デスクリムゾンBLIED~刀~   作:K.T.G.Y

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毛利マダー?


毛利編~③~

こうして、征夷大将軍となった織田信長の公務の日々が始まった。

朝は早くから起き、体を少し動かし、朝餉を食い、公務に励む。

まず手をつけたのは、戦乱で荒れ果てた畿内をいち早く立て直すことだった。信長はやる気に満ちた顔で日々励んだ。

(顕如とは事実上和解したとはいえ、浄土真宗の思想はやはり危険じゃ。死ねば極楽浄土へ行けるということは、誰もが死兵となり、一揆を扇動するということだからのう)

しかし宗教とてよい部分は多くある。人が集まる事、献金で土地が潤う事、人々が団結する事、等だ。

だが当然悪い部分もある。信長もまた、一向一揆には大いに苦しめられた。だからこそ信長は人を魅了する城として安土城を建てた。

この城には世の中そんなに捨てたものじゃないぞ、という意味合いが含まれている。

(この城と華やかな街を見れば、人もまた生きていく余裕が生まれるわけじゃな)

他にも検地のやり直しや、年貢の割合などを領地ごとに再構築していく。

だが、ここにきて遂にあれが起こった。

 

飢饉だ。

 

「ぬう……これは儂が上に立つ者として最初の試練というわけじゃな。よかろう、やってみせるわい」

信長がいる安土近辺は琵琶湖の水源のおかげで大きな問題にはならなかった。しかし放っておけば各地で土一揆が頻発するだろう。

信長はひとまず今年の年貢の取り立てをやめにし、蔵に貯蔵されていた米の分配を行った。

 

「それから今年は米の相場を極力動かさないようにな、米の取引は禁止するよう御触れを出すのじゃ。堺の商人共にもきつく言っておけ。逆らうのなら堺丸ごと焼き払うと脅しを入れてな」

「しかし、殿、蔵の兵糧まで配っては今後どうなるかと。何より戦が出来ません」

 

筆頭家老に上り詰めた丹波秀長が言う。

 

「いや、今年はこれで良いのじゃ。どうせ毛利もしばらくは戦どころではあるまい。兵糧を出して米の相場の高騰を出来るだけ抑える。今はこれでよい」

信長の案によって小さな村にも少しばかりの米が分配され、領民は諫められた。

 

それから数日後、息子の織田信忠が安土城にやってきた。

「父上、この信忠、寄せられた書簡、しかと受け取りました」

「そうか、尾張や美濃の具合はどうじゃ?」

「尾張は元々水害が華ともいうべき場所ですから、河川も相変わらずの水量です。今日は報告だけの予定でしたが、……父上、この信忠を呼び寄せたからには何かあるのでは?」

「ほう、分かるか。実はな、おまえに近々二代目の征夷大将軍になってもらえないかという話をしようと思ってな」

「ええっ……!?」

「さすがに驚いたか。儂は裏で権力を握り、表向きはおまえが政務をこなす。織田がこの日ノ本の頂点に達する家柄だと世に知らしめたいのじゃが……どうじゃ」

「お断りします」

「即答か」

「織田家頭領の身なれど、私はまだまだ若輩者。父上と同じ立場にはなれません。まあ、取り上げられた能道具を返してもらえるというなら話は別ですが……」

「こら、公務を行うものが私的な欲を入れてはならん。やれやれ、おまえもまだまだじゃなあ。当分は儂が畿内の面倒を見るほかないか」

「ふふ……冗談が過ぎましたか。まあ、考えておく、ということにしておきましょう。それでは本日はこれにて失礼」

信忠は去っていった。

(くっくっく、奴め、まんざらでもなさそうじゃったな、後はもう一押し、か?)

 

その後は日を置いて次々と人が押し寄せるようになった。

「山崎よ、旧朝倉領地の再検地の御触れの整理、頼んだぞ」

「勿論です。信長様、一向一揆に荒れ果てた旧朝倉領を立て直すことは家老であった私の悲願です故」

 

「武田勝頼よ、甲斐の調子はどうじゃ?」

「甲斐は貧乏には慣れてますゆえ、飢饉といっても苦しいうちには入りませんよ。いや、とても苦しい、でしたかな」

「ふん、ならば遠江の方から米と塩をまた送り付けてやる。これで領民を諫めよ」

「有難うございます。この恩、いつか必ず返しますぞ」

 

