ……!」

「おうおう、お互い、背中に罪が這い寄る感じがしないか? 早く地獄に来い、待ってるからとな」

「ぐ……ぎぎ……!!」

「ま、あの世で仲間の皆さんに詫び続けるんだな……! ……クリムゾン・マシンガンモード! 発射!」

真紅の銃から放たれる秒間15連射が座主をハチの巣にする。

座主は成すすべなく穴だらけにされ、絶命した。

瞬間、横溝の体に激痛が走った。

「くっ……! クリムゾンよ、もはや渡人じゃなくてもお構いなしってか? 上等だこのやろう!」

横溝は腰の刀を抜き、走る。体を穴だらけにされ、とうに絶命した座主の首を、一閃、斬り落とした。

「殺ったぜ!!」

 

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……。この寺院が再興された時、清らかな水の如き人々が仏を信じ、形だけではない信仰を行うことを願う……」

本願寺顕如は、燃え盛る延暦寺に対し、一人祈りを捧げていた。

 

 

「よう、信長」

「横溝か」

「ほらよ。天台座主の首だ。受け取りな」

横溝は生首を、ほいっ、と投げてよこした。

「これ、投げる奴がおるか!」

「別にいいじゃん。なー。で、顕如さん、これからあなたはどうするつもりかな?」

「そうじゃな。顕如よ。ここまでやったのじゃ。お前さんもそろそろはっきりさせてもらいたいところじゃな」

「そうですね……。まずは延暦寺の復興、それに力を貸したいと思っております。それが終わったら、関東の方に参ろうかと…」

「従者や信者にはよく言い含めてもらうぞ」

「相変わらず抜け目がない……。いいですよ。決して一向一揆の類は起こさないように伝えます。力を失った本願寺がどこまでやれるかは未知数ですが……」

「だが、やってもらわねば困る。よいな」

「……頑張りますよ」

 

こうして、石山本願寺と織田の確執と長きに渡る戦いはひとまず幕を閉じた。

正史では10年にも渡る泥沼の戦いが、最後はあっさりと終わってしまったのだ。

これも横溝の自覚なき外交手腕と短気の信長が律義に義を通したことに他ならない。

 

「あ、そうそう、横溝殿」

「ん、どうした?」

「……横溝殿が作ってくれた、天ぷら、美味しかったですよ」

「はははっ、あの程度でよければ幾らでも作ってあげるよ。何なら安土城が出来たら一度来なさいな。ご馳走で祝いましょうや」

「……そうですね」

 

(こやつめ、案外、いや、間違いなく『たらし』じゃな……)

信長はふと、そう思ったのだった。




次回は徳川編です。伊勢長島もやりたかったんですが没にしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。