上杉からは上杉景勝・景虎両名が安土の城へ訪れた。

「越後は上手くやっておるのだろうな」

「無論です。一向一揆もなく、憎き渡人も消え、平和でなによりの日々です」

「ですが、聞くところによると、謙信と直江愛は信長様に迷惑をかけているとか……」

「迷惑、とは違うな、横溝の奴を返してほしいと毎日安土の城門まで来ているだけじゃよ。後で会ってやれ」

「え……、幽閉しているのでありますか? 一体何故に?」

「ま、その、色々あってのぅ。この話はこれ以上詮索するな。越後にとっては英雄でも織田にとってはたん瘤なんじゃよ。あいつは」

「は、はあ……」

 

今日は大和の国から松永久秀がやってきた。

「久秀よ……、儂はてっきり、お主が儂に対して謀反を起こすかと思うておったぞ」

「はっはっは、そのつもりでしたが、機を逃しましたかな」

割と冗談になってないことを久秀は言った。信長は今でも久秀はたいそうな男だと本気で思っている。

「実はですな、今日は信長様に私の隠居を報告するつもりで参りました」

「ほう、では大和は息子に任せるのか?」

「いえ、松永家は政治から身を引こうかと思います。以降の大和は、筒井順慶殿に任せようかと」

 

筒井順慶。信長の部下としてはマイナーだが、多聞院日記では幾度となく名が出てる教養人である。

 

「随分すっぱりいくのう。藁にもすがるつもりもないのか?」

「もう私の時代は終わりました。これからは好きな茶の湯で茶席を設けて過ごそうかと思います……」

「腹に抱えているものはないのじゃな?」

「はい。強いて言えば、横溝殿の安否ぐらいですかな」

「……む。分かった。委細承知した。松永家は政治から身を引く。それでいいな?」

「はい。ではこれにて失礼……」

「ああ、待て。一つお主に聞きたい」

「なんでしょう?」

「横溝の事、どう思っておるのじゃ?」

「それはもう、大切な友であります。では改めて、失礼させていただきます……」

「…………」

 

 

「殿、関東の北条氏の方々が来ました。お目通りをお願いできますか?」

「おお、遂に、北条氏も来たか。良いぞ。ここに来させい」

「分かりました。ではそのように……」

(丹波の奴も家老の座が板に付いてきたな。後は寺子屋で新しい芽が芽吹くのを待つのみじゃな)

 

「本日はお目通りを承諾いただき誠に有難うございます。後北条氏第2代北条氏康です」

「息子の北条氏政です」

「うむ、儂が天布幕府初代征夷大将軍である織田信長である。遠路はるばるようこそおいでなさった。まずは顔を上げよ」

「勿体ないお言葉……」

「北条は上杉や武田とは色々因縁のある家柄と聞く。だがそれをうやむやにせず、スパッと退いてほしい。それが儂からの願いじゃ」

「徳川が織田に討たれたと聞いたときは驚きました。次は北条では? そう思いましたが、……分かりました。上杉や武田とは円満な関係を築こうかと思います」

「うむ、そうしてくれ。ではお近づきの印に茶席を用意させよう。利休を呼ぶか」

「なんと、かの名茶人である利休殿の茶を頂けるとは!」

「うむ、ゆるりと楽しんでくれ。だが、一方で関東は未だ戦乱の最中であると聞く。くれぐれも身内で争うような馬鹿な真似はしないようにな」

「ははっ! 承知しております!」

 

「お呼びですか? 信長様?」

「おお、利休か。こちらが北条氏の者じゃ。茶を煎れてもらえぬか?」

「ほう、遠路はるばるようこそおいでくださいました。では極上の茶を目指して煎れさせていただきます」

「うむ、その後は飯じゃ。侍女に飯炊きを至急やらせよ。くれぐれも、腐ったものを出さぬようにな」

「……信長様」

「ん? どうした? 氏政、といったか?」

「我々は接待を受けるために安土に来たわけではないのですが、およばれしてもよろしいのですか?」

「ああ、いいのじゃ。これが天布幕府流よ。もてなしの心は忘れずに、されど、相手には臣従を誓わせる、これが流儀じゃ。異存はないな?」

「む、無論です。北条氏は織田に臣従します。その為に来たのですから……」

結局、北条氏両名は利休の茶と豪華な飯、そして風呂と艶やかな寝室で一日を過ごした。

翌日、昨日の事は本当に有難うございました。どうか、新しい幕府が末永く続くように祈っております、と残し、北条氏は去っていった。

 

「これで北条は良し。後は毛利だが……、おそらく臣従はせんだろう。その時は逆賊として討たねばならんな」

「御意……!」

「ところで、四国の長宗我部元親はどうした? 息子の信孝に四国を割譲し統治させようと思っていたが」

「話によると、割譲は飲むので兵は退いてもらいたい、との事ですが……、いかがなさいます?」

「む……まあ一度は謁見しろと伝えろ。奴らは毛利と手を組む可能性がある。いや、儂ならそうする。ならば可能性は潰さねばならぬ」

「承知しました。ですが、その親書は……」」

「ああ分かってる。儂が書く。だから今日は休ませてくれ。やれやれ、年は取りたくないものじゃなあ」

「お戯れを。殿はまだまだお若いですぞ」

 

 

一方で、こちらはすっかり影が薄くなり、もはやどうでもいい存在となった渡人・横溝。

「そうか、北条氏が謁見を……」

「信長様に面と向かって敵対しようとするのはもはや毛利と九州勢力くらいのものです」

「だろうね」

そう言いながら、横溝は利休の貸してくれた小刀で髭を剃っていた。鏡などなくてもやりようによってはやれるものだ。

どうせ誤って首を斬ってもすぐ再生して大事には至らないのだから。

日の光を浴びられず苦しい日々が続いているが、利休が度々茶を煎れてくれるので暇を潰せるし、謙信達は毎日のように弁当を届けてくれるので、肌の色つやはいい。

 

「しかし、横溝殿はいつまで牢獄人生を楽しんでいるのですか? 出ようと思えばいつでも出れるでしょう。その、腰の短筒で」

「ん、まあな。だが信長が出ていいと言うまではしばらくここに厄介になるさ。なあに、週に一度風呂にも入らせてもらえるしな」

「横溝殿も、意外と頑固な御方ですな」

「いやあ利休殿には負けるって。ははは」

「ほっほっほ……」

友人同士の他愛のない話が弾んだ。

 

 

その後、四国から長宗我部元親が訪れた。四国の調子はどうじゃ? と信長は尋ねたが、飢饉のおかげでため池も干上がってしまい、厳しい状況を迎えているらしい。

「ところで、割譲の件は何とする? お主の言葉次第では四国を本気で討たねばならんが」

「阿波、讃岐は信長様に譲渡しようと思います。なので兵は退いてもらいたいのです。我々は信長様に仕える準備があります」

「ほう……これほどの屈辱を味合わせられて臣従するとはどういう意味だ。腹に一物抱えているのではないのか?」

「是非もなし、というやつです。それに、毛利からは親書も使者も来ません。四国は見捨てられたのです。ならば信長様に仕えた方が都合がいいと考えております」

「ふむ……ならば良し。四国は伊予と土佐の減領とし、以降は儂に従え。それで問題はないな」

「はい……」

 

(妙じゃな……儂なら戦になってでも突っぱねる案件じゃぞ。元親がそこまで臣従する様子を見せるのは何故じゃ?)

 

「実は、織田から追放された明智光秀殿が四国に来まして」

「何? 光秀がか!?」

「はい。腹を割って一昼夜話し合いました。あの方は一度は同盟に立ち会ってくれた恩人ですから。そこで初めて臣従してほしいと頭を下げられたのです」

「あいつはもはや織田の者ではない。そんな男の戯言を耳にして臣従するとは、のう……」

「ですが、その一件でこちらも態度を軟化させたのも事実です」

「そうか……(奴め、また倒れるぞ……)」

 

「あい分かった。お主の言葉を信用する。その上で割譲は予定通り行うがそれでよいな?」

「是非もなし、です。ただ土佐一国だけは認めてもらえれば私としてはよろしいかと」

「む……そうか。まあこの話は検討中ということで、今日のところは帰れ。あーだが、茶と飯と一晩明かすだけの寝所は用意してやる。これがうちにできる最低限だからな」

(まさか光秀が動いていたとは……儂にとっては好都合ではあるが、出された飴玉にしゃぶりつくようで良い気はせんな……)

 

帰蝶「よい部下を持ちましたね、殿」

利休「それはよいことです。是非茶でおもてなししたいですな」

横溝「光秀さんなら当然だろ。あの人は今でも織田に仕えたことを誇りに思ってるはずだぜ」

「…………」

信長は今も光秀に人気が集中している状況を不思議がった。

光秀は既に追放された身の筈である。それでも織田の為に動いた。

(本来なら気味が悪い程の忠臣ぶりなんじゃがなあ……ふん、今度酒でも送ってやるか)




